第22話
朝方に出発した四人は昼前にはメイティに到着した。一面に広がる花畑を間近で見て、ルミオは昨日より興奮していた。
「見てください、全部お花です! とてもきれいで良い匂いですね」
「ルミオってなんか可愛い趣味をしてるよね」
いつものルミオなら恥ずかしがるのかもしれないが、今日はそれよりも花を愛でることに集中していた。
「これを見て喜ばないのは失礼ですよ……ほら、一つ一つもとても綺麗です」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら辺りを見回している。すると、それを近くで見ていた作業中の男のヒトが畑から話しかけてきた。
「あんた達、メイティには初めて来たのかい?」
「うむ! 竜の巣へ行く途中で少し寄り道をな」
「寄り道でも嬉しいよ! こんなに綺麗な花がいっぱいあるのにだーれもきちゃくれねえ。メイティの皆お前らをもてなしてくれるよ。ほら、花達も喜んでいる」
花畑の花が風に揺れた。それを見たルミオの興奮は最高潮に達したようで、男に花の種類を一つ一つ尋ね始めた。今までに見たことの無い喜びようのルミオを見て、ハルシウスはプリシラにひそひそと確認する。
「のう、今回の仕事はどのくらいかかりそうじゃ?」
それを聞いてプリシラは少しばつが悪そうな顔をして答えた。
「長居してあげたいところだけど、今回はメフロンと違って下調べとか要らなそうなんだよね。もしかしたら、今日の夜までには終わらせてすぐにこの国を出なきゃいけなくなるかも」
「ううむ、それは困ったのう。ルミオに言った方が良いじゃろうが……」
二人はちらりとルミオを見て、再び顔を向き合わせる。
「取り敢えず調査してから言おう。もしかしたら長引くかもしれないし」
「うむ、そうじゃな」
「どうかしたんですか?」
突然ルミオが二人の顔を覗き込んで来た。
「いや、何もないぞ。……ところでルミオよ、花も楽しいが今回はプリシラの仕事のために来とるから、先ずはプリシラの行きたい所に行こうかの?」
ルミオの予想外の興奮に戸惑うハルシウスは、自ら進んで優しく説得する。
「そうでした!……ごめんなさい。行きましょうか」
我に返って少し落ち込んだルミオを見て、ハルシウスはプリシラの方をちらりと向く。プリシラは両手を顔の前に合わせてハルシウスに向かって謝っていた。終始ルミナリスは花に一切目もくれず、遠くを見つめている。
四人は男に道を聞いて、人通りの多い街にやってきた。来るまでの道のりは畑しか広がらず、建物がほとんど見られなかったが、小さい街は局所的ではあるが屋台や建物が密集していた。ここでは先程育てられていた花の数々が束をなし、屋台に並んでいる。中には、花束の並びで文字を表現されているものや絵になっているものもあり、工夫を凝らした展示にルミオは再び元気を取り戻した。これには残りの三人も感嘆している。
「これは面白い。同じ種類のものでもどの店で買うか迷いそうじゃのお」
「うん。花を綺麗なまま運ぶのにコストがかかるから買いに来る人は少ないけれど、観に来る人はいっぱいいるよ。それに、あと少し歩けば……」
更に歩くと、メフロンの建物に匹敵する大きさのドーム状のテントがいくつか現れた。
「中身があるようだが何が入ってるんだ?」
ルミナリスも興味を示す。
「ここは大きな畑を所有している人の屋台をまとめたものなの。例えばそこなら、ドームの上に書かれている『アンナ』さんの持っている畑で育ったものを売っている屋台だけがドームの中に入っているよ」
「それは凄いですね。その広い畑は流石に何人かで育てているんですかね」
「うん、そうだね。人数は畑の広さによってまちまちだけど、一族皆で広い畑を育てている所とか、一人で広い土地を持っていて人をいっぱい雇って育ててもらってる所とか仕組みは色々だよ」
それにしても、と歩き疲れたのかハルシウスが不平をこぼす。
「既に結構進んでおるが、プリシラが今回調査するのはなんなのじゃ? 調査が進んでいるようには見えぬが」
「丁度今ついたよ。ここに用事があったんだ」
目の前には、最も大きいドームがそびえ立っていた。看板には『オットガル直売所』とある。中に入ると、色とりどりの花とそれらが放つとても甘い香りが広がっていた。屋台の規模や客の入りはドームの中だけで通りに負けていない。それにも関わらず、ルミオは意外にも先程に比べて喜んでいなかった。それどころか他の三人も微妙な反応を示す。
「なんか、ここのお花は匂いがとても甘いですね。それに色も強めというか……」
「私も初めて来たけれど、こういう珍しい花もあるんだね。多分そういうのを専門に作ってるんでしょ」
「……ここの花は主張が強過ぎるな」
特にルミナリスは出来るだけ屋台に近寄らないように歩いている。すると、一人の小人が話しかけてきた。
「ここの花は、主に香水として使われるんですよ」
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