第23話 戦いの後
土煙が舞い、焦土となった荒野に漆黒の英雄がこちらに背を向け、一人立っていた。
皆、英雄の後姿を黙って見守っていた。
その英雄は、右手で剣を抜き、天に翳した。
「うおおおおおおおおおお‼」
次の瞬間、そこにいたすべての者達は、英雄の勝利を祝う雄叫びを上げた。
勝利を確信した兵士達は、抱き合ったり、腕を組んだり、叫んだり、その喜びを爆発させている。
モモンはゆっくりと聖王国の正門前へと歩み始める。
途中、ダークエルフの少女達と合流し、正門前の兵団の先頭へと到着する。
ナーベの防御魔法が解除され、イビルアイ達は、モモンと対面した。
「モ、モ、モ、」
イビルアイの体が凄まじい速さで振動していく。
「モモン様‼‼‼~~~~~~~~~~」
その声と共に、まるで、パチンコ玉のようにイビルアイは発射した。モモン目掛けて。
(戦いを終えた愛しの騎士とそれを出迎える恋人‼こんな時は、熱い熱い抱擁こそ相応しい‼)
イビルアイはモモンに飛びつく。そのままモモンの首に巻き付いた。
「いや、すまないが…離れてくれないか?」
「え~照れなくても~」
(いつものシャイなモモン様だ~)
そんなイビルアイは、あえなくガガーランに回収される。
「な、何をするんだ!」
「あれだけの戦いをしたんだ。疲れている男に迷惑かけんなよ。」
「うっ」
正論のガガーランの言葉でイビルアイは引き下がる。
「モモン様。聖王国を救って頂き有難う御座いました。」
ネイアがモモンに駆け寄って頭を下げる。
「礼を言うのはまだ早い。」
「どういう事ですか?」
「今回は、一時的に追い払ったに過ぎない。敵の首謀者も不明の上、まだ敵の勢力は残っている。」
(その通りだ。まだ、カリンシャが占領されている上、ヴァンパイアのカルカにも逃げられている。しかも、この騒動の首謀者もわかっていない。)
「とりあえず、今回の戦いで、暫くは襲撃してこないだろう。今後の事もあるので、暫くは王都に滞在させてもらおう。」
「ほ、本当にいいんですか!てっきり、今回の襲撃だけお力になって頂けるのだと思っていたのですが?」
「私は、聖王国の国民に約束したのだ。ヴァンパイアを滅すると。それに今回の首謀者が、私が追っているヴァンパイアかもしれないからな。」
「あ、有難う御座います。」
ネイアは、再びモモンに頭を下げる。
「礼なら不要だ。私は、魔導王陛下の命に従っているに過ぎない。感謝なら魔導王陛下にして頂こう。」
その英雄的発言に、それを聞いていたすべての者が、尊敬と憧れの目でモモンを見つめていた。
「それでは、少々疲れたので休ませて頂こう。」
モモンはそう言うと、城内に向かって歩を進める。
その存在感からか、兵士の隊列は二つに割れ、英雄の通り道ができる。
兵士達はただ、黙って真剣な顔でその英雄を見送る。
だってそうだろう。我らの王が前を通られるのだ。浮かれた顔でお見送りできる筈がない。
こうして、長くて短い夜は終わりを迎えた。
一夜明け、朝になると王都の街はお祭り騒ぎとなった。
まるで、昨日、ヴァンパイアの襲撃があったとは思えない程、
まるで、昨日、悪魔との壮絶な戦いがあったとは、思えない程だ。
昨日の出来事が、その日の内に、すべての国民に伝言ゲームのように伝わっていった。
王都の酒場では、朝から満員御礼で皆、笑顔で飲み明かしていた。
「モモン様にかんぱーい‼」
「モモン様にかんぱーい‼」
酒場では、あちこちで常にモモンの名が叫ばれていた。
「昨日のモモン様のドラゴン退治すごかったなぁ‼」
「何、お前、知らないのか?あれは、ヤラセだったんだぞ。」
「へ?どういう事だ?」
「あのドラゴンは、元々、モモン様のドラゴンなんだよ。」
「え、じゃあ。芝居だったてことか?」
「まあ、そういう事になるのかな。」
「なんで、そんな事したんだ?」
「お前、そんな事もわからないのか?暴動を鎮めるために決まってるじゃねぇか。」
「そうだったのか。すっかり、騙されちまった。」
「まあ、俺は騙されたとは思ってないけどな。」
「え?どういう事だ?」
「お前、ホント、馬鹿だな。モモン様がドラゴンより強いのは、本当だからだよ。」
「ああ、そういう事か。」
「これも聞いた話だが、王都に到着してわずか二時間足らずであの暴動を収めたって話だ。」
「すごいな。それは。」
「だろ?そんな事が出来る人間なんてこの王都、いや、この国に一人もいないぜ?」
「でも、ネイア様ならできるんじゃないか?」
「いや、あの状況だったら、例え、ネイア様でも無理だったと思うぜ。」
「そうかな?」
「そうだろ。あの時は、皆、半ば錯乱状態だったんだ。言葉での説明なんて理解できる状態じゃなかったよ。」
「まあ、そうだな。」
「だから、ドラゴンを倒すっていうインパクトが必要だったんだよ。」
「さすが。モモン様だ。」
「ああ、それに聞いた話だと悪魔百体以上を一人で滅ぼしたらしいぞ。」
「え?襲ってきたのはヴァンパイアじゃなかったのか?」
「なんでも、ヴァンパイアが自分達を生け贄にして悪魔を召喚したらしい。」
「す、すごい話だな…」
「ああ、なんでもそこで、モモン様が巨大な戦士に変身したらしいぞ。」
「へ、変身!なんか、とんでもない話になってきたな。」
「俺も見たわけじゃないから、なんとも言えないが、それはそれはとんでもない強さだったらしい。」
「そんなにか?」
「ああ、わずか十分足らずで悪魔百体以上を滅ぼしたらしいぞ。」
「じゅ、十分‼‼‼」
「ああ、一体、六秒以内に倒したってことになるな。」
「その悪魔って、犬みたいに小さい奴だったのか?」
「なんでも、デスナイトより大きい悪魔だったらしいぞ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「モモン様にカンパーイ‼」
「モモン様にカンパーイ‼」
「それと、聖王の話、聞いたか?」
「え?どうかしたのか?」
「なんでも、モモン様が戦われている時に、いざとなったら逃げる準備をしていたらしい。」
「な、なんだと‼本当か‼」
「ああ、しかも自分一人だけでな。」
「それが国王のすることか‼」
「ああ、本当に情けないよな。あれが自分たちの国の国王だなんて。」
「いっそ、モモン様に国王になってもらいたいよな。」
「そうだよな。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「我らが英雄王にカンパーイ‼」
「我らが英雄王にカンパーイ‼」
その頃、聖王国の城の一室では、青の薔薇のメンバーが話し合いをしていた。
「イビルアイ、あのダークエルフの魔法詠唱者の少女と戦ったら勝てる?」
ラキュースがイビルアイに問う。
「まあ、単純に魔力の勝負になったら間違いなく勝てないな。」
「実戦ではどうなの?」
「何とも言えないな。ただ、遠距離魔法に特化して、近距離魔法を苦手としているならば、接近戦で戦えるかもしれないし。あとは、戦士による近接戦闘なら勝ち目があるかもしれん。」
「おいおい、あんな子供相手にできるかよ。」
「おそらく、お前よりは年上だと思うぞ。」
「そういう事、言ってんじゃないよ。見た目の問題だよ。」
口を尖らせてガガーランは言った。
「そう、わかったわ。では、変身したモモン様ならどう?」
「ば、馬鹿言うな。モモン様と戦うなど想像できるか‼」
イビルアイは机を叩き、激怒する。
「イビルアイ、これはあくまで分析よ。モモン様と実際に戦う訳じゃないわ。まあ、実際、戦っても勝ち目はない事はわかってるけど。」
「むう…。まあ、天地がひっくり返っても我々に万の一つも勝ち目はないな。」
「どう分析したのか教えてくれる?」
「まあ、単純にモモン様に対峙した時点で我々の死亡は確定だ。」
「もう少し、分かりやすく説明してくれる?」
「判るだろ…。シンプルに例えるならば、モモン様に対峙した時点で昨日の悪魔共みたいに我々は一瞬で小間切れだ…
遠距離で戦おうにも昨日のモモン様の動きを見ただろ?
地上二十メートル以上を一瞬で飛び上がったんだぞ。
あのスピードなら百メートル離れていてもモモン様の攻撃範囲内だといっていい。
それに昨日の悪魔の魔法も全く効いていなかった。
あの鎧の魔法防御力は相当高い。つまりは、無敵という事だ。」
「まあ、そうなるわな。」
ガガーランが同意する。ティア、ティナも無言で首を縦に振った。
「そう、でも一つ気になる事があるの。」
ラキュースが顎に手を当てて言った。
「なんだ?」
「なぜ、王国のヤルダバオト襲撃の時、あの力を使わなかったのかしら?」
「・・・」
青の薔薇の皆が沈黙する。
「あの力を使えば、ヤルダバオトなんて一瞬で倒せたのではないかしら?」
「確かに、あれは、お互いに力をセーブして戦っていたみたいだった。」
(モモン様はあえて、手の内を見せなかったという事か?それに、モモン様が変身された時のナーベの反応も気になる。あのお姿には何か秘密があるのか?)
「今度会った時に、それとなく聞いてみましょうか。まあ、教えてくれればの話になるけど。」
「そうだな。」
イビルアイは同意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます