2話 神殿
冒険者には2つの側面がある。
一つは何でも屋だ。
依頼を受けてそれを遂行する。
内容は素材の調達や運送。
護衛や魔物退治と多岐に渡る。
もう一つはダンジョン攻略だ。
この世界には7つのダンジョンが存在していた。
7つのダンジョンには7柱の神の力が宿るとされ、ダンジョンを攻略した者にはその祝福が与えられると言われている。
その為ダンジョンは神が地上に残した試練であり、福音と言われ。
7つの内6つがそれぞれの神を信奉する教会によって管理され、試練に挑む者に開放されていた。
ダンジョン内は常に魔物が徘徊し、いくら倒しても無限に生み出され続ける様になっていた。
そこに住む魔物は地上の魔物とは様相が違い。
自分の住む区域を出る事は絶対になかった。
そして死ぬと遺体は残らず、魔石と、稀にドロップ品を残して消滅する。
魔石はこの世界での生活に欠かせないエネルギーであり、地球で言うなら石炭石油の役割を果たしている。それらを売って糧を得るのが、冒険者と言う訳だ。
ダンジョンを完全攻略し、神の祝福を手にしようしているものは殆どいないだろう。
「やっと着いた」
ここはティティスの街。
ティティス教の総本山であり、ティティスのダンジョンがある場所だ。
彼女の住んでいた村から馬車で4日程の距離にあり、彼女はその道を1週間かけて歩いてきた。
徒歩だったのは
村から出ている馬車には、彼女が不幸を司る女神に
その為、乗車を拒否されてしまったのだ。
「おっきいね!」
ティティスは人口20万人程度の街であり、この世界ではかなり大きい方に分類される。
街全体は高い塀にぐるりと囲まれ、出入りは東西南北の4か所に限られていた。
基本的にこの辺りに危険な魔物は生息していない。
だが極稀に――数十年に一度の頻度――強い力を持ったハグレと呼ばれる魔物が出没するらしく、堀はその対策として建てられている様だ。
リンが門を潜る。
そこで身分証として、タリスマンと呼ばれる護符を提示した。
これはリンが僕を渡された時、その身分を証明するものとしてティティス教から一緒に送られたものだ。これを持っている限り、彼女の身分は教会によって保障されている。
但し、これには魔法による追跡機能が備わっていた。
つまりこれを持っている限り、リンの居場所は教会によって追跡され続けてしまうと言う事だ。
プライバシーも何もあった物では無い。
だからと言って、手放すわけにもいかなかった。
身分証を失うのもそうだが、手放せばそれは教会に即座に伝わり、そのまま放置すれば離反の意志ありと見なされてしまう。
当然そうなれば、世界中の教会を敵に回す事になりかねなかった。
言ってしまえば、タリスマンは首輪だ。
リンを繋ぐために、教会がかけた楔……まあ当のリンはそんな事一切気にかけてはいないが。
門を抜けて街に入ったリンは、真っすぐに教会を目指した。
どうやら、まずは教会にこの街へきた挨拶をする様だ。
まあこれからこの街で生活するのだ、教会の覚えを良くしておいても罰は当たらないだろう。
教会は街の中心部にある。
そこにはまるで城の様な、白く巨大な建物が聳え立っていた。
リンは門番にタリスマンを提示して中に入り、礼拝堂へと向かう。
「リンちゃん!リンちゃんじゃないの!」
中庭で声をかけられる。
リンが振り向くと、白い法衣を身に着けた女性が背後から近づいて来た。
年齢は20代半ば程。
金の瞳に、サラサラと流れる金の髪。
その顔立ちは整っており、そしてその耳は長く尖っていた。
エルフだ。
リンと同じ。
「アリエさん、お久しぶりです」
リンはペコリと頭を下げる。
彼女の名はアリエ・ルーン。
ティティス教の信徒で、聖女を務める偉い人物だった。
リンの両親は、冒険者としての仕事で家を開ける事が多く。
アリエさんはそんなリンを心配して、村へちょくちょく顔を出してくれていた。
……尤も、それは建前だ。
本当の所、その行動はリンに異変がないかを見張る為の物だった。
神器である僕には、人形としての記憶がある。
その為、リンに手渡される前の大神官と聖女であるアリエのやり取りを知っていた。
少しでも異変があれば、リンを殺すと……だからこの女は油断できない。
とは言え、今の僕には何もできなかった。
忠告する事さえも……動けぬ我が身が本当に呪わしい。
「聞いたわ。お父さんとお母さんの事」
アリエさんはリンの肩に手を置く。
痛まし気な表情をしているが、その目は酷く冷たい。
「辛かったでしょう。傍にいてあげらなくってごめんなさいね」
よくもまあ、こうもぺらぺらと嘘を並べ立てられるものだ。
見ていて反吐が出る。
「アリエさん、ありがとうございます。でも私は大丈夫です」
「それで?これからどうするつもりなの?」
心配して尋ねている様にも見えるが。
これも只の調査だろう。
リンが何をするつもりか把握しておきたいのだ。
「私、冒険者になってダンジョンを攻略したいと思っています」
「……え?」
リンの言葉が想像の範疇を越えていたのか、アリエはぽかんとした顔になる。
そんな事など気にせずリンは言葉を続けた。
「ダンジョンを攻略して、祝福を受けます。不幸を司るベリーネと対をなすティティス様の祝福を受ける事が出来れば、きっと私の呪いも完全に無効化できるんじゃないかと思って 」
「……」
その顔は、何言ってるんだこの小娘はと言った表情だった。
1000年を超える長い歴史の中、ダンジョンを攻略できたのは只一人しかいない。
そんな物に少女が挑むと聞かされれば、馬鹿げた話だと思っても仕方がないだろう。
「そう……大変だとは思うけど、頑張って」
アリエは崩れた表情を立て直し、リンに言葉をかけた。
どうせ腹の中では、ダンジョンでさっさと死ねばいいと考えているに決まってる。
「はい」
「それじゃあ私は用事があるから失礼するわ。何か困った事があったら、いつでも遠慮なく相談に来てくれていいのよ」
「はい、その時はぜひお願いします」
リンの言葉に頷くと、アリエはその場を後にする。
「サイガ、行こっか」
そういうと彼女は僕を強く握りしめ、礼拝堂へと向かった。
ひょっとしたら彼女も気づいているのかもしれない。
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