第21話-B面 毒島玲子は見守っている。

 アキラの全力ダッシュはそう長く続かなかった。

 すぐにスローペースなジョギングへ、それからあっという間にウォーキングになりさがった。息も絶え絶えになっている。まあ、引きこもりにしては頑張った方だろ。

 けど相手が悪かったな――


「アキラ、振り返らずにそのまま歩きながらよく聞け」

「はっ……なんですか、レーコさん……はっ……」

「あのハゲ、尾行つけてきてる」

「はっ!?」

「足止めんな。動揺すんな。距離は離れてるから今はそのまま歩いてろ」

「……っ」

 返事もできないくらい動揺してやがる。

「今、オマエが何考えてるか当ててやろうか」

 アタシは言ってやる。

「『なんであの人は僕の嫌がることばかりするんだろう』だろ?」

「っ!?」

「図星なのはわかったからこっち見んな。ちゃっちゃと歩け」

 ガッコまではそう遠くない。

 校門をくぐりさえすればあのハゲは一旦振り切れる。


 アタシはちらりと後ろを確認する。つかず離れずハゲは追ってきている。が、悪意は無さそうに思える。


「アキラ、歩きながらでいいから聞け」

「はひぃ……」

 エロい声出すな。

「ハゲとの距離は離れてないが近づいてもいねえ。向こうに追いつくつもりがなさそうなカンジだ。見た目は悪りいが、アキラの親父さんの手配した護衛役、ってとこなんだろ」

「……そんなわけ、ないです……よ」

「あ?」

「レーコさんは……あの人のことを……買い被り、すぎ、です……」


 なんつーか、空回ってんな親父さんもこのバカも。

 親心子知らずっていうのかね、こーゆーの。

 

「ま、オマエがどう思っててもいいけどよ、アレはお隣さんだからな。家に帰るまでに気持ちの整理つけとけよ。あの人相悪いハゲから家賃集金しなきゃなんねーんだからよ」

「……嫌ぁ」

「がんばれ」


 やれやれだ。

 この状況は不幸なのか、ただの我儘なのか。どっちなんかね。

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