僕は散り、君は吹雪き、2度目の春を待ちわびる
@MARONN1387924
第1話あの日に
この時期になるとふと思い出す。
俺の名前は桜木奏(さくらぎそう)。
27歳の普通の社会人だ。
27年という、あまり長いと言えないこの人生の中でこれからもずっと後悔することがある。
それは10年ほど前の丁度このくらいの時期。
冬と言ってももう、すぐそこに春が待っているような、冬の終わりの時期。
俺は学校からの下校中に、1人の女子をみる。
駅前の交差点。人通りも車通りも多い時間帯。
そこで……
思い出したくもない。
思い出したくないのにこの時期は思い出してしまう。
こんなことになるなら寝よう。寝てしまおう。
俺はそんな嫌なことから目を避けるため、酒をたらふく飲んで寝てしまった。
――うえ、気持ち悪い。
目が覚める。
──なんだ?明るいな。俺、電気つけたまま寝てたのか?それにしても何だか懐かしいような……
奏は目が覚める。
何だか懐かしいような感じは一体なんなんだろうと、周りを見る。
するとそこは10年前の自分の部屋であった。
奏は焦る。
──なんで10年前なんだ?
自分の部屋を出て鏡をみる。
姿は正しく10年前の自分だ。鏡に映っている自分は10年前の自分なのだ。
パチーン!
自分の右頬を叩く。
右頬が熱く、ジーンと痺れ、少し痛む。
「夢じゃない?」
思わず声に出る。
カレンダーを見ると今日は3月10日になっている。
確かに自分が酒を飲んで寝た日も3月10日。
丁度10年前なのである。
ほんとに10年前に来たのか……嘘……だろ?……
「奏ー?ご飯できたわよ」
下で女性の声がする。
この声は奏の母の声だ。ほんとに10年前の今日の朝に戻ってきている。
「母さん……?だよな」
「何寝ぼけてんの!学校行きなさいよ」
「う……うん」
そうか10年前の今日は学校があるんだ。
朝ごはんを食べて通学路を思い出しながら学校へ向かう。
なにがなんだかわからない。いきなり10年前になって、普通に学校に行かされて……一体どういう事かと頭が全然追いつかない。
何とか学校に着いた時には遅刻していて、生活指導の松田に怒られた。
懐かしいな。松田ってやついたわ。
10年振りの母校のに何だかテンションが上がってくる。
「よっ!何だ?今日は遅刻か?奏」
「おま!お前木本(きもと)か?」
「それ以外に誰に見えるんだよ」
「ほんとに10年前みたいだ」
「お前は何を言ってやがる。寝ぼけてんのか?」
そこには10年前の姿をした親友の木本幸樹(きもとゆうき)がいた。
10年後はいつも居酒屋で酒を飲んでる、飲み友でもある。
「ちょっと幸樹!理科室行くよ」
「まてよ!鍵閉めるなよ!」
幸樹に声をかけてきたのは山本環奈(やまもとかんな)だ。
「環奈じゃん!元気にしてる?」
「は?奏、ほんとに寝ぼけてんの?それともただ単にぼけてんの?ほら、理科室行くからさっさとしないと鍵閉めるわよ」
「おっわりぃ」
そうだ。ここは10年前だ。授業を受けないと。
それからは10年振りの学校生活を楽しんだ。
会社と違って、上司にガミガミ言われなくていいし、授業もちゃんとしていたら学ぶことは大いにある。
あんなに退屈だった授業も何だか楽しく感じる。
あっという間に放課後だ。
「奏、今日やっぱ変だよ」
「確かに、朝からなんかおかしい」
「そうか?まあ、久しぶりの学校だしな」
「久しぶり?」
「まあ、俺の事情だ」
「やっぱ頭おかしくなってんのか?」
「なってねぇわ!……多分……」
10年前に戻るなんて良く考えれば頭がおかしい。もしかしたら、この夢はで酒のせいで頭のおかしい夢を見ているのではないかと考える。
まあ、そうだとしても、せっかくの10年前だ!やれなかった事やるぞ!
それからは毎日が楽しかった。
あっという間に夢の中で3日目になる。
こんな夢なら一生覚めないでいいとまで思った。
今日も母の朝ごはんを食べ、学校に行き、友と笑い、放課後に下校する。
こんな学生の当たり前が楽しく感じるのは、やはり一度社会人を経験しているからか。
今日も夢覚めなかったな。
そんなことを思いつつもほんとに10年前に戻ってきたんじゃないかと疑い始める。
3月13日午後5時半頃
学校からの下校中で、駅前の交差点で信号を待っていた。
相変わらず人多いな。
それは今も10年前も変わらない。
信号が青になる。
ふと一人の女子高生に目が行く。
きゃー!!!
やばいやばい!
何だか騒がしい。悲鳴のする方に目を向けると自動車が、青信号の交差点に突っ込んでくる。
──やばい
思わず全力で逃げる。なのに1人の女子高生から目が離せない。
まるで神が今から起こることから目を背けるんじゃないと言わんばかりにまるで目が固定されたように、彼女が視界から消えない。
次の瞬間。
パリーン!!ドーン!!
すごいガラスが割れるような音と鈍い音が響く。
自然と周りが静かになる。
奏が周りを見れば色んな人が口を開けている。
まるでみな叫んでいるかのようだ。
否。叫んでいる。
それはもう、奏には聞こえない。
体が引かれた女子高生に吸い込まれるように自然と向かっていく。
奏は頭の中で思い出す。
今日は3月13日
奏は笑った。目の前で引かれて完全に即死しているであろう女子高生に向かって笑った。
「はは、ははははははは!!!なんで!忘れてたんだ!今日は10年前の3月13日だろ!1番俺の忘れたくても忘れない日だろ!いつもは忘れなれないくせに!なんで今日に限って!」
笑って、叫んで、そして……
血塗れの女子高生を抱えて泣いた。
そのせいで手は真っ赤に染まっている。
「どうして……どうしてだ。こうなることをしっていただろ!どうしてえぇぇぇ!」
そして願った。
「神様!俺はもう、目を背けない!今日のことは忘れ無い!だから……だから!こんな夢は覚めてくれえぇぇぇぇえ!!!!」
泣き叫んだ。子供のように。
そしてだんだん瞼が重くなっていく。
そして奏は意識を失った。
目が覚める。
するとそこは病院だった。
お見舞いに来てくれていた母が、事情を説明してくれた。
過労で倒れていたことを。
会社の友人が無断で2日も休む奏を心配して、奏のマンションを訪ねると、鍵が開いており、中に入ると奏はうなされてながら倒れていたという。
その後病院に運ばれたそうだ。
奏今日の日付を確認する3月13日。
夢と同じように3日経っている。
きっとあの悪夢にうなされていたんだと。
トイレに行こうとしてベッドに手をつく。
そして気づく。
ベッドに真っ赤な手跡が着いていることに。
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