猫な彼女に甘えてほしい

@山氏

猫な彼女に甘えてほしい

 珍しく咲弥は俺の横ではなく、俺の正面に座って携帯を構っていた。

「咲弥、ココア飲む?」

「ん、今は別にいい」

 そっけない態度で、俺の方も見ずに咲弥は答える。

「そっか……」

 俺は少し寂しさを感じつつ、立ち上がってコーヒーを淹れにキッチンに向かった。

 お湯を沸かしつつ、チラチラと咲弥の方を窺う。咲弥は何も気にしていないように携帯を見ている。

 俺はコーヒーを淹れると、咲弥の横に腰を下ろした。

「……」

 いつもだったら寄り掛かってくるのに、咲弥は普通に座ったまま携帯を構っている。

「なんか怒ってる……?」

「え? 怒ってないよ」

 きょとんとした顔で咲弥は俺の顔を見た。本当に怒っているわけではないらしい。

「どうしたの? 啓人、なんか変」

「え、いや……」

「まあいいや」

 咲弥はあんまり気にした様子もなく携帯に目を落とした。

 俺はチラチラ咲弥の方を見ながら、コーヒーを飲む。

「何?」

 俺の視線に気付いたのか、咲弥は少し不機嫌そうに俺の方を見た。

「いや、ごめん。なんでもない」

 咲弥から視線を逸らし、俺はコーヒーを飲み干し、マグカップを片付けた。

 机に戻ると、咲弥は鼻歌を歌いながら携帯を眺めている。俺は咲弥の横に腰を下ろした。

「……」

 咲弥は携帯を見ながら俺に寄り掛かる。俺は少し嬉しくなって咲弥の頭を撫でた。

「んー、今はやめて」

 俺の手を払うと、咲弥は俺に体重を預けた。

「……」

 しばらく俺は咲弥に寄り掛かられながら過ごしていた。

「……やっぱり、頭撫でて」

 突然、咲弥が俺の方を向いて言う。

「え、どうしたの」

「いいから、はやく!」

 俺は優しく咲弥の頭を撫でた。すると咲弥は幸せそうに微笑む。

「ココア、作ろうか?」

「んー……うん。お願い」

「ん、わかった」

 俺が立ち上ろうとすると、咲弥は俺の腕を掴んで、一緒に立ち上がった。

「待ってていいんだよ?」

「いいの、たまには」

 咲弥は俺に腕を絡めたまま、キッチンまで向かった。

 

 

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