第33話 叶わぬ想い
聖王国のテストが終わった翌日、魔導国に戻ってきたアインズは、エ・ランテルの執務室にて、エルダーリッチ達が運びこんできた資料に目を通していた。
(魔導国の情報だけでも訳わからなかったのに、今や王国、帝国、聖王国の物資や資材の事も書かれてるんだもんな。これをすべてチェックしろって方が無理だよな…。だからといってすべてアルベド達に任せるのも気が引けるし、何かあった時、自分が責任とれるくらいは把握しとかないとまずいよなぁ。)
その時、アインズにメッセージが入る。
―ア、アインズ様…
―ど、どうした。パンドラズ・アクター。なんか様子がおかしいぞ?
―も、申し訳御座いません。毒に侵されました。
―な、何だと。お前は毒耐性を所持している筈ではないか!敵襲か‼
―イビルアイから受け取った弁当を食したのですが、どうやら猛毒だったのか、毒耐性では防ぎきれませんでした。
―な、何だと。あの青の薔薇の魔法詠唱者が毒を盛ったのか?
―い、いえ。おそらく好意で作られたものだと思います。
―どうしてそう判断できる?
―キャラ弁でした…
―は?
―モモンのキャラ弁でした…
―な、なんだと?
―本当に毒を盛るつもりならそんな誰もが引いてしまうような弁当は作らないと思います。
―し、しかし、実際、お前は猛毒に侵されているではないか?
―申し訳ございません。つい好奇心から思わず手を出してしまいました。
―何?一体、何があったのだ?
―はい。モモンの鎧を表現している漆黒の食材が気になってつい食べてしまいました。
―し、漆黒の食材だと?それは単に焦げていただけではないか?
(この世界に海苔のような黒い食材は見た事ない。だとすれば、何かを黒くなるまで焦がしただけの可能性が高い。)
―いえ、漆黒に黒光りしている食材でした。
―何?漆黒に黒光りしている食材だと?それで、味はどうだったのだ?
―はい。それが意外とイケました。
―イ、イケたのか?
―はい。イケました。
(どういう味か説明しろ‼)
―それで任務に支障が出そうなので連絡させて頂きました。
―パンドラズ・アクターよ。猛毒ならば解除できるアイテムを使えばいいだけではないか?
―それがアイテムを使用したのですが、解除できなかったのです。
―な、なんだと‼アイテムが効かない毒だと‼
―はい。これは未知の毒物です。更に痺れも伴います。
―な、何!麻痺耐性も突破されたのか‼
―はい。この毒物は伝説級アイテムに匹敵するやもしれません…
―それでは至急こちらでその弁当を解析する必要がありそうだな…
―も、申し訳ありません。
―どうした?
―完食してしまいました。
―な、なんだと!
―意外にイケたもので…
(だからイケたってどんな味だよ!)
―そうか…
(アイテムが効かない毒。それは今後、ナザリックの脅威になり得る。逆にその情報を独占できれば、こちらの武器にもなる。これは、放っておく手はないな。)
―パンドラズ・アクターよ。至急、私と入れ替われ。
―か、畏まりました。
モモン達が外壁の内周を一周する頃には、時刻は夕方になっていた。
内周を回り終わると、モモン達は聖王城への向かう。
聖王城に着いた時には日も落ちかけていた。
そして正門前に到着すると、皆、騎獣や馬から降り整列する。
「今日は、皆、ご苦労だった。」
モモンのその言葉で、皆、解散となる。
その時だった。
「申し訳御座いません。モモン様。個人的にお話があるのですがよろしいでしょうか?」
ラキュースが去り際のモモンに話掛ける。
(ちょっと、待てーい‼)
「ちょっと待て‼お前、私に任せるといったではないか!」
イビルアイはすかさずラキュースの駆け寄り小声で言う。
「イビルアイ。気持ちは嬉しいけど、やっぱりこれは私の問題よ。」
イビルアイの言葉にラキュースは決意を込めた顔で答えた。
(いや、こっちの問題でもあるわぁ‼)
「…わかった。そうだな。自分の事は自分で解決すべきだな…」
イビルアイは、ラキュースの気持ちを尊重する。
「モモン様。よろしいでしょうか?」
「ああ。構わない。」
ラキュースの言葉に、モモンは了承した。
モモンとラキュースは、聖王城にある一室にて会談を行った。
「モモン様。単刀直入に申します。王国と魔導国の仲介をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「仲介とは?」
「王国と魔導国が友好的に両立していくための橋渡しをお願いしたいのです。」
「今でも十分、友好的だと思うがね。」
「いいえ。私はそうは思いません。先の戦争で魔導王陛下は王国の兵、十数万人を虐殺しました。そして、王国領のエ・ランテルを占領いたしました。それだけで戦争の火種としては十分かと思いますが。」
「それは見解の相違だな。戦争で人が死ぬのは当たり前の事。そして、エ・ランテル付近の土地は元々、魔導王陛下のものだった。こちらはあくまで、取り戻したに過ぎない。」
「モモン様。これはどちらが正しいとか、そういう話ではないのです。王国の貴族、国民達は、魔導国に対して決していい感情は抱いていません。はっきり言えば憎んでいます。このままでは、いつか戦争が起こってしまうでしょう。」
「それならそれでいいのではないか?人間はいつの時代も戦争をして来た。無理に戦争を起こさないようにしたところで、いつか、抱え込んだ不満や憎しみは爆発してしまうものだよ。」
「それでは、また、多くの人々が死んでしまいます。」
「ラキュース殿。それは仕方のない事ではないのか?強き者が生き、弱き者は死ぬ。それは、この世界の絶対のルールではないのか?」
「モモン様は弱き者の味方ではないのですか⁉」
「私がいつ弱い者の味方だとか、強い者の味方だとか言ったのだ?私は、今や魔導王陛下の配下だ。魔導王陛下の命令に従うのみだ。」
「それでは、モモン様は魔導王陛下に王国を滅ぼす様命令されたら、王国を滅ぼすのですか?」
「そうだな。滅ぼすだろうな。」
「そ、それでは、モモン様は魔導王陛下に死ねと言われたら死ぬのですか?」
「そうだな。死ぬだろうな。」
モモンのその言葉に、ラキュースは言葉を無くす。
「・・・・・交渉は決裂という事でしょうか?」
ラキュースはモモンに問う。
「そうだな。そういう事になるだろうな。」
モモンは冷たく言い放つ。
こうして、ラキュースとモモンの会談は終了した。
ラキュースが一人で聖王城の正門の通用口から出てきた。
通用口の前には、イビルアイが一人立っていた。
「ラキュース。どうだったのだ?」
イビルアイは弱々しい声で聞く。
「ダメだったわ。あれじゃ望みはないわね。」
ラキュースは悲しそうな顔で答える。
「モモン様の事は諦めるのか?」
「ええ。諦めるわ。」
「そうか…。大丈夫だ。お前ならすぐいい人が見つかるさ。」
イビルアイはラキュースを励ます。
「もう、見つけているわ。」
ラキュースは真剣な目をして言った。
「そ、それは誰なのだ⁉」
イビルアイは、驚きながら聞いた。
「…魔導王よ。」
ラキュースは決意した目をして呟いた。
(ラキュース‼ヤケになるんじゃなーーーーーーい‼)
イビルアイは心の中で大声で叫んだ。
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