第2話 家族対抗親睦会 Ⅱ

 それからきっちり三時間後、各チームの結果が発表される。


 <チームアキカゼ>

  三十五ポイント



 <チームハンバーグ>

  五十二ポイント



 <チームヒャッコ>

  二十一ポイント



 その結果にはもちろん集まった家族全員が驚いていた。

 何故かと言えば私は単独で九尾に挑み、マリンとパープル、オクト君はvsヨルムンガンドに挑んでいたからだ。

 最初こそ一時間での討伐は厳しかったが、パターンさえわかれば後はどうとでも対処できたのだろう。

 残り二時間で八体の討伐に成功していた。

 その間に私は九尾君と二戦して勝利をもぎ取っていた。


 本当だったらクトゥルフさんに忠誠を誓った義兄弟の身。

 けどあれってベルト持ちライダー限定能力なんだよね。

 役目を終えたら私のこと忘れちゃったみたいで、全然融通効かせてくれないものだから全力でお相手させていただいたよ。

 あと多少力はセーブした。


 ヒャッコ君が言う様に、そうポンポン倒せる相手ではないのだ。もりもりハンバーグ君の能力でならそれが可能なのは、神格ガタトノーアの恩恵以外無い。

 あの能力の特性は暴食だからね。

 全部内側から食い破っていくんだ。

 だから侵食率が上がっていくたびに相手の行動がだんだん弱々しくなるのだけど……一体何を倒したらあんな数字が出せるのか判ったものではない。


 そんなわけで、私たちは今回自分たちの戦いに不正がないのを示すためにお互い動画を残していた。


 後でそのまま見せ合うのが目的だ。

 単純にそこで興味を持って貰えば話題にも困らないだろうからね。



「父さん、凄かった」


「お父さんもやればできるんじゃない」


「やるじゃん、父ちゃん」


「でも討伐速度が速くなってもドロップアイテムが落ちなくなるのは勿体無かったわよね」


「そうだね、僕たちのクラン的には美味しくない能力だけど、お義父さんはそれをわかってて今回この方式にしてくれたんだと思うんだ」


「なるほど、父さんらしいわ。あなたに花を持たせてくれたのね?」


「最初で最後のチャンスだからね。でもこれで僕は戦力として貢献出来るようになった。全部が全部ドロップ品が美味しいエネミーばかりではないし、中には厄介なモノもいるからね」


「そういう意味ではあなたの能力はとても助かるというわけね?」


「そう思ってくれると気が楽になるかな?」



 今回ぶっちぎりで優勝を飾ったチームハンバーグ。

 家族からも絶賛されたその腕前だが、いかんせんその能力が暴食なもんだからアイテムがドロップしないのが唯一の欠点だった。


 主にフィールのクランは素材の回収とそのデータのやりくりで利益を出す素材回収クラン。

 もりもりハンバーグ君の手にした能力は魅力的に見える一方で、扱いに困るタイプのものだった。


 その動画を見ていた全員があまりに暴力的描写に口をぽかんと開けてその光景を目の当たりにしていた。



「いや、確かにアレの直撃は本能でやばいと感じたが、想像以上にひどいな」



 ヒャッコ君からの称賛にもりもりハンバーグ君はなんとも言えない顔をする。



「自分でも卑怯だと思ってますよ。でも、ガタトノーアからしてみればアレも能力の一部なんです」


「本領ではないと?」


「ええ。本領はもっと別のところにありますよ。例えば捕食した相手の能力の模倣とか、捕食すればするだけLPの回復力が上がったりとかですね」


「聞いてるだけでそのエグさが浮き彫りにされるな」


「あの方は本能のみで動きますから。あまり言語でのやりとりを得意としません。だからといって会話ができないわけでもないんですよ。僕はお義父さんにそれを教えてもらい、幻影であるヤディスを通してモノにしました。そこから彼が何を考え何を為したいのか考えた時、僕にできることは何かあるだろうかといろいろ考える様になったのです」


「それが、神格との交信か」


「僕はそう思っていますけどね。シェリル義姉さんもその域にいると思っていますよ。どれだけ深く関われているかはまだ分かりませんが」


「そこは俺が関わるべき事柄じゃない。それに、妻はもう自分の中で決着をつけなくなったからな。困った時はなんでも頼ってくる様になった」


「それは旦那冥利につきますね。おめでとうございます」


「うん、君も頑張ってくれ」


「はい。お義兄さんに負けないくらい夫婦円満になってみせますよ」



 最初こそ不正を疑っていたヒャッコ君だったが、撮影された画像をみんなと一緒に見て、もりもりハンバーグ君と言葉を交わす事でお互いの事情を語り合っていた。

 


「ちょっとちょっと、僕たちを除け者にするのは悲しいなぁ」


「オクトか。戦闘系ではないメンツであの動きは確かに凄かった。アレはアイテムか?」


「その通り、うちのクランで新しく開発したビームディスチャージャーとビームガンのスマートモデルですよ。昨今では空に登るのも高望みだと地上に残るプレイヤーも多いですし、アトランティス陣営としてはその技術提供も兼ねてですね」


「興味を惹こうというのか。確かに興味深いな。うちの息子達も食い気味に見つめている。だが」


「まぁお義兄さんの事でしょうからレムリア陣営に所属させるでしょうね」


「悪いな。うちの妻たっての願いだ」


「理解してますよ。家族で同じ技術を扱った方が色々と教え易いでしょうし。うちもなんだかんだアトランティスで纏まってますからね」


「理解している。我々も本当なら一般プレイヤーに情報開示をやるべきなんだが」



 ヒャッコ君が視線を泳がせる。

 それを見てオクト君が分かってますってという顔をした。



「お義姉さんの都合上厳しいのも理解してますよ。だから僕の方のクランでもレムリア陣営に与して技術を取り入れる流れを作ってます」


「流石だな。商売が上手い」


「とっくに誰か手をつけてると思ったんですけどね」


「やれそうでやれないというのが実情だろう。そもそも空の資材が地上に出回ることの方が稀だとうちのクランの連中もボヤいていたぞ。需要に対して供給が足りなすぎると」


「それは確かにありますね。一線級の開拓チームがどこかをほっつき歩いているもんで」


「本当にな」



 そう言いながら二人して私を見る。言いたいことはわかるけど、私の都合でクラメンさんを巻き込むつもりは無いよ?

 道は示したんだ。あとは君たちの仕事だよ。

 


「何かな?」


「いいえ。お義父さんはすぐに次から次に新しい情報を掘り当てて凄いなって」


「うちのクランでも情報をまとめ切る前に新しい発見がきて泣きを見ているな」


「それを私に言われてもね……それにオクト君には情報を最優先でよこす様にと約束したからね。表に出したらやばそうな案件以外は全て開示させて貰ったよ」



 にっこりと微笑むと、オクト君がにっこりと微笑み返す。

 彼は口で嫌味を言いつつも、そのおかげで今のクランが高い位置に上り詰められた恩を感じているのだ。

 それでも頭を悩ませた回数が多くて私に並々ならぬ不満を隠しきれないでいるのである。

 相も変わらず馬鹿正直で損をするタイプだね!

 ああはなりたくないもんだ。



「お前の父ちゃんってすっげーんだな! うちの父ちゃんが誉めてたぜ!」


「僕も知らなかったけどな、うちの父さんがこんなに凄いなんて」


「そうなのか?」


「そうだよ。普段は知識人で情報収集では頼りになるけど戦闘はからきしでさ。でも今日一緒に行動してそれは覆された。今でも全身が粟立ってるよ。その恐るべき力を正しき使い方をされている事に。もしこの能力を父さん以外が使ってたらと思うとゾッとするね」


「たしかに、叔父さんだからこそって感じはあるな」



 その横では子供達が集まって先ほどの試合内容を見て盛り上がっていた。

 やはり注目はもりもりハンバーグ君の討伐速度だろう。

 近くで見てたって意味がわからないレベルで古代獣の耐久が減り、気がついたら死んでることが複数回起きれば誰だっておかしいと思うはずだ。


 ただそれを十数回、違わずやってみせれば評価は変わる。

 最初こそオーラも何もないもりもりハンバーグ君を舐めてたカズイ君はキラキラさせた瞳を向けてその息子であるイクス君と語らっている。

 やはり男の子、感じ入るモノに共通するところがあったのだろう。



 対して女子グループは違う話題で盛り上がっていた。

 マリンがアイドルである事を知ったフィローが自分にもできるだろうかと相談を持ちかけてきたのだ。


 それにさくらと瑠璃があーだこーだ自論を語ってフィローのAWO復帰を快く迎えていた。


 どうやら新しいグループが誕生しつつある。

 私にも何か手伝えることがあるだろうか?

 いくつかプロデュースをした事があるので受け持つのは吝かではない。

 けど、それは向こうから頼ってきてからでもいいかな?


 パープルはフィールと姉妹同士の語らいをしていた。

 話題は概ね長女の事だ。

 噂に聞こえてくるシェリルの話題がどうにも自分の知ってる姉と別人すぎるというものである。


 しかしパープルはようやく角が取れたシェリルに対して素直になる事ができたんだとフィールに熱く語っていた。


 昔からそうやって姉達の喧嘩に割って入っていた実績を持つパープル。

 フィールもそうかもしれないと頭を捻らせていた。

 きっとそうよとパープルが相槌を打ち、それぞれの話題が尽きるタイミングで柏手を打つ。


 最初はどこか急に呼び出されてギクシャクしていた場が、ゲームの親睦会を通じて少しだけリラックスできた様に思う。



「さてみんな、積もる話もあるだろうが一旦私の方へ耳を傾けてほしい」



 大人達は慣れたものですぐにこちらに向き替えるが、子供達は会話を中断させられてムッとした視線をこちらに向けていた。


 マリンは素直にこちらを向くが、まだフィローやさくらからはあまり私に対して良い感情がないかもしれないね。


 ゆくゆくはそこも修復していきたいところだけど、それは後まわしにして事前に用意していたくじ引きをする事にした。


 くじには1~3の数字が書かれており、私を抜いて12人分用意した。

 今回敢えて私を入れない理由は単純に数字が余るからというのもある。


 順に引いてもらったくじの結果はこんな感じになった。



 <チーム1>

 ヒャッコ

 オクト

 さくら

 マリン


 <チーム2>

 フィール

 パープル

 イクス

 フィロー


 <チーム3>

 もりもりハンバーグ

 カズイ

 アキエ

 瑠璃


 

 上手いこと全く違うメンバー分けが出来たと思う。

 全く知らない人ではないけど、一緒に戦うのは初めてのチーム。

 戦力的に心許ないチーム2へ私が参加し、第二回懇親会を始める。


 今回は討伐ではなくちょっとしたミニゲームを用意した。

 それが今は人気が下火になりつつあるファストリアにある常設イベントであるゴミ拾いの開催だった。


 本当はドブ攫いと迷ったが後者は匂いと視界不良により、難易度が高すぎるので前者に決める。


 このミニゲームの面白いところはクエストがチェインするところにある。

 程よく時間制限もあり、戦闘能力以外のスキルも活躍の機会があったりと馬鹿に出来ない楽しさがあるのだ。


 何も家族一丸になってまでやらなくてもいいのにという顔をされたが、妻だけが「こういう人なのよ、諦めなさい」とバッサリ切り捨てる。


 うちの子達は「知ってたわ」と簡単に諦めてくれたが、やはり孫達が最後まで納得してくれなかった。

 でもそんな時、マリンが表に立ってくれて弁明してくれたのが嬉しかった。



「確かにこのクエストって拘束時間に対して見返りは美味しくないよ。でもね、お爺ちゃんの言うことって決して間違ってはいないの。私はお爺ちゃんと一緒に何度もダンジョンに入った事がある。最初はお爺ちゃんにいいところを見せようと思ってた。でもね、最後には私以上に活躍して、私の方が勉強になった事がたくさんあるんだ。それでね、犬のじいじから聞いたんだけど、あ、犬のじいじって言うのはうちのクランのサブマスターさんで、お爺ちゃんと仲良しのプレイヤーのお爺ちゃんなのね。その人から聞いた話で、ここのミニイベントはお爺ちゃんのルーツだって聞いたの。だから一見無駄に見える様なことでも、実は大切な事が隠されてるって思うから、思い込みで嫌ってほしくないなって、それだけ!」


「うん、確かに特に説明もなしにゴミ拾いやるよと言われても困惑するよね。今言った通り、ファストリアのミニゲームは私のルーツになってる場所だ。思えばここから私の冒険は始まったんだなと思える記念の場所。そして君たちにも何か学びのある発見が残されているかもしれないとここを選んだんだ。だから嫌がらせとかそういう意識はないんだよ。驚かせて悪かったね」



 それから一般のプレイイングでは味わえないタイプの冒険譚を語っていく。

 ヒャッコ君が、もりもりハンバーグ君が、オクト君が頷き、当時の大変さを大人達が紡げば子供達もそんな世界がまだ隠されているんだと興味を惹いた。


 それはまるで映画やドラマ、小説の世界。

 想像力によって出力された夢物語の一端に見える。

 けれどAWOではそれが一回のプレイヤーの手によって解明されるのを持ち望んでる一面もあるのだ。

 そのいくつかを偶然私が発見することが出来た。

 もしまだ見つけてない場所があったら、ぜひ君たちの目で探し出して欲しい。


 そうしたらこのゲームの見方が変わるはずだと付け加えると、先ほどまで不満でいっぱいだった子供達の瞳にやる気が満ちていった。

 その中でマリンだけがその世界の一端を知っていると自慢げだ。


 今回はポイント勝負をしない事にした。

 勝ち負けに拘ってほしくないというのもあるが、それ以上にミニゲームの本質を見極めてほしいというのもあった。


 ただ遊ぶだけじゃ見えない謎に興味を持って欲しかった。

 既に解明された謎の奥に隠れている謎を見つけて欲しかった。

 みんなの手で、力を合わせて。

 その導き手になれたら私はそれだけで嬉しく思うよ。


 願う事ならシェリルにも参加して欲しかったが、それはヒャッコ君が伝えてくれるだろう。

 その為にも懇親会を成功させねばな。

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