第9話

 翌朝、ハルシウスとルミオは街に出た。ハルシウスはドアを閉める前にプリシラのベッドをちらりと見るがプリシラは未だにすやすやと寝息を立てていた。

「しかしプリシラは良く寝るのう」

「いや、お仕事が夜からあるらしいので今は寝ておくって言ってましたよ。僕達とは入れ替わりになるかもとも」

「そうじゃったのか。……それにしてもこの国は大きいだけでなく、清潔感もあるのう。よくよく見ると手入れが行き届いとる」

街の人々が皆、高級というわけでは無いが汚れの無い服を見に纏い、地面は平坦に舗装されている。屋台やお店もツギハギなどではなくきちんとしたもので作られている。それだけで前の街に比べたら充分にきれいだ。

「そうですね。この国が警備会社で成り立っていると言っていましたけど、そのイメージにぴったりだと思います」

「確かにイメージを損ないたく無いのかもしれんな。大国のプライドというのもあるのやもしれん」

 少し歩いて二人は依頼の貼られた集会場にやってきた。

「……やっぱり森の時みたいな額の依頼は無いですね」

「プリシラの言った通りじゃな。まあ警備会社が立ち並ぶ国じゃしの。依頼することはそもそも無い、と言った感じか。それでもわしらは稼がぬと調査も出来ん。……ここは地道に行くとするか」

ハルシウスは紙を一枚取ってみせる。そこには『急募! スイートドリルの討伐、一匹辺り20ミル』とあった。

 二人が果樹園に向かうと、ケンタウロスの女が家から出てきた。年老いた、という程では無いが少し老けて見える。

「あら、依頼を見て来てくれたのかい? よろしくね」

「こちらこそお願いします、じゃ。して、そのスイートドリルというのは……」

ハルシウスは辺りをキョロキョロと見回す。

「そうね、急にお願いしたから詳しい説明書いてなかったものね。私の果樹園で育てている果物がそろそろ実るんだけど、毎年スイートドリルがそれを狙ってくるのよ。色んな果物を食べるんだけど、特にうちで育てているものが好物らしくてね。私じゃこの広い果樹園を守れないからお願いしたいの。」

「分かったぞ、任せておけ!」

ハルシウスは即答すると胸を張って拳をどんと当てて見せた。

「心強いわ、ありがとう。じゃあ早速だけど今日から頼むわね。果物の収穫期で鳥達も必死になってるから気をつけてね。毎年同じ人に頼んでいたんだけど、今年は護衛の依頼が入ったとかでねえ、丁度受けてくれる人が居て良かったわ」

 そして、二人の仕事は始まった。果樹園の中でも奥にある食い荒らされた区域まで来て空を見上げると、高くに何羽かの鳥が飛び回っている。遠くて大きさは分からないが、その大きくて猛々しい鳴き声から、獰猛さは伝わってくる。

「あれか……。ルミオよ、やれそうか? わしはお主の力を一度ここで見ておきたい」

ルミオは黙ってじーっと鳥達を見つめていたが、はっきりとした声で答えた。

「大丈夫です! 小さい頃良く狩りをして遊んでいたのであのくらいなら」

「では最初はお主に頼むぞ! 仕留め損なったフォローは任せておけ」

スイートドリルが襲ってくる。小さいものでも大人と同じくらいの大きさがある。大きくまん丸とした目は不気味さをかもしだしている。一羽が丸呑み出来るくらいのその大きな口を広げてルミオに向かってきた。

 ルミオは素早く槍に魔力を込めた。槍が薄いながらも魔力で出来た黄色い膜に覆われる。

「……行きますっ!!」

ルミオは横に交わしながらスイートドリルの向かってくる勢いを利用して、槍でなぎ倒した。同じ様に向かってくるスイートドリルを次々と交わしては薙ぎ払ってゆく。微弱な魔力を補って余りある技術をハルシウスに見せている。一通り向かってくるスイートドリルが片付いた所で、ハルシウスが寄って行った。

「やるではないか。思った以上じゃ!」

ハルシウスの喜ぶ顔にルミオは照れる。

「いえ! この程度なら」

「流石は我がライバルの子孫じゃな……しかし魔力に関してはやはり小さいのう。こればっかりはどうしようも無さそうじゃな」

「そうですね……。奴隷船の中でも相談しながら色々やってみてたのですが、やっぱり魔力は少ない様です」

「まあ良いじゃろう。取り敢えず槍の扱いだけならわしが教えられることは無さそうじゃな。……では、魔法の基礎からわしが教えよう。魔力が少なくとも、聞いていて損は無い筈じゃ」

そう言ってハルシウスはルミオと入れ替わり、杖を握った。

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