第7話 青薔薇との食卓
俺もこないだの黄薔薇の一件でルナ姫には怒られたから、気まずいよ。それも地獄にいちゃならんツートップだろ?TheENDの俺と水のルナ姫。そしてその青薔薇がらみとなると、当然ヴァンパイアでなくとも……あいつが付いてくる。
「あ、ユーマ!」
うん。いるよな。光希のやつ。
「よ。お前も来てたんだな」
食堂には、既にルナちゃんと光希が通されていた。
外観の図体に比べて、こじんまりした部屋の造りなのがこの城の特徴だが、食堂はと広々した空間だった。お城の食堂って、もっと最後の晩餐みたいな……王様のテーブル ! みたいなのを想像してたけど、違ったな。
なんだろこの既視感。
あ、ホテルの中の社内歓迎会とかするホールくらいの規模。それもかなりボロい方の。
絨毯も割と古めで、テーブルクロスを剥がしたら普通の長机が出てくるんじゃないのってくらいグラついてるし。
「なんて言うか、アンティークとは言いきれない雰囲気だな……」
俺の言葉の意図を汲み取ってか、セルは頷きながら笑う。
「そうそう。俺も正直、帰国してびっくりしてるから。
俺がこの城を出てった時のままなんだぜ。本当にびっくりしたよ」
セルが紫薔薇城出ていって何年経ってると思うんだよ !
「そう考えると、モノモチいいんダナ。元紫薔薇王」
確かに。
見た感じけっこうな老体だったし、どうにもこの城には兵が少ない気するし、内部はあまり傷まないのかもしれない。
「今日はジョル、ニワトリじゃないんだね。触りたかったのになー」
「ケケ」
光希の要望をジョルは笑みでかわす。
こいつ、男に触られんのは嫌うからな。
それで……。ルナ姫……は、その上品な見た目と事実上王族でありながらヴァンパイア領土には住めないと言う事から人間界にいた。
そんなところから皆が口にした『姫』と言う渾名も、最早事実になるどころか、黄薔薇 ミラーから明け渡される土地の一部を貰う事で真の女王になる。
新生 青薔薇領土の誕生だ。
「土地契約の書類に仲介のサインをお願い致します。そのついでではありますが、ツレの挨拶も改めてと思いまして。
光希は天使に近い人間ですが、わたしと全く無関係とはいきませんので出入りもあるかと思います」
「ああ。それは他の薔薇王も分かってると思う。
結局、黄薔薇領土の半分以下か。案外、欲がないな」
「ヴァンパイア領土を取って戦争の火種になるのは元も子もないので。各領土にはそれぞれ顔合わせはしますが、東部の悪魔達とも繋がりを持ってみようかと考えています」
第零層の東部。かつて人間界の海に出没した海の悪魔達。セイレーンや人魚が住まう海の領土だ。
「それは止はしないけど」
「そうですか?……意外です。反対されるかと思ってました」
「既に一国の主だ。俺に口出しされたくないだろ?
それにしても……」
セルはなにか言いたげに、ルナちゃんの全体像を眺める。
「なんか、イメージ変えた ? 」
俺も気になってた。
ほとんど会う時は制服だったし、歌う時は店でドレス着てたし。
今着てるのは黒豹柄のパンツと皮のブーツ、レザージャケットの中はシルバースパンコールの付いたホルターネックのニットキャミソール。
全て、黒、黒、黒、銀、そして青い髪。そして人の血を啜ったような赤黒い口紅。
あれ ? こんなイカついファッションする子だっけ ?
「あ……服は……今は光希が全部選んでるんです。大変、遺憾ではありますが」
「へぇ〜」
遺憾なのかよ。あ、そういえばバンドのコンセプトは光希が白でルナちゃんは黒なんだった。
「にしても……デザインはセルの服と似てるわよね。ジャケットとかメンズでしょ?同じブランド ? 」
ここで言い難いことを言うのがつぐみんらしいや。
「知りませんよセルシアさんのブランドなんて ! わ、わたしの趣味ではありませんが ! ま、まぁ。光希の白服とわたしの黒色がイメージカラーで活動していますし。身バレしてる以上、毎日学友とも市内で会いますし …… !! 」
必死か。
「ああ、ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃないわ。だって着こなしてるもの。真逆のカラーコンセプトって二人には合ってると思うし。
そもそも神父なのに正規の服装してないセルがおかしいよねって話し」
「こらこら、つぐみん……」
「「「「「確かに」」」」」
それに関しては全員一致だ。
「オレ、セルからよく服貰う。けどけど、いつも思ってたケド、セルはどうしてキャソック着ないンダ ? 」
「あれってキャソックって言うんだ。お前よく知ってんな」
「キリスト教、知らないとルシファー自体が成立しないから、その辺の知識は最初から眼と引き継いでたンダ」
なるほど。ルシファーの知識でジョルが共有してるものの中には
「そういえば俺が仙台に来たばっかの時、赤いの着てたよな ? 」
「ソレ知ってル ! 赤いのはちょっと偉いヤツだ」
元枢機卿って……確か言われてた。それか。
BOOKで観てたセルはまだ黒いキャソックだった。どのタイミングで枢機卿に昇格したんだ ? そこも観れんのかな。
つぐみんがこっそり俺に耳打ちする。
(今も、もし枢機卿だったら年収70は行くわよ)
(まじでっ !? )
「聞こえてるぞお前たち……。実際そんな貰えないって。なんでも倹約、コストカット、人件費削減の時代だよ」
「今はいくらなンダ ? 」
「ジョル。お金の話をするのは失礼だから、な ? 」
「そうなノカ。わかった。
今はイクラなんだ ? 」
鳥のふりして、ガッツリ聞いてる。いいぞもっとやれ。
「……うーん。ズボラで、最近通帳整理してないないしなぁ〜」
「嘘コケコケコッコー」
とは言え、公式の祓魔師もやってて、山猫だかに検体もしてる貴重な人材で、更にヴァンパイア王族が人間界で本物の魔法具をショーケースで売ってるんだから……なんか金には困って無さそうだけど。
実際はどうなんだ ? あのビルも好条件の立地で自前だし。店は大福が回してるけど経営はこいつだし。客も決して毎日満員って店じゃない。
案外、そんなにお金は無いんじゃないかって言ってたトーカの言葉の方が信憑性は高いかもな。
「とりあえず座ろうぜ。さぁさぁ」
セルは俺たちに席に付くよういい、めっちゃくちゃ端っこに立っていた兵士に手を上げる。
中ホールとは言え、この人数ではガランとしていて、なんだかな。しかもちょっと肌寒い。
「女性が踊って、兵士に槍持って守られながら、王様一人で豪勢な料理食ったりしねぇんだな」
「当然 ! そんなの食った気しないし。
そもそも、そんな贅沢を兵の前でしたら一揆が起こるよ。
俺の国は生活は皆、標準でいいの。
他人の領土にあれこれ言う訳じゃないけれど、白薔薇みたいに王を民衆が崇めてんのもどうかと思うな。
かと言って、赤薔薇は皆んな友達 ! みたいなのも……暑苦しい」
「付き合いが面倒臭いだけなんじゃねぇーの ? 」
「そりゃあ、皆んなそうだろ ?
ルナちゃんだって、好きで俺んとこに来た訳じゃ無いだろうし」
「そうですね。理にかなっていると思います。事務的に作業はこなしますが、面倒なのは御免です」
ルナちゃん、セルの言葉を肯定しながら「会いたくて来たわけじゃない」事は認めたぞ。
相変わらず強気な子だ。
「でもさぁ〜。他の国と上手くやってくのに、『関わりたくないからほっといて』で済むのかなぁ。ちょっとは外交が無いと、今回の黄薔薇みたいに一気に踏み込まれる原因にもなるよ」
「勿論、それはある。
だから、ルナちゃんもちゃんとその辺は考えないとね」
「……はい」
光希はあれだな。
バンドもそうだけど、他人のマネジメントが得意なんだ。
綺麗だけど、割と仏頂面のルナ姫とはその辺が相反してる分、二人で動けば互いをカバー出来るんだろう。
やっぱり不思議な関係だ、このツガイ達。
「お待たせ致しました」
今度はウェイター風の男たちがワラワラとやってきて、俺達の前に料理をサーブする。
「……これ、何…… ? 」
そういえばそうだよ。文化 ! 文化が人間界と違うんだから ! 食べ物も和洋中とかそういうものでは無い……のか ? 白薔薇城ではお茶飲んだのに ?
だって目の前にあるのは、どう見ても豆腐。一丁の豆腐がデデーンと皿の上に鎮座。それが、湯気なのか、白い蒸気がモワモワ出ている。最早、熱いのか冷たいのかも分からん。
これどうやって食うんだよ。スプーン ? 箸……は無いし。
隣のつぐみんの様子を伺うと、俺と同じく固まってる。
逆隣のジョルを見ると、今まさに指をズボッと突っ込む瞬間だった。
「なんだコレ ? 」
「あぁ、うちの厨房が開発したスーパーフードだよ。試食してみてくれ」
そう言って、セルはナイフとフォークを手にする。
よし。ナイフとフォークらしいぜ、つぐみん。
『分かったわ』と言うように、つぐみんもナイフを手に取る。
いざ !!
ガブ !
「…………」
食感は寒天のよう。
プル……もぐ……プル……もにゅ。
「う、美味い ! 」
「うん。……美味しい。美味しい……んだけど。……んん ? 」
「なんだろうな ? 何味 ? 」
「こう……チョコケーキみたいな ? 」
「「えっ !? 」」
俺と声が被ったのはルナ姫だったが。
「そんな甘くないですよ。どちらかと言うと出汁系の……おでんですよね ? 濃くは無いですけど。おでんの大根」
えぇ ?
「俺のはガッツリ牛肉の塊だぜ ? 」
「「はぁ ? 」」
「ジョルのは ? 」
光希が聴くと、ジョルは満面の笑みで答える。
「小松菜のオヒタシ ! 」
ズコー !
「何コレ !? いや、怖ァ〜。説明しろよ ! 皆んな味違うの ? なんで ? 」
セルは悪びれる様子もなく、俺たちを観察していた。
「あ〜。うちの兵は、国境沿いに警備に行くのが殆どでさ。土地が広いからしばらくそこで過ごして貰うんだけど……。皆んな好き嫌い多いんだよな。
それで、食べる人間が一番好きな食べ物の味に感じる薬草を使って……」
「あぁぁぁ。分かった分かった。
俺は肉好きだから肉の味すんだな ? つぐみんはチョコレートか」
「そ、そういう事なの ? 」
「ルナー。公式では好きな食べ物をラーメンと鉄火巻きにしてるんだから……」
そりゃ難題だな。
「無理よ!そもそもこんな得体の知れない物出されてそんな神回答無理!」
うーん……見た目が白いから、なんか脳がバグってるみたいなんだよな。そもそも食感が寒天ぽいし。味は、怖いほど舌に合うのが……また余計に怖い。
セルは料理服を着た一人に振り返ると「ダメだってさ」と軽く言う。
「見た目ぇ〜ですかねぇ〜 ? 」
「だと思うよ。あと、俺は酒の味なんだよな。飲み物は省いてほしいかな」
「では幻覚剤もぉ〜一緒に配合しますかぁねぇ〜 ? 」
「程度によるな。出来たらまた声掛けて」
「はい。失礼致しました~」
な、なんだ ? これ人体実験だったのかよ ?
「ではメインディッシュをお持ちしますんでぇ〜」
前菜が……開発途中のやば気な寒天だった……。
「も〜。この世界の人間に聞かないで僕らに聞かれても意味ないよねー。
というか兵の食事のあれこれを試行錯誤する時代かなぁ ? 魔法で色々出来ないの ? 」
光希がセルに聞く。
「簡単ではないかな。皆んな知恵はあるけど、実用化となると進まないんだ。ちなみにヴァンパイア領土で一番、不器用と肥満が多いのもうち」
紫薔薇はインドアな国民性か。ヴァンパイアで肥満って、ありえるのか?今のところ見たことないんだけど。
「ヴァンパイア領土って、変に原始的って言うかさ。発展しないよね。
こんなライフラインのない場所に領土を貰って二人きりで、何をどうすればいいのって話をルナとしてたところだったんだ〜」
こっちがハラハラする話題やめてくれ。
さっきの奴が、今度はパスタを運んできた。美味そうだけど、これはおそらく人間界から仕入れた物だろう。光希の言う通り、小麦をどこかで生産しているとは思えない。
「農業をやったところで、戦火ですぐ焼けるからな。それに関しては、恥ずかしい種族と言われても仕方ないなと思うね。先日のビアンダの企みもそうだけど。気を抜くと直ぐに勃発する」
紫薔薇領土の殆どは森林だ。開拓する事は出来ないんだろうか ?
いや、多分その森林で採れる物がさっきの謎のフードなんかに加工されるんだろう。食える草が自生するなら、山菜を採って生活しているのか。
「確かに……原始的なところあるよなぁ……」
黒瀬のところは皆、下層に出稼ぎにいってるし。あれだけ豪華な白薔薇城も、文明の利器は乏しい。
「それで、セル。僕ら話し合ったんだけど、その土地貰ってもそこに住むわけないじゃん ? 人間界が便利すぎるし」
いや、それは知らんけども。
ってか、光希の対人スキルは相変わらずだな。距離感を詰めすぎるというか。
一応、紫薔薇王だぜ。黄薔薇との仲裁に入って保証人になってる他国の王にだ。自分で外交云々言っておきながら、会話はほぼタメ口だもんな。
「出来ることなら援助するけど……。電気 ? 」
セルは動じることも無く、最初から予測は付いていた様に言葉を返した。
「そう。ここで精霊発電してる電気を分けて欲しいんだよね。これじゃギターも使えないよ」
「いいよ。そのくらい」
「あとね。僕らそこでラジオやりたいんだけど」
「……ん。え ? え ? 」
駄目だ。セルは混乱している。
「本当はテレビ局作っちゃおうかって思ったんだけど、まずテレビが無いじゃん ? 仮に鏡とか宝石を使っても、見れるの一部の人だしさぁ」
「え ? ラジオ ? 」
「うん。音なら電気と電波だけで届くでしょ ? 」
「他の国に流すってこと ? 」
「あはは ! 当たり前じゃん。自分で聞くわけないじゃん」
確かに。ヴァンパイア領土って娯楽も無さそうだしな。
平和主義でいいかもしれない。
二人の若い薔薇が、知って貰う事から……得意な事で相手の懐に潜り込むのか。
だが、何故かセルは険しい顔に豹変した。
「それは……いつでも音魔法を使って攻撃出来るように……か ? 」
「まぁね」
全然違った !!
寧ろ逆だった !!!!
「僕らは二人だけだし。そのくらいの兵力はねぇ」
「それは各国の許可も必要だし、まず皆渋ると思うな。そもそも、二人の音楽やトークに興味を持つとは思えない。
仮に許可されたとしても、自分の情報を敵に漏らすようなものだ」
「うん。内容はのちのちね。とりあえず電気を分けてよ」
「…………。分かった」
不安しかない。
こうしてまた争いの火種になるのか……この土地は。
ルナちゃんはどうして止めないんだ ? 自分の力が脅威だと理解している子だ。
なにか……。良くない流れになってる気がするけど……俺たちは外野。
ヴァンパイアじゃないし。聞き流そう。
「それで?ユーマはどうしてここにきてるの?」
「あー……えっと……」
言っていいのか、これ。
「俺のBOOKを見せに来たんだ」
セルがあっけらかんと答える。
「え?何のために?」
当然の疑問だな。
「昔から追ってる悪魔がいるんだが。未だ当時の仲間を苦しめているようでね。過去に一度、俺が対峙してるから何か情報を共有出来ればと思ってね」
「ふーん」
光希は聞き流したが、今度はルナちゃんのほうがじろりとセルを見る。
「それって、口頭じゃだめなんですか?」
「いや、ダメではないけど」
「助けてほしい事を、自分の口で話さないのは怠慢です。もしくは貴方に信用がないのか……。BOOKを見せるユーマさん達の事は信用してるのでしょうけど」
ぐうの音も出ない。
気まずっ !
この子の口の鋭さ何なの ? 泣いちゃうんじゃないか ?! うちのポンコツ泣いちゃうぞ !
「あぁ、違うのよルナちゃん。私たちがBOOKを見せろって言ったのよ。ルナちゃんの言う通り、説明が二転三転して、その信用が彼には無いから直接見に来たの」
つぐみーーーん ‼
「だっていつまでも隠し事されながら小出しに話されても仕方ないし。見たほうが確実だから」
「そうですか。セルシアさんらしいですね。
深入りはしませんが……。BOOKは天界から管理を任された『魔術師達全員の物』ですから。ヴァンパイアや紫薔薇王だけのものでは無いですからね。てっきり職権乱用してるのかと……」
痛いところ突きまくって来る !!
「いや、BOOKは俺だけの許可じゃなくて、BOOK自身の許可もいるから……そんな勝手なことは……はは」
セル ! 動揺すると怪しいからその冷や汗を止めろ !
「……BOOKの許可ですか。噂では聞いていましたけど、本当に生き物なんですね。
それって、管理人すら信用がないからですか ? 」
ルナ姫怖い。攻めに入ると蛇のように……って、リヴァイアサンだったこの子。
「いや。あの。あのですね。元からそういうシステムです。はい」
ポンコツがバグって敬語になってんぞ。
「ならいいですが。紫薔薇も世代交代したばかりですし、こちらは黄薔薇から土地を奪った以上、御上にあたる紫薔薇王にはしっかりしてもらわないと困りますので」
ラジオしようとしてるJKに言われたくねぇだろうな。
「ええ、まぁ。善処します……です。はい」
セルもセルで急に不安になるような小声で頷くし。完全に怯えてんぞ。
俺とつぐみんは最早気まずく、只々なんの味付けか全く分からないベージュ色のパスタを口に入れる作業へと戻った。
『これからお世話になります ! 電気ください ! 』からの『てめぇしっかり仕事してんのかゴラァ』だもんな。
怖えよ。
こういう時、光希が止めればいいのにって思うけど、あいつはパスタ食いながらほっぺに手を当てたままにっこにこするだけ。本っ当に正反対だな。
まぁ、脱皮直後は食われやすい。蟹やザリガニだけじゃない。国もそうだ。
だからセルも目くじら立てて反論したりしない。そして紫薔薇は『知恵の紫薔薇』であり、国民は『平和主義』だ。
でも俺は知ってる。
セルはキレるとヤバい強い怖い。バーサーカー狂人に変貌するってこと。
その多重人格状態の狂人に青薔薇は『いざと言う時の為の武器を各地に配備したい』って言ったわけだよなぁ。この戦争の絶えないヴァンパイア領土で。
「俺思ったんだけど……」
これを俺の口から言うのは……部外者で申し訳ないけど……。
「音魔法を使えるって皆んなが知ってるのに、電波塔建てて良いよって言うわけないと思う」
「同意。だから、無理じゃないかなって俺も思うけど」
「交渉次第でどうにかなるんじゃないか ? 」
「と言いますと ? 」
これには流石に光希の手も止まる。
「まず、電波塔とか音のなる物ってのが良くない。偽装するんだよ。他の物に。
戦争が起きて一番最初に攻撃されるのがスピーカーや電波塔じゃ駄目だろ」
「ん〜。それは分かるけど、打開策は ? 」
「ソレがあると、相手の国にもメリットがあるかどうかだろ」
「……水を提供しろってこと ? 」
「薔薇の花を渡したら黄薔薇と黒薔薇が輸出入をしていた今回のように、悪用される。
あくまで民衆の生活の為に水を使って貰うんだ」
「発展途上国で井戸掘りする慈善団体みたいだね。水の提供とどう関係があるの ? 」
「時間を決めるんだ。ルナちゃんが地獄にいる時。ルナちゃんが電波塔で水の出る場所に呪文をかける。これで電波に理由ができる」
「電波塔を拒否されたら ? 」
「国境沿いギリギリに建てるか、電波塔を擬態させるんだ。木とかそういうカモフラージュさせて。必要な時だけしか使わない 」
「うーん……。僕は単純にトークしたいだけなんだけどね。戦争はついで。ルナが居なくなったら困るし、歌魔法が抑止になるならそれでも」
国に女王と天使モドキ二人きりだもんなぁ。牽制に頭抱えるのは当然の事か。
「……ふー……。俺だけの判断では……。白薔薇王にも相談すべきだ。彼もお前たちの親国なのだから。ね ? 」
「百合子先生のお祖父さんかぁ。僕、苦手だなー」
「そこは頑張って。どうしてもの時は、俺がセッティングして同席するからさ」
「分かった」
どうにか保留になったかな。
(ミサイルじゃなくて歌で戦争って、アニメよね。見てみたい気もするわ)
つぐみん、ロボットと歌の神アニメ想像してる ?
残念ながら、この二人はリヴァイアサン。本質が『破壊神』なんだ。危険人物には違いないんだよなぁ。
「パスタ、食べないノカ ? 」
「いや、食べるよ。半分食うか ? 」
「ヤタ !! 食べル ! 」
そして今のやり取りも、ルシファーには筒抜けかぁ。
なんだかなぁ。
「でもルナちゃんの言うことも一理あるな。
お前たち、やっぱりBOOKまかせじゃなくて、俺が自分で説明したほうがいいかな」
セルの提案に、俺とジョル、つぐみんはブンブンと首を横に振る。
「いや、だから信用してないって言ってるじゃない」
「……そんなことないもん」
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