幸せと大切なモノ
櫻葉ゆう
* 1 *
「おはよう」
「おはよう。ごはん、出来ているよ」
私は、大学で知り合ったふたつ年上の中村泉貴と一年前から付き合っている。
自分が卒業したタイミングで私から告白して付き合うことになり、就職をするために自立をするということでそのまま泉貴の家に一緒に住むことになった。
私は広告代理店で営業、彼はウェブプロデューサーとして、それぞれ働いている。
「今日は、何時ごろになりそうかな?」
「昨日と同じくらいかな。18時頃」
「わかった。いってらっしゃい」
「いってきます」
今日は、私は仕事が休み。久しぶりに趣味を満喫しようかな。
ソファーに座ってのんびりしていたら、一件の新着メッセージが入った。LINEを開くと、相手は学生時代からの親友・千尋だ。LINEの内容は、仕事が休みになったからランチに行こうという、とても可愛らしいお誘いの内容。返事は、もちろんオーケー。可愛いスタンプを送って、すぐさま支度にとりかかった。
待ち合わせ場所は、学生時代によく寄っていた公園。久しぶりに、大学のころに二人で食べに行ったケーキ屋に行こうってなり、店から近い公園で待ち合わせようとなった。
時間通りに来たはずが、20分も早く着いてしまったようだ。
千尋に、もう着いたよ!と、一言LINEする。すぐに既読がついてスタンプが送られてきた。
「萌、久しぶり!」
「久しぶり!」
ほぼ時間ぴったりに千尋が来た。
「それじゃあ。行こうか!」
卒業して以来、中々いけなったからすごく新鮮な気持ちになった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2人で」
「二名様。こちらへどうぞ」
店員に案内された席は……、
「ここ……」
あの時、引き返して戻ってきたときに案内された席だ……。
「萌、どうしたの?」
少し顔色が曇っている私にすぐ気づいてきにかけてくれた。
「ううん。大丈夫!」
席に座ってメニューを開いている私に、千尋が少し遠慮がちに質問してきた。
「萌、本当に大丈夫?」
「えっ?」
「さっきと表情が変わってるから。もしかして……」
親友って、すごいな。なんでも感じ取られて察してくる。
「あの時。泉貴のことが好きって気づいたとき。
ここだったんだよね、案内された席」
* * *
ケーキ屋を出て駅に向かうとき、雨が降ってきた。予想外の雨だったため、傘は持っていなかったから急遽コンビニによって傘を購入した。
コンビニを出る頃には、土砂降りの雨が降っていた。片耳イヤホンをして音楽を聴きながら歩いていると、ファミレスから泉貴が出てきた。
「あ、泉貴」
声をかけようと一歩踏み出した時、
「あっ……」
あの子……。今日、一緒にお弁当を食べたメンバーの中にいた津野さんだ……。
二人の様子が何故か気になって、中々その場を離れられなかった。土砂降りの中、津野さんが持っている傘一本だけ。それを広げて、笑顔で微笑んで泉貴に差し出していた。
多分、"傘、どうぞ" じゃなくて、"一緒に帰ろう?" っていう意味の微笑みなんだろう。差し出された傘の手元を遠慮がちに持つ泉貴。その姿を笑って受け入れる津野さん。目の前で起きている二人の行動に……、嫉妬してしまった。
苦しくなって、さっき来た道を引き戻した。
* * *
あの時に道を引き返して来たのが、ここだった。何故か、ここが落ちついたんだ。
「でもあの時に感じた切ない想いは、今思えば甘酸っぱい思い出になったじゃん」
「まあ、確かにね」
「お待たせいたしました」
たがいに頼んでいたメニューがきた。私は、ふわふわしているスポンジのチョコレートケーキ。千尋は、甘いイチゴがのったショートケーキ。
「いただきます!」
スイーツを食べているときは、学生時代の話でとても盛り上がった。
「そういえば、もうすぐだよね?一年」
「うんっ」
泉貴と付き合い始めてから、もうすぐで一年が経つ。この一年、あっという間だった。
「2人でどこか出かけるの?」
「うーん、まだ何も決めてないかな」
「でも、お互いに仕事休みにしてるんでしょ?」
「うん」
泉貴と一つだけ約束をした。それは、一ヶ月記念日と半年記念日と一年記念日は仕事を休みにして二人で出かけるということ。
一ヶ月記念日の時は、遊園地に行ってそのあと可愛らしいクローバーのペンダントをプレゼントしてもらった。半年の時は、またも彼からのサプライズで某テーマパークに泊りで行った。
一年記念日は、またサプライズしてくれるのかなって密かに楽しみにしている。
ケーキを食べた後は、ショッピングを楽しんで今日は終わった。
「じゃあね。今日はありがとう!」
「こちらこそ! これからも、お幸せにね」
「うん、ありがとう!」
夕方4時過ぎ。家に帰ってきた。
それから二時間後。
「ただいまー」
「おかえり」
泉貴が帰ってきた。
仕事から帰ってきた泉貴は、相変わらず格好いい。
「あ、ねえ。来週の土曜日どこに行く?」
「来週の土曜?」
泉貴はカレンダーを確認して、優しく微笑んだ。
「萌は、どこか行きたいところある?」
「私は、泉貴とならどこでもいいよ。どこに行ったって楽しいから」
「萌」
泉貴は、優しく微笑んだ。
泉貴が帰ってきてからのこの時間が一番楽しい。
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