第4話「朝食」
第4話‐A面 時任秋良は味が分からない。
あんなことがあったのに僕はぐっすり寝てしまいました。
近くにレーコさんがいてくれる安心感があったのかもしれません。
レーコさん、疫病神なのに僕はなんで安心しちゃうんでしょうか。
「オラ、アキラ起きろ。メシ食ってガッコ行くぞコラ」
「おはようレーコさん」
「おう。シャンとしろシャンと。ちゃっちゃと顔洗ってきな」
「はぁーい……」
朝から元気だなあ。
低血圧の僕にはレーコさんのテンションは朝イチだとちょっとつらいです。
「おはようございまふ……」
二階の部屋から一階の洗面所に行くと、笑美ちゃんがいました。
「おはようアキラちゃん! 昨日よく眠れた?」
「うん。ありがと。ゆっくり眠れたよ」
「それと、昨日の夜なんだけど、お兄ちゃんと何かあった?」
「えっ」
「なんかお兄ちゃん、朝早くに帰っちゃったみたいで。アパートに戻って着替えて出社するから、とか言ってたみたいだけど」
「……ケースケ兄さんとは昨日少しお話したんだよ。久しぶりだったから」
お話だけじゃなかったけど、それはとても言えない。
「えー! 私、部屋の前まで行ったけど、我慢して帰ったのに! 私も呼んでよアキラちゃん!」
「いやー、それはちょっと」
あの現場に呼ぶのは無理ですよね……。
「でも、もっといい方法があったかも」
僕は何もできずに、レーコさんにたすけてもらうだけだった。
ちゃんとお話しするべきだったんじゃないかな、って今更思ってももう遅い。
こういうところが僕の駄目なところだと思う。
「ん? なんの?」
「別に、なんでもないよ……」
「ふたりとも早くご飯食べなさい。時間無くなるわよー」
会話は笑美ちゃんのお母さんの呼びかけで中断されました。
朝ごはんは和食でした。
炊き立てのご飯。
だし巻きたまご。
豆腐とわかめのお味噌汁。
焼き鮭。
こんなちゃんとした朝ごはんは何年ぶりだろう。
「アキラちゃん、どうしたの?」
「え?」
「泣いてるから」
「嘘」
ほんとでした。
なんでか涙が出ていました。
慌てて両腕の裾で顔を拭って、
「なんでもないです! ごめんなさい!」
「昨日のこと、思い出しちゃったんだね。ゆっくりでいいから食べれるだけ食べてね」
「うん。ありがと」
「おかわりもあるから遠慮しないでね」
と、笑美ちゃんのお母さんも言ってくれました。
昨日の火事のことなんか本当はどうでもよくて、――圭介さんと上手く話せなかったことを引きずってるとか、家族で囲む食卓に感動しただけだとか、そういう色んな感情がごちゃごちゃになって溢れただけなんです、とはちょっと言える雰囲気じゃなかったです。
せっかくのおいしそうな朝ごはんは、泣いたせいで鼻が詰まってあんまり味がわかりませんでした。勿体ないことしました。
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