「雨」「折れた傘」で雨の一幕。
シナ(仮名 シナ)
ある雨の一幕。
「はぁ」
なんて運が無いのだろう。
無慈悲に冷たく降りしきる雨の中、木にもたれかかり何度目かの溜息をついた。
私の手の中にあるのは、学校鞄と折れて見るも無惨な状態になった傘、一本。
少し濡れてしまうが、この雨の中、走って帰るよりはここに居る方がまだマシだろう。
「はぁ」
再び溜息を漏らす。
一体、これからどうしようか。
止みそうもない雨を眺めていた目を足元に落とした、その時。
「お前、こんな所で何してんだ?」
唐突に聞こえた、聞き覚えのある声に顔を上げると。
案の定、目の前にあいつの顔があった。
慌てた私は、咄嗟に折れた傘を後ろ手に隠し、「べ、別に?」と返した。
我ながら、実に下手な誤魔化し方だと思う。
でも、あいつに折れた傘なんて見られたら、絶対に笑われる!だってあいつだもの。
私は、あいつが何も言って来ないことを祈りつつ、ぼろを出さないようにと、明後日の方角を向く。
だけどあいつは、私が後ろ手に隠した傘を見つけ、「傘あるんなら帰ればいいのに」なんてことを言ってくれる。
帰れるものなら、私だって帰りたいわ!
そんな言葉を心の中で愚痴っていると、
「あっ…ごめん」私の傘が折れている事に気がついたらしい、あいつの口からそんな言葉が漏れた。
分かったならさっさと帰れ!
そんな私の内心とは裏腹に、あいつは少しの間、何故か思案顔を始める。
そして、何か意を決したのか、急にこちらに向き直り……。
「えっ?」
気がついた時には、私は手を引かれ、よりにもよってあいつの傘の中に入っていた。
「えっ?ちょっと?」
困惑して傘から出ようとする私に、
「じっとしてろよ、濡れるだろ」とあいつが呆れた顔をしながら押しとどめてくる。
その態度に一言言ってやろうと、あいつの顔を見上げた私の口からはそのあと何も言葉が出てこなかった。
「送る」
そうぶっきらぼうにそっぽを向いて言った、あいつの耳が真っ赤に染まっていた。
そんな雨の一幕。
「雨」「折れた傘」で雨の一幕。 シナ(仮名 シナ) @sina-5313-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます