第18話 存在否定

 華菜さんを見ると、何故かぼんやりとウォークインクローゼットの方を見て固まっている。


「華菜さん ? 」


「え ? あ……すみません……なんだか今……」


「どうしました ? 」


「今……お母さんがその扉の前にいた感じがして……感じって言うか……一瞬、本当に…」


 困惑しているようだけど……。

 怪奇現象なんかを受けている華菜さんにも、何かしらの霊力はあるのだろうから不思議ということは無い。

 みかんを見るとカクカクと首を縦に振っている。


「多分、本当に視たんだと思いますよぉ」


「俺もさっき向こう側で視たとき、確かにクローゼットの前にいましたね」


「え、でも。私、霊なんて視たことなんてないですよ ? 」


「これだけ霊感強い人が集まってますから。視ることもあるんですよ。

 むしろ、今まで視なかったことの方が不思議っすよ」


「そうなんですか……。

 ……本当に………来たんだ………。お母さん……お父さん……。

 ………ごめんなさい……」


 シクシクと泣き出す華菜さんに、誰も声を掛けられないまま……沈黙。


 すると、次に言葉を発したのはトーカ……いや、心夏ちゃんだった。


「ママ ! ママの声だ ! 」


 泉さん夫婦は勿論だが、みかん以外……俺もギョッとしてしまった。


 声が……子供の……。あの心夏ちゃん本人の声だ。抑揚もイントネーションもトーカとは違う。心春ちゃんより少し高めの元気な……俺がアカツキで話した心夏ちゃんの声。

 トーカの中に無事入れたようだ。

 みかんが進行して行く。


「それでは、華菜さん。心夏ちゃんが入っています〜。リーダーの意識はありますが……今、覚醒しているのは心夏ちゃんです」


 みかんはもう、何でもありだな。動じるとか、驚くとか無いんだろうか ? あ、光希と話した時は参ってたけど、あれはノーカンだ。


「本当に……こ、心夏なの ? 」


「うん ! じいじとばあばもいるよ ! 」


 華菜さんの手が震えてる。


「ママはどこにいるの ? こっちにもママがいるんだよ ? 」


「ダメっ !! 」


 突然の大声に心夏ちゃんが怯む。


 ガシャン !!


 台上に出されたティーカップがひっくり返るがお構い無しだ。

 華菜さんはサークルにして組んでいた手を離して、トーカの肩に掴みかかる。


「心夏 ! ? 心夏なのねっ !!? 」


「あ、手は離さないで……」


 焦る俺にみかんは「大丈夫」と制止する。


「入ってる最中は大丈夫だと思う」


 そ、そうなの ?


「いい !? よく聞いて !

 ママはね、まだ心夏のところに行けないの !

 だから、じいじとばあばの言うことをよく聞くのよ ?! 」


 銀眼の鈍い光を放つトーカの瞳が、動揺するように揺らぐ。


「……アレはママじゃないの ? 」


 アレ……とは、今まで一緒に生活してきた生霊の事だ。心夏ちゃんからしたら混乱するだろうな。身内の方が来てくれて本当に良かった。

 華菜さんはもう、ハンカチでは収まらない程号泣していたのに、全く声が詰まらない。

 気丈にも、心夏ちゃんを不安にさせない為に一度大きく息を吐く。俺が隣にいてゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる程、華菜さん自身、本当は気持ちがぐちゃぐちゃなはずなのに。


「……。うん。ママじゃないよ。

 ママの振りした、別の人よ。知らない人。似てるけど、知らない人なの。

 知らない人には ? 」


「ついて行かない ! 」


「そうだね。偉いね。

 ……じいじとばあばと一緒に行くのよ ? 」


「どこに行くの ? 」


「……楽しいところよ ! 楽しみにしてて」


「やったぁ !! 」


 束の間。

 心夏ちゃんの顔色が曇る。


「ママは ? 」


「ママは……。ママは後から行くから」


「分かった !! じゃあ先に行ってるね ! 」


 心夏ちゃんがそう答えた瞬間、ジジッ ! っと音を立てて一気にキャンドルが消える。


「御両親がいた事で安心して行きましたね ! あとは危険な目に合うことはないと思います !

 手を握ってサークルにして下さい〜。一度リーダーを戻します」


 顔の気質が再びトーカに戻るか否かのところで、華菜さんは俯き、叫びにも似た声で泣き崩れた。


「ああああぁあぁぁぁ !! 心夏 ! ごめんなさいっ ! ごめんねぇっ !!!! 」


 泉さんがそっと抱き寄せる。


 意識を取り戻したトーカは、みかんにカーテンを開けるよう指示を出す。俺も居た堪れない気分で、それを手伝う事にした。


「短い時間で申し訳ございませんでしたわ」


 華菜さんは顔を伏せたまま、声を荒らげる。


「言えなかった !! 残れなんて言えなかった !! 一緒にいる奴なんて !! 私じゃない !!

 お前なんかにやるものか !! 私の子だっ !!

 私に生霊なんて居ない !! その生霊は私のモノなんかじゃないっ !! 」


 ……いや、確かに生霊は本人の産物だけど……。


「ユーマ、アカツキへ行くわよ。状況が変わってるはずだわ」


「あ、ああ」


 華菜さんは夫の泉さんに任せて、俺とトーカは再びトイレへ向かう。


(なぁ、いいのか ? あれ。生霊は間違いなく華菜さん自身から出たんだよな ? )


(これでいいのよ)


 トーカが華菜さんの方を見るよう、目配せしてきた。


「娘を成仏させないなんて ! 私なわけない !! 私がそんなことするわけない !! 」


「そうですよね ! 確かにそうかも ! 」


「例え私の生霊だったとしても、子供の幸せが一番でしょう !!

 生霊は私じゃない !! 私はそんな事しない !! 」


「母の愛ですね ! 尊敬します !」


 ……何アレ。なんかチョイチョイ、みかんが合いの手みたいな茶々入れてんだけど。


(怒られんぞアレ……)


(ま、まあ……みかんの人柄なら大丈夫……でしょう……多分)


 泉さん夫婦から見たら、ただの女子高生のバイト……って立ち位置だもんな。

 いや、にしても……もうちょい親身な言い方ってもんがあんだろ。アイツらしいっちゃ、アイツらしいんだけど。


(不安だぜ〜こんな状態の時に、なんかしでかしそうで〜……)


(そんなに馬鹿じゃないわよ。多分……。

 それに、華菜様のあの否定が必要なのですわ。自身の生霊への強い拒否感)


 トイレの個室に二人で入る。俺は再び便座に座って提灯を手にしたが、トーカがそれを横に避ける。


「私も行きますわ」


「お、おう」


「我が主よ。アカツキまでお願い致しますわ」


 トーカがスルガトを呼んだ瞬間、スンっと空気が冷えて行く。


「うっ……コート持ってくりゃ良かった」


「仕方が無いわね」


 トーカが空に腕を突き出した瞬間、上着が一枚パサりと掛かる。


「あぁっ ! なるほど」


 エクトプラズムの具現化 ! そうだ。トーカはこうして戦うんだった。


「便利だな。あったけぇ」


「早く覚えなさいな」


「ハイ……」


 と言っても、全然上達しねぇけど。あれから指輪を外して、何度もアカツキに飛んでは召喚を試みたはいいが、これが全然。さっぱりちゃんだった。もしかしたら向き不向きもあるんじゃないのか、とすら思えて来たところだ。


「DIVE……。入ったな」


 曇りガラスの外の光が失われ、やがて赤黒い月光がぼんやりと差し込む。

 禍々しい空間の中、トーカは小さくため息をついた。


「心夏ちゃんを降ろして、華菜様がどんな反応なさるか……大博打でしたわね……」


「分からないから聞くんだけど。アレで成功なのか ? すげぇ取り乱してたけど」


「失った子供と会話をしたのよ ? 親なら当たり前の反応ですわよ。いえ、子供じゃなくても。自身の親であれ恋人であれ、普通は失った者とは別れなければならないのですもの」


 確かに。

 あの波に飲まれた時の絶望感と子供への思い……サンディの店で俺は華菜さんの記憶を遡行した時、意識が重なったから今はよくわかる。

 ……正直に言うと、病床で母を看取った俺とは、違った。

 突然奪われるって言う混乱。


 俺は便座に座るとさっき使った提灯の蝋燭に、もう一度火を灯す。


「『華菜さんの反応が必要』って、どう言う事だ ? 」


「生霊は霊魂じゃないって話したでしょう ?

 生霊を消すためには ? 」


「えっと。華菜さん本人が生霊を認識して出さないようにする……だよな ? 」


「出さないようにって、具体的にどうするか……ですわよね ? 」


 確かに。

 華菜さん本人には生霊がいた事も、霊を視たことも無いって言ってた。そんな人がどう対処して、自分でどうにか出来ると言うんだ ?


「さっきの華菜様の生霊を強く否定する言葉は、その方法に値しますわ。

 出さないように……どころか、私の生霊なんかじゃない ! という強い意志ですわ」


「あぁ、なるほどな」


 普通は半信半疑で終わる話だろうけど、今回は怪奇現象を体験して原因は自分の娘で、更に自分の生霊が成仏を妨げている……。普通に説明したら「なんで私のせいなの ? 本当か疑わしい ! 」な〜んて罵声を浴びせられてもおかしくない。

 最初は華菜さんも心夏ちゃんの話なんてしなかったし、確実に人様には触れられたくない過去の話のはずだ。


「あの反応を引き出せて良かった。何より、降霊術自体を信じない方だと、こうは上手く行かないのよ」


 泉さんの前でスルガトがわざわざドアを出して戦ったのは意味があったんだな。あんなもん、泉さん夫婦の目につかないところで悪魔祓いするのが一番なのに。


 〈失礼致します〉


 ドアの隙間から差し込まれた白い手袋が、そっと開く。


 〈そろそろ新月が終わりに近づいて参りましたが……〉


「あぁ、そうね。早いところ、心夏さんは上にあげてあげましょう。

 御老人方にご挨拶を済ませて、三人を見送ったら、二度とアカツキに繋がらないように術をかけるのよ」


「霊道を塞ぐってこと ? 」


「そんなところね。先祖霊なんかの清い霊なら通れる……そんな結界を張るのよ。スルガトがね」


 〈お任せ下さい〉


 善良な霊は通れる結界って、あの海の結界となんか似てるな。


 俺たちはトイレのドアから廊下に出る。


「明るい…… ! 」


 俺が今まで来た時は真っ暗だったのに、今は泉さんの家の中そのものだし、電気も点いてる。

 家具も家の雰囲気も、今度は現在の泉家の内装そのまんまだ。


 リビングからは一際、白い光が差してくる。

 不思議だ。この光は凄く眩しいはずの光量なのに、全く目を閉じること無く直視できる光なんだ。

 この……お迎えの先人の放つ厳かな後光はいつもそう。


 〈あら、戻ったのね ? 〉


「はい」


 〈おぉ ? そっちの娘も生きてる人か ? 〉


 お爺さんが物珍しそうにトーカを見る。


「御機嫌よう。早速で申し訳ありませんが、心夏さんを正しい場所に導いて下さいますか ? 」


 〈おう。もちろんよ〜 ! 〉


 心夏ちゃんがお婆さんの後ろにしがみつきながら、こっちの様子を伺っている。


「あ、そうだ。トーカ。アレはどうなった ? 」


 俺の言葉に、お爺さんの方が早く反応した。部屋の隅を指差す。


 〈纏わりつきそうになったのを、心夏が急に跳ね除けたんだ。そしたら、突然人の形を保てんようになった〉


 壁の隅。

 黒い煙の様な塊が、アメーバのように伸び縮みしながら丸くなっている。


 〈ありゃ、俺の娘でもなんでもねぇ〉


「ええ。こちらで処分致します故、ご心配なさらず……」


 そういうとトーカはどこからともなく、一つのワイングラスを取り出した。


「それ…… ! 」


「ええ。あの大きさなら、何とか封印出来ますわ。かなり弱っているもの」


 店のショーケースに並んでるグラス……。こうして捕獲してるのか。


「売……、並ぶのか ? ショーケースに……」


「いいえ。これは持ち帰って、消滅するまで大福の御堂に置くの」


 よ、良かった。まさか売られるのかと思ったよ。


「生霊の場合、まだ御本人が居ますし、プライバシーの問題がありますわ」


 そう言う問題だろうか…… ?


「…--……・・・-----…・・・…・・・・・--…-…」


 呪文だ。


 何語とも分からない……言葉としては形容しがたい肉声の羅列。


 〈…… ! ……………… !! 〉


 黒いモヤはぐにぐにと粘っていたが、やがて吸い込まれるように収縮してグラスに収まった。


「よし。生霊は完了ですわね」


 手早くグラスの口に布を被せ、麻紐で封をする。


 〈華菜の事を、お願い致します〉


 お婆さんが頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ。助けて頂いてありがとうございます」


 俺はお婆さんの影に隠れた心夏ちゃんを見るように屈む。


「心夏ちゃん。おばあちゃんと一緒に行くんだよ ? 」


 心夏ちゃんはアレが母親じゃなかったのは、もう理解しているようだった。

 誰も居なくなったこの世界で、あとはこの自分の祖父母に導かれるだけだ。


 でも、心夏ちゃんは一瞬たじろいだあと、急に階段へと駆け出してった。


「心夏ちゃん !? 」


 〈まだやだっ !! 〉


 すごいスピードで階段を駆け上がっていく。


「まずいわ。あまり離れると新月のうちに戻って来れなくなりますわ」


「追いかけんぞ !! 」


 〈連れ戻して下さい !! 〉


「はい ! お待ちください !! 」


 急いで俺とトーカも階段へ向かう。


「早くっ !! 」


「お、押してんじゃねーよっ……ですわ !! 」


「いいからはよ行け !! 」


 二階に上がる。


「どっちだ ? 」


 心夏ちゃんが拒否する理由はないはずだ。

 ここは生家でもないし、あの母親は偽物だった。下にお爺さんお婆さんが来たというのに……こんな暗闇に残るのを望むはずが……。


 〈ふえぇぇぇ……〉


「…… ? 」


 聞こえたよな ?

 トーカと顔を見合わせる。


「どっちだ ? 」


「こっちよ」


 〈えっ……えっ……〉


 泣き声……。


 でも、なんかこの声って……。


「心夏さん ? 私たち何もしないわ。開けるわね」


 トーカがそっとドアを開ける。


 ここは泉さん夫婦の寝室にあたる場所だ。


 パタン……


 軽い音を立てて開かれたその部屋の窓際。

 ダブルベッドの上に座り込み心夏ちゃんの不安気な姿があった。


 〈ふぇ…ふえぇぇ……〉


 心夏ちゃんは何かに覆い被さるようにして、俺たちを警戒している。その守られた小さな霊魂に、俺は更にショックを受けた。


「まさか ! 」


「赤ん坊…… ? そうですわ。確か記憶遡行した時、華菜さんは身重だったはずですわ」


 確かに。あの時、俺、妊娠してた。

 そっとベッドに近付く。


「……こういうのって、有り得んの ? 」


「ええ。水子もある程度育つのよ。個人差はあるけれど、供養すればちゃんと成人するわ」


 〈あたしの弟なの……〉


 今にも泣き出しそうな心夏ちゃんに、トーカがにっこりと微笑んだ。


「今までお世話してたのね ? 凄いわ。さすがお姉ちゃんね ! 」


 〈この子はどうするの ? 〉


「抱っこはできる ? 」


 心夏ちゃんはタンスからお包みを取り出すと、そっと赤ん坊に巻いていく。


「まぁまぁ ! 慣れてるわね ! 凄いわ !

 お爺さんお婆さんにもこの子を見せてあげて ? きっと喜ぶわよ。

 それに今までこの子のお世話をしてた心夏ちゃんも、とっても偉いもの !

 さ、下へ行きましょう ?」


 〈うん ! 〉


「階段気を付けて」


 三人……いや、四人で二階を後にする。


 〈おぉっ !! その子は !! 〉


 〈あぁ……なんて事…… !! そうだったのね。

 まぁまぁ ! 可愛いわ〉


 老夫婦……華菜さんのご両親は三人目のお孫さんを涙ながらに迎え入れ、祝福をした。


「心夏さんが必死に守り抜いたのですわ。どうぞ心夏さんを褒めてあげてください」


 〈そうか !! そうか、そうか !! 心夏 !! お前がここにいた理由は…… !! 〉


 〈心夏 !! ありがとう !! 〉


 〈まだ歩けないから……仕方なかったの…〉


 仕方なかった…… ?


「心夏ちゃん……。もしかしてこの子の為にここに留まってたの ? 」


 心夏ちゃんは、コクリと頷いた。

 なんて事だ……。


 〈心夏はお水が来たのは分かってたから……。

 でも、あの黒いママが、この赤ちゃんを離さなかったの。ちゃんと心夏の面倒も見るからって。でも、黒いママも悪くないの。

 それに、この赤ちゃんは何もしてないの。

 だから天国に行ける ? 〉


 賢い子だ……。

 この子は最初から『死』理解してたんだ。囚われていたのは確かだが。


 生霊をイタズラに刺激していたのは俺たちの方だったのかもしれない。


「今まで守ってくれてたんだな。

 凄いよ。お姉ちゃんだな ! もちろん、心夏ちゃんも天国に行けるよ ! 」


 〈本当 ? 〉


「そのために、おじいちゃん達が来たんだよ。もう不安じゃないだろ ? 」


 〈うん ! もう黒いママは居ない〉


 黒いママ…か。

 俺には割と鮮明に見えたけど、心夏ちゃんには最初からアレが華菜さんじゃないことは分かってたんだ。


 それにしては……。


「心夏ちゃん、よく今まで黒いママと仲良く出来てたね」


 心夏ちゃんは、自信満々の笑みでパカッと笑う。


 〈だってね ! 心夏のママは、モデルとかハイユーだったんだよ !

 心夏もエンギが得意なんだ ! 〉


「なるほど ! そうか ! 凄いな ! 」


 子供の怖いもの知らずは本当に凄い。

 いや、敢えて敬意を持つべきだ。


 素晴らしい。清らかな、純新無垢の願いと実行力。


 これが幸せな家族のあり方なんだな。

 絆がある家族。


 〈では、そろそろ〉


 〈世話んなったねぇ〉


「こちらこそ。どうぞ安らかにお過ごしくださいませ」


 心夏ちゃんは弟を大事そうに抱え、その背中をそっと安心させるような暖かい手でお婆さんが支え、そのお婆さんの手を取るゴツゴツとしたお爺さんの手。


 クローゼットの扉の、本来はあるはずのない光の中へと歩み出す。

 先はただの白い光。

 ただ、その光はとても暖かくて、神秘的で、見ていると心が癒されるような……幸福感のある光だった。


「今まで蝋燭を持たせることはあったけど、こんなふうに見送る事って無かったな……。式場の夫婦以来だ。あの時は教会で参列してたから扉の先を覗くことは無かったけど……」


 死後の世界はこんなにも寛容であたたかいのか……。


「死への誘いの光。そう悪いものでは無いかもしれませんわね」


 四人は、ゆっくりゆっくり。

 仲良く談笑しながら光の中へと飲み込まれていく。


「どうか……安らかに……」


「ああ。幸せな次の世界へ」


 ……トーカはどうなんだ…… ?

 魔女もこんな風に成仏って出来んのか ?

 俺たちのメンバーで殉職者が出た時、こんなに清々しい気持ちで見送る事って…できる気がしねぇ。華菜さん程じゃないかもしれねぇけど、もう俺にとってBLACK MOONのメンバーは仲間なんだ……。

 トーカは経験したことがあるんだろうか……?

 そうだ。セイズとガンドがまさにそうだったはずだ。


 一体、あの時何があったのか……。


 様子を伺う暇もなく、トーカは踵を返して再びトイレへと戻る。


「さ、戻るわよ !

 スルガト、あとはお願いしますわ」


 〈かしこまりました〉


 びっ……っくりしたァ〜。いつの間に部屋にいたんだ ?


「御夫婦に円満解決したとお話しましょう」


「ああ。一件落着だな」

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