第16話「告白」

第16話‐A面 時任秋良は返事をする。

「アキラちゃんは覚えてる? ……小学校二年生の授業参観の時のこと」

 真剣な面持ちの笑美ちゃんに、僕は小さく頷きました。

「覚えてるよ」

 忘れるわけがないです。

 笑美ちゃんと僕が泣いた日。

 あの日以来、笑美ちゃんは僕なんかに構い続けてくれています。 

 おそらくは、


「あの日ね、アキラちゃんが私のために泣いてくれたから――」


 そう、勘違いです。

 あの日泣いたのは笑美ちゃんのためじゃないのに。

 僕は僕が「可哀想」であることに気付いて泣いただけです。

 なのに、笑美ちゃんは捻じ曲がった解釈をしてしまったんです。

 幻想。

 僕に幻想を抱いて、今もずっとそのままでいる。

 それは僕が笑美ちゃんの幻想に甘えていたから。

 

「――あのね、アキラちゃん。私はアキラちゃんが好きだよ」

「僕も好きだよ、エミちゃん」

「私が言ってるのはそういう好きじゃなくて」

「うん」

 わかっています。

 僕に向けられている好意と、僕が笑美ちゃんに向けている好意は別のものだと。

 笑美ちゃんの幻想を正さずにこれまでやってきた僕が悪いから。

「だからこそ、僕はエミちゃんの傍にいちゃいけないんだと思う」

「アキラちゃん……」



 それから僕たちは家に帰りました。

 どんな道を通ったのか、何を話したのか、そもそも話していないのかも分からないくらいにぼんやりした状態で、三波家に帰り着き、僕はケースケさんの部屋で父親あの人に電話をかけました。


「私だ。決めたのか?」

 単刀直入に問われたので、僕も必要なことだけを告げました。

「――僕は日本に残ります。それで、一人暮らししたいんですけど」

「理由は」

「ひとりで生きていきたいから、です」

 ほんの一呼吸。

 僅かな間。

 その後、返事がありました。

「よしわかった。あと一週間だけ、三波さんの世話になれ。その間に住むところの段取りをしてやろう」

「ありがとう」

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