黒水晶
「――うぉ!」
パァンという音を立てて
「ほんとに放電してるよ……どうだ、ロンロン?」
『テスタを当ててくれ』
そう言われた二階堂は、腰のツールから二本のプローブを引き出し、いたずらでコンセント穴に針金を刺す時のような顔になって(真似しないように)、恐る恐るそれを断面に差し向けた。
『電圧はそれなりにある。しかし電流が少ない。これだとバッテリーのフルチャージに何十年もかかってしまう』
「そっか……でも、可能性はありそうだな、ロンロン」
『そうだな、カオル。いつだって可能性はある』
しばらく待ってみると、数分で放電は収まった。電圧、電流、放電時間から、
次に二階堂は
ロンロンの予想だと、それはセントエルモの火と呼ばれる現象で、放電の一種だと言う。試しにテスタを当ててみたものの、こちらもやはり電流が足りないそうだ。
それではと、やや緊張気味に二階堂が
「――どうした?」
「それはちょっと危ないッスから、こっちからのがいいッス」
アノマリアは
「
「そうじゃなくて、それ、
二階堂は手にした
『シャッターストーンっていうものは、どういった現象なのだ、アノマリア?』
じろじろと訝しげに宝石を見ている二階堂に代わって聞いたロンロンに、アノマリアは二つの
「
ひょいと、
「宝石を破ると、シャッターストーンという現象が起こるッス。普通の宝石を割ると、内部の力がある程度時間をかけて出てくるのに対して、宝石を“破る”と瞬間的に全ての力が放出されて激烈な現象になるッス。それをシャッターストーンって呼んでいるんスね。結構危ないんスよ?」
アノマリアは手にした宝石を投げる仕草をしながら続ける。すごく運動音痴だ。
「
ふと彼女はトコトコと走り、何かを拾って戻ってきた。
「――これは
そう言って見せたてきたのは、まるで水晶球のように透明な
「この
『手榴弾のように使えるということか。奥が深いな、カオル』
「はぁ」
感心そうなロンロンと、ついて行けなくて生返事の二階堂。
二階堂は気を取り直して
その青白い炎は、しばらく経つと風船のように空中に浮かび上がっていき、また新たな炎が
「すんごい薬臭いな……」
放電に伴う独特な臭気に顔をしかめつつ、二階堂がテスターのプローブを当てようとしたその直前、ロンロンの鋭い静止の声が響いた。
『待て、カオル』
慌てて手を引っ込める二階堂。
「どうした?」
『それは
二階堂はロンロンの説明にゾッとなって手を引っ込めた。
その後、二階堂はビヨンド号からゴツい電気プラグを引っ張ってきた。カーバッテリーの充電プラグみたいな、赤と青のアナログ感満載のプラグだった。
『極性は気にしなくて良い、電位差が生まれればこちらで整流するから、カオルはそれを近くに放ってくれ』
二階堂は言われたとおり、プラグを投げて
『悪くないが、これでもフルチャージに一ヶ月以上かかる』
「
と腕を組んでアノマリア。二階堂は頭を掻いた。
「チャージに一ヶ月以上って、それってビヨンド号の消費電力と同じくらいってことじゃないか」
『良い着眼点だカオル。その通り、これだと正味の充電量がほとんどない。現状維持だ。ただ、この
「ひとつの
「もっと大きな
アノマリアの言葉に、二階堂は腕を組んで喉を鳴らした。
「――もっと強い宝石があるんだよな、アノマリア?」
「
「具体的にどれくらいとか分かるか?」
「うーん。過去、
「そりゃ凄そうだな……どこに行けば手に入る?」
二階堂の問いに、アノマリアはもう一度、うーんと唸った。
「――この辺りの森は手つかずなんで、可能性はあるッス」
「森って、下の?」
「そうそう」
「毒ガスが充満してるってロンロンが言ってた?」
「その通り。茨の大壁近くや、標高が低いところには毒霧が溜まっているんスね。イグズドの侵入に対する大地の防御反応らしいッスよ。おかげで人間もアストロモルフも活動できないんで、掘り出し物の宝石が転がってる可能性がある、と思うッス」
「あの毒ガスって――」
『VXガスなみだ』
「死ぬ」
二階堂は絶句した。
「ロンちゃんのドローンなら、空から見つけられるんじゃないッスか?」
『残念だが、ガスが濃くて地上は観察できない』
ロンロンの声に、アノマリアが首を振った。
「空からでも多分見えるッス。結構
「キノコ?」
首をかしげた二階堂に、アノマリアも同じように首を倒した。
「あれは、なんでなんスかねぇ……? おかげで偉大な宝石の中でも
「あー……あれか。カミナリだからか」
と、二階堂。そこに、ロンロンの声が割り込んでくる。
『どういう意味だ、カオル。カミナリとキノコが関係があるのか?』
ロンロンが二階堂に質問するケースは極めて
「あれなんだよ。雷が落ちた跡って、キノコが沢山生えるみたいなんだよ」
『何故だ?』
「あまり詳しく聞かれても困るんだよな……作用のメカニズムは解明されてないらしいんだけど、経験的にそう知られているらしい。
「おお、そうなんスか? おじさまもロンちゃんに負けじと物知りッスね!」
『田舎者の知恵だな。カオルは時々理屈ではないことを言い出す』
二人に持ち上げられて満更でもない二階堂。しかしすぐに、キノコにまつわる迷信を披露しただけだという事に気付き、すこし恥ずかしくなって咳払いした。
「――それじゃあロンロン、ドローンを飛ばして付近の森を観察してくれるか? 下からの攻撃には気をつけろよ。残り二機しかないんだろ?」
『了解した。近くの森を火花とキノコを頼りに探してみよう。死角を無くすためにもう一機のドローンも旋回させればいいだろう。二機で見張れば、よほど近くから射撃されない限りは大丈夫だ』
ロンロンの心強い回答に満足した二階堂は、
――シャワーが俺を待っている!
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