第9話‐B面 時任秋良は回想する。

 学校に着いたらレーコさんが先に到着していました。


「なんでアタシの方が先にガッコに着いてんだよ!」

「ご、ごめんなさい!」

「まあ大体見当はつくけどよ。アイツらふたりが取り合いしてたんだろ?」

「あ、はい、僕の鞄を」

「『の鞄』は余計だけどなー」

「はい?」

「やれやれだな。……なんでもねーよ」


 一時限目と二時限目の間の休み時間、僕は廊下に出て外を眺めるフリをしています。これならレーコさんと喋っててもそんなには怪しまれない、はずです。


「そーいえばオマエとエミってどうしてこんなに仲良くなったんだ? 陰キャのオマエの世話をエミが焼きたがるってのは、まあわかるけどよ」

 えーと、と僕は記憶を辿りながら、

「……いつだったかな。小学校二年くらいの時なんですけど、授業参観があったんですよ。僕のうちはもうその頃には全然学校行事に親は来なくなってたので別にどうでもよかったんですけど」

「オマエの親も結構アレだよな」

「あはは。仕事忙しいみたいだし、しょうがないですよ。……それで僕はよかったんですけど、エミちゃんのところはお父さんもお母さんも来るって言っててすごくはしゃいでたんですよね。でも仕事か何かの事情で急に来れなくなっちゃって」

「あー。それはガキには辛れえかもな」

「エミちゃん、泣いてたんですよね。それをクラスメートの子たちがみんなして可哀想、って言って慰めてて。――僕はその時思ったんですよ。ああ、授業参観に親が来ないのは可哀想なことなんだ、って。僕は可哀想なんだ、って。でも可哀想な人は僕だけじゃなくなったな、って」

 その時、本当にそう思ったんです。

 それをそのまま口にすると、レーコさんは口をへの字にひん曲げて、

「オマエってやつぁ昔っから暗いっつーか性格クソだよな」

 と言い切りました。

 はい、僕もそう思います。

「ですよね。で、なんかその性格最悪な僕まで泣きだしちゃって。クラスはなんか変な空気になったんですよね」

「そりゃまあそうだろうよ」

「でも、代わりにエミちゃんは泣き止んで。僕のところにきて『ありがとう』って。御礼の意味はちょっとよくわかんないんですけど、それからです。エミちゃんがよく僕に構ってくれるようになったのは」

「なんかエミのヤツ、オマエのこと勘違いしてねーか?」

「そんな気はしますけど」

「言えねーわな」

「あはは」

 レーコさんは苦り切った顔で、

「オマエほんとにそのクソネガティブな性格直せな? 不幸を呼び寄せてんのは性格のせいでもあるんじゃねーのか?」

「厄病神に言われたくないんですけど……」

「うるせーよ、バカ。こっちだって仕事になんねーから困ってんだ」

「はい?」

「ちっ、なんでもねーよ」

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