two of a kind.
恩田
1話
大切な人が死んだ。一浪してまで行きたいと思っていた大学を中退した。タバコを吸いはじめた。ピアスを両耳に開けた。髪を染めて、まるで何かに逃げるように、実家暮らしだった家を出て一人暮らしをはじめた。
僕の人生を語るなら、きっとこの言葉で全て片づけられるだろう。だってこの先には何もない。いっそ自ら死ぬなら悪いことをたくさんしよう。神様から最大の罰を受けよう。
だって、世界最大の罪を犯したのはこの僕だから。
そこは、とても明るい場所だった。昼はもちろん夜だって。僕の初めての一人暮らしは、大きく光る薬局前のアパートだった。黄色のレンガで出来た、シンプルな作りのアパート。最寄りの我孫子町駅まで徒歩十分。コンビニはすぐ近くにあるし、そこは商店街につながっている。アパートの前には駐車場があって大きな看板には、タバコをポイ捨てしたら賠償金だとか禁止事項が長々と書かれている。ちなみに、ここの駐車場はとても安い。そしてその駐車場の前に広がる大きな道路を挟んでまるで大型スーパーのような馬鹿でかい薬局が夜遅くまで明かりを灯す。
彼女に出会ったのは、そんな薬局の中だった。
「君、よくここで見かけるけど薬飲んだからって体が良くなるって訳じゃないよ」
突然、僕の横に現れた彼女はこの辺では滅多に見かけない青い髪をしていた。そして雑誌でしか見たことがない綺麗な大きな瞳に、真っ白な肌、しかし一番に目にいってしまったのはそんなことより、耳に開けられた沢山のピアスだった。僕よりも多いそれに、最初とんでもないヤンキーに絡まれたと思って自分の死期を悟ったぐらいだ。
「あの、いきなりなんですか?」
声が震えている。だって僕はこんな格好をした人と話したことがないし、話しかけられることだって初めてだ。僕も人間なのだからとっさに自己防衛したくもなる。しかしそんな僕の姿とは裏腹に、まるで知り合いに話しかけるみたいに彼女はまたしても口を開く。
「だから、君の食生活やらを心配してるんだよ」
他人に僕の食生活を心配される義務なんてない。不意に訪れた不快感に僕は口をへの字にする。すぐに顔に出るからか、
「今、他人にとやかく言われる筋合いはないって思ったでしょ」
とすぐさま僕の心情を彼女に読み取られてしまう。
「ほら、この手元にある薬一旦棚に戻して」
彼女はそう言って、僕の持っていた薬を剥ぎ取ろうとした。僕はさせるものかと彼女の手を払おうとする。またしても出てしまう自己防衛。口から漏れ出る弱々しい言葉達に、まるで男と女が逆転したかのようだった。きっと側から見れば、小喧嘩をしているカップルみたいに見えるだろう。それぐらい、彼女は赤の他人の僕に馴れ馴れしい。
「君、意外に頑固なんだね。隣で見たときはもっと真時めな男の子に見えたんだけど」
彼女はそんな自己防衛に諦めたのか掴んでいた僕の腕を解く。僕は、彼女の口から出た隣で見たという言葉が気になってそらしていた目を彼女に向けた。
「貴方、どこかで会いましたか?」
「まあね。君は鈍感なのか全然気付いてくれないけど」
彼女はそう言ってため息をつく。どうやら僕と彼女は多少の知り合いらしい。どこで会ったかは記憶にないが、大学かどこかで少し話したぐらいだろうかと記憶を巻き戻す。しかしどれだけ考えても答えにたどり着くことができない。
「すいません。俺、すぐ人の顔忘れてしまうんで」
「口調は真面目なんだよねー」
「大きなお世話です」
「へへ、ごめんごめん」
「えっと、どこでお会いしましたっけ?」
「私、実は君の隣に住んでるの」
「へっ?」
変な声が出てしまった僕に、彼女は笑った。
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