第59話 クランメンバーズ Ⅺ

ケンタ:じぃじ! 平気か!?



 ケンタ君が慌てて黒首をしめあげた。

 灰首で弱点を看破されたのであろうジキンさんに再度ブレスを吐こうとその顎を大きく開くが、首を強く握り締められてブレスは不発。

 灰首が忌々しそうにケンタ君を見定めた。



「ジキンさん!」



 すぐにその場で蹲っていたジキンさんに駆け寄るが、どうも様子がおかしい。

 ジキンさんがぐったりしている横で、カーシャ君が虚空を見上げて何かを呟いていた。


 耳を澄ませて聞き届ければ、それは神格を褒め称える祝詞。

 ジキンさんの肉体の内側に、ライダースーツを施さずに神格が宿ろうとしている。


 まずい! そんなことになれば一大事だ。

 如何にツァトゥグァさんと融和性が高くとも、ぶっつけ本番で行えるほど神格召喚は甘くない。


 すぐにその詠唱をやめる様にカーシャ君に訴えかけるが、



「かいちょーをしんじて。きっとかいちょーならこくふくできます。わたくしはそうしんじています」



 鋭い視線で射抜かれた。

 そこまでの信頼を与えていた?

 しかし。その肉体が膨らみ、初めて神格を召喚した時に乗っ取られて暴走したアンブロシウス氏と( ͡° ͜ʖ ͡°)氏を思い浮かべる。



「〝き〟ました」



 そうこう言ってる内に神格がジキンさんの肉体に宿ってしまった。変異は起きない。ただ、のそりと立ち上がったジキンさんは知らない言語でカーシャ君を手懐け、寄り添うカーシャ君の頭の上の手を置いた。



「あなたは、ジキンさんなんですか?」


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。あア、少シ口調を整えなイとダメか」



 いつもの様な憎まれ口の後、どうも私に伝わらなかったことを察して発声練習を始めた。



「少し修行をさせてもらってました。憑依型のレッスンです。ね、ツァトゥグァさん?」


[⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎]


「もう、お国じゃこの人には伝わりませんよ。まあその事はどうでもいいんです、マスター。僕の出番がこれでお終いだって決めつけてたでしょ? 困るなあ。ここからが本番なのに」



 不敵な笑み。いつもの彼がそこにいる。

 太々しい笑みを浮かべ、苦虫を噛み潰した様な表情で灰首を見定める。



「〝さて、お仕置きの時間だ〟」



 取り出した棍棒。その周囲が紫色に濁り出す。

 先程浴びたブレスを吸収したか?

 それを受け止めて、武器に付与したのだ。

 ジキンさん向きにカスタマイズされた能力。


 ( ͡° ͜ʖ ͡°)氏とはまるで違う応用。

 やはりプレイヤーによっては得られる力に差が出てくる?



「じぃじ!」


「大丈夫だ、ケンタ。お前は自分のことに集中していなさい。じぃじはこれから強力な一撃をかます。そうしたら出番だ、準備していなさい」


「わかった。無事ならいいんだ」


「結構。さぁ、始めようか──領域展開〝ヤークシュ〟」



 ジキンさんの祝詞で、周囲の世界が闇に覆われた。

 否、薄暗くなっているがそこは宮殿の様である。


 上空からものすごい気配が降り注ぎ、私を含めてプレイヤー全員が身動きできずにいた。

 私の束縛はすぐに解除されたが、古代獣でさえその拘束に抗えずに萎縮する。

 まるで雷親父に捕まった小学生の如く、どんなお小言が飛んでくるか身構えている様だった」



「少しキツイぞ? 混沌領域……」



 ジキンさんの腕に血管が浮き出るほどに力がこもる。

 否、その腕がどんどんと肥大化し、どういう訳かそれに応じて目の前にヤマタノオロチの核が露わになった。


 まるで神に捧げられた供物の様に。

 そこへジキンさんの渾身の一撃が炸裂する!



「〝ストロングスマッシュ〟!!」



 ただの暴力による強打が、ヤマタノオロチのLPに致命傷を与えた。

 しかしそれだけではない、本来なら白首が居るだけで状態異常にかからないはずのヤマタノオロチがジキンさんが受け取った状態異常の全てにかかっていた。


 まるでやられた事をそのままやり返すかの如く。

 彼の性格が滲み出た一撃である。



「お見事!」


「これを使うのにいちいち全てのダメージを受けなきゃいけないので僕も辛いんですよ。後LPの交換が可能なので弱体化してればしてる程チャンスです」


「それ、無条件で使えるんです?」


「本番だと判定が入るんでしょうけど、こっちなら特に判定は求められないですね」



 さっきよりピンピンしてるジキンさんが余裕そうな表情でそう語った。

 まるでプロのレスラーのような脳筋思考の技である。

 彼らしいと言われたら彼らしいが。


 ヤマタノオロチに全てのダメージと状態異常を押し付けたジキンさんが、ケンタ君に促す。



「もう良いぞ!」


「なんかここまで弱ってるヤマタノオロチ初めて見るんだけど」



 私も初めて見るよ。



[⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎]


「ツァトゥグァさんまでお小言かい? 君の能力をどう使おうと僕の勝手でしょ?」



 どうやら彼も私とクトゥルフさんのような親友関係を築けてるらしい。

 ここで時間稼ぎが終了し、マリン達の大技〝ライトニングツインパンサー〟が完成してみるみる残りLPを削った。


 状態異常で動けなくなったヤマタノオロチは、いっそ殺せと全ての首を垂れ下ろしてその場にグデっとなっていた。


 そして十数回行われたテイムを勝ち取ったのは、何故かマリンだった。



「ずるいよー、マリンちゃん。マスター、もう一回! もう一回お願いします」


「ユーノがここまでグイグイくるの初めて見た」


「それぐらい欲しいんじゃねーの?」


「私はいくらでも良いよ。というか、このメンツで平気?」


「このメンツだから良いんですよ! 私とマリンちゃんだけだったら多分ここまで戦えてませんし!」


「と、いう事でジキンさん行ける?」


「僕は大丈夫。ケンタも平気か?」


「俺は消化不良だよ。じぃじ達が活躍してっから出番ねーんだもん」



 拗ねる孫達。

 まぁ前回の今回で私達の信頼の何割かは確実に失ったのは確かである。



「取り敢えず神格召喚おめでとう」


「どういたしまして」


「ツァトゥグァさんは近くに?」


「居ますよ。と言うか肉体が混ざってるので、僕が今はツァトゥグァさんです」


「ああ、そんなところまで私に似なくたって良いのに」


「|◉〻◉)カーシャさん、負けませんよ?」


「そっちこそ。せいぜい首を洗って待ってることね」



 幻影達はどちらのマスターが格上かで揉めている。

 ポッと出のジキンさんをそれだけ脅威に感じてる?

 それほどまでに神格と肉体をリンクさせるのは難度が高いのか。メモしておこう。



「そう言えばカーシャ君。随分と日本語が上手になったね?」


「会長のおかげですの。ツァトゥグァ様と正式に契約していただいたことで、わたくしの肉体も成長しましてよ?」



 そういえばどこか肉付きが良くなったと言うか、背も伸びてる? これはスズキさん、もといルリーエがライバル心をむき出しにしてくるのもわからなくない。


 以前まではどこかたどたどしかった口調も、今ではすんなり話せるようになっている。

 幻影には契約状況次第ではそんな影響が出るのか。

 前の状態も可愛いけど、今の子供が背伸びして秘書をしてる感じも愛くるしい。どっちも甲乙付け難いな。



「欲しがってもあげませんよ?」


「結構です。ウチにだって優秀な秘書がいますから。ね、スズキさん?」


「|◉〻◉)!」



 スズキさんが何かを察したように着ぐるみを脱ぎ去って、本来の姿をあらわにした。



「勿論です、マスター!」



 いつぞやの真面目モードで対抗する。

 孫達からは「いつもの先生だ!」と絶賛である。


 あれ? こっちの姿が彼女達の教師の姿と似ているの?

 よくサハギンスタイルを受け入れられたものだ。

 探偵さんところの時雨シグレ君は否定してたって言うのに。



「よくわかんねーけど、俺達にもいつかそう言う相棒ができるってことだな?」



 理解はしてないと言いつつも、少しだけ自分の祖父と心を通わせるカーシャ君へ嫉妬の気持ちを見せるケンタ君。

 マリンなんかは、自分たちはどんな相手が来るんだろうと不安と期待がないまぜになった表情をしていた。



【サブマスターはやはりサブマスターだった】

【このクラン、目立たないサブマスターでさえこれだもんな?】

【いや、聖魔大戦で活躍してるプレイヤーって別に有名人に限定されてるわけじゃねーし】

【シェリルやアキカゼさんが抜擢された時は?】

【期待を裏切らないなって】

【有名人で草】

【エントリーメンバーは別にその人ばっかりってわけでもねーし?】

【そこはマジ謎に包まれてるよな】

【しかしエントリーされるまでにこうも肉体との親和性を通わせられるプレイヤーって他に居た?】

【アキカゼさんしか知らん】

【アキカゼさんが異常個体なのは最早既出】



 誰が異常個体ですか、誰が。


 ヤマタノオロチが復活するまでの時間を、後回しにしていた雑談に回す。そこでは新たな見解と考察で溢れかえっていた。

 リスナーの中にはすでにベルトに選ばれて向こうに行ったことのあるプレイヤーも複数名。


 私は神格召喚をしてからの方がいいと強く推すけど、実際は出来ずままに抜擢されるプレイヤーの方が多いそうだ。


 しかし出来るとできないのでは遊べる幅が格段に変わってくる。拠点を持つなら確実に神格召喚できた方がいいのが私の見解。けどどう遊ぶかまでは私があれこれ言う必要もないか。


 いつの間にか私は誰かに意見を押し付ける側に回っていたことに気づき、恥ずかしくなる。

 どうせ遅かれ早かれモノにするのだ。

 人は人、それでいいじゃないかと自己解決する。



「さて、向こうも準備が整ったみたいですね?」



 一度消えた領域への扉が再度現れる。

 その前で待機していた私達はぞろぞろと入って行き、ユーノ君がテイムできるまで何度も繰り返すことになった。



「これはすごいぞ! 侵食率がギュンギュン上がる!」



 正気が保ててるとは思えぬハイテンションでジキンさんが暴れ倒し、



「もーー、どうしてマリンちゃんは一発で成功したのに私のところには来てくれないの!」



 ユーノ君がキレ散らかす映像が後半も配信の主な話題となった。だいたい回数にして13回目くらいか。

 ついにユーノ君もテイムに至り。

 そして侵食度もみるみる上げていたらしい。


 古代獣との戦闘回数に何かトリックでもあるのだろうか?

 さらに謎が深まる陣営対戦の仕掛けに「まぁ別にいいか」と開き直り私は楽しい孫達との語らいに胸をほっこりとさせた。


 配信をアーカイブ化する際に数回に渡ってユーノ君からチェックが入り、ようやく公開できる頃には大量の編集がされていた。

 ジキンさんのあれこれは全て写していたのに、自分がハメを外したところは全部カットされていた。


 彼女、自身の闇は徹底的に葬るタイプらしい。

 でも実際に生で見てた人は君のことそう見ないよ?

 喉まで出かけたが、少女を泣かせる趣味はないのでそのまま飲み込むことにした。

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