第20話 氷情
「アフラ・マズダーの守護を持つ者。
結局さ。お前……敵にしかならない異教徒ってことなのか ? 」
セルの殺気が少し弱まる。戸惑いってか……悔しさみたいな。俺が裏切ったから ?
俺は本当に裏切ったか ? 個人的にはまだセルはグレーな奴……。でも、セルからはそう見えてねぇんだろうな。
当然か。疑って、周囲を嗅ぎ回ったのは事実だ。
セルは俺の足元にお守りを投げる。
俺は絨毯の上に音もなく転がってくる木彫りの鳥守りを、摘んで拾った。
分からない。
この御守り……ずっと肌身離さず持ってたはずだ。なのになんで紫薔薇王の傍に……。
まさか…… !
スラれたっ !?
いや、だとしても。
俺の側にいたのは百合子先生と黒瀬だぞ !? でも、黒瀬なら……ライターをスった時も俺は気付かなかった。
でもまさか……。
「違う、セル !! だいたい、俺には動機がねぇだろ !? 」
「そうか ? お前、BOOKを盗りに来たんじゃないのか ? 」
「……そんな強盗みたいなこと…… ! 」
言い返せねぇ。
「王亡き今、TheENDを持つお前とやり合うなら兵は無駄遣いになる。お前の焔の殺傷能力は馬鹿高いからな。
俺が下げたんだ」
ヴァンパイアも悪魔の一種だからTheENDの効力範囲内だ。
確かに、凶器ではあるけど……。
……兵を下げたってなんだよ ? セルの言うことを兵が聞くのか ?
セルがその役割を担えるって……どんな立場の奴だよ。
「あんた……まさか……」
セルはローマンカラーをむしり取る様に外し、シャツのボタンを外す。
その瞬間……ドッと流れ込んでくるセルの魔力。肌がヒリ付く程だ。
今までこんなん、感じたこと無かったのに !
ってか、百合子先生も言ってたけど、魔力量が多いって、具体的に少ないやつと何が違うんだ ?
セルはパサついた長い髪を整えるように手櫛をして、その髪の中から一輪の薔薇を取り出した。
……その薔薇の色は、品のある薄い紫色だった。
「俺が、紫薔薇の王位継承者だ」
「なっ…… !!? 」
継承者って事は……子孫ってことっ ! ? だよな ? つまり王子的な。
アレ ? でも紫薔薇王の息子って戦死したって百合子先生と黒瀬が話してたよな ?
嘘 ?
『死んだ』ってのが嘘の情報なんだ。
セルの出した紫の薔薇はまだ瑞々しく、肉厚な花弁に、茎から滲み出る雫も、真新しく召喚された薔薇であることは間違いがない。
合点がいった。
こいつが歳を取らねぇのも、魔術を使えるのも…… !! 時々感じていた『悪魔臭』。あれはセイズの遺体やアカツキに来るような下っ端の小物なんかと違うわけだ。今、強く感じるこの、血の匂いの混じった悪魔臭。
こいつ自身がヴァンパイアだったんだ。百合子先生もそうだけど、人間界にいる時は、何とかその臭気を消している。
「……あんた……ヴァンパイアだったのか……しかも紫薔薇王の死んだはずの……息子……」
「……今日、予定外の継承となったがな」
振り上げたセルの手の平に一輪の紫薔薇。
キラリと光ったと同時に、水のように透き通った薄紫の大鎌が召喚される。
ダンッ !!
踏み込む靴の音だけを頼りに、俺は反射的に身を守る防御行動を取る。
「うわっ !! 」
ギィィィン……
何とか焔で防御したけど、これは本気じゃない !! 遠心力だけの武器の重さだ。ジャブでこれかよ !
金属同士で手が痺れて焔を落としそうになる。グリップを握っているのがやっとだ。
そこを突いて、今度は横から胴体を寸断する勢いで大鎌が滑り込んでくる。
ヒュッ
何とか屈んでやり過ごす。
狭いっ !!
上にも横にも、動きが取れねぇ !!
空を斬った大鎌は壁に当たるはずだが、何故か刃先が石壁をすり抜ける。
魔法 ?
俺の焔は確かに刃が当たって受け止めたのに、壁はすり抜ける !! 厄介そうだ。
俺の体にもに攻撃が効くのは確実だろうから避けるしかない。
セルが鎌の持ち手を変える。
長く細い柄が一瞬、陽炎の様にぐにゃりと歪んで見える。
多分あの大鎌は実体がないんだ。あれが魔法なら、焔を撃ち込んだらダメージを蓄積できるかもしれない。
出来んのか ? 見た目はガラス細工のように繊細なのに、刃が当たった感触は鉄のようだった。何より、パワーが桁違いだ。魔法武器なら何をしてくるかも分かんねぇ。
俺の武器が飛び道具ってのが救いだ。
縦に振り下ろされた鎌を横に避けたところで、今度は蹴りが飛んでくる。
ザッ !!
「グハッ」
リーチ、長ぇ !!
膝が床に落ちる。
痛み以上に、体に効いてる…… ?
「うっ……」
武器持ってるなら武器使えよ !
「分かるよ。お前が父を殺ったんじゃない事は。
でも、引き金はお前なんだよ」
「はぁ…… !? 俺はそんなつもりねぇんだって !! 」
顔を上げた俺の喉仏に、容赦なく大鎌の柄の先で思い切り突かれる。
「かっ !!!! はっ !! 」
痛ってぇっ !
何こいつ、強くね ? いつものポンコツは……振りなのか !?
くそ、頭グワングワンする。
「っ !! ……ごほっ !! 」
黒瀬の手練って感じの強さとは違う !!
一撃必殺。武器を出したら最後。
必ず仕留める。
あれ…… ? 俺、今日、死ぬ ?
今まで生きてきて、一番勝ち目の無い感じがする。感じるんだ。
俺は……。多分、一番怒らせたら危険な奴を怒らせちまったんだ。
首元に冷たい感触の刃をヒタりと付けられる。
振りほどく暇無く、俺のみぞおちの上に皮のブーツが乗る。
セルの体重だ。そんなに潰れるほどじゃない筈なのに、起き上がれないほどの重力が全身にかかる。
魔法だ。
エア圧死、まっしぐら !
「たの……む…。俺の話……聞いてくんねぇ ? 」
「聞く必要ないね。お前、唆されたんだよ」
唆された ? 百合子先生か黒瀬って事か ?
でも、それなら黒瀬はなんで俺に攻撃手段なんて教えこんだ ? 不利になる。そしてその黒瀬を雇ったのは白薔薇の百合子先生だ。
「ああ。言っておく。ルナちゃんからの情報漏れでは無いよ」
嫌な笑みだな。
全部知ってたぞって言わんばかりの。
ムカつく〜 !
「へ……へへ。そりゃよかった」
セルが足を下ろし、重力が弱まったお陰で何とか壁に伝って這い上がる。膝がまだカクつく。
「はぁ……はぁ……。いや、まじで俺も。死人が出るとは思わなかったし。
確かにBOOKは観に来た。でも、王がいなきゃ作動しねぇんだろ ?
なのに王を殺す訳ねぇだろ。
俺が知りたいのは双子の事だし」
セルはおもむろに手枷を取り出すと、俺の手の自由を奪う。マジかよ……。あ、でも。手枷するって事は今は命の危機無いんじゃね ?
「筋は通っているが、何故そこまであの二人に肩入れする ?
俺は復讐を頼みはしたが、二人の事を探れとは言ってない」
あぁ、セルからすればそうだろうな……。
「セル……。仙台に来てからもうずっと……二人が夢に出てきて、ガンドは助けを求めてる……。ただの夢なら気にしねぇけど。どうもお前の復讐に繋がるみたいだぜ……。何も知らせねぇで命懸けろってのもさ……」
「それが理由か ? 」
「そうだけど……。俺にとって、もうガンドは赤の他人じゃねぇ。それにコキュートスでもおかしなものを視てるんだ。話がややこし過ぎるぜ……」
「いいや。
……俺はさ。知って貰いたかったんだ。だからお前に復讐を手伝えって言った」
「…… ??? 知る ? 何を…… ? 」
「復讐がどれだけ不毛な事かを。
お前も母親の復讐目当てでBLACK MOONに来ただろう ? 正直、俺はやめとけって言いたかった。けれど、当事者は他人に言われて「はい、分かりました」じゃ、済まねぇんだよな。怒りも後悔も全てにおいてさ。
俺は、お前に俺のようになって欲しくなかっただけ」
「復讐については、俺も最近……思う所はある。だから最近自分の事は後回しになってる。
でも、ガンドが助けを求めてるのは事実なんだ。どっかの結界にいて、偽物のセイズと一緒に…… !! 」
「お前さ」
寒い。
セルの声が。
吐く息が白い。
『知恵の紫薔薇』、特異魔法は氷…… !?
「俺やトーカを差し置いて、何故ヴァンパイアに相談をしたんだ ? 」
「……それは……えと」
息をすると気道が痛い。早く答えないと……。
あれ…… ?
俺は百合子先生を信用仕切ってる。
みかんの事も良くしてくれるし、とても悪人だとは思えない。
……でも。
俺は何故今回の事を、百合子先生に相談したんだったっけ ?
「思い出した……。百合子の使い魔だ」
「使い魔 ? 」
「ほら、前に俺の家具を百合子先生が買ってくれた時、家具を召喚する巻き物を百合子先生の使い魔が届けてくれたろ ?
その時の使い魔が、「俺の事を心配している」って言われたんだ」
「それはいつの話だ ? 」
「泉さん一家の怪奇住宅の件が終わった後……カフェに帰ったら百合子先生が来てて……俺を待ってたみたいで」
「クリスマスか……。
あとは ? 」
「えっと……『セルの私生活に触れるな』って警告。
……『紫薔薇王は賢人だから余計な事は話さないよ』って忠告されて、バチカンにセルとトーカがいた頃の件で『地獄でもセルの色んな噂があるんだ』って聞いた。
そうだ。それで、とりあえず百合子先生に話聞いてもらおうかなってことになったんだ…… ! 」
「噂ね……」
セルが薔薇を床に一輪置くと、紫薔薇王の身体が絨毯の上からズブズブと、下は石畳のはずの床に沈んでゆく。
「今はこうするしか……」
あ、遺体の保存の為に魔法使ったのか !
俺、てっきり凍え死にさせられるのかと思っちゃったよ !!
セルが十字を切る。ヴァンパイアでカトリックって何よ ? もう訳分からん。
「広いところで話を聞こう。ついてこい」
セルが俺の手枷の鎖を引き、城外へ向かおうとする。
「あの、大丈夫か ?
俺と別働中で黒瀬も来てるけど……」
「構わない。むしろ、会う前に広い場所に出ておかないと、敵を迎えられない」
「いや、黒瀬なら俺が止めるぜ ?
もう、計画なんてお流れだ……死んだら元も子もねぇし」
セルがギロりと俺を睨む。
やべ、紫薔薇王……死んだんだった……。
「俺の噂ってのは、俺が紫薔薇王の息子って事だろ。
昔、ここが赤薔薇に戦火で焼かれた時、城への損害を免れる為に俺が兵と民間人を引き連れて黄薔薇城への国境付近に誘導した。
赤薔薇の襲撃を受け、俺は死んだ事になってる」
「お前が死んで、なんのメリットがあるんだ ? 」
「赤薔薇は最も領土の小さい民だ。戦争体質で、いつも土地を欲しくて戦を起こす。
だが、一番『人情味が分かる民』だとも思うよ。相反してるけどな」
人情味があるのに戦するって、ヤクザじゃん。赤薔薇ヤクザなの ?
「王位継承者が死んだことで、その戦は一つの妥協点に繋がった。
紫薔薇領土の一部を赤薔薇に明け渡すことで、二度と城には手を出さないと」
「そんなの信用出来んの ? 」
「もう一つ。黄薔薇からの輸入品の物流点を、その赤薔薇領土で行う。
すると、当然、赤薔薇は『通行料』を取るようになる。
戦争続きで領土の狭い赤薔薇にとって、土地と確実な金の儲けは美味い話なのさ」
「じゃあ、あんたは本当は生きてるのに、赤薔薇は死んだと思って紫薔薇王の提案を飲んだのか」
「あっさりな。赤薔薇は王家がなく、襲名で頭が変わる。
その領主直々に護衛もなく頭下げに来たよ」
「……屈折してるな……自分から戦争したくせに……」
セルは一枚の大きな扉を開き、とんでもなく広い玉座の間に俺を通す。
「あれ ? この城……もっと本棚だらけじゃなかった ? こういう王様的な部屋がなくて、本に埋もれてた記憶があるんだけど」
「それは真ん中の塔だな。BOOKを守る為の王家だから、紫薔薇としては民が不自由無く暮らせれば、多くを持たなくていい……それが王の価値観だった」
紫薔薇王……。一番の平和主義者なのに、ヴァンパイア領土で一番の土地持ち……。
世の中そんなだよな……。持ってる者の余裕って言うか。
「そっち座れ」
セルが俺の手枷を外す。
玉座のすぐ左隣、高い城壁で囲われたその一部に豪華絢爛な個室があった。
控え室みたいな場所なのか、ふかふかの椅子と何枚も垂れたお高そうな……これ、カーテン ??? なんか、布。高そうな布。
俺とセル。
膝を付き合わせるように座る。
照明はランプシェードのみ。
「これ、電気 ? 電化製品 ? 」
「ビアンダが贈ったやつじゃないか ? 乾電池式だよ」
あ、そうか。電池だったらこの世界でも電気が使えるよな !
「出てこいと言っても、出てこないよな」
セルが明後日の方向を向きながら声をかける。何それ怖い。なんかいんの ? TheENDする ?
「……なんだ ? 」
「いや、いい。
今日、ここに来る前の作戦を言え。どうせ白紙になったんだろ ? 」
「そうだけど……。こんなゆっくり座って話してていいのかよ ? 」
「冷静に考えて話さないと、分からないこともあるからな」
いやいや。さっきお前、怒りに任せて俺をギタギタにしたよな ?
「黒瀬に連絡入れる方が良くねぇか ? それから話そうぜ」
「あいつは来ないさ。
今日、ビアンダに会ったか ? 」
なんか、セルが百合子先生をビアンダって呼ぶの違和感が凄い。そんなにきっちり切り替え出来るもんなんだな。百合子先生も黒瀬呼びとズモナ王呼びを別に扱ってたもんな。
「黒薔薇城で会ったけど……」
「いつもと違う様子は無かったか ? 」
「…… ?? 例えば ? 」
「拷問されていたり、そういう扱いだ」
「え、無い無い !! 俺の疲労も取ってくれたし」
「白い薔薇で ? 」
「ああ」
「じゃあ、魔法は使える状態か……」
もしかして……百合子先生が黒瀬と本当は仲がいいってセルは知らないのか…… ?
でも、俺がバラすのもな……。どうしたらいいんだ。
「えっと……。百合子先生と黒瀬は、俺のワガママに付き合っただけで、別に……」
「なら、どうして父が死ぬ ? 」
「……。
いや、本当にこの度は……」
「そういうのはいい」
「え〜と、間違い紫薔薇王の暗殺は計画に無かった。
むしろ、BOOKは紫薔薇王のいる範囲でしか発動出来ないのに、この城に侵入してからどうしようかって相談してた段階だった。
けれど、今日になって突然黒瀬が俺をこっちに連れて来て、今から城に行くって流れになったんだ」
「オカシイとは思わなかったのか ? 」
「思ったぜ。でも、断るに断れなくて……」
改めて、今日の記憶を探る。
けれどなにか漠然としたものが記憶を遮る。記憶に霧がかかったように。
「あれ…… ? なんか記憶が……」
「……」
「ああ、そうだ。この城の庭園で……さっき紫薔薇王を視た……。時間的におかしいのかもしれないけど、本当に侵入する直前に薔薇の庭園の中に立ってたのが一瞬視えて……」
「時間的におかしいってのは ? 」
「俺と黒瀬はこの筒みたいな形状の城を空間を裂くように壁から直進してきたんだ。黒瀬は廊下三つ分まで俺と一緒にいたんだよ」
「敵陣で何故別行動を ? 」
「そりゃ、あの血溜まり……。辺り一面、突然血の海になってて、黒瀬は先に城の中心部見てくるからって……あれ ? 」
その黒瀬はこの中心部である玉座の間にいない。
「あいつ、どこに行ったんだ ? 」
「埒が明かないな。
俺が聞きたいのは……」
セルが頭を抱えたと同じくらいに、ホールの方でガシャリと物音が立つ。
ガシャコ……ガシャコ……
金属製の音だ。歩いているにしては、ぎこち無い足音だ。
セルはそっとカーテンを捲り、相手の姿を確認する。
(なんだあれ)
俺もつられて隙間から覗く。
ホールの中心に甲冑姿のナニカが、クネクネと歩いていた。
ナニカとしか言いようがない。人の関節の動き方じゃない。
ソレは、辺りをキョロキョロと見回した後、オドオドした様子で突っ立ってるだけになってしまった。多分甲冑の置物に擬態したんだろうが、あんなド真ん中に置かねぇよ普通 !!
ギギギ……
首だけが異様に後まで回る。まるで鳥の様に。
鳥…… ?
あ、もしかして !!
着ぐるみに、逆関節の動き。
(おい、あれ百合子先生の使い魔じゃねぇかな ? )
(マジかよ……趣味悪……)
(水鳥の使い魔らしいぜ)
(ん〜……今、兵隊居ないからな。入り放題になっちまった)
馬鹿なの ?
もしかして、護衛の一人も残してないの ?
マジで兵士一人もいないの ?
(俺が話聞いてくる。お前ここにいろよ)
(お、おう)
セルが出ていく。
甲冑スタイルの使い魔は、一瞬ビクッとしてから玉座を見上げる。
‹んあ〜、紫薔薇王子……ご無事だべか ? ›
「王子じゃないんだ。もう……」
‹あぁぁ……間に合わなかった……。オラ、飛んで来たのに……›
「言伝は ? 」
‹オラは何も聞いてねぇんだけれども。んでも、ビアンダ様になにかあった時だけ、ここに来るよう言われてて。
今日はビアンダ様が白薔薇城へ連絡がありませんで、それもドレスで出掛けたと聞きましたから……。
有事の際は、紫薔薇王に現況を話せと言われてまして›
「ドレス…… !? 」
セルの顔色が変わる。
‹へえ。んだもんで、オラも焦ってここに来たんす›
「
‹情報通りだらば、ここに来る筈です›
「ユーマ」
え、出て来いって ?
「あ、ども…」
‹ああ !! ユーマさん !! なしてこんな事してくれたんだす ?! ビアンダ殿下は何処にいるんだすか !! ›
「待て、この情報が流れたら本当に争う事になる。
恐らくだが、コイツも操られた。幻覚症状も出てる」
「え…… ? 」
俺、操られてんの ? 自覚ないけど。
‹ああ。ほんだらば、オラはどうすれば……›
「狙いは、紫薔薇王の暗殺と、『関所』の撤廃だな ?
赤薔薇領土に飛んでくれるか ? 『関所』は勿論、契約通りに事を進めるが、王位継承者は健在だと。赤薔薇はそれで抑えられる」
狼狽える使い魔にセルは提案する形で声をかける。
‹はあ。混戦を避けたいもんで……。確かに。そうすんべか›
「赤薔薇が頭に血が上らないように、穏便に伝えてくれると有難いよ。こっちの戦力は足りてる」
‹分かっただす。では直ぐに›
使い魔は甲冑の頭を外す。その何も詰まってない暗い空間から白い光の筋が窓を刺すようにつぅっと延びる。
バシュ !!
音を立てて、光がロケット噴射する。一瞬だけ見えた。デカい白鳥のような光の鳥の形をしていた。ただ頭だけは俺の知ってる鳥とは違う。
「さて、状況が見えてきたな。
黄薔薇が首謀者だ。あいつらは姿を偽り、幻覚で惑わせ、戦わずしてかすめ取る連中だ。
紫薔薇王暗殺は成功。奴らの次の狙いはビアンダを拘束し『軍事の白薔薇』の介入を許さない事だ」
二人で個室に戻る。
「なんで俺がBOOKを見たいって希望がこんなことになったんだ ?
百合子先生、今日普通にいたぜ ? 」
「ビアンダがドレスを着る時には、理由がある。
公務で民衆の前に姿を表す時と、敵城に赴く時だ。
そのドレスが汚れる事は許されない」
あぁ、つまり人間の白スーツ ?
え……ヴァンパイアってヤクザなの !?
文化がデジャブ !!
「お前の侵入計画を知った黄薔薇が、お前と黒薔薇に罪を着せる形で攻撃してきたのさ。ビアンダと一緒に居たズモナ王……つまり今日お前がここに来た時会った黒瀬ってのは偽物だ」
え。俺、嵌められたの !? あれが偽物 !?
「父は止めてた……黒薔薇と黄薔薇……それぞれに花での輸出入はするなと。ズモナ王の空間を切り裂く移動の魔法も、黄薔薇に持たせると厄介な代物になってしまう」
じゃあ、今日この城の壁を黒薔薇で裂いて直進した時……あれは輸出された黒薔薇で、俺といたのは黄薔薇 ?
「お前が行ったのも黒薔薇城じゃなく別の場所だ。ビアンダが捕虜なら黄薔薇領土かもな」
「黄薔薇城に踏み込むか ? 」
「道に迷わされておしまいさ。それに城になんかビアンダを入れるもんか。城に踏み込んだ俺たちに『何もしてませんけど ? 』って言える状態なのさ」
「……どうすればいい ? 」
「お前の知ってる事を俺が知れれば話が早い。前にBOOK·miaを見た時に、トーカがメンバーにも記憶を共有しただろ ? 」
「ああ。そう言えば……。
あれはBOOKとは違うんだな」
「あくまで知識だし特定の条件に限られるからな。その場にいる様に観れるBOOKの詳細さには叶わないけれど。
あれを使えば、状況を把握できる」
「つまり ? 」
「トーカに術をかけて情報を共有しようか」
それ、絶対怒られるヤツ !!
それ、絶対殴られるヤツ !!
それ、絶対罵られるヤツ !!
「ヤメテ……」
「やめないもん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます