第12話 仲間たち〜憑依Lv.4〜

「どいて!」


 トーカが山盛り荷物を積んだ台車をエレベーターから降ろした。

 教会の前方、壁の十字架に向かって手早く道具を並べていく。

 蝋燭、聖水の小瓶、古そうな十字架、乾燥した薬草数種、これは油か……? 目の前に鍋のような底の深い杯を置き、トーカは胸の前で十字を切る。

 つぐみんと大福は興味深そうに寄ってくる。


「……それ、セルの道具?」


「私の私物ですわ」


 トーカはつぐみんに向き直ると、首のネックレスを服の中からスルスルと引き上げる。

 チェーンの先に付いたトップは二つ。

 悪魔崇拝でお馴染み、神を冒涜する逆さの十字架。

 そしてもう一つは、カトリック教徒の持つ磔刑の十字架のネックレストップだった。


「私はなの。ただの悪魔崇拝者とは、少し違うのですわよ」


「でも悪魔と契約しているのよ!?」


「ええ。そして神も崇拝しているわ」


 そんなのってアリなのか?!

 でも、神の十字架に向かうってことは……!


「つまるところ、悪魔憑きは神に頼るしか無いのよ。もう憑依段階は後半に差し掛かっていますわ。なりふり構っていられないの。

 まずはケルビムに呼び掛けて見ます」


 あの風車天使か……。無理な気がする。俺を見て、何故か激怒したんだよな。異教徒だって言って。


〈無理だぞ〜。天使は薄情だからなぁ〜〉


 トーカは聖書の一節を朗読しながら、杯に薬草を乗せて油を注ぎ、蝋燭の火を移す。


 ボフッ!


「きゃ……!」


〈ヒヒヒヒ!無理だぞ〜あはははは〉


 全員が静まり返る中、俺の身体だけがやかましく騒いでいる。勘弁してくれ、失敗したらどうすんだよ!!


「くっ、駄目ですわ………」


『えっ……!?』


「煙が言うことをきかない……!」


〈ほらなっ! あはははは〉


『うるせぇっ!』


 大福が言いにくそうにトーカに問いかける。


「……本来、成功するものなのかぃ?」


「それは……どういう意味なのかしら?

 私は魔術師なの。かのソロモン王だってミカエルの守護の元、神や悪魔を使役しましたのよ?」


「君とソロモン王じゃ違うと思うよぉ」


「原理として可能だと言っていますの!今までにもやってましたわ!さっきセルが私にケルビムに聞けと指示を出したでしょう!」


「ムゥ」


『やめろ! 喧嘩すんなバカバカ!』


 トーカは蝋燭の火を吹き消し、聖書を閉じる。


「そうね。落ち着いて説明しますわね。

 特にこんな場合は、加護を受けられやすいのですわ。悪魔に人間の魂が渡るかもしれない事態ですもの……神にとっても良しとされない事なのですわ」


「『闇』の話ね。神に背き、神のものはなんでも奪う地獄の概念的存在『闇』。

 人の魂もそのうちなのね……」


 何……?

 人間の魂って金みたいなもんなの?

 また概念がなんちゃら〜って話か。俺、そういう目に見えないものの説明苦手だ。人の魂欲しいやつがいるんだな!


 その時、ガコンと音を立ててエレベーターが作動する。下に行ったようだ。しばらくしてエレベーターは再び上がって来る。


『待ってたぜ〜っ!』


 ぽーーーーーん♪


「セル!!」


 全員がフラりと寄り集まる。


「アカツキを見てきた。

 コレが落ちてた」


 セルは小脇に抱えていた鉄の塊を床に置いた。デカいベルの付いた、ピストンも何もないシンプルなラッパだった。


「フォーンだよ。魔物の使う楽器。トランペットの音に近いけど、作りはトロンボーンの様に原始的なんだ」


「楽器………そう言えば、楽器隊がァ…とか、言ってたねぇ」


 大福が俺の身体を眺める。


『だから言ったじゃん!だから言ったじゃん!』


「ユーマはここにいる。視えるよ」


 マジでっ!!!!!??


「本当にまだいるの?」


「何故ケルビムから反応が無いの?」


『おい、本当に視えてんのか!?』


 セルは全然違う方向を向いて、ニヤけてる。


『俺はこっちだぞ!本当に視えてんのか?』


「多分だけど。俺とユーマは似た力を持ってるんだよな。『霊能』の種類さ。大福が霊視が得意な様に、みかんが霊聴が得意なように……ユーマは他人の気質や過去、未来を視る」


 霊能力の得意分野の話か。大福が初日に俺に説明してくれたな。

 確かに。

 俺は過去、そこに居た人や仕草が視える時がある。むしろ幽霊を見るよりそっちの方が多いな。


「一概に言えないわよ。どちらもに変わりはないし」


 つぐみんが言うこともわかるけど、霊視と透視の違いだな。

 ……今なら分かる気がする。


「初対面でここに来た時、トーカを視てたろ? あれは透視さ。目の前の人間の本来の姿や、起きた出来事、その場所にあったはずの物なんか視るんだ。

 ……しかも癖になってたろ?」


 覚えてる。すげぇ、変態みたいに罵られたんだ。


「そう言えば……ユーマには守護霊がついてないんだけどぉ。それも気になってたねぇ」


『え、俺に守護霊いないのっ!?』


「ユーマにとって、霊は他人なのさ。自分を守ったり、助言をくれる存在じゃないんだ。

 だから彼の霊視は鈍いと思う。感覚的なものの方が直感が働くんだ。

 例えば、嗅覚とかね」


 学生の時、隠れて悪いことしてる奴、地味なのに私服は派手な女、自殺しようとして場所を探してる通行人………俺が視てたモノって、そう言うモノだったんだ。

 霊はアカツキに行ってから視る方が多かった。


「ま、俺もそっちが得意でね。

 アカツキで透視して来たわけだけど………一体何があったのか。

 現場にあったのは高熱で地面に焼き付けられた魔物の残骸だ。文字通り消し炭。アムドスキアスの楽器隊だろうね。

 ユーマが応戦したなら焔を使うはず。あの銃にこんな物騒なエネルギーは無い。


 楽器隊はケルビムを囲んではいたけど、フォーンを使ったイメージは伝わって来ない」


「ケルビムが先制攻撃したのね」


「ああ。

 アムドスキアスの言った『天使の羽根は側溝に落ちていたのを拾っただけ』って言う、そのイメージも視える。

 恐らくケルビムが一方的に楽器隊を消して、ユーマはアムドスキアスに逆恨みされたんだろうな」


『やるじゃんお前〜っ!!俺泣きそう!』


〈ウギギギ。この体を奪う!〉


「………ふ」


 セルが俺の身体を見下ろして冷たく笑う。


「三体で一人の身体を使うのか? それは器用だな」


〈こいつの魂も地獄に連れて行く!〉


「そんなことをしても、お前らの身代わりになるわけじゃないさ」


 セルはベルトを腰から引き抜き、俺の口に噛ませる。


「布巾なんかすぐに吐き出しちゃうだろ? 何してるんだか」


「ご、ごめんなさい…」


 蜘蛛に変わっちゃったもんな……。忘れよう。あの感触。


「ユーマがここでオロオロしてるのは視えるけど、片足が侵蝕されてるイメージの方が心配だ。アムドスキアスの尻尾だろうね。巻き付いてる……。

 他に何かあったか?」


 つぐみんが一旦深呼吸して話し始める。


「店の掃除、私が当番だったから一通り掃除をして……ユーマが帰宅したのは十八時半。

 そうね……無性に喉が渇くって言って、帰宅してすぐ水を冷蔵庫から出したの。カウンターから酒瓶が勝手に落ちて、壁からも物音がして、それでユーマ本人に聞いたら『琴乃葉さんにも百合子先生にも憑依を指摘された』って言い出したの」


「あの子が気付いてたって事は、やっぱり朝から憑依されてたのね……気付かなかったわ」


「食べ物を拒み、物理的攻撃をし、今は憑依体から言葉を話している 。

 悪魔祓いは六段階。現在は四段階〜五段階ってところだな」


 あ、それセルに習ったな。

 えーと、最初は恐怖を煽ってくる。ずっと気分が冴えなかったのはこのせいだ。俺は罪悪感に苛まれた。そこに付け込まれた。同情なんかするんじゃなかったぜ!

 その次は、正気に戻るったり隠れたりする段階。悪魔は確かにセルが居なくなるまで俺の中に潜んでた。みかんもRESET使いだし、光希は天使オーラ消えてないし。俺が悪魔でも様子見するかな。

 んで、お次は………異常な行動をする段階だったはず。まさに今の俺じゃん……蜘蛛は吐いたけど結局水が飲めてない。うぅ。


 そんで………四段階からが遂に……か。皆の実力がかかってくる。祓う人間との攻防戦だ。

 大福が俺と会話をしなかったのは正しい 。悪魔は心を読み空かし、嘘を織り交ぜて精神攻撃を仕掛けてくる。アムドスキアスと楽器隊って、正体が割れてるのが救いだな。


「……そうだわ! トーカが店まで降りてきて、その時ユーマは店の出入口を……いえ、空を指さして女性の声で言ったの」


 つぐみんは力強くセルに訴えかける。


「『雨が降る』って」


「雨?」


「ええ。女性の声はたった一度きりだったけど……」


「聞き覚えのある声だった?」


 聞き覚え……?


「いえ、ないわ。トーカは?」


「私も無いわ。あまり覚えてないけれど、聞き覚えがあったら気付くはずだし。

 それに悪魔の声じゃなかったわ。日本語で訛りもなかった。エネルギーはもっと高次元のモノよ」


 聞き覚え………あるかも……。俺。


「……母親かもな」


 うん。ふと、俺もそう思った。けれど、なんで母さんが……?


「いまいちユーマのお母様の存在は霊視でも視えませんのよね。霧がかかったように、隠されてしまうの」


「母親と仮定して……もしそれが何かの助言なら、雨がどう関係あるのか……?

 雨……天気? 水……? いや、地獄にある水は猛毒だ……。何を言いたかったんだ……?」


bonus mulierいい女だな !Fooooo〉


 俺の身体がつぐみんに何か言ってるが、ガン無視だ。

 しかも、結局ベルトも外れてんだろポンコツ神父!!

 俺に暴言吐かせるなよ!マジで!悲しくなるから!!


「……切れてる……」


〈切ってやったぜ!女の匂いが染み付いてたぜ神父さんよぉっ!! そだな!四十代後半の痩せ身の、化粧の濃い女だろ!〉


 全員の視線が悪気は無いけどセルに移る。


((へぇ………そうなんだ……))


〈 俺にも紹介してくれよなぁ!ひひひひ〉


 セルは笑顔で悪魔を見下ろす。額に血管浮き出てるぞ!丸々図星なんじゃねぇーか!


「それがどうした。世の全ての女は俺の物なんだよ。お前のような不細工と違って、

 お上品なマダムの誘惑が尽きなくてねぇ。

 参ってるんだよ〜」


 お前、それ神父が言う言葉じゃえだろ………聞いてる俺たちが気まずいよ!


 セルがベルトを拾い上げる。


「あ〜あ。高かったんだぜ、これ」


『げぇっ!』


 マジで千切れてる!セルのベルトは牛皮で、一般的な男性が身に付ける太さの物だ。


『俺、戻ったら歯が抜けたり歯肉炎にならない!? 困るぜ!歯医者嫌いなんだよ!!』


「セル………! ユーマの身体が……」


 しばらく俺の足元で経を唱えていた大福が、セルに視線を促した。


「もう始まったのか……」


 全員が息を飲む。


『…………………え? 嘘』


 いや、マジでこれは無いだろ!


〈はははは!!〉


『だぁーーーーっ!!!!俺の身体〜っ!!!』


 ハーフパンツから出た俺の脹ら脛からポロリと何かが落ちた。そこはドス黒く傷んでいて、皮膚に穴が空いていた。


 パタ……パタ………。


 その穴からもう二匹、蛆が落ちる。


「これじゃ、戻って来ても……」


 足………助からない………? どう見ても腐ってるよな……?


「大福、言霊を頼む」


「わかった!」


 大福は手を合わせると、いっそう強い覇気で唱えた。


「霧崎 悠真は身体も精神も無事に戻り生還する!

 霧崎 悠真は身体も精神も無事に戻り生還する!

 霧崎 悠真は身体も精神も無事に戻り生還する!!」


 うん。まだ死んでないけどね!

 これ、体のタイムリミットがきてんのか……。俺はどうしたら……。無力だ。


「侵蝕を遅らせる。バスタブに運ぶ」


「俺が運ぶよ!」


「非常階段を使え。エレベーターは使うな。足元にも注意しろ!」


 セルの空気がいつもと豹変する。少し……怖いくらいだ。


『うぉ……』


 俺の身体は脚からポロポロと蛆虫を落としながら、大福に担がれ最上階に上がる。セルの部屋だ。


 バゴンっ!


 俺の身体はバスルームの床に無造作に転がされた。


「オッケー。運んだよぉ!」


「バスタブに水をはってくれ。聖水に変える!」


 そっか。身体ごと聖水に漬ければ体は常に清め続けられる。


 セルがチェストから、熊の置物かっつー程ガッシリした十字架を取り出した。あとは……なんだろ、この煎餅みたいなのと蜂蜜掬うネジネジしたヤツ。

 そしてトーカやつぐみんの目もはばからず、あの赤い正装に着替えて行く。


「セル………!」


 既にトーカは蛇口を捻っていたが、青い顔をしてバスルームから出てくる。


「出ないわ………」


『えぇっ!!』


「キッチンは!?」


「こっちもよ!」


 つぐみんが元栓まで確認するが………打つ手無し。機械的な以上は無いのだ。

 霊障。悪魔の悪戯。

 俺たちを読んでやがる。


「ワゴンにはあるのかぃ!?」


「……みかんの楽器を乗せるのに、ポリタンクを店に降ろしたんだ。入口にあるはず!」


 大福とセルがダッシュで非常階段を駆け下りる。

 慌てて足滑らせるなよ!気が気じゃねぇ!ってか、マジですまねぇ!一応、俺もついて行くわ。


 ゴロゴロ……ゴロ……!


 外はもう夜だけど、月も星もみえない。分厚い雲の中稲妻が走る。

 マジで降り出しそうだ。


 俺はセルにくっついて非常階段から回り込み、店に続く階段を降りる。この階段、敵意や悪意が無ければ入れるって本当なんだな。

 今の俺でも入れたぜ。


「あった! ……うわっ!」


「どうしたんだいこれぇ!?」


 店の入口には確かに水の入ったポリタンクが並んでいた。

 だが、その視線の先。店の中は白い粉に塗れて、廃墟のように荒らされていた。


「これは駄目だ………」


 セルがポリタンクの口を覗く。


「どっちも腐ってる………」


「敵も上手だねぇ」


 一瞬、セルは呆然と立ちすくむ。


「……一番近い池までは十分はかかるし……」


「下水や、貯水池は!?」


「………正直、間に合わない……」


『……………俺。やっぱり死ぬのか?』


 セルがひっくり返ったテーブルをなぞり、付着した白い粉を指で摘み擦る。


「これ、灰だ……」


「灰……? 何も燃えた形跡はないけどぉ……」


「……灰。……女性の助言とユーマのライター………!! なるほど。

 大福路上でいい!ユーマの身体を外に運んでくれ」


「ええっ!? 外にかい!?」


「彼女……お袋さんは先を読んでたんだ。この灰は聖火の灰さ!

 守護霊なんて居ないわけさ。どういう経緯か分からないが、母親は間違いなくゾロアスター教徒だったんだ。それも手練の魔術師だった」


「じゃあ雨の助言は……!」


「ああ。母親が伝えたかったんだ雨も水だ」


「でも雨水を貯めてる暇なんて………」


「大丈夫…………先を読んでた奴らがまだいる!」


 セルが地上に駆け上がり雷音の轟く中、大通りの先を見詰める。


「来てくれたのか!」


「まぁ。そうなると思ってたけどね!」


 近付いて来たのは身長160もない、小さな青髪の少年。そして……。


「みかんを悲しませることがあったら………許さないわ」


 長い睫毛を思いのまま揺るがせる美少女の姿だった。


「ルナも来てくれるなんて……」


「まぁ。お礼というか………大福さんも困ってらっしゃるみたいだし……?」


『んん?』


「あの歌詞を入れてって送ってきた時に、薄々気付いてはいたけど〜。まさかこんなに早く歌う羽目になるなんて」


 光希!! ルナ姫!!

 頼む、俺を救って!!


「大福、ユーマの身体を持ってきてくれ!

 光希、今歌えるのか!あの曲!!」


 セルの問い掛けに、光希は異常なまでの暖かい笑みで答える。


「もちろん。元枢機卿。

 誰に言ってんのさ! 僕の魔力はまだまだ天使の守護だよ!」


 歌詞……そう言えば、セルは光希に一曲歌詞の編成を頼んだんだった。今日のライブ配信では弾かなかったけど。


「はぁ、はぁ、さすがに、キツいね」


 大福、結構体力あるな。デブで片付けるのはいけないな。こいつ、筋力も体力も割と見た目以上だ。腹が揺れてる、とか思ってて今までごめんな!


「歩道のそこの穴ボコ。あそこが一番早く水溜まりができるんだ!」


「私は屋上へ行くわ。雲も集めないと!

 この辺り一体の雨を聖水に変えます」


 誰も聞けなかった。

 堕天使が出来ることなのか、と。

 すると、ルナ姫は大福の側へちょこんと近づいた。


「あ、あの」


「ルナちゃん?」


「あの動画の言霊使いって大福様ですか……?」


『ちょっ……!!やめろこんな時にずんだマンの身バレ話!!』


「あ、あぁ……うん。あんなことになると思わなくて。ごめんねぇ」


 大福、すまん! ルナ姫に謝んなくちゃならんのは俺なのに!


 ところがルナは怒るどころか、キラッキラした微笑みで大福を見上げる。


「綺麗なコード進行でした! 声色も素敵でっ」


『…………おーい……』


「あ、ありがとねぇ」


「これからも活動なさるんですか?」


 あ、これはあれだ。あの、それな。ミュージックフィルターっていうか。いや、大福は事実いい男だけどな。


 そんな二人を光希がグイグイっと引き離し、ルナ姫に厳しく言いつける。


「今は集中! ユーマ無くしてその恋実らずだよ〜」


 あ、やっぱりそういう。………あれ? じゃあみかんも勘違いしてるなアイツ。

 ルナ姫が何かと理由をつけて店に来ていたのは、大福が目当てかっ!!??

 あんな動画アップロードする前から!!


「分かってるわよ!

 大福様、成功するように、私にも言霊をかけてくれますか?」


「………その『様』って呼ぶのをやめてくれたらいいよ!」


「! はい大福さん!」


 大福はルナの細い指を合わせて、自分の手と合掌する。


「僕は信じるよ。

 琴乃葉 瑠菜は雨を聖水に変え、霧崎 悠真の身も心も清らかに保つ助力をする。

 琴乃葉 瑠菜は雨を聖水に変え、霧崎 悠真の身も心も清らかに保つ助力をする。

 琴乃葉 瑠菜は雨を聖水に変え、霧崎 悠真の身も心も清らかに保つ助力をする!!」


 大福は胸元で大きく印を切る。

 ルナ姫は機嫌よく微笑むと、非常階段へと掛けて行った。


「さてと!」


 光希が俺の身体、正確には中にいる連中に向かって悪い顔をする。


「ルナの強力な水魔法と僕の聖なる気質で奏でる音魔法。

 そしてスパイスに悪魔祓いの一文と神への信仰と、僧侶と信者の力を…!

 果たしていつまでこの身体に憑いていられるかな!」


〈無駄だ!! 魂はアムドスキアスの物だ。俺たちを倒そうともな!〉


「それは僕の担当じゃないから〜」


 光希の視線の先、セルのそばにトーカが歩いてきた。


「俺をアムドスキアス城に送ってくれ」


「分かりましたわ。スルガト、お願い」


〈身ぐるみを剥がされて終わりだ!交渉の余地などあるものか!〉


「交渉……? そんなものすると思うのか?」


 ビルの一階の入口が木製の重厚なドアに変わる。

 クロツキに行ってくれるのか。


 最終手段だなアムドスキアスを倒すことを視野に入れてるのか。


 セルは運ばれてきた俺の身体を見てから、俺のいる方を何となく向きながら話しかけてきた。


「ユーマ、一つだけ約束してくれ!

『悪魔の誘いや誘惑、提案、妥協案、それらに惑わされないで』くれ。

 頼む。きっと文字通りだお前は地獄を見るだろうけど、俺たちが救うから」


『……分かった。信じるぜ………元枢機卿』


 どんな事情か知らねぇけど、セルの経験値はかなりあると思う。セイズとガンドの頃から長く生きて、後悔してるんだから。

 俺もその後悔した………救えなかった奴の一人にはなりたくねぇよ。


「じゃあ、俺とトーカは城へ行く」


「俺はユーマの体の護衛をするよ〜」


 つぐみんはブルーシートを持ってきた。


「通報されないように、目眩しの魔法陣を描くわ」


 あぁ、そうか。救急搬送なんかされたら、ありがたいけど台無しだ 。


「ユーマの身体は任せる」


「誰に言ってんのさ元神獣リヴァイアサンだよ。しかも力は衰えれない!

 余裕だよ!」


 光希はそう宣言すると、ハードケースからギターを取り出した。

 通行人は視線を向けつつも、足は止めない。


「さぁ、歌うよ!」

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