3−7
「そんなことは、容認できません!」
アリーシアは思わず叫んだ。ユーシスがしーっとアリーシアを宥める。
アリーシアはユーシスを振り払い、立ち上がった。そんなことは到底容認できなかった。
ユーシスを睨みつけ、立ち去ろうとする。
「私には、それに賛同することはできません……!」
「お待ちください、アリーシア様。これは最終手段です! 故国が心配ではありませんか!?」
立ち上がり、必死に言い募るユーシスに、アリーシアは立ち止まる。
確かに、故国への思いは募り、今回の話で心配は大きく膨らんだ。
乱れる呼吸を整えて、アリーシアはユーシスへと向き直る。
「……どういうことか、詳しく説明してくださいますか?」
アリーシアは牢の前へと戻り、立ったままユーシスを見つめ返した。
ユーシスは言葉を選ぶようにゆっくりと語りだした。
「元は、小さい我が国の協力だけでは、この戦争には勝てぬと貴国が考えたことです。アンカーディアへ使者を派遣し、以前のように協力を仰げるかまずは確認をする。けれど、それが叶わぬ場合には、アンカーディアの力を削ぐためにグレンを殺し、アンカーディアを倒す……。国のシンボルとしてのあなた様を救出すれば、八賢者のもとから救い出された姫、貴方様がいれば、国民の、兵士の士気も高まりましょう。それが私に託された任務でした」
「ユーシス様たった一人に?」
「私にはアベムが……白銀竜がおりますから」
ユーシスがさらりと笑った。
「そして実際、戦争の準備が進む中ではこちらへ大きく戦力を分けるような余裕もない……それが、本当のところです。私もこの任務がもし無事に終われば、即戦争へと駆けつける所存です」
あまりのことに考え込むアリーシアに、ユーシスは頭を下げる。
「ですから。まずはどうか……アンカーディア様に謁見を賜りたい。貴国からの書簡を届け、窮状をアンカーディア様にお伝えしたいのです」
様、とユーシスは強調した。アリーシアは唇を噛む。
アンカーディアが言っていた西方で起こった戦争というのはこの話だったのかもしれない。アンカーディアは全てをわかった上で、現状を探りに行ったのかもしれなかった。
「話は、よくわかりました……考えて、みましょう。どちらにしろ、アンカーディア様は明日にでもお戻りになる予定です」
アリーシアは毅然としてユーシスへ告げた。ユーシスは再度頭を下げた。
(グレン様……)
もし、アンカーディアが故国への協力を拒否したらどうなるか。
使者であるユーシスは逃されるのか、殺されるのか。
そして、もし無事にユーシスが開放された場合、ユーシスがグレンの命を狙うというのはあり得るのか……。
アリーシアの足は自然と、グレンがいる塔へと向かっていた。
グレンは竜の姿でいつもどおり庭園の真ん中にいた。
気配もなく寄ってきたアリーシアにグレンは驚く。
「あんたが来たことに気づかないなんて、俺もまだまだだな」
笑みの気配がグレンの声から伝わってくる。アリーシアは腕輪をしていたままだったことに気づいたが、黙っていた。
二人はいつものように鉄格子越しに対面した。
漆黒竜が頭を下げてくる。
アリーシアは腕を上げて、そっとその頬へ触れた。
「傷は、治ったのですね……良かった」
「だから言っただろう、魔法があると」
硬い鱗へ指が触れたと思った瞬間、竜はすぐに首を上げる。
その声が自慢げに聞こえ、アリーシアは微笑む。
「そうでしたね。……故国の、アルゴン国の危機はご存でしたか?」
「ああ……知っていた。けれど、ここにいるあんたには関係のないことだ」
「そう、ですか……」
アリーシアは反発することができなかった。
今はその元気さえなかった。
「どうした。……あの男に、ユーシスとやらにでもなにか聞いたか」
「いえ、……はい、故国のことを少しだけ」
竜はアリーシアを見下ろすと、ついで周囲を見渡すように頭を周囲へと向ける。
「あんたには知られたくなかった……どうしようもないことだからな」
アリーシアを憐れむ声が悲しかった。
故国のことを考えることさえ許されないのかと、アリーシアは思う。
「グレン様は、おっしゃいましたよね? 自分のことは考えないのかと。全てに流されていないかと」
グレンが黙り込んだ。
「私は、自分自身のことを、考え始めています。そして、その中にはグレン様とのことも含まれています」
アリーシアはグレンに嘘偽りのない心を短く伝える。
グレンからの返事はなかった。
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