第93話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 Ⅷ

 見上げるほどの巨体であるにも関わらず、豆粒ほどの私に向けて放った攻撃は両手を組んでの打ち下ろしであった。

 無論、ショートワープの使える私がそれを受けてやる義理はない。

 向こうは何度も念入りにその場を叩きつけている。

 回避は得意だが見失えばすぐに向こうへ意識を逸らしてしまうから。だからその場に称号スキルのフェイクを置いておいた。

 これは日に三度まで一度引きつけたヘイトをその場に残しておくことができるスキルだ。当然、注意を全く別方向に置くこともできるが、釘つけにするのにも便利だったりする。


 私は風操作で空中にとどまり、ピョン吉を召喚。

 即時張り手攻撃でメデューサの横面を引っ叩いてやった。

 直ぐに送還しながら着地する。



「この通り、防衛手段は心得てる。さて隙が出来たぞ、畳み掛けるのなら今のうちだ」


「ハヤテさ〜ん、僕の出番全くなかったです!」


「ごめんごめん。ここは私の見せ場だと思ったからね」


「別にいいんですけどね〜、ハヤテさんの実力が世に知れ渡れば。僕はそれで満足です」


「スズキさんがそういうのならそう思っておこう」


【動き出した瞬間に別物になるよな、この人】

【バトルセンスは高いんだよ、バトルスキルは一切持ってないだけで】

【お爺ちゃんカッコいい!】

【ただしメデューサ君のヘイトは奪いっぱなしと言う】

【そりゃあんな正体不明な奴が現れたら気が気じゃないわ】

【古代獣から脅威認定されるアキカゼさん】

【草】


「おや、追撃してはくれないのか。それとも予定にない動きかな? スズキさん、大技を使うから時間稼ぎを頼むよ?」


「大技ってなんですか?」


「もちろん、必殺技さ」


「成る程。爆破は僕にお任せください」


「君の自爆特攻は見た目が悪いから却下ね」


「えー」


【大物相手に余裕がすぎる】

【実際、この程度は余裕で倒せない方が問題】

【雑魚相手に必殺技を繰り出すヒーロー】

【大人気ないなぁ】



 コメント欄はいつにも増して私の悪口が飛び交う。

 まぁわかっててやっているのだから気にしない。

 たとえこの相手がただの分身体であろうとも、力は示しておく必要があった。

 スズキさんが不思議な踊りをしながら突貫する。

 ヘイトは私に向いてるので、フェイクをスズキさんにつけて準備を開始。

 マスクドライダーの初代はキックの他にパンチも強力だった。

 今回はそれを再現しようと思う。

 前回のキックも上出来だったけど、着地を失敗したら私も死ぬところだったのでそっと封印だ。

 頻繁に使うからこそ安全面には気をつけたい。



【魚の人のこの動き、すごい神経を逆撫でするよな】

【メデューサ君はもっとキレていい】

【それを余裕で回避するあたりは流石】

【数体自爆特攻してるだけで回避はしきれてないぞ?】

【影の中から魚の人の分身体が煽りながら特攻仕掛けていくのいつ見ても笑う】

【スズちゃんと同一人物とはとても思えない】

【サハギンアバターの弊害やな】

【あそこまで気持ち悪さに全振りできるものなのか?】

【元々そっちの動きが素でアイドルの方がギャップ萌えだぞ?】

【草】



 さて準備は整った。

 私は地上から少し浮いた状態で再度ピョン吉を召喚。



「ライダーパァンチッッ!」



 張り手で持ってその身体で空気の壁を突き破り、ピョン吉を送還。握った拳がメデューサの足元を突き破り、貫通はせずに肉の中で動きが止まる。

 無論これは狙っていた事だ。

 ここで本邦初公開の山田家を召喚する。

 メデューサの内側に向けて、あの巨体を召喚するとどうなるのか? 私は非常にワクワクしながる召喚する。


 そしてメデューサは苦しみ悶えやがてその肉体が膨張し、破裂した。

 中から出てきた山田家は特に活躍するまもなく送還された。


 しかしこのパンチは使えるな。問答無用で相手の耐久値を奪う一撃必殺の技だ。

 このゲームは全年齢版なので血肉が吹き飛ぶことはなく、光の粒子の中から山田家が現れたように思うだろう。


 けどスズキさんの場合は肉片が凶器と化して周囲に四散するんだよね。不思議だ。

 とはいえこれくらいの技なら十分だろうとコメント欄を覗くと、



【史上稀に見る最悪なパンチ】

【パンチ?】

【肉体の中で召喚とかエグい事するな】

【考えても誰一人実行したことのない奴だぞそれ】

【もうこの人だけでいいんじゃない?】

【ただし容量を超える必要がある】

【テュポーンに使うとそのまま取り込まれそう】

【最悪子供として生み出すまであるぞ?】



 否定的なコメントが多く見られる。おかしいな。

 非常に効率的な倒し方だと思ったんだけど。

 一人頭を抱えていると、呆れたような顔をしたモロゾフ氏がやってくる。



「アキカゼさん、やりすぎ」


「えぇ!?」



 よもやゲストのモロゾフ氏からこのようなお言葉を頂くとは思いもよらなかった。こっちは頑張って力を示したのに、酷い。



「ただ、面倒な相手だったんで助かったよ。正直あれが最初に出てきた時点で俺たちはこの戦闘を捨ててた。それぐらい石化能力は厄介なんだ」



 石化? そういえばしてきませんでしたね。

 至近距離だとしてこないのでしょうか?

 スズキさんは超至近距離でチクチクしてただけですし、私はスタート地点こそ遠いですが攻撃を当てたのは至近距離だった。

 ともあれ相手が本気を出す前に勝てた。被害が少なくて済んだと喜んでおこうか。



「じゃあ賞賛されこそすれ、貶められる謂れはないじゃないですか」


「助っ人に悪目立ちされると俺たちの見せ場が減るだろう?」


「ご尤もで」



 確かに私たちは助っ人だ。なのに主要人物の如く見せ場を掻っ攫ってしまっては確かにいただけないな。

 それよりも、とモロゾフ氏は自分たちの考えを示してきた。



「こっちの戦闘はある程度のリスクありきで動いてる。攻撃パターンの把握や。技を放った後の硬直。その隙を狙っての攻撃パターンの組み立て。そういうのが一人一人に組み立てられてる。だから隙だらけだから殴っていいよと言われても困るんだ。これが続けば、それを頼りにしちまって後先考えずに消費しちまう。そういう癖はなるべくなら消してしまいたい。アキカゼさんが悪いとは言わないが、アキカゼさんありきの考えになっちまうと俺たちの成長はそこで止まっちまう。だから、そういうことで一つ頼むよ」



 これが彼が長年培ってきたバトルスタイル。

 誰かに合わせるために手の内を晒しつつ、順番とタイミングを決めての戦術の組み立てだ。

 私のように全てにおいて余力がある訳ではない。

 ないからこその無駄遣いの節制。

 とても理にかなったチームプレイのお手本のようだった。

 これでは悪いのは私だな。


 出産した個体の討伐後は数分のインターバルがある。

 その隙にメンバーは次の戦闘に向けて準備をしている一方で、モロゾフ氏はわざわざ私の元まで出向いてきている。

 つまり彼の考えから私という存在が逸脱し過ぎているという問題に他ならなかった。



「すまないね。どうも私は好き勝手やってきた都合上、チームプレイというのが苦手のようだ」


「俺の方こそすまない。自分でも無理言ってる自覚はある。頼ったのは俺の方なのにさ」


「いや、大丈夫だよ。今後私が気をつければいいことだ。ただし倒せそうなら私が貰ってもいいかな?」


「そこは早い者勝ちという事で」


「別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」


「魚の人、よくそんな死亡フラグをポンポン吐けるな」


「だって動きは鈍いですしー?」


「動きが鈍い? なんの話だ」



 周囲に対して常に煽りながら接するスズキさんに、モロゾフ氏が聞き捨てならないとスズキさんに詰め寄った。



「多分ですけど、これハヤテさんの権能だと思いますよ」


「その某ライダー風の異能か。ウチのブリ照りも持ってるが、そこまでの変身はできてない。第二段階に至ったやつに使える能力ってことか」


「初耳なんですけど」


「使ってる本人が知らないのか……」



 それこそルルイエ異本の幻影である彼女しか知らないこともあると言う事だね。ちなみに効能は接触した相手の動きを制限するものらしい。

 ダメージを与えるだけでいいのだから、すごく楽だ。

 通りで向こうが思ったように動けないわけである。


 この状態で私の攻撃、私が従えた者達の攻撃だけでも権能が発動するのかと内心恐れ慄く。

 


「多分ですけど、ダメージを与えた割合で深海に引き込むんだと思いますよ。海中で動き回れるレヴィアタンには効果は薄かったですが、テュポーンは海中適正がなかったのでこの通り」



 多分と言いつつ確信めいたセリフのスズキさん。

 私の殆どのスキルがパッシヴだからと権能までもパッシヴにしなくてもいいのにさ。



「何はともあれ、相手が回復しようとダメージを与えただけ相手を苦手フィールドに引き摺り込むわけだ。それは考えようによっちゃとんでもないメリットになるよね」


「そしてそれは相手の生み出したモンスターにも適用される」


「強すぎない? それで能力の半分なの?」


「むしろ本来の能力の一部ですらないですよ。僕の旦那様はすごいんです」



 エヘンと胸を張るスズキさん。

 彼女が信頼を置く旦那さんのクトゥルフ氏がどんどんと浮かび上がってくるようだ。

 その力の一部が私の内側で着々と力を示し始めているのはちょっとどころじゃなく怖いのだけど。



「よく分からんが、チャンスと言うわけだな?」


「どうやらそうらしいです。ボーナスタイムという奴ですね」


「このままだとノーヒントで討伐までいっちまいそうだが……」


「そうは問屋がおろしてはくれないでしょうね。向こうも動き始めました。露払いはお任せを」


「期待しないでおくよ」



 モロゾフ氏はその場から飛び退いて雑木林の奥へと消えた。

 同時に浮かび上がるUFO。

 普通に考えればあれに乗ったと思うだろう。

 しかしあれはれーめん氏の自動操縦だとすれば、彼らは雑木林の中に身を潜めて状況を見守っているのだろう。

 空からの情報をチキンタルタル氏とれーめん氏でやり取りしつつ地上からブリ照り氏と◇鴨南蛮◇氏のブラスターで狙い撃ち。

 面制圧はモロゾフ氏の精霊使いで防いでいる。

 なんなら塩だいふく氏のテレポートで移動も可能。


 そう考えたらうまいことまとまったパーティだと思う。



「さて、負けてられないよスズキさん」


「ヘイト取りには自信がありますよ。囮役は任せてください」


「普通は女の子にそういう役目をさせないもんだけど」


「僕は普通じゃないので、平気です」


「そういうことにしておくよ。どのみち多めにダメージを与える予定だ、必殺技のレパートリーも増やしておきたいところだし実験に付き合ってもらうよ」


「喜んで!」

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