七章:お爺ちゃんと幻想世界

第1話 家族対抗懇親会 Ⅰ

 夫婦で娘に謝罪をしてから1週間後。

 シェリルはすっかり元気になり、今ではイベントの音頭取りをする事なく自分のペースで周囲を巻き込んでいた。


 それを横目に私はようやくイベントから解放された身。

 イベント終了までずっとクトゥルフさんの陣営への人集めにてんやわんやで碌に孫とも遊べてなかったからね。

 そしてシェリルと仲直りしたのもあって、その家族がAWOに復帰した。

 ちょうどいい機会だから一緒に遊ばないかと招集した訳だ。

 そして集まるだけだとつまらないのでイベントも企画する。

 それが……



「家族対抗古代獣討伐大会?」



 シェリルのところの長男カズイ君が聞き返してくる。



「うん。ぶっちゃけてそれは建前で、まずは家族で絆を紡いでもらって、その結果を鑑みてフリーで組んで一緒に遊ぶのが目的だ」


「だからって目標が古代獣なのは少し難易度が高過ぎよ?」



 二番目の娘であるフィールが怪訝な瞳を私に向ける。

 彼女は戦闘能力よりも情報収集に長けたスキルビルドだ。

 旦那さんのもりもりハンバーグ君も然り、子供達も似たようなスキル構成であると不満を口にしていた。


 が、今回のダークホースは間違いなくもりもりハンバーグ君なので娘の心配は杞憂だった。



「大丈夫だよフィール。君のところは私の中で優勝候補筆頭だから」


「そうなの?」


「うん」


「爺ちゃん、ウチらを忘れてない?」



 カズイ君がハブられた事に不満を漏らす。



「勿論忘れてないよ。ヒャッコ君を筆頭に君たちの家族はそれぞれがハイスペックだ。でもね、それでも私は彼の能力を高く評価している」


「義父さん、やはりそれはイベント関連で?」



 黙って聞いていたヒャッコ君からの質問に私は無言で頷いた。

 イベント関連。

 今なお娘のシェリルが夢中になってる聖魔大戦。

 そのクリア報酬は神格と同等の能力である。


 クリア報酬というか、そこまで至れないとまずクリアできないという条件の高さからシェリル達にとってとっても遠い関門だ。


 彼女は目の前にあるゴールを目指すばかりに自分達の関係性を二の次にしてしまった。

 私やもりもりハンバーグ君、森のくま君の共通点を上げるに、やはり神格や幻影とのコミュニケーションの有無が大きく反映された形と見ている。

 だから今シェリルは攻略よりも神格に向き合ってもらえるように努力しているのだ。


 それも形になってきて、少しづつ世界に影響を与えつつある。

 水際でクトゥルフさんが押さえているが、巻き返されるのも時間の問題だろう。


 それはさておき、ヒャッコ君とその息子であるカズイ君は納得いかないという顔でもりもりハンバーグ君を見ている。


 なんせ彼からは覇気が一切感じられないからね。

 相変わらずニコニコしていて戦闘なんてからっきしというアピールをしている。私以上の食わせ者だよ。



「とは言え、彼は防御を得意としていない。君たちにだって付け入る隙はある。でも、今回はPVPではなく、家族で古代獣をどれだけ多く倒すかによる競争だ。その点だけを考慮するならやっぱり彼の能力は群を抜く。私はそう判断するよ」


「そこまでなのかよ。父ちゃん、知ってた?」


「以前試合った事はある。俺はそこまでの手練れとは思わなかったが、義父さんには手も足も出ずに負けた以上、見えない何かがあるのかもな」


「え、父ちゃんですら爺ちゃん倒せないの?」


「そうだな。カズイ、人を見掛けで判断すると足を掬われるぞ? 義父さんは特にその代表格だ。うちのクランの精鋭五人+お母さんで挑んで逃げ帰った事実があるからな」


「うえー」



 信じられないという目で見てくる孫に、にっこり微笑む。

 その傍らで何故かマリンが自分のことのように自慢しているのが微笑ましい。



「お父さん、凄いの?」


「どうだろうなぁ。でもお義父さんに期待されてる以上、結果は出したいところだよ」


「分かった。期待する」



 もりもりハンバーグ君の家族も少しぎこちないがなんとかまとまりがついたようだ。


 そしてチーム分けはこうなった。


 <チームアキカゼ>

 アキカゼ・ハヤテ

 オクト

 パープル

 マリン


 <チームハンバーグ>

 フィール

 もりもりハンバーグ

 イクス

 さくら

 瑠璃


 <チームヒャッコ>

 ヒャッコ

 カズイ

 フィロー

 アキエ


 チームハンバーグだけ人数は多いが、これはハンデである。

 人数が多くても戦闘スキル持ちが居ないので数による有利が働かないのだ。


 そういう意味ではこちらも同じ。

 純戦闘特化なのはチームヒャッコくらいか。



「お婆ちゃんはあまり戦いが得意ではないの。カズイが守ってくれる?」


「勿論だぜ」


「あらあら、誰かさんと違って心強いわ」



 何で私を見ながら言うんだろうね、この人は。

 私なんかより全然戦えるくせに孫に守ってもらおうとしてるよ。

 全く呆れてしまうね。



「何か?」


「いいや、別に。君も面倒な性格だと思ってさ」


「貴方にだけは言われたくなかったわ」


「ははは」


「ふふふ」



 お互いに笑顔で牽制しつつ、夫婦の会話はここらで打ち切る。

 そしてイベントのルールをていじした。



「では制限時間は3時間で。今からだとちょうどお昼時までだね。全員、異論はないかな?」


「古代獣相手に3時間以内? 冗談でしょ? 一匹仕留め切れるかどうかの時間よ?」


「大丈夫だよフィール。僕が行動を開始すればもっと短く終わるから」


「信用していいのね?」


「そこは結果を見てほしいところだね」


「そして討伐した古代獣の配置された街の数字に比例したポイントを獲得する形になる」


「つまりヨルムンガンドを討伐すると1ポイントにしかならないわけね?」



 今までずっと黙っていたパープルがようやく話に入ってきた。



「うん。ちなみに私は二番目の街のピョン、ヒュプノを2秒で討伐した実績があるんだけど」


「あれは反則だから絶対にやらないで」


「それは残念だ。これで私の手の内が一つ潰されてしまったな」



 フィールからの釘刺しに、苦笑しながら冗談を打ち切る。

 孫達が本当かどうか確証が取れずになんとも言えない顔をした。



 そしてチームメンバーが集まって作戦会議。

 


「それで、オクト君はどのように活躍するか考えは纏まった?」


「え、ここはお義父さんが扇動してくれる場所じゃないんですか?」


「君ね、せっかく出番が回ってきたのにそれでいいの? マリンにいいところを見せるチャンスをわざわざ私に回して父親として大丈夫?」


「その返し方は卑怯ですよ! でもそうですね、一応秘策は用意してます。戦闘プレイヤーと違って僕たちはこれで商売してる分けですから」



 そう言って白衣の懐から数枚のお札を取り出した。

 それは折り紙のように織り込まれた符のようでもあった。

 対古代獣用のアイテムだろうか?



「なるほど。マリンはヨルムンガンド戦は平均してどれくらいで倒せるようになったかな?」


「まだソロじゃ全然~。でも、アイドルグループでなら5分台出せるようになったよ」



 屈託のない笑みで結構凄いことをさらっと言う。

 なんだかんだと努力の子なのだ。



「へぇ~、お母さん全然知らなかったわ。マリンも随分と遠くへ行っちゃったわね」


「えへへ~」


「パープルも頑張りなさいよ。クランとしての立場があるのは知ってるけど、もう少しゲームを楽しんだら?」


「あたしは充分楽しんでるわよ。主婦業との合間にしては充実してるくらいよ。お父さん以上に楽しむのはまだ無理ね」


「うん、まだマリンも手がかかるからね。きちんと家族に向き合えてる君に私のようになれとは言えないもの」


「お父さんは心配性なのよ。娘なんて勝手に育つものよ?」


「ですってお義父さん」


「そうは言っても男親は心配しすぎで丁度いいんだよ。っと、長話が過ぎたかな? 私達も古代獣のフィールドに向かおうか」


「結局どこの街に向かうんですか?」


「そうだねぇ、顔馴染みのいるところに行こうと思うんだ」


「顔馴染み?」



 聞き返してくるオクト君に、私はその場所を告げた。

 パープルやマリンでさえ正気かと聞き返してくる。

 勿論正気だとも。




 それから一時間後。

 兼ねてより取り決めていたクラン用連絡フォームに記録が残された。




 <チームアキカゼ>

  九ポイント



 <チームハンバーグ>

  十七ポイント



 <チームヒャッコ>

  八ポイント



 分かりやすいほどの結果が予想を遥かに上回る。

 私としてはこの結果に何ら驚く事はない。

 最初から分かりきっていた事だ。


 だが納得できないチームリーダーから早速チャットが送られてきた。




ヒャッコ:不正ですか?


もりもりハンバーグ:システムです


アキカゼ・ハヤテ:だから言ったじゃない、こうなるって


ヒャッコ:俺の想像の斜め上を行き過ぎだ!


もりもりハンバーグ:ちなみにお義父さんは何を討伐したんです?


アキカゼ・ハヤテ:九尾だよ


ヒャッコ:一時間でアレを? 冗談でしょう?


アキカゼ・ハヤテ:これもシステムのなせる技だね


もりもりハンバーグ:ですね


ヒャッコ:ダメだ、勝てるパターンが見当たらない!


アキカゼ・ハヤテ:君も視野が狭いねぇ 難しく考える事ないのに


もりもりハンバーグ:まぁ僕が同じ立場だったら全く同じこと言い返す自信ありますからね


アキカゼ・ハヤテ:確かにね


ヒャッコ:ああああああああああああああああ!!


アキカゼ・ハヤテ:あ、ヒャッコ君が壊れた


もりもりハンバーグ:これは仕方ないと思いますよ



 そう言いつつ一切討伐の手を緩める気のないもりもりハンバーグ君がさらにポイントを加算させていく。

 私が九尾を倒したように、彼は一体何を倒せばそんなにポイントを得られるんだろうと言う快進撃を見せていた。


 さーて、私も頑張らなければな。

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