閑話 ダンジョンライフワーク Ⅳ

 ※もりもりハンバーグ視点


 お義父さんに手伝って貰って少しは素材が集まった。

 が、問題は山積みである。


 ティンダロスの猟犬の牙は目標の52倍ほど集まった。

 集め過ぎたと言っても過言ではない。

 それはともかくとして、足りないのはDPの方だ。

 

 DP:1,000

 階層+を解放するのに残り9,000

 どこで手に入れるか?

 前回のようにモンスター生産場を建築してボーナスで付与されるのを待つか?

 それとも何かを解放させるボーナスで貯めるか。

 わからないことばかりだ。

 

 【アイテム】

 グラーキの魂片×50

 グラーキのかけら×43

 深淵細胞バグ=シャース×10

 ティンダロスの猟犬の牙×5,297


 今の手持ちとDPならもう一つモンスター生産場を作れるけど、現状それをする意味合いは少ない。

 場所を取る上使い方がよくわからないのだ、あの施設は。

 その上量産させるモンスターは外から連れてこないといけないらしく、ダンジョンで生み出すものではないらしい。


 もうこの時点で僕はお手上げ状態である。

 けど、お義父さんに大見栄切ってしまった手前、できませんでしたとは言いたくない。

 なんの意味もなくてもやってみよう。

 それ以前に以前からどうなったか気になるものもある。



「ヤディス、生産場に置いたグラーキは増えてる?」



 そう、前回せっかく作ったんだからと神格であるグラーキを置いてみたのだ。他にモンスターも居らず、ショゴス達は建築に大忙し、手の余っていたグラーキをその施設に配置していた。



「3匹いる」


「増えるんだ、神格でも」


「みたい」



 一度手懐けたら通常モンスター扱いでもできるのだろうか?

 よく分からないけどそんなにたくさん居ても困る。

 何せ設置できる神格の席は一つしかないのだ。



「ではその二匹を撤去で」


「はーい」


「そしてもう一つの生産場を作るよ」


「グラーキに手伝わせる?」


「可能なの?」


「一応人材扱いになってる。体も大きいからコストも高いけどショゴスよりは優秀っぽい」


「ふーむ、彼らも決して無能というわけでもないんだけど。ちなみにコストはどれくらいかかるの?」


「100だって」


「やっぱりショゴスで」


「はーい」



 どんなに優秀でも初期コスト全部使ったら建築する場所すら奪いかねない。

 ヤディスには悪いがその情報は後で使わせてもらおう。

 今はどうにかしてコストの上限を増やさなければ。

 DPも貰えるだけ貰うべく、無駄打ちも辞さない。



 そしてこうなった。


 ◼️◼️◼️

 ◼️◼️◼️

 ◼️◼️ ⬜︎

 

 下段右マスの入り口にはなにも設置できず、下段中央マスに石像。

 上段左マスはコアがあり、それ以外の全てをモンスター生産場で埋めた。

 

 1マス分は出来上がってるので、残りの五枠はショゴス達の手が空き次第着工してくれるだろう。

 

 グラーキの魂片は全て使い切った。

 そしてDPも半分まで減る。

 一つくらいランクアップさせても良いかと思ったが、それをすると他の施設を作れなくなるので本末転倒。



「ショゴス達はコスト0で使えるから、増やすならショゴス達がいいかな?」


「でもショゴス達はマスターの奉仕種族じゃないよ?」


「そうだね。って、何か問題が?」


「増やしてもマスターの命令を聞いてくれるかは怪しいかな? スズちゃんのマスターの願いでお手伝いはしてくれてるけど、仲間を得体の知れない装置に乗せるかなって思うの」


「それは確かに。じゃあ増やすならお義父さんの手を煩わせずに自ら支配下に置く必要があるのか」


「だと思う。このショゴス達はスズちゃん所のショゴスだから」


「分かった。その件は一度僕の方で預かっておくよ。無理に量産体制に入らず、ヤディスの方で労ってあげて」


「はい! マスター」


「では僕はでかけてくる。留守を頼むよ」


「スズちゃん達が来たら?」


「丁重にお通ししてあげなさい。積もる話もあるだろう? ヤディスだってゆっくり休んでいたっていいんだよ? ガタノトーア様だって働き者のヤディスにそれくらい許してくれるはずだ」


「ありがとう、マスター」


「ではね、僕は一度向こう側へ帰るから。用があれば呼ぶよ」


「はい!」



 銀の鍵を使い、向こう側のフィールドに戻る。

 さて、確かセカンドルナ近郊のダンジョンにショゴス達の巣があった筈だ。


 お義父さんが居れば案内してくれそうだけど、こちらの用事を押し付けるのは前回してもらったばかり。

 立て続けに頼むのは不義理だな。

 よし、掲示板で情報を拾っておくか。

 それとお義父さんのブログ経由でどざえもんさんとも連絡をとっておかねば。


 と思ってるところでブログが投稿された。

 相変わらずツッコミどころが多くて誰も話題を拾ってないよ。

 それが逆にいつも通りの雰囲気を作り出してるからおかしいよね。


 よし、どざえもんさんと連絡が取れたぞ。

 翌日の昼過ぎなら時間が取れるらしいからショゴスの件は午前中に済ましてしまおう。


 お義父さんはお義姉さんと拠点を増やしに行くそうだ。

 また僕のいないところで大冒険が待ち受けていることだろう。

 僕もお力になりたいが、今は不足分を補填するのに注力した方が賢明か。


 そして翌日。

 ショゴス達の巣穴を発掘し、ニトクリスの鏡なるアイテムを入手する。

 一日一回ショゴスを召喚できるらしいアイテムだけど、もちろん召喚する際に正気度ロールが回された。

 これを何の気なしに扱えるお義父さんは相変わらず意味不明だ。

 なぜそんなに無茶ができるのか?


 考えなくともわかる。

 お義父さんにとって正気度ロールなんてあってないようなものなのだ。

 あの貫禄で誤魔化しているが、きっとすでに正気度ロールを無効化する技能か何か持っているんじゃないか?


 考えられるのは神格との絆ぐらいか。

 僕もお義父さんほどガタノトーア様と縁が深まれば、あるいは……いや、焦る必要はない。


 僕は僕のペースでやればいい。

 ついつい羨んでしまうけど、そもそも比較する事すら烏滸がましい。スタート地点からして違うのに、比べてどうするんだ。

 勝ちたいのか?

 勝ってどうするというのか。


 心のモヤモヤを払拭するように僕はどざえもんさんとの待ち合わせ場所へと赴いた。



「やぁ、お待たせしてしまったかな?」


「いいや、今来たところさ」


「それは良かった。ところで今日は幻影の姿がみえないが……」


「ああ、彼女には用事を言いつけてあってね。それとも幻影がないと厳しい場所なのかな?」


「ああ、いや。別に聖典も魔道書も関係ないさ。少し難易度が高いだけでな」


「お義姉さんから伺ってます。なんでもサウナが可愛く見えるくらいの灼熱地帯だと」


「言い得て妙だ。しかし問題はそれだけじゃなくてな」


「まだ他に何かがあると?」


「それは現地で説明するとしよう。最初で音を上げてくれるなよ?」



 そう言われて案内された場所は、マグマの熱気で肌が爛れる程に一歩踏み出した足が動かない。

 確かにこれが第一歩はきついな。しかしこの程度で僕が音を上げるわけにはいかない。



「領域展開……」


「おっと、それはやめた方がいい」


「え? うわっ!」



 正気度ロールが失敗する。どうして?

 こうも一方的に失敗判定になるのは……まさかここがすでに聖典側の領域だったと?



「どざえもんさん、もしかしてここは?」


「ああ、ここはムーを祖とする龍神の住処。そして龍神が奉るのは精霊だ。探偵の人が言ってたが、妖精すら聖典の末端に位置するらしい。ならばその上位存在たる精霊なら?」


「つまりここでは僕達魔導書陣営は自力で到達しなくてはいけないと……」


「そういうことだな。俺もアキカゼさんも地力到達だ。ズルをするなとは言わないが、やめといた方がいいのは確かだな。簡単なのは火の契りを交わすことだ。そうすればマグマ耐性が取れる」


「しかし僕の目的は」


「ああ、上位の水の契りを手に入れることだったな。しかしそれを一点突破で上げるのはお勧めしない」


「というのは?」


「最大に伸ばすのはそれで良い、が精霊の姿は基本見えない。そいつらとどうやって戦うつもりなんだ? 目に見えず、攻撃されたい放題。ここはそういう場所だぞ?」


「つまり、妖精誘引を最上限に高めるためには何かを犠牲にして前に進まねばならないと?」


「そうだな。まぁ、龍神と会話するんでもないし、契りを交わすだけなら精霊と戦って勝てば良いだけだ」


「普通に歩くだけでもここまで気が滅入るのに、更に目に見えない相手を打ち倒す必要があるんですか」


「やっぱりやめとくかい? 俺も別に無理に勧めるつもりはない」


「いいえ、やらせてください。これを越えねば僕に成功はないですから」


「わかった。なら手伝いはそこそこに精霊の出現マップを渡そう。最初は向こうの動きを教えるが、全部は面倒見ないぞ」


「それで良いです。これは僕が乗り越える道。スパルタで結構」


「ふむ、なかなか気骨のある男だ。アキカゼさんが気にいるのがわかるな」


「そんな大層なもんじゃないですけどね」


「いいや、目標なんて大層じゃなくて良いのさ。こうと決めたら前のめりに進んでいく。俺ぁ、そういう奴が大好きなのよ。アキカゼさんも同じこと言うんじゃねーかな?」



 ああ、なんとなくわかる。

 この人はどことなくお義父さんと似てるのだ。

 年は離れていても、気持ちのあり方がこうも似るものなのか。


 結局その日、水の契りは6までしか上げることはできなかった。

 どざえもんさんはそれでも一日でそこまであげるなんて大したものだと褒めてくれたけど、当時ジョブもベルトもない時代にスキルのみでこの場所に到達したこの人がどれほど凄いのかなんて今更持ち上げるものじゃない。


 凄い人はお義父さん以外にもいっぱいいるのだ。

 そんな人から期待をかけられて初めて、僕は自分がその頂に足をかけようとしているということに気がついた。


「そうか、僕は……」


「どうした?」


「いえ、光栄です。絶対にものにしてみますよ」


「その意気だ。俺も楽しみにしてるぜ? 精霊術が必要だったらいつでも呼んでくれ」


「その時は頼りにさせていただきますよ。では今日はここで」


「ああ」



 どざえもんさんとは地下フィールドの入り口で分かれた。

 ログアウト地点をその場にしたのはまた挑むときに便利だからだ。

 そして向こう側へは銀の鍵でいつでも行き来可能。


 僕はダンジョンのモンスター生産場建築の合間、ここに通って水の契りを最大まで高めた。

 初日は手伝いありきだったが、目と耳を手に入れてからはソロで挑み続けた。


 そして実際に挑んだからこそ、探偵の人の凄さが浮き彫りになる。あの人との実力差がこうまで離れてる現実を突きつけられ、身が引き締まる思いだった。

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