異世界の美少女たちが仲間になりたそうにこっちを見ている。××しますか? いいえ

古城ろっく@感想大感謝祭!!

第1話 見ての通りの異世界ハーレム?

 いきなりだが、細かい話は後にしよう。何しろ、自己紹介とかしている場合じゃないんだ。いや本当に。

 なにしろ俺たちは、現在スライムに追われている最中だからな。


「リケイド!」


 俺が指で印を結び、技名を叫ぶ。すると空中に柔らかな弾力の壁ができた。これでスライムを足止めするわけだ。

「やったの?」

 隣にいる少女、メトレアが訊く。ああ、それ俺の世界では死亡フラグっていうんだが。

「魔力が切れるまでだ。そう長くは持たないぞ」

 俺がそう言うと、メトレアは俺の手を引いて走り出した。賢明な判断だ。

「どうしてあんたのやることは中途半端なのよ。もう……」

 腰まで届きそうなピンクのツーテールと、同じく腰まで届いてしまいそうなスリットが入ったロングスカートをなびかせて、メトレアが走る。スリットの長さ的に、お尻が見えそうなんだが。

「そもそも、スライムって雑魚じゃないのかよ。メトレア」

「雑魚よ。あんたの次くらいにね。トーゴ」

 トーゴとは俺の事だ。スライムより雑魚と紹介されてしまった。

「雑魚ならメトレアの攻撃で倒せるだろう」

「無茶言わないで。スライムには魔法攻撃って相場が決まっているでしょ。魔法使いのあんたの出番よ」

 メトレアは剣士だものな。腰に下げている両刃片手剣も、今俺の手を掴んでいるガントレットも出番がなさそうだ。

「俺だって、やっと回復や防御魔法を覚えたところだ。攻撃なんて出来ない」

「役立たずね。お互いに」

 とにかくギルドまで逃げよう。元から選択肢なんてなかったし、選べるカードがあるならとっくに切っている。


「ああ、もう。邪魔ね!切り落とそうかしら……」

 メトレアは自分の大きな胸をガントレットで支えながら言う。

「なんてこと言いやがる。確かに走るときに揺れて邪魔かもしれないけど、それを切り捨てるなんてとんでもない」

「じゃあ、あんたが支えててよ。これ、痛いんだからね」

 支える?はて……なにを?

 胸を?その豊満な二つの生命の恵みを?縦横無尽に跳ね回る、柔らかくもみずみずしい果実を?

「じゃあ、さっそく……」

「冗談に決まってるでしょ!ばかぁ!」

「ぶごぁあ!」

 ガントレットで殴られた。いってぇ!口の中切った。


 ……そして、今の茶番の間にスライムに追いつかれた。

 やべぇな。

 体積にしたら四畳半の部屋と同じくらいだろうか。丸くなっているから分かりにくいが、大きさ的には建築物に近い、巨大スライムだ。

 形を自由に変えるため、高さや幅を訊かれても困る。色は泥水のように濁っている。青くはない。ついでに目も口もない。

「イメージしていたより、可愛げがないな」

「トーゴがスライムに可愛いイメージを持っていたことに驚きよ」

 メトレアが律義にツッコミを入れながら、さらに走る。

 もうすぐギルドだ。っていうか、スライムまで街の中に入ってくるのかよ。こういうのってモンスターは街まで入り込めないのが基本だろ。

「ちなみに、スライムってのは人間を体内に取り込んで、どろどろに溶かすんだよな」

「そうよ。事前に言ったでしょう?」

「服だけ溶かすのか?」

「はぁ?むしろ服は溶け残るでしょ。最初に皮膚や粘膜。それから肉や内臓。残るのは骨と装備品だけよ」

 それじゃあメトレアを喜んで犠牲にするわけにもいかないな。




 ギルドのドアをぶち破るように叩いて、中に入る。ここまでくれば、誰かしら腕利きの魔法使いがいるはずだ。

「やあ、メトレア。何度も言うけど、ドアは静かに扱ってくれないかい?」

 ギルドの待合室のテーブルから、少女が苦言を呈する。

「ティズ。そんな場合じゃない。緊急事態だ」

 俺はその少女、ティズに言う。落ち着いてコーヒーなんか飲んでいる場合じゃないし、ドアに気を使っている場合でもないんだ。

「トーゴまでそういうなら……ああ、スライムか。依頼は失敗したって事かな?」

 ティズはすっと立ち上がった。入り口付近まで来ているスライムに、そっと手を触れる。


 一瞬だった。


 スライムが泥水のように崩れて、辺り一面が水浸しになる。まるで雑巾を絞るかのように、スライムは体積を縮めていった。

「対スライム用の魔法だよ。ボクの得意分野でもある。99%は水分だからね。まだまだ搾り取れるよ」

 やがて、水浸しの中に、小さなサンショウウオみたいなのが残る。どうやらスライムの本体らしい。ティズはそれを躊躇なく踏み潰した。


 辺り一面は床上浸水。俺とメトレアも足元が濡れているし、本体に触れていたティズは頭から泥水をかぶる形になってしまっていた。

 ああ、ティズのやつ、可哀そうに。トレードマークのバンダナも、簡素なカッターシャツも、何か爬虫類の皮っぽい素材のショートパンツもずぶ濡れだぜ。

「あぁ、サラマンドラの革製パンツが……これ結構高かったのに……」

「すまないな。でも、助かったよ」

「すまないと思うなら、せめてギルドの片づけだけでもよろしくお願いできるかな?」

「え?……ああ、わかった」

 俺は承諾したが、この惨状を片付けるのは難しくないか?とりあえずギルド中の雑巾をかき集めて、バケツに水を移して捨てるか。モップがあればなぁ……

「それじゃあ、ボクは着替えてくるよ。あとはよろしく――」


 ティズが言いかけた、その時だった。サラマンドラの皮とやらで作られたショートパンツが、すとん――と床に落ちる。

 多分、水でふやけやすい素材だったんだろうな。生き物が腐ったような溝臭いショートパンツは、完全に腐食している。

 それはそれとして、ティズ。どうして何も穿いてな――いや、そもそもないのか。この世界には下着がないのか?

 いや、あるよな。なにしろメトレアはよくチラチラ見えてるもん。じゃあショートパンツの下に穿く習慣がないのか?

 一瞬硬直したティズは、続いて顔を真っ赤にした。そしてコホンと咳ばらいをひとつ。

「えー、あとはよろしくね。もしお客さんが来たら、適当にコーヒーでも出して待たせといて。ボクもすぐに戻ってくるから……」

「いや、何事もなかったように話を戻すなよ。そして手で隠すなり、頭に巻いているバンダナで隠すなりしろよ」

「ボクは何事もなかったことにしたいんだよ。そしてトーゴは忘れてよ。なんか恥ずかしがるのが恥ずかしいから、照れ隠しに平静を装ってるんじゃないか。言わせないで恥ずかしい」

 支離滅裂にまくしたてたティズは、尻隠さずに撤退する。


「手伝うわよ。雑巾かしなさい」

「おう、悪いなメトレア」

 今まで無言を貫いていたメトレアが、俺に手を差し伸べてくれる。じゃぶじゃぶと沈む雑巾を引き上げては絞り、また沈めては引き上げて絞り……

「なあ、今思ったんだけど、メトレアのスカートの方が吸水してないか?」

 もともと足首まで届く長さのロングスカートだ。しゃがんで作業していたせいで、ほぼ全体が濡れている。

「あ、本当だ。こっち絞った方がよさそうね」

 スリットが入っているおかげで絞りやすい形のスカートは、バケツに大量の水を落とす。こっちは水に強い素材なのか。

「ん?どうしたの。あたしの方ばっか見てるけど?」

「いや……やっぱ、この世界にもパンツはあるよな」

「当然でしょ。まあ、パンツってスカートと組み合わせて使うものだから、ティズが穿いてないのはそういう理由でしょうね」

 この世界ではそうらしい。俺のいた日本とは、やっぱ文化が違うんだな。

「だからメトレアは穿いてるんだな。似合ってるぞ」

「はぁ?何を……」

 気付いたらしい。そもそも、スカートを絞っている時点で気づくべきだと思うが。


 さて、話の仕方がめちゃくちゃになってしまったな。

 今度は俺がどうしてこの世界にいるのか。そしてこのギルドにいるのかを語ろうと思う。

 とりあえず、今日は掃除が忙しいから、また今度な。

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