レシピ12 「お付き合いしてます」の挨拶に行ったのに料理対決することになってた件

 私こと夢弓はひろくんが到着するのを駅で待っています。

 今日は土曜日。ひろくんが挨拶に我が家へ来てくれる日です。

 そわそわして待っていると改札を抜けてやって来ました。スーツです。カッコいいです。


「スーツ似合ってるね」

「そうかな? 日頃あんまり着ないから自分が浮いて見える」

「そんなことないよ、カッコいいもん」


 そう言うとひろくんは恥ずかしそうに顔を反らす。

 私の家に向かって歩いているとひろくんがちょっと恥ずかしそうに話しかけてくる。


「あのさ、この間の電話……だけどさ」

「ん? 電話?」

「いや、ゆめが切る前に言ったろう」

「あ~あ、あれはねぇ、言いたかったの♪ にへへへ」


 再び顔を反らすひろくん。むむ、これはまさか……


「ひろくんってもしかして、よく私に可愛い! とか好きだ! って言ってくれるけど、逆に言われるのには慣れてない?」

「そんなこと、いや、大丈夫」


 この反応、図星っぽいですかねぇ。私は恥ずかしがるひろくんの腕を掴んで一緒に歩く。


 ***


 そんなことをしているうちに我が家に到着するが、ひろくんが緊張しているので手を引いて家に案内する。

 お父さんとお母さんと初対面をし簡単に挨拶を交わして客間へと移動する。

 和室でひろくんの隣に座り自分の両親と対面する。

 両親とこんな感じで彼氏と並んで向かい合う、そんな今までにない経験に私も緊張してくる。


「初めまして、入月 裕仁と申します。

 本日は、お時間を作って頂きありがとうございます

 夢弓さんと真面目にお付き合いさせていただいています」

「父の黒羽 勇太です」

「母の嘉穂です」


 3人が深々とお辞儀をして挨拶をする中、私はお辞儀こそすれど挨拶はしなくても良かったよね? と焦っておろおろしてしまう。


 そこからはひろくんが持ってきたお土産を渡して仕事の事とか趣味とか雑談が続く。

 お父さんとひろくんが楽しそうに会話しているのを見てホッとしているとお母さんが目で何かを訴えてくる。


「?」


 お母さんが必死で送る視線を見る。ひろくんの湯飲み……!?

 お父さんと話に集中しててひろくんの左手に湯飲みが当たりそうだ。

 私はソッと横にずらす。ホッと胸を撫で下ろし、お母さんに目でミッションコンプリートの報告をする。


 あれ? なんか怒ってる? お母さんが立ち上がりひろくん達の湯飲みにお茶を注ぎ始める。


「ゆめも飲む?」

「え、えぇ御構い無く、はい」


 お母さんの圧を受ける。目が笑ってませんです……。

 そんなやり取りには気付かずひろくんとお父さんは楽しそうに会話を続けている。

 その間に時々お母さんが会話に加わり3人での会話が続く。


 一区切りついて話が切れたところで、お父さんが機嫌良さそうに会話を切り出す。


「いや、正直ゆめの彼氏がどんな人か心配だったけど裕仁くんみたいな人で良かったよ。これなゆめを任せられそうだね」

「そうね、裕仁くんならゆめをお願いしても大丈夫ね」


 お父さんとお母さんからひろくんが認められた。私は安心すると共に誇らしい気持ちになる。ひろくんも照れた感じだけど嬉しそうだ。

 これは顔合わせは大成功だと言えるだろう。


「ところで2人は結婚とかも考えてるの?」


 お母さんの一言で一瞬の沈黙が訪れる。お父さんはちょっとムスッとした顔になる。


「えぇっと、将来的にはそうありたいと思ってますが、今はまだ付き合って日も浅いですし、もうちょっと恋愛の方を楽しみたいと」

「そうねぇ、結婚してからも恋愛出来ない訳じゃないでしょうけど、やっぱり違うかしらね」


 お母さんはひろくんの答えにニコニコしながら話を続ける。


「最近ゆめが楽しそうに料理をするのよ。

 2人で中々面白い事しているみたいだけどその辺りを含めて私は裕仁くんにゆめをお願いしたいのよね。

 プレッシャーをかけるみたいだけど結婚は前向きに考えて欲しいわ」

「はい、分かりました」


 ひろくんの前向きな返事をしてお母さんも嬉しそうだ。

 なんか話がどんどん進んでいる気がするけど、結婚かぁ~。


 考えてなかった訳ではないけど、こう改めて言われると……にへへへへ良いよねぇ~。


 ほわ~っとする私を置いてお母さんの話は続く。


「そう言う訳で私は裕仁くんなら結婚に賛成よ。お父さんはも良いでしょ?」

「あ、あぁ、まあ」


 おぉ! 話が進む、進む。ひろくんをチラッと見る。勢いに気圧されてるけど嫌そうではないし良い流れが来てるですよ!

 ひろくんが私の方を見てちょっと困った様に笑う。

 そしてカッコいいのです!


「それでね、ゆめの結婚には反対よ」


 うんうん、そう反対ですよねーー。この流れからそれは当然ですよ♪


「ってお母さん! こん流れからなんで反対になると!!」

「甘いわねぇゆめ、あんたん料理ん腕で結婚させる訳にはいかんやろう」


 ここに来てこの流は不味いです! おかしいですよ! 引き戻さないと!


「そ、そしたら、どうすりゃよかとね?」


 私の言葉にニヤリとお母さんが笑う。こ、これは嵌められたのかな……


「ゆめ1人で料理ば作ってうちとお父さんば納得させたら認めちゃる」


 ぐぬぬぬ、なんでここに来て料理対決んごとなっとーたい。しかも実ん母が娘の結婚ば反対するとか意味わからん!


「まあ母さんの教え方が悪かったのは認めちゃる。その証拠に裕仁くんとなら上手く作れたんやろ。だったら出来るやろう?」

「よ、よか。うちもやれば出来るってんば見しちゃるけん!」


 ヒートアップする女性陣に対してひろくんとお父さんはおいてけぼりだ。特にひろくんは私たちのやり取りを見てポカーーンとしている。


「話は聞かせてもらったわ! この勝負を受けて立つのよゆめ!」


 場を更に混乱させるべく襖が勢いよく開くと、物凄く楽しそうな表情のお姉ちゃんが立っていた。


「あら? たまき来たの?」

「なんか食材貰おうと思って寄ったんだけど、なに? 面白い事になってるじゃん」


 それはそれはいい笑顔のお姉ちゃんはひろくんの手を取り無理矢理立たせると、次に私の手を取ってお母さんの方を向く。


「私はこの子達の味方よ! お母さん、この子達の愛の力見せてあげるわ! 見てなさい! 必ずこの結婚認めさせてみせるわ!!」


 お姉ちゃんが宣戦布告する。


 なぜお姉ちゃんが?

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