第4話 逃げる者達②
「こ、これは、一体・・・・。」
アズロは、目の前の光景に唖然とし、そう呟いた。
時間は少し前に遡る。
暗闇の地下通路を探索していたアズロ達を呼びに来たのは、人蜘蛛族—ガラムであった。
「アズロ!! み、みんなが大変な事になってるの!!」
アズロ達に合流したガラムは自らの触角をピヨピヨと回転させながらテンパっていた。
「どうした! ガラム!!
まさか、アイツらが現れたのか⁉」
「いえ、そうじゃないんだけど…。
・・・言葉で説明するより、見てもらった方が早いわ。」
ガラムはそう言うと、アズロ達を拠点へと導いた。
拠点とは、この迷宮のような地下通路で見つけた唯一の部屋だった。
いや、部屋というよりも倉庫といった方がいいかもしれない。
俺達―亜人十三人がその中に入っても、有り余る程の広さがあった。
そして、そこには、ロープや松明、ナイフなど小物や、
食料こそないが、油や井戸まで完備してあった。
おそらくは、この地下通路を造った人間が一時的な住まいとしていた所なのだろう。
地上に出る道を、中々、見つけられなかったアズロ達は、そこを拠点として今後の探索を続ける事にした。
そして、その第一陣こそが、今のアズロ達一陣であった。
つまりは、つい小一時間程に離れている間に、もう問題が発生したことになる。
(やっぱり、この逃亡劇は無謀だったのだろうか・・・。
俺達は、アイツらに面従腹背しながら、もっと機会を伺うべきだったのか?)
アズロは、拠点に向かって走りながらそんな事を考える。
しかし、頭を振ってその考えを払った。
(いや、それでは手遅れになっていたかもしれない。
あそこにいた者達は、只の化け物共じゃない。
あの忌まわしき魔王—アインズ・ウール・ゴウンの手先なのだ。)
ヤツは、俺達、亜人を—いや、この国の人間共さえも騙し、あの戦争を引き起こした。
そして、自分は何食わぬ顔で人間共の救世主という体で現れ、亜人達を大義名分の下に支配したのだ。
おそらく、ヤツならば、簡単に力づくでこの国もアベリオン丘陵も支配できたに違いない。
しかし、ヤツはそうしなかった。
—もっとも残忍で狡猾な・・・手段を実行したのだ。
お互いに忌み嫌っている者達を戦わせ、お互いを滅ぼし合わせる—
まさに、悪魔的、いや、この場合は、魔王的考えだろう。
—最初に、俺達亜人に人間共を襲わせ、人間に絶望を味わわせ、
そして、その後に、救った人間に亜人を狩るように仕向け、亜人達に恐怖を味わわせる—
なんて、恐ろしい存在なのだ。
だから、アズロは思った。
そんなヤツの手先にまともな者などいる訳がない。
あのまま、あそこに居たらきっとこれまで以上にどうしようもない状態になっていた筈だ。
アズロがそんなこんなを思考している間に、アズロ達一行は、拠点としている部屋のドアの前まで駆け寄っていた。
—バン!!
アズロはその勢いのままにドアを開いた。
「こ、これは、一体・・・・。」
アズロは、目の前の光景に唖然とし、そう呟いた。
アズロの目の前に広がる光景。
それは―
拠点にあった木箱がまるでステージのように積まれ、その上には、純白のヒラヒラした衣服を纏う美少女が立っていた。そして、ノリノリでポップな歌を熱唱していた。
その美少女は、一見、人間に見えるが、肌の色は美しい緑色で、その肌には、其処らかしこに黒い入れ墨のような模様に埋め尽くされている。
そして、その目、その髪は、明らかに人間ではあり得ない程、金色に輝いていた。
そんな美少女のバックでは、巨漢の土精霊大鬼—ブブが逆さにした壺をまるでドラムのように叩いて見事な演奏をしている。
また、そんなブブの横では、翼亜人―ルルが持ち前の特技であるボイスパーカッションを織り交ぜた声でそのステージを盛り上げていた。
そして、そのステージの前には、そのライブを観戦しているテンションMAXの亜人達がいた。
彼らは、黄色い歓声を上げながら、松明をグルグルと回して、狂喜乱舞している。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「ホントに、一体、何なのコレーーーーーーーーーーー!!!!」
そんな余りにカオスな光景にアズロは大声でツッコミを入れる。
アズロは、まるで初めて地下アイドルのライブに訪れた青年の如く激しく動揺していた。
「あれ? アズロっち。もう帰ってきたの~。
カレオツ~。」
そんな状況の最中、アズロ達の真横からそんな業界人顔負けの口調の蛇身人―ガガが千鳥足で近づいてきた。
「どうよ。アズロっち。調子は~?
出口見つかったの~?」
そう上機嫌で、近づいてきた亜人にアズロ、いや、アズロ達は驚愕し、想った。
(なんだ、コイツーーーーーーーーー!!!
見ているコッチが恥ずかしいわーーーーーーーーー!!!)
—と。
そんな業界用語バリバリの蛇身人―ガガは一般的な蛇身人とは、遥かに異なる風貌をしていた。
体を覆う鱗は、ゴツゴツと鱗一つ一つが隆起していた。
そして、その鱗は白銀色に輝いて体中を覆っている。
その見た目は蛇身人というよりは、まさに、岩身人であった。
そんな蛇身人―ガガは、アズロ達に近づくとアズロの肩を軽く叩くと実にフレンドリーに聞いてきた。
「で、どうよ⁉ 調子の方は?
全開バリバリいっちゃってる感じーー⁉」
「・・・・・・・・・。」
しかし、アズロはそのテンションMAXな、蛇身人―ガガに対して一切のリアクションはしなかった。
そして、アズロは、そそくさにその蛇身人から離れると、部屋の隅に移動してその場にいたガラムに向かって手招きをする。
ガラムはその仕草をみて、アズロに向かって近づいていく。
そうして、ガラムが、アズロの目前に迫った時、アズロはガラムの頭をホールドして、耳元で叫んだ。
「おい!! ガラム!! アイツ、誰だよ!!!⁉」
「誰って…。ガガじゃない。どう見たって。」
「いやいや、アイツは絶対、ガガじゃねぇよ‼」
「どうして、そう思うのよ?」
「いやいやいや、アイツ、ほとんど喋らないキャラだっただろうが!!
いつもなら、十日に一言ぐらいしか喋らねぇ。何考えてんだか、わからねぇ奴じゃねぇか‼
アレ!! 絶対、ガガじゃねぇよ!!」
「そう? 私、いえ、私達の前では結構、喋ってたわよ?」
「え⁉ マジ!?」
「ええ、マジ。」
そのガラムの言葉に、微かなショックを覚えたアズロであったが、
目の前の、余りにとんでもない状況に息を飲む。
(一体、何があったんだ? 俺がここを離れている小一時間の間に・・・・。)
—カラン、カラン!!
アズロの疑問は、そんな音を発して足元に転がってきた空瓶によって、速攻、解決する事となる。
「なんで、こんな所に酒瓶があるんだ?」
アズロはそう言うと部屋の周りを見渡す。
すると、その部屋中には、アズロが今まで気づかなかった酒瓶が、そこらかしこに床に散乱していた。
「ま、まさか⁉」
アズロは、何かに気づくとここに持ち込んできた食糧袋に駆け寄った。
そして、その中身を漁る。
そして、その中から出てきた物を見て驚愕し、叫んだ。
「なんだこれ!! 中に入ってるの殆ど酒じゃねぇか!!」
アズロが驚愕するのも無理はない。
アズロ達が、都市カリンシャでくすね―いや、カリンシャで確保した—
当面の食糧が入っていた筈の食糧袋の中身が殆ど酒という嗜好品だったのだ。
そして、その食糧袋の中には、自分達の腹を二、三日、満たせれば上等という程の食糧しか残っていなかった。
今、現状、出口が見つからない地下通路で彷徨っている—アズロ達にとっては、まさに死活問題である。
「なんだ!! どうしてこうなった!!」
両手で頭を抱えながら、アズロは取り乱す。
当初、アズロの思い描いた計画は、こんなモノではなかった。
本当なら、今頃、颯爽とアイツらから華麗に逃げ延びて、アイツらが追ってこれない程の遥か遠くで、アイツらの事をあざけ笑っている筈であった。
しかし、現状はその計画とは程遠いモノだった。
アイツらから逃げ延びたはいいが、その過程で、自分の身に余る衝撃的な真実を知り、その上、現状、逃げ道が見つからない—まるで、迷宮のような地下通路を彷徨っている。
—さらには、この有様だ。
何一つ、当初の計画通りに行っていない状況にアズロは頭を抱えて絶望し、肩を落とす。
「あーーーーー‼ アズロ‼ やっと戻ってきたーーーー‼」
そんなアズロに気が付いたステージ上でノリノリであった美少女が歌を中断してアズロに向かって歓喜の叫びを上げる。
しかし、アズロはその声には反応せず、自らの不甲斐なさを恥じて喪にふすが如く、意気消沈していた。
すると、先程までポップでキュートな空気で支配されていた煌びやかな空間が同じように意気消沈とした。
その時、アズロは思った。
(・・・・お前たちも、やっとわかってくれたか…。
今が、そんな状況ではないという事が・・・・。)
そんなシーンとしている中、パツ金の美少女亜人—マギカはテンションMAXで大声を上げた。
「それじゃあ、次は! 15曲目「元気を出してロリロリズキュン!!」」
「エーーーーーーーーー!! まだ歌うのーーーーーーーーーーー!!!」
「っていうか!! 何曲目だよーーーーーーーーーーーー!!!」
「つうか、なんて曲名ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
アズロは、ツッコミの大渋滞を引き起こしながら叫ぶ。
それは、未だかつてない程、見事なツッコミであったという—
「なんだよ。どうなってんだよ。
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