第11話 赤と黒

 赤い月の世界は人間界と経過時間はほぼ一緒だった。俺がDIVEしている間は、元の世界も同じ時間が経過してた。

 セルが俺に時計を持たせたのは……何故だ?

 二十分が人間界では何分なんだ?

 くそ、やっぱ地獄に俺が来んのを見越してたんだな。


 あの黒い月は……地獄の月は、赤い月の世界と違うんだ。

 時間のことは、もう忘れた方がいいかもな。中沢さんみたいに数えてたら、俺は気が狂いそうだ。


「時間が違う……? 今がたった二年……?じゃあ僕は普通の倍、苦しんでるって事なのか?」


 そういう地獄だからな。ここは。

 悪魔に操られて自殺したとすれば、ここにいるのは気の毒すぎる。


「まぁ、来たもんは仕方ないし。どうにか二人で頑張りましょう」


「すまないね……。なんでこんな事になってしまったのかねぇ……」


 俺も労災事故だぜ、これ。

 流石に凹む。


「はぁああ〜………」


 ため息をついて黒い月を見上げる。

 確か堕ちて来た時、空から落ちたんだったよなぁ。


「んあ……?」


「どうかしたかい?」


 なんか今、月の辺りで何か飛んでたような。


「虫……? いや、灰か……?」


 もしくは風に飛ばされたゴミ……じゃないっ!!


「うわっあああっ!!」


「ひ、人だっ!!」


 新しい罪人か!?


 垂直に落ちてきて、俺の登った木のすぐ真下に着地する。女だ。

 が、そこはぬチョぬチョの泥んこだぜ……?


「うえぇっ!?

あちゃ〜!! ハマっちゃったぁ〜!」


落ちてきた女は地面にハマった両足を動かし、そのうち諦めて尻もちをついた。


 受け身取れただけでもすげぇや。

 若い。しかも日本語。


 !!

 あれは!


 女がしている指輪に目が止まる。

 あれ、俺のと一緒じゃん!!


「なぁ!! あんた!!」


 俺が声をかけると、その女はブーツを引き抜きながら俺に気付き手を振ってきた。


「あ〜! 新人さんですよねぇ? 助っ人に来ました!」


 まじか!!!助っ人!?

 助かるってこと!?

 俺まだ生きてるのっ!!?


 みんな、疑ってごめん!!


「もう〜なにこれ抜けな〜いっ!」


 俺と同じくらいの年か?

 長く、針のような黒髪ストレートをポニーテールにした、活発そうな女だ。

 オレンジ色のTシャツに、デニムのショートパンツ。細身のせいか、あまり色気は感じない……ってそりゃ失礼か。


「私、夏野 美香。みかんでいいです。

 あの、こんなにぬかるんでると思わなくて! かっこよく登場する予定だったんだけど!あははは!

 カンジキ履いてくれば良かった! あ、カンジキって知ってる?」


「アメンボみたいな靴だねぇ」


 御丁寧に中沢さんが答える。

 東北ギャグなの?


「だぁああっ! 抜けないっ!!」


 おいおい、大声出すなよ。


「て、手伝うよ!」


 俺と中沢さんは木から降りると、せーのでみかんのブーツを引っ張る。

 頭ん中、聞きたいこといっぱい。

あとは犬が来る犬が来る犬が来る犬が来る犬が来る犬が来る………。


ヌチョズボォッ!!


「抜けた〜! あ〜びっくりしたぁ! 落ちるとは思わなかったぁ」


 落ちるっ?


「お前も、あの白い部屋から来たのかっ!?」


「……? うん、勿論!

 だって、あそこの門番さんはトーカの契約者だもん!

 もしかして聞いてなかったの? え〜なんで誰も言わなかったんだろ」


「…………………………へ…………?」


 契約者? 魔女の?

 あのジジイ悪魔かよ!


「さてと! カタをつけようよ!

 中沢さん、わたしたちから離れないでね?」


「あ、ああ。え、僕は助かるのかい?」


 さぁ………?


 この子は助っ人のはずだけど、俺の目の前に現れたのは新しい謎と騒がしさだけだった。


「そりゃ〜私が来たらもう! まん……まんにき? 百万ニキ?」


「……百人力?」


「それそれ〜!!」


俺、やっぱ信仰心持った方がいいのかな……?

どう考えても今、俺の心境はオーマイゴッドなんだけど。

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