第3章 願いの怪奇現象
第1話 偽れ !
遂にこの夜が来た。
俺はそんなに賢い方じゃないって、自分で分かってる。だから嘘も顔に出るって事も。
先手を打つ為に
「ゆー兄ちゃん ! 久しぶりね ! 」
セイズが俺の顔を覗き込んでくる。今日もシミ一つない白のワンピース。レースや刺繍が流行に色褪せない洒落たアクセントになっている。
俺は芝生に倒れ込んだまま、セイズの髪をそっと摘む。人形みたいな質感だ。日本人の髪質とは違う。それでもそれは作り物なんかじゃなかった。
「あ〜、久しぶり〜。ふわぁ〜……。最近ゴタゴタしてたからなぁ〜」
「あ、ゆー兄ちゃんだ。何してたんだ ? 」
ガンドも寄ってくる。
こいつは着心地重視なのかいつも薄汚れた羽織ものとバッサバサのズボンと編み上げサンダル。顔立ちが綺麗だから気にならないけど、正直だらしない。
「何って……仕事だよ」
「エクソシストの ? 」
そうそう。話振ってくれよな。俺からは情報は最低限与えない。
そして目的はこれだ。
「それなんだけどさぁ。二人はエクトプラズムを使いこないしてるよな。俺にも教えてくれねぇかな〜 ? 」
タスクを課せて、話題を丸ごと逸らす。
教えてもらえれば一石二鳥。ダメでもともと。
「うーん。前にも言ったけど、ゆー兄ちゃんは向いてないよ。霊力が安定してないし…」
「じゃあ、いつも俺が出す銃を別のものに……例えば剣を召喚するとか。だって消耗する霊力は同じだろ ? 」
「理屈ではね。でも、そもそもエクトプラズム自体が召喚魔術じゃないって事は知ってるよね ? あくまで霊力を解放した時に人体から放出される物質で、口や鼻とか……正直綺麗なものじゃないし ? 武器出す魔法じゃないんだよ」
「ん〜、じゃあ聞き方を変える。
どうすれば思い通りに出せる ? 」
ガンドは一度空を見上げて考え込む。
「エクトプラズムが出る条件は『強力な霊媒現象』が起こった時なんだ。ただ地獄で拝んでても出てこないよ」
確かに、俺が焔以外の青い銃を出した時も、憑かれた女が側にいて、アカツキに行って霊視してジェーを視認したあの時だけだ。ジェーは悪神だ。強い霊気を浴びて、目を合わすだけでも俺は相当消耗したはずだ。
「わたしが思うにはね ? エクトプラズムを駆使するには、霊力を使う事だと思うの。矛盾してる様だけれど、霊力を使わなければエクトプラズムは出ない。
相手を霊視する事。霊視して、透視して、呼び掛けて……召喚できるまでの力が溜まったらやってみて ? 」
なんか二人が言いたいことが分かった気がする。
よくゲームのキャラクタースキルのリミット解除型の奴と似てる。攻撃しまくってゲージが満タンになったら、必殺技が使える……そういう事キャラクター。
言われて見りゃ、俺はアカツキに一度入ってしまったら、視えるものにしか反応してない。アカツキに行って更にその場にいる霊を霊視なんてしたことはない。だって、人間界で視えない霊を視えることが出来る空間がアカツキなんだから。
「んー。
「敵そうな奴は撃ってたって……大雑把〜」
ガンドがヘラヘラと手を叩いて笑い転げる。
「でも、まぁ。今までしてこなかったって事は、これがきっかけで出来るようになればいいわね ! 」
セイズは籠いっぱいに入った薔薇の花を弄りながら、俺に微笑む。
「あ、ああ」
このどちらかが……偽物………………。
駄目だ考えるな !
「その花弁、何するんだ ? 」
「枯れて落ちてしまった花なんだけれど、綺麗な部分だけより分けて、シロップを作るの」
「食べ物は召喚出来るんじゃないのか ? 」
「ええ。でも、この薔薇園の薔薇を使ったシロップはわたしが作った物しか存在しない。
趣味よ。パンケーキは召喚しても、この薔薇のシロップはここでしか存在しないのだから」
「あ、ああ。そうだな。料理って楽しいもんな」
「ゆー兄ちゃん、次に来る時までシロップを煮詰めておくから、一緒にパンケーキと紅茶を食べましょうよ ! 」
言われてから気付く。俺の身体はもう下半身が薄れてきている。
「え〜 ! もう帰っちゃうのかー ! ? せっかく来たのに ! 」
「最近、寝れて無かったから」
憑かれてました、とは言えない。プライド的に言えない。
「またすぐ来るから」
「ムゥ……分かった〜」
不満そうなガンドに手を振りながら、俺の体はまるで蒸発するようにふわりと消えた。
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