第105話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 ⅩⅨ

 未だうなりをあげるドリルが九尾の肉体を抉り続けている。

 何故か銃口から。

 多くのものが思考を放棄し、その結果だけをコメントする。


 凄い、または何で?

 その答えを当事者である( ^ω^ )氏が教えてくれた。



「( ^ω^ )遠距離型だと思ったろ? 残念、アトランティスのメカは自由自在なんだ」



 そうだ。銃火器というジャンルで上手いこと騙されていた。

 メカと言うジャンルに決まった形はない。

 巨大なロボットを作る者も居れば、乗り物をくっつけたり、雲や大地に擬態したものをくっつけたり、変形、合体までお手の物。

 なのに多くの視聴者がそんな事を忘れ、ロールプレイの一種としてそう思いこまされた。


 更に追撃を加える( ͡° ͜ʖ ͡°)氏。

 火炎放射器だったメカがトゲ付きの棍棒に変形し、バネのようにしなって九尾に叩きつけられた。


 今度こそ、そのチャンスを逃さずシャッターを切る。

 大迫力の映像(グロ多め)がスクリーンに展開された。

 軽いスプラッタ映像だが、こうまで一方的だと返って清々しさまである。


 メカによるリンチはその後も続き、見ている方はやがて九尾を応援してしまう程だった。



「( ^ω^ )よし、耐久は減ったな。デバフも撒いたしこんなもんでいいだろう。野郎ども、撤退だ!」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)「( ゚д゚)「( ´Д`)y━・~~ヒャッハーーッ」」」



 やったか!?

 誰もがそう思う映像だが、撤退時の見極めは鮮やかで、蜘蛛の子を散らすように周囲に散開した。

 その様子を察して私も遠くに逃げ出した。


 ここのゲストは私に攻略の内容を明かすことはしないが、こうまで逃げると言うことは何かあるのだろう。


 そして八尾状態が姿を表す。

 それは巨大化だった。

 千切れて飛んだ腕がスライムのように溶けてくっつき、何事もなかったように再生した。

 つまり肉体へのダメージが完全回復するのだろう。



「( ^ω^ )ここは持久戦になる。この体系のまま、一~三の攻撃パターンを繰り返す! 要は逃ぃげるんだよぉお!」



 それはなんともどうしようも無い。

 一尾から三尾はまだ超常現象を起こす前だったとは言え、それなりの強さを誇っていた。


 肉食獣の如き食い付き、そしてしなる前足による払い除け。

 それだけでも十分強力だったが、このモードは常に耐久が回復するモード。加えて巨人化だ。

 

 その肉体が大きく震え、やがて全身に力が染み渡るような感覚を経て、閉じていた瞳が見開かれる。

 黄金の瞳が、妬み嫉みを凝縮した瞳が、敵対者を見定めた。

 当然、私もそのうちの一人。


 急遽姿を消したゲスト達。

 残された私は格好のカモだった。



「ねぇええええ、これまた囮にされてない!??」


「させませんよ、秘儀! 龍の舞!」



 スズキさんが私の前に両手を広げて割って入ると、そのままぺしゃりと踏み潰された。



「スズキさぁーーーーん!」



 圧倒的肉体差の前には小人程度の私達ではどうしようもない。

 そう思われたその時、九尾の肉体に異変があった。

 何故かその巨大な肉体が大きく歪んだのだ。

 そして背中が一気に膨らみ、その中心から見覚えのあるシルエットが浮かび上がった。



「やっぱり、この体は水で出来てます。水の中なら僕の庭も同じですね!」



 ざぽん、と飛び出す一匹の魚。

 もといスズキさんが槍を構えてこちら側に降り立つ。



「びっくりした。やられちゃったかと思ったよ」


「僕があの程度でやられるわけないでしょ、もう、ハヤテさんてば心配性なんだから」


「それでも目の前で踏まれたら心配するでしょ? しない?」



 距離を取るように逃げる私に並走しながらスズキさんはどこか嬉しそうに表情を緩める。



「それでこそハヤテさんですね!」



 何がそれでこそかはわからないが、ある一定の距離まで離れると八尾からの猛攻撃は止んだ。

 空に登って状況把握に努めてみると……



「どうやらフィールドの一部である湖を中心にその肉体を制御してるらしいですね。憑依でしょうか?」


「だからわざわざ水際で戦ってたんでしょうか?」


「( ^ω^ )その通り。八尾モードは憑依だ。何に憑依するかはこっちである程度選べる。岩場なら岩。森なら木々を大地ごと乗っ取る。向こうが雷雨なんかを大盤振る舞いするから、水場を活用させてもらった。その水だが、アキカゼさん達なら大丈夫だろうと踏んで居た。どうやらこちらの思惑通りなんとか乗り越えてくれたようだな!」


「せめて事前に言ってよ!」


「言ったら向こうにも伝わるだろうが。古代獣とは言うが、あれはこっちの思考を読み取るぞ? その分だけ戦略の幅が広がるんだ。言葉での会話は向こうに常に盗み聞きされてる。それはどのモードでも標準装備だ」



 やっぱりステルスしてたのか、突如姿を現した拳銃が二足歩行するマシンがすぐ横に現れて捕捉を入れてくる。

 それにしても予想以上に九尾は頭脳派だったらしい。


 ウチの娘が手こずるわけだ。

 なんせ全く同じタイプ。正解派世紀末モヒカンのようにその場の勢いとノリで攻撃し続けることだなんて誰が思うだろうか?


 スズキさんが見殺しにされたと思って焦ったじゃないの。

 ( ^ω^ )氏がニヤニヤと笑う姿はウチのサブマスター染みていた。もしかして生き別れの兄弟だったりします?



「でもどうやって対処するんですか?」


「( ^ω^ )最初に言ったろ? 持久戦だって。一~三の力を応用するってことはだ、その時のデバフも引き継ぐんだよ。そんで今のやつの肉体は水だ。より一層デバフが広がって勝手に自滅するって寸法さ。あとは動き回してやればいい。力を使わせ続ければ俺たちの勝ちだ!」


「そこを分かってて水に憑依させたんですね。いけない人だ」


「( ´Д`)y━・~~これも戦略って奴さ。勝てば良いんだよ、勝てば」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)手段を選ばない感じは俺たちのロールプレイと一致するしな」


「( ゚д゚)ヒャッハーッ」


「ヒャッハーッ」



 この人達は自由で良いね。

 自由すぎて私の方が振り回されてしまう。

 こんな感覚は久しぶりだ。

 勤続時代の上司を思い出す。あの人は今頃どうしてるだろうか?


 そこでスズキさんがヒレのついた腕を上げた。



「|◉〻◉)そこで僕に名案があります」


「( ^ω^ )聞こう」


「|◉〻◉)要はデバフを広げてやれば良いんですよね? じゃあ僕あの中で泳いできます」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)別に構わないが、デバフの海だぞ? まず死ぬが」


「|ー〻ー)僕の残機はあと20程あります。ついでに新しいデバフを撒いてきますよ。クックック」


「( ´Д`)y━・~~ヨシ、あとは任せた」


「( ゚д゚)がんばってー」


「がんばれーリリーちゃん!」



 普通に応援されて、スズキさんは見送られた。

 どうして誰も止めないの?

 そう聞いたら、



「( ^ω^ )え、だってその方が俺たちは楽だし?」


「( ͡° ͜ʖ ͡°)別にこのモードは逃げることに変わり無いからな。見せ場以前の問題だ」


「マスターの言う通り。でもリリーちゃんなら平気!」


「( ´Д`)y━・~~言い出しっぺはあの子だぜ? やる気のある奴を引き止める奴はうちには居らんよ」


「( ゚д゚)ヒャッハーッ!」



 との答えを頂く。



【草】

【魚の人、無茶するぜ】

【フォーエバー魚の人】

【( ͡° ͜ʖ ͡°)の幻影ちゃんはどうしてスズちゃんのことリリーって呼ぶの?】

【あだ名だろ?】

【出会ったばっかであだ名つけられるほど親しくなったのか!】

【幻影と親しくなれるって、やっぱり幻影じゃない?】


「|◉〻◉)ふひひ、サーモン」


【お前鯛だろ?】

【サーモンになりたいのか?】

【さーせん、又はすいませんのスラングだろ】

【知ってるけど】

【この人の言葉にどれだけの意味が込められてるかって意味だよ】


「きっと何も考えてないよ」


【おい、クランマスター!】

【身内から堂々とアホの子宣言されたぞ!?】

【スズちゃん可哀想】

【アキカゼさんサイテー】



 どうして私が最終的に怒られるんだろうか?

 これが解せない。

 しかし彼女の魅力がそうさせるのならば、あえて悪役を引き受けてやるのも良いだろう。

 彼女には日頃から世話になってるからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る