第4章 恩寵
第1話 重大発表
ピロリロリーン♪ ピコピコピー♪
「ぅわっ !? 何の音 ?! 何の音 ?! 」
この部屋に住んでから、聞いた事無い音がしてる !!
ベッドから跳ね上がっちゃったよ ! どっから鳴ってんだ !?
「おァ〜。眠い〜……うぎぎぎ」
ジョルも、もそりと起き上がる。その枕元には、見慣れない一台のスマートフォン。
「あっ !! お前いつの間に ! 俺に先ず番号教えろよ ! 同居人さんよぉっ !! 」
「違うんだヨ〜。なんか美香さんに持たされたんだよ〜」
「はぁ !? 」
なんでみかんがジョルにスマホ持たせるんだよ !
「え、何 ??? 業務用 ? 俺、貰ってねぇけど」
「ほわぁ〜あ。
いや、なんか私用で使うって聞いてる」
え。私用でって何 ?
しつこく鳴り続けるスマホに目をやる。
着信だ。つぐみんから。
「あ……ははーん。成程〜。
みかんもお節介だなぁ〜」
「ナニ ? 」
「いいから早く出ろよ〜」
思わずニヤける。
ただ、少し気になってるけど、コイツ鶏なんだけど……。つぐみんはそういう対象……つまり男性として見てるんだろうか ? 謎だ。
いや、もっと単純なのかもしれない。
「もしもし。オレです。
……はい……ハイ……」
何やら一方的に言われているようで、「分かりました」と返事をすると、ジョルはそのまま通話を切ってしまった。
「なんだ ? デートか ? なんだった ? 」
「アンタ煩いぃ〜。まだ眠い〜……。
すぐに二人で美香さんの部屋に来いって言われた」
「え ? 俺も ? 」
みかんの部屋ってことは……つぐみんとみかん二人でいるのか。あるいはトーカも。
「おぉ、おおおオレ、知ってる。こーゆーの、呼び出しって言うんだろ ? 」
呼び出されてるからな。まぁ、呼び出しだな。
「そんで、『ヤキ入れられる』ンだ !」
またなんか変な番組観たな ?
「お前を焼くとしたら
行くぞ。仕事かもしれねぇ」
俺たちは着の身着のまま、ボサボサ頭を掻きむしりながらエレベーターへと向かう。
ガコッと音がして扉が開いた先、セルが先にエレベーターで降りて来た。
「ビックリした〜。おはよう」
「おはようごザイます ! 」
「ああ。おはよう」
なんだ。少し険しい顔してんな。
と言うか、セルの霊臭……いつもよりいっそう強い。またアカツキで聞き込みでもしてたのかな。普通の人間には分からねぇだろうけど、かなりの悪臭なんだよなぁ。
「あんたも呼ばれたのか ? 」
エレベーターの行先は、俺たちと一緒だった。
「当然だろ。全員参加なんだから」
うーん。話が見えてこないんですけど。
「いや。俺たちなんも知らねぇんだよ。去年の今頃は……俺、憑かれてたし。しばらくベッドで安静にしてたじゃん。
なに ? なんか店でお祭りでもやんのか ? 」
「あ〜。お前ら、知らないのか。笑える」
セルは鼻で笑う。
「じゃあ、初だし……お前らにやらせて、俺は逃げようかな……」
だから、なんなんだよ !
よく分からんけど、押し付けて逃げるな !
ポーーーン♪
エレベーターが開くと同時に、ジョルがバサバサと飛び出してく。
こいつ ! 今のセルとのやり取り聞いて、速攻で鶏に戻りやがった !! 俺は鶏なんで、見逃して下さいモードだ !!
くそ…… !! 何が始まるんだよ !!? 怖ぇよ !!
「揃ったわね」
部屋の中には大福もトーカも、本当に全員いた。
みかんの部屋は和室だった。意外……。女子高生にしては渋すぎだろ。でも、あいつの自宅、凄い和風御殿だったからな……。
俺はとりあえず並べられた座布団の一角に腰をおろす。
セルはドア付近の座椅子に、気だるそうに凭れた。
「えっと、何するんだ ? 」
「ゲームだよ〜 ! 気楽に〜。負けても大丈夫だから ! 」
みかんが明るく……いや、なにか含みのある笑みで俺に答える。負けても大丈夫ならセルはあんな干からびてないはずだ。
目の前のテーブルには、物騒にも抜き身のナイフが置かれていた。
まさか、武器持って戦闘訓練…… ?
つぐみんは珍しくジョルには目もくれず、ゆらりと立ち上がる。
「では、これから一回戦を始めます。
その前に、各自こちらのくじを引いてトーナメント表に名前を書くこと ! 」
なんだぁっ !?
「ゲーム ? ゲーム大会すんの !? なんか貰えんのか !? 」
シューティングなら自信ある !!
「ユーマ……そんな考えは……甘いよ……」
みかん。そのテンションはやめてくれ。
「オレ、ゲーム、する ! 」
ジョルもゲームと聞き、現金にも人型に戻る。
「はん。これだから羽根の生え変わってない小鳥ちゃんは……。
これには、私たちのお正月がかかってんだよ ! 覚悟しろよ ! ……ですわ」
トーカもやさぐれている。
「えぇ……トーカさん、急にどうしたんデスか…… ? 」
「お正月…… ? 三賀日は、店は営業しねぇんだよな ? 」
俺の問いに全員がギラりとした目を向けて来た。
「当たり前でしょ !! お正月は戦争なの !! 」
つぐみんが珍しく声を荒らげる。
「いい ? ユーマ。仙台に来たからには、『初売り』に参加してもらうわ !! 」
「初売り〜〜〜っ !? 」
そんなもんで、今から店員同士サバイバルすんのかよ !
「初売りって福袋とかか ? 冗談だろ〜 !! あんなもん、何が入ってるか分かんねぇ。
ただの売れ残りだろ ? 」
「これだから坊やは……」
本日のトーカはキャラが定まらないようだ。
「『ですわ』に言われたくねぇよ」
「なんですって !! 」
「まぁまぁ。リーダー。
ユーマ。いつも行ってるアパレルショップあるよね ? そこの店員さんに聴いてくれば分かると思うけど、あのテナントが入ったデパートはね、毎年凄い人が深夜から並ぶんだよ」
「売れ残りの福袋に ? 」
「と言うか、福袋が売れ残りを入れていたのなんて、どんだけ時代遅れの話しよ。今は普通の商品が売られるのが普通ですわ」
「えー……。俺、二年前に買ったゲームの福袋……モンスターハンティングIIIが五本も入ってたぜ…… ? 」
その時、俺はもう福袋は二度と信じないと決めた。
「それはそういう業界だから……あれはまた別よ」
「それがね。売れ残りじゃないんだよ〜。
サイズも選べるし、なんならテナントによっては中身公開してるところもあるし。
ユーマの体型なら、小さくて着れないって事ってないよね ? 」
「無いな。大きい分には気にしねぇで着るし……」
「福袋……なんと。購入する金額の三倍から五倍の値段の商品が中に入ってるんだよ。それもほぼ全店舗で福袋を出すの。勿論、先着順」
なん……だとっ !!
「去年は寝込んでたし、欲しいか要らないか分からないから買わなかったけど、確かあの店は二万円の福袋と三万円の福袋があったのよねぇ。
去年は私が負けたから、あのデパートは私が並んだのよ」
つぐみんが言う。
待てよ ? あのデパート『は』 ? って事は……。
「他に何件並ぶ場所があるんだ ? 」
「そこ以外だと、アウトレットモールの下着売り場ね。そこは必ず女性が行くからユーマは心配ないわ。
大福はいつもお茶屋さんに並ぶって決まってるから勝負はしないのよ。次の日に市場にも行くしね」
「そーだな。俺たちが休憩中に美味い茶や珈琲が飲めるのは、大福の福袋のおかげだな」
大福すげぇな。煩悩剥き出しじゃん !
「あとは駅前のパリコよ。そこは私とみかんの本命福袋よ」
「俺、そこだけは勘弁。女モンの福袋買うの、ダメージデカいぜ」
「あら、三年前のコフトで雑貨屋さんの『シュシュ詰め放題』お願いしたけど、あの時は乗り気だったじゃない ? 」
「シュシュは俺も使うし……」
俺、シュシュもやだなぁ。
「……つまり、お使いに行くってことで合ってる ? 」
「そうね。絶対手に入れなければならない、お使いミッションよ」
あ、これ。買いそびれたらヤバい感じだ。
「人気店は一時間くらいですぐなくなるから、深夜から並ぶのよ」
深夜っ !!
こんな真冬に !!? 外、雪降ってんぞ !!
「でも、本当に欲しいものが入ってるとは限らねぇよな ? 」
「ふふふ。それは御自身で体験なさるのが宜しくてよ ! 」
まじか……。いや。確かにあのショップならハズレなんて見たことねぇし、欲しい ! けど深夜から並ぶとか……ここ東北だぜ。
セルが気落ちするわけだ。あいつ基本的に、暑い寒い重いは根性無さそうだもんな。
「はぁ….…。そんで、ゲームってのは ? 」
つぐみんは重そうな箱をテーブルにドシッと下ろした。
「今年はこれよ !!
『食材の加工 スピード対決』 !! 」
『えええええぇぇっ !! 』
おい。俺の他にみかんも絶叫してたぞ。
「さぁ。くじを引いて。勝ち上がる事に食材の難易度も上がるわよ。
今年最下位だった私が、来年のお題を決めていいルールだから。文句言わない ! 」
去年はつぐみんが貧乏くじだったのか。
でもよく見りゃ、箱から見えてるのはリンゴとじゃがいもだな。あのくらい、皮向くスピード……厨房にいる俺ならみかんよりは自信あるかも。
変に絵描き勝負とかじゃないだけ、いいのかもしれない。俺、絵は壊滅的だ。
「さぁ !! 対戦相手を決めるわ。くじを引いて !! 」
俺たちは……エクソシストなんだよな …… ?
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