第32話 英雄の行進
日も高々と昇り、朝から昼へ移り変わろうとしていた。
そんな太陽の光を浴び、王都も町は光り輝いていた。
そんな王都のとある街道には、街の人々、いやその王都に住む多くの国民が集まって来ていた。
我々を救った英雄をその目に焼き付けようと。
モモンが魔獣に騎乗し進む。その街道には多くの人々が溢れていた。
その人々は道の端に群がり、英雄が通る道を邪魔する者などいなかった。
その人々は黙ってその英雄の姿を見つめている。
ある人は、憧れのアイドルを見つめる目、
ある人は、自分の運命の恋人を見つめる目、
ある人は、自分の王となられる方を見つめる目、
人それぞれ思いは違えど、キラキラに輝く瞳でモモンを見つめていた。
モモンは恐ろしき魔獣に騎乗し、その雄々しき姿で黙々と街道を突き進む。
当然、モモンと同行する者達も同じ目でモモンを見つめていた。
しかも、そんな憧れの存在に一時とはいえ、仕えられている事に幸せを感じていた。
そんな中、レメディオスはそのモモンの姿に見惚れながらも、昨日のモモンの叱責を思い出し、後悔の念に苛まれていた。
(モモン様にあのような事を言われるとは、私は何と愚かなのだ。機会を見て、モモン様に謝罪せねばなるまい。)
そんな中、イビルアイはそのモモンの姿に見惚れながらも、昨日、ラキュースから仲介を引き受けてしまった事を思い出し、後悔の念に苛まれていた。
(ラキュースの件、モモン様にどう話せばいいのだ。もし、ラキュースの想いを伝えたら、お優しいモモン様の事だから、メンバー内がギクシャクしないよう、私に別れを切り出すかもしれない。(※付き合ってません)
だからと言って引き受けた以上は伝えなければなるまい。私はどうすればいいのだ。)
そうこうしている内に、モモン達は王都の城壁に到達し、壁伝いに王都を回り始めた。
「モモン様、これでよろしいのでしょうか?」
モモンの視察目的が分からないネイアはモモンに聞いた。
「ああ、これでいい。このまま進んでくれ。」
モモンの言葉を聞くと、皆、そのまま王都の内周を壁伝いに進む。
しばらく内周を壁伝いに移動していると、古くなった建物を壊しているエリアに差し掛かった。
「ネイア殿。ここは?」
モモンはそう言うと、騎獣を止めた。
「はい。ここは元スラム街です。魔導教団でスラム街の土地を買い占めて、ここに住んでいた貧しい人々に職と別の住居を提供しました。ここに新たな街を建設するべく、今、取り壊し中です。」
「それは素晴らしい行いだな。それでその新しい街というのは、具体的なプランは決まっているのか?」
「いえ、まだ特には決めていませんが…」
「そうか。それでは、この土地の一部を魔導国で買い取らせてもらってもいいだろうか?何なら全部でも構わないが。」
「ええ‼どういう事ですか?」
「魔導王陛下は、聖王国内に冒険者ギルドの支部の設立を考えておられる。私はその候補地の制定を任されているという訳だ。」
「それでしたら何も土地を買われなくても…。友好国である魔導国から依頼されればこちらで設立致します。」
「我が国の冒険者は亜人も異形も所属しているぞ。」
「‼」
「そういう事だ。だからこそ、百パーセントこちらの資産で設立しなければならない。そして、なるべく王都に迷惑が掛からない様、王都の端に建設しようと考えている。」
(だからモモン様は城壁の内周を視察を希望されたのか!)
「わかりました。私としては構わないのですが、聖王や魔導教団の幹部の者にも聞かねばならない事ですので、ご返事は後でもよろしいでしょうか?」
「それは構わない。こちらも他にいい土地がないかどうか視察するため、内周を一回りさせて頂くからな。」
「畏まりました。それでは、私は至急、魔導教団に戻らせて頂きます。」
ネイアは魔導教団本部へと馬を走らせる。
「それでは、我々は先を進もう。」
モモン達は引き続き、城壁の内周を回り始めた。
教会の正午の鐘が鳴り時刻を知らせる。そして、モモン達は昼休憩をとる事になった。
モモンは宗教上の理由との事で、一人で昼食を取るため、城壁横の木の木陰に移動しようとしていた。
その時、一人の少女がモモンに声を掛ける。
「モモン様‼」
その一人の少女―イビルアイはモモンを呼び止めるとローブの中から弁当箱を一つ取り出した。
「モモン様!これ私が作ったのですが、よろしかったら食べて頂けませんか?」
イビルアイは、仮面を赤らめモジモジしながらその弁当箱をモモンに差し出す。
「いや、大丈夫だ。食事はこちらで用意している。」
モモン、速攻で断る。
「そんな事仰らず。遠慮しないで下さい。」
イビルアイ、効かない。
「い、いや、本当にいいんだが…」
モモン、戸惑いながら断る。
「いえいえ、我慢は良くないですよ。」
イビルアイ、聞かない。
「いやいや」
「いえいえ」
「いやいや」
「いえいえ」
このやり取りが、延々続くと判断したモモンはしょうがなく弁当を受け取った。
「それでは失礼する。」
そう言うとモモンは外壁付近の木の陰に隠れる。
イビルアイはその様子を遠目で窺う。
このお弁当は、イビルアイが生まれて初めて作った弁当である。
精力がつくという食材をとことん詰め込んだ愛情たっぷり、邪な気持ちたっぷりの愛妻弁当である。
暫くすると、モモンは食べ終わったのか弁当箱を持って木の陰から出てきた。
そして、イビルアイ達の元に戻ってくる。
「イビルアイ。美味しかった。」
モモンはそう言うと、弁当箱をイビルアイに手渡した。
イビルアイは、その弁当箱の重さからモモンが完食した事を悟り、仮面を赤く染める。
「それで、明日も作って来てくれないか?」
「は、はい‼喜んで‼」
モモンの言葉に、イビルアイは喜びを爆発させた。
昼の休憩を終え、モモンがハムスケに騎乗しようとした時だった。
レメディオスがモモンに近づいてきた。
「モモン様、昨日は申し訳御座いませんでした。」
レメディオスがモモンに頭を下げる。
「何の事かな。」
モモンは冷たい態度で対応する。
「いえ、昨日、モモン様のお話を邪魔してしまった事です。」
モモンはその言葉にピクリと反応する。
「貴様。本当にわかっているのか?」
「他に何かモモン様のお気に障る事をしてしまいましたでしょうか?」
モモンのその言葉に、レメディオスは、オドオドして答えた。
「貴様。魔導王陛下が聖王国を救われた際、随分と愚かな態度を取ったそうじゃないか?」
「も、申し訳御座いません!確かに、あの時は、私が魔導王―陛下を誤解しており、不適切な行動をしてしまいました。」
レメディオスは、頭を下げ謝った。
「具体的にどのような行動をとったんだ?」
モモンのその質問に、レメディオスは正直に答えた。
ヤルダバオトと魔導王がグルだと思っていた事。
魔導王が聖王国を狙っていたと思っていた事。
魔導王が邪悪な存在だと思っていた事。
魔導王が偽善で聖王国を救ったと思っていた事。
そして、それがすべて自分の思い込みであったという事を。
そのレメディオスの告白を聞き、暫くの沈黙の後、モモンは言った。
「もう、いっていいぞ。」
レメディオスは許しを得たと思い、笑顔で自分の馬の方へと駆け出して行った。
そして、ハムスケの横で、俯きながらモモンは一人呟いた。
「ああ、本当にもう逝っていいぞ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます