第72話 英雄の出立(後編)第一部完

 カリンシャを目指して進軍する軍列の真横を漆黒の英雄モモンが馬で駆け上がる。


 モモンのすぐ後方には、アウラとマーレが一頭の馬に相乗りしながら追走し、ナーベがそれ追う。

 

 そして、最後尾には『アレ』を身に纏ったレメディオスが追走していた。


 そんな中、レメディオスは心の中で微かな苛立ちを募らせていた。


(…この順列を、今は納得せざる負えないか…。


 先の戦いで、私はこいつらと違って、モモン様のお役にまったく立てていない。


 だが、私は先日までの私ではない。


 今に見ていろ。


 次の戦いでは、こいつらよりも武功を挙げてモモン様のお傍に仕えて見せるからな。)


 その時、急にモモンは馬の速度を落として、その場に停止した。


 そして、後方にある、先程越えた小高い丘の方に目をやった。


「モモン様。どうかされましたか?」


「アウラ。別に大した事ではない。」


「あれをお気にされているのでしたら、私がチャチャと掃除してきましょうか?」


「…いや、いい。暫く好きにさせておけ。」 


 モモンはそう言うと、再び馬を走らせ軍の最前列を目指す。


 そして、アウラ達もモモンを追走していった。




 そんなモモン達の行動を、小高い丘に身を隠し、観察(ストーカー)していた者がいた。


「イビルアイ‼いつまでこんな事、続けんだよ‼」


 苛立ち気味のガガーランは、その観察者(ストーカー)に向かって声を上げる。


「おまっ! そんな大声を上げるんじゃない‼


 我々の追跡がバレてしまうではないか‼」


 そのストーカー(イビルアイ)は、ガガーランに向かってガガーラン以上の大声を上げていた。


「いっそ、バレた方がよくね。」


「なんだと! アイツは、我々に『ついてくるな』と言ったのだぞ。


  さらには、『王国にさっさと帰れ』とも…。


  お前は悔しくないのか⁉ 

 

  アダマンタイト級冒険者としてのプライドはないのか⁉」


「・・・・イビルアイ。貴方がそう思うのも分かるけど、これからどうするつもり?」


  激おこプンプンのイビルアイに、ラキュースはなだめるように質問した。


「そんなの決まっている。


 こうして付いて行って、アイツがピンチの時に、我々が助けてやるんだ!」



 「・・・・・・・・・・・・・・・。」


 そんなイビルアイの言葉を受けた、他のメンバー達は、無言となった。


(コイツ!!!! バカだーーーーーー‼‼‼


 バカの中のバカ、バカ王だーーーーーーーー‼‼‼)


 イビルアイ以外のメンバー達は、心の中心でバカを叫んだ。


 そんなラキュース達は、イビルアイに聞こえないように小声で相談を始める。


「おい。コイツ、バカだとは思っていたが、ここまでバカだったとはな・・・。」


「ええ。私も少し舐めていたわ。頭のネジ一本くらい飛んでるとは思っていたけど・・・。


 まさか、そもそもネジ自体が一本もついていなかったなんて・・・。」


「あのモモンがピンチになるような敵・・・。」


「私達の即死、確実・・・。」


「で、どうするよ。このまま、モモンを追うのかよ。


 それとも、王国に戻るかい?」


「・・・・。私は追うわ。確かにイビルアイの言う通り、このまま王国に戻ったら、アダマンタイト級冒険者の名を誇りを持って名乗れなくなるもの。」


「・・・・まあ、そうだな。」


「同意。」×2


「でも、無理はしないわ。それにモモンでも敵わないような敵が現れた場合、私達は、その脅威を王国に、ラナーに伝えなくてはならないわ。」


「そうだな。それに暴走必死のおチビちゃんのお目付け役は、必要だしな。」


「それじゃあ、決まりね。」


 そうして相談を終えたラキュース達は、イビルアイの元へと歩み寄って行く。






 漆黒の英雄モモン―に扮したアインズは、馬を走らせながら先程の王都で受けた、多くの人々からの見送りに思いを馳せていた。


(パンドラズ・アクターのヤツ、ホント、一体、何しでかしたんだ⁉


 あんなに多くの人が見世物パンダを見るように集まるなんて!)


 アインズは、正直、あの群衆の異様なハイテンションの見送りにドン引きしていた。


(確かにモモン(パンドラズ・アクター)は、ヴァンパイア軍団から王都の危機を救ったが、人々のあの異様なテンションは、明らかにおかしい。

 私が、以前、聖王国を救った時は、もっと、普通だったぞ。)


 アインズは、パンドラズ・アクターが一体、どんな愚行を働いたのか気が気でなかったが、感情が抑制された事で、落ち着きを取り戻す。


(まあ、いいか。


 所詮、モモンは私が作り出したキャラクターに過ぎない。


 いざとなったら、そのキャラクター自体を抹消すればいいだけの事だ。)


 そして、アインズは、そんなモモンに好意を抱いていた者の動向を気にする。


(それにしても、あの娘、ホント、ストーカー体質だよな。


 好かれても嫌われても、結局、付き纏われるんだから。)


 アインズは、これまでのあれやこれやを思い出し、少々、ゲンナリする。


(何か王都にいたのは、数日間の筈なのに、一年くらいいたような気がするな…。)


 精神的にかなりの疲労感を感じていたアインズであるが、気持ちを切り替えて気合を入れた。


(こんな事で疲れている場合じゃない!


 これから対峙する敵は、間違いなくこの世界に転移してからもっとも強い敵なのだから‼)


 そう、今、入手できている敵の情報だけで、今回の敵が強敵である事は、間違いない。



 まず、敵の中には、第九位階信仰系魔法”真なる蘇生”以上の魔法を使用できる者か、もしくは、それに匹敵する蘇生アイテムを所持している者がいる。



 そして、ヴァンパイアを万単位の軍団で統制できる者がいる。 

 おそらくは、レベル80以上の者が得られる「真祖(トゥルーヴァンパイア)」クラスのヴァンパイアの親玉が居るはずだ。

 

 さらには、先の戦いで新たに敵の中に悪魔を召喚できる者がいることが判明した。

 この前、敵が使用した中位悪魔召喚は、第六位階魔法と比較的、低位の魔法であるが、人間種には取得が困難なモノだ。

 この事から敵の中に悪魔がいる可能性が高い。



 一般に、この世界の強者と呼ばれる存在は、大体、第五位階魔法を基準としている。


 そして、この世界のアイテムレベルの標準は、驚く程低い。


 つまり、その者が魔法詠唱者だとしても、アイテムを所持している者だとしても、この世界の標準から逸脱している者なのだ。


 この世界から逸脱している者、それはつまり、我々と同じように別の世界から転移してきた者―プレイヤーと呼ばれるVRMMORPGゲーム『ユグドラシル』のゲーマーの可能性がある。


 プレイヤーの強さは、ピンからキリまであるが、廃課金のヘビープレイヤー100人を相手にしたら、ナザリック大墳墓全軍をもってしても太刀打ち出来ないだろう。


 プレイヤーとは、それ程の強さを秘めている存在なのだ。




 そんなプレイヤーかもしれない敵を脅威に感じつつも、アインズの胸には久しく沸き起こっていなかった感情が蘇ってきていた。


 (フフ・・・。フフフ。面白い。


  やはり、ゲームはこうでなくてはな。


  それじゃあ、始めようじゃないか。


  こっちが死ぬか―


  お前達が死ぬか―


  楽しい楽しいデスゲームを―  )







―英雄王の凱旋・第一部完―








  
















 



  

































 




















 









 































 



 






  

  

































 



















 











 






 

 




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