第42話 ドリームランド探訪 ⅩⅩⅩⅠ

「こんにちは、アキカゼ・ハヤテです。今日はもりもりハンバーグ君と水神クタアト戦をいくつかしていきたいと思います」


「|◉〻◉)ノノわーパチパチ」


「こんにちは、お父様さんのご期待に添えるよう頑張ります。取り敢えずこの日のために地下に通い、水の契りを8まで高めてきましたよ」


「マスター、頑張ってる!」


【わこつー】

【ハンバーグさんお疲れ様ー】

【むしろこれから始まるんだが?】

【そう言う意味じゃなくて、第二の機関車の人枠って意味で】

【あー、あの人聖典側だからしょっちゅう呼べないのか】


「それ以前に予定があるみたいなこと言ってましたよ。多分もう何かしらイベントを起こしているのでしょう。そう言う意味で手が離せないんでしょう」


【それどこ情報?】


「お義父さんのブログです。今や魔導書扱いされてて誰も中身を言及しないんですよね」


【魔導書www たしかに画像が冒涜的なものだし】

【その魔導書、なんの神格が呼べるんだ?】

【ニャル様呼べたりして】

【やめなさい、また無差別キルされるぞ】

【あれ本当に強制ログアウトされっから】


「さて、そろそろいいかな? ハンバーグ君は何か出せる情報ある?」


「でしたらお義父さんに頂いたアイテムでダンジョンのレベルが上がりました」


「お、やったね。手配した甲斐があったよ」


【なに手配したの?】

【クタアト素材?】

【クタアトってダンジョンに必要だっけ?】


「いえ、そちらではなく霊樹の木片の方ですね」


【霊樹www破壊して回ったんか?】

【これはシェリルさんマジギレ案件】

【ダメですよー、ニャルさんを放し飼いにしちゃ】

【あの人結構そこらへん散歩してるイメージ】

【放し飼いwww】


「酷いねえ、一応シェリルには了承してもらって手に入れたものだよ。あの霊樹は聖典陣営をパーティリーダーにすれば魔導書陣営もパーティメンバーにしていた場合、報酬として霊樹の木片を手に入れられるんだ。その代わりお土産として持たせられるアイテムが我々魔導書陣営にとって厄介極まりなくてね。中にはこちらのステータス上限を下げるものまであった。アイテムを貰う代わりにそのアイテムを譲歩した経緯があるんだ」


【ステータスダウンアイテムとかエグくない?】

【その為のクタアト!】

【ああ、初回確定勝利か。事前にわかってれば対処のしようはあるな】

【問題はあれに勝てる相手がアキカゼさん以外にいるかって話だが】


「まぁ向こうもそこまでこちらを強烈に嫌ってるわけでもないし、私達はやれることをやる感じだよね」


【この人……自分が一体どれだけのことやらかしてるのか気にしてないのか?】

【ただのブログが魔導書扱いされてる人だぞ?】


「えー、ただの年寄りの自慢話だよ? そんな大したこと書いてないよ。ねぇ?」


「僕からはノーコメントで」


【このやりとりだけで内容のヤバさが見えてくるのが】

【ハンバーグさんですらやばい領域にあるのに】

【その人からコメント否定されるものだぞ】

【あっ察し】



 このまま続けるとまた私が悪者になる流れだね。

 そしてすぐ横を見やれば何故か砂浜にパラソルを刺して椅子にもたれかかっていた。ジリジリと照らす日光から逃げるようにサングラスまでしている。なにしてるのこの人?



「スズキさん」


「|◉〻◉)なんですか?」


「なんで今ビーチチェアに座ってたんです?」


「|◉〻◉)お話長くなりそうだなって。ちょっと息抜きを」


「スズちゃん最低〜」


「じゃあ出発するからしまって」


「|◉〻◉)ジュース飲んでからでいいですか?」


「何味? その色味から聞かなくてもわかるけど」



 ほんのり塩の香り。

 青黒い液体がワイングラスの中で揺れた。

 そこに差し込まれたストローを器用に咥え、啜る。



「|ー〻ー)ナイショ♪ 今片付けるので待っててください」


【いつ見ても不思議だよな、そのエラの中】

【ポケットみたいに仕舞うな!】

【注意:着ぐるみです】

【ハッ! 見た目の艶めきがあまりにも艶かしいからてっきり本物かと!?】

【大丈夫、リリーちゃんは中身入りと言われてても脳がバグるから】


「|///〻///)ゞそれ程でも……」


【褒めてないんだよなぁ】

【今褒める場所あったか?】

【このこのリアクションいまいち反応に困るよな】


「ほら、置いていきますよー」


「|◉〻◉)あぁん! 待ってくださいよー!」



 リスナーさんとしっかり話し込んで私の話題をかっさらってくれた功労者を置き去りにする。

 あの人話し込むと長いんだよね。


 さて、ここから先は探索だ。

 くま君がいた時は探索どころじゃなかったので、ここからが本番だ。



【海ってこんなに綺麗だったっけ?】

【思い出される巨人族との同伴行動】

【巻き上がる泥水】

【砕け散る祠】

【綺麗な珊瑚礁が一瞬で海の藻屑に!】

【やめろ!】

【かなしい事件だったよね】

【ハンバーグさんの異形っぷりから視線を外せば】


「え、僕?」


【そこ、意外そうな顔をしない】

【すっかりクリーチャーになって】


「マスターのは格好いいの!」


【ヤディスちゃんは可愛いですね】

【僕もこんな子が欲しかったです】

【まずは相手探しから頑張ろうな?】

【チクショウ!】



 流れるコメント群をそのままに、ハンバーグ君の触腕がぺたぺたと祠を触る。



「何かわかった?」


「祠から取れる鉱石の違いはありました?」


「私は採掘が低いから変わらなかったとだけ」


「ふぅむ。まだ何かあるそうなんですよね。少し調べます」


「わかった。私もまだ影の箱を探せていないんだ。わかったらまた連絡するよ」


【親の顔より見た探索パート】

【もっと親の探索パート見て】

【草】

【ごめんな、うちの親探索しないんだ】

【しっかしハンバーグさんの調査姿は様になってるよなー】

【それ】

【1人端っこでスルメ炙ってる子がいますね】

【リリーちゃん!】


「|◉〻◉)呼びました? 今いい感じに炙れてるんでちょっと待ってください」


【ここ海中!】

【しかも深海だから火も……ってなんで火が付いてるんだ?】

【今? 今突っ込むかそこ?】


「スズちゃん、それ火じゃないよ。とても強いエネルギーを感じるの!」


「|◉〻◉)え? でもスルメが炙れて……あっ!」



 バチン! 

 強い反発をするように、光に触れていたスルメが海の藻屑になった。そもそも火じゃないそれはどこから湧き出たのか?



「マスター! ここに怪しい光源があるの!」


「どれ? 以前お義父さんが来たときにこれは?」


「見てないよ。初めて見る現象だ」


「何か僕たちに共通点があるのでしょうか?」


「さあ? 何はともあれ調べてみる必要はあるよね。スズキさんもこう言うの見つけたらスルメ炙る前に教えてくれなきゃ」


「|◉〻◉)つい……」


【ついでネタに走る幻影がいるみたいですよ】

【反省の色も見えないのほんま……】

【まずは芸に走るのやめてもろて】


「ナビゲートフェアリーの反応はなし。いよいよもってわからないな」



 ピシッ、ピキキ、バキン! ビシッ



 その光は、空間を軋ませながらヒビを入れる。

 まるでヒナが卵から帰るように内側から何かが飛び出てくる。

 腕が、大きな腕が隙間から出てきた。



 ゴッ!



 一瞬で海水が干上がるほどの高温が渦巻く!

 高熱によってスズキさんが一瞬で消滅した。

 ハンバーグ君はヤディス君を庇い、現れ出た存在を見上げる。


 そこには球体が浮かんでいた。

 太陽のような高熱を伴った球体だ。

 それが炎を纏いながら空中に浮いていく。



[WARNING!]


 <特定の条件を満たした為、神格:クトゥグアが降臨しました>


 <降臨したクトゥグアは一定期間ドリームランド内を巡回した後帰還します>


 <クトゥグアの降臨を目撃し、生存したプレイヤーにはボーナスポイント+5獲得。マグマ無効獲得>



【アイエエエエ、ナンデ!? クトゥグアナンデwww】

【クトゥグア様の火でスルメ炙ってた魚人が居ましたよ】


「実はクトゥグアの素材、ダンジョンに必要なんですよねぇ」


【おい、アレも狩りの対象か?】

【難易度ヤバくて草】

【もうアザトース様とか出てるから】

【でも素材扱いまではしてねーだろ?】

【まず倒せるのかって話だが】


「これをチャンスと取るかピンチと取るかですね?」


「そもそも何故ここに出たんでしょう?」


【もしかして:輝くトラペゾヘドロン?】

【ああ、ありそう】

【つーか別にクトゥグア様はニャル様のことなんとも思ってないやろ】

【アレはニャル様が一方的に嫌ってるだけやぞ】

【それで過剰反応したとか?】



 色々考察が捗るよね。わかるわかる。

 それよりも私は思い付いた行動が実行できなくてヤキモキしていた。



「クトゥグアはもう行っちゃった?」


「海水が元に戻ってるんでもういないと思います」


「そっかぁ、残念。居るうちにクタアト消しかければ周回早そうかなって思ったのに」


【おい!】

【クトゥグア様を便利な道具扱いすんな】

【実際けしかけたとして生き残れんの? 降臨しただけで海が蒸発すんだぞ?】

【下手に敵対行動したら消し炭にされそう】


「マグマ無効もらったから大丈夫だよ」


【クトゥグア様の本体ってマグマの比やないやろ】


「多分それって、一緒のフィールドにいてもじっとしてれば生き残れるチャンスあるくらいで逆らっていいタイプのスキルではないと思いますよ?」


「ああ、やっぱり? 本格的に対処が必要か」


「もう一つの対極の神格、イタカの降臨条件を揃えてぶつけるしかなさそうですね」


「怪獣大決戦だ」


「フィールドの方にダメージが出そうな戦闘になりそうですよね。僕たちの拠点の近くではやってほしくないです」


「ねー」


【この人たち、自分さえ良ければいいと思ってそう】

【逃げてー、本戦参加の人超逃げてー】

【これはシェリルさんも苦笑い】

【下手しなくてもステータスの上限下げられそう】

【それ】

【この人達放っておくだけで碌なことしないもんな】



 酷い言われようだ。

 誰のために配信してるかわからなくなるよね。

 もちろん、私の好奇心が勝るんだけどさ。

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