第2話 民間人からの依頼
バスッ、バスッ、ダムッ、ドドドッ !!!!
目を覚ますと共に、凄まじい騒音が俺の聴覚を襲う。
パンッ、タタタタッ、ドムッ ! !
「んあ〜。寝てる時くらいやめろよ〜」
ジョルが来てからベッドやタンスは揃えたが、結局部屋は仕切らなかった。
その代わり、サンドバッグやらジム用品やら……とにかくジョルは一日の大半を身体作りに費していた。馬鹿の一つ覚え……いや、これは怒られる !
相変わらず鶏ガラ体型は変わってないが、何となくスピードは早くなった気がする。特に本人も自信のあるらしい蹴技は滞空時間が並の人間より長い気がする。これってやっぱ鶏だからなのかなぁ。
「あんたが起きるの遅すぎんだよ。俺が起こしてやろうか ? 四時、五時に。鳴いて」
「それ自虐的。そして俺には虐待的」
確かに寝すぎだ。もう昼近い。非番の日はどうしても甘えちゃうよなー。
ジョルはシャツを脱ぎ捨てると、赤い髪をかき揚げながらタオルを肩に引っ掛けバスルームへと向かった。
やれやれだ。
まぁ、本人も必死なのかもな。ムッチさんや仕事の為にもだが、それにはジョル自身の自己責任も関わる。こうして一生懸命、身体を鍛えてくれんのはありがてえ。
「ふー……」
シャワーを浴びたジョルが冷蔵庫からビールを持って、キッチンで立ち飲みする。俺んだぞソレ。
「おい、昼間から飲むなよ」
「なぁんで ? 」
俺の制止に眉間に皺を寄せて振り返るジョル。確かになんんでダメと言われたら理由はないんだけど。
「こう、駄目なんだよ。いや、法律とかじゃないけど…… !
いつ仕事入るか分かんねぇだろ ! ?」
「あ〜まぁそうだな。でも、それって夜も一緒じゃねぇ ? 人間ってなんでそう建前とか人聞きとか気にすんのかねぇ〜 ? 」
うちのポンコツ神父を見てりゃ分かんだろ !
「とにかく、酒はせめて夕方以降にしろ」
俺がビール缶を取り上げると、おもむろにジョルは精神攻撃を仕掛けてきた !
「ビールって二十歳からだよなぁ〜 ? おやおやおやおや〜 ? どうしてこの冷蔵庫にはきらさず入ってるんでしょうねぇ ? 」
うぐぐ。
「俺の歳かよ ? 誰かに聞いたのか ?
残念、つい最近誕生日迎えました〜」
「けっ。つまんねぇ。
っつーか、あんた誕生日ボッチかよ。笑える」
笑えねぇよ。
俺の誕生日とてめぇの誕生日被ったんだよっ ! ! なんてことしてくれてんだよ !
メンバーに気付かれずに隠し通す ! 絶対冷やかされる。
「そういや朝、店で大福の師匠みたいなのがセルとモニター越しに話してたぜ ? 」
「セルと ? 」
「なんか仕事の依頼だかで」
大福が仕事を受けるのは自室か御堂のパソコンのはずだけど。セルに話が行くって事は何か難しい案件なのか ?
「ほら見ろ。いつ仕事入るか分かんねぇんだ。昼から飲むんじゃねぇよ」
「大丈夫じゃねぇの ? 俺達には振られなかったんだから、非番には変わりねぇじゃん。
それに、開けちゃったんだから食べ物無駄にするなよなぁ」
ジョルはなんだかんだ理由つけて、一度取り返されたビール缶を拐って行った。
prrrrrrrr♪
内線だ。
「近いんだから、お前出ろよな」
ジョルは聞いてませんの素振りで、ビール片手にタオルで頭をガシガシ拭き始める。
全く。調子いいんだからなぁ。
「はいよ」
『あ、悪い。大福に仕事が入ってな、店番変わって欲しいんだ』
「セル、あんたは ? 」
『俺は材料の買い足しで無理だ』
まぁ〜しょうがねぇか。ここでジョルと一日部屋にいても仕方ないし。
「いいぜ。休出代出るんだろ ? 」
『え〜うちはそんな裕福じゃないからなぁー』
セリフが棒 ! !
「今行く」
***********
店へ行くと、ウェイター姿のセルといつもより仕立てのいい法衣を着込んだ大福が話していた。その大福の横顔を見た瞬間、心臓がキュッとするのを感じる。
俺は二人を遠巻きに見ながら、エプロンをして手を洗う。
何故なのか……普段温厚でニコニコした大福が、時折その姿の時だけ物凄く……怖いと感じる。真顔で打ち合わせしている事もあるけど、それ以上に大福が普段どれだけ霊力を抑えて生活しているかが分かるからだ。
「やぁ、ユーマァ。悪いねぇ〜」
「おう。難しい顔してんな。なんか込み入った仕事なのか ? 」
俺が聞くと大福は、小さく溜息を付き頷いた。
「ジョルジュも来たんだねぇ〜。料理運ぶ手伝いしてくれるかぃ ? 」
「うぃ。構わねぇぜ。あんたマジで坊さん ? 」
ジョルが法衣をジロジロと眺める。多分、金糸の刺繍が気になってんだろうな。光り物だから。
「一応ねぇ〜。最近やっと……でも、就職は結局ここにするか迷っててねぇ〜」
坊さんも実家が寺とかじゃなければ、普通に求人から就職するからなぁ。ここなら生活に苦労しないしな。
ただ、老後の心配は……まだ早いか !
「今日のどんな仕事 ? 」
「怪奇現象が起きてる住宅のお祓いだよぉ。でも、中々……ここからじゃ上手く霊視出来ないんだよねぇ〜。なんでだろう。困るなぁ〜」
大福に耳を傾けてた俺の腕を、クチバシで突っついてんのかって程ジョルが引っ張って来る。
(なぁ、なぁ ! )
「おい、止めろよ。新品のパーカー、伸びるだろ」
(俺、腕鳴らししてぇ ! )
「はっ ! ?」
何っ ! ? 何だってっ !?
(あの仕事やってみてぇ。譲ってくれねぇかな ? )
「あのな、俺の銃は霊には効かねぇんだ ? 」
コソコソしている俺たちを見て、セルが不信気な顔をする。
「お前ら、どうかしたか ? 」
言うだけタダか ?
ただ、気乗りしねぇ。大福が行くって言ってるし。
「いや……えと……」
口篭る俺と裏腹に、ジョルはズズいっとセルの側に張り付く。
「俺らにやらせてくんね ? なぁ、いいだろ ? ダメ〜 ? 」
こいつ ! ! 悪びれもなく言いやがった ! しかも猫被って ! 鶏の癖に !
「待て待てっ ! セル、ジョルには俺から言っておくから !
おい、そーゆーの止めろよ」
「なんで〜 ? 相談しちゃダメなのか ? 」
セルはそんなジョルの姿を眺めて、大福に話を振った。
「だってさ。どうする ? お前さえ良ければ、俺もジョルジュの力試し……見てみたいな」
まじかよ !?
だが、大福は頑なに譲りそうになかった。
「確かに。ユーマの蝋燭なら霊を上げてあげることも出来るしねぇ〜。
ん〜でも、なんて言うか……」
「なんだよ ? 」
「おい、ジョル。てめぇ敬語使えよ !」
「あんたもタメ口だろが !
俺は
「あんだとぉっ ! ?」
ったく、鳥頭め ! ! いや、鶏っちゃ鶏だけど !
「大福、はっきり言わないと二人も納得しないし、わだかまり無しだぜ ?
力不足ってなら、そう言っていい」
セルの言葉に、大福は慎重に言葉を選び話し出した。
「多分、この仕事は……長く宮城にいる人間がやった方が分かりやすいと思っただけだよ。
でも。うん。ユーマならぁ……大丈夫かもねぇ〜」
宮城に…… ? どういう意味だ ?
「まじかよっ ! いいのか !? 」
ジョルが身を乗り出す。
大福はジョルをじっと見つめると、いつもの招き猫のような和らいだ表情に戻った。
「うん〜。先方には連絡しておくから、二人で行っておいで〜」
「やった ! サンキューな、デブっちょ !! 」
スパコーーンッ ! !
珍しく俺とセルの息が合う。
丸めたメニュー表で頭をしばかれたジョルが思わずニワトリに戻った。
〈なんだよっ ! 〉
「………。
ジョルジュ、ここへ来て。少し座ってごらん」
〈ひ……〉
あ、やべ。セルが神父モードにスイッチ入っちまった。こりゃ説教長引くわ。
「ごめんな大福。色々、礼儀も教えてはいるんだけど……」
「にゃはは。でも彼が来てから活気が出て来て良いよ。素直だしねぇ〜」
素直っつーか、考え無しに喋ってるけど……。
「いつもお前の仕事はどんな風にやってるんだ ? 何か気を付ける事とかあるのか ? 」
「そうだね………悪いけどもう少し、フォーマルな格好で頼んでいいかいぃ ? 」
「あ、ああ。リクルートスーツでいいか ? 」
「うんうん〜。相手は一般の、ごく普通のご家庭だから
なるほど。確かにパーカーとデニムでヘラヘラ行ったら怪しいもんな。
「ジョルは……細いけど俺よりでかいんだよな。セルに借りれっかな ?
こんなこともあるし、暇みてあいつの服も揃えておくわ」
「それがいいねぇ〜。
あとは……初めてここに来た時に、仕事の前にトーカから注意事項があったろ〜 ?
あれを彼にもよく説明してから行ってぇ」
トーカからの注意事項 ? 注意事項 ?
あ、wedding park 水の御殿に到着した時だったな。確か……。
「お客の前でしてはいけない三つのこと、だな ? 」
「うん、うん。よく覚えてるね ! 流石ユーマ ! 」
「なぁ、聞いていい ?
さっきの、宮城に長くいるやつの方がいいって、どうしてだ ? 」
大福は静かに目を閉じると、一瞬黙り込んだ。
「いや。言葉のあやだよ。ごめんねぇ。
ユーマは感受性も強いし、正義感も強いし。ジョルジュも素直だからね。うん〜。任せてみようかなって、結論になったぁ」
「そう……なのか」
なんか、危険な仕事ってニュアンスじゃない気がする。
「分かったか ? 」
珍しくモデル並みのイケメンな顔立ちで真顔になったセルは、ジョルをキツく言い正す。
「わ、分かったヨ」
やっとこ人型に戻ってるけど、なんかカタコトになってんぞ。
「せめて、依頼人の前では軽口叩かない ! 」
「ワカテル」
無理だろコイツ。
「さて。それで ? どこに向かえばいいんだ ? 」
大福が住所の書かれた手紙を差し出して来た。
普通の白い便箋が入った封筒だ。半分出かかってる便箋を広げると、びっちりと文字が羅列していた。
でも、最後の一文だけで十分伝わる。
『どうか、助けてくださいお願い致します。』
地縛霊かなんかか ? 全く。一般のご家庭に迷惑かけてんじゃねぇよ。
「この住所に行けばいいんだな ? 」
「うん〜。場所は松島〜」
「OK。
セル、ジョルに服貸してくんねぇか ? 」
「仕方ないな。持ってくる。
お前も準備怠るなよ。録画はジョルにやり方教えてあるよな ? 現地でモタつくと依頼人を不安にさせる。
仕事の話しながら行くなら運転注意しろ」
「おう」
ジョルは俺の隣で、物置から提灯や蝋燭を用意するのを見て目を丸くしていた。確かに、こいつにも経験は確かに必要だ。
ただ……何かトラブルメーカーな気がしてならない。
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