第92話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 Ⅶ

 ざわつくコメント欄をまるっと無視し、モロゾフ氏に確認を取る。作戦は有って無いようなもの。

 その時々で動いていく。とてもやりやすいものだった。


 今回のバトルでは初めて見る私以外のテイマーさん。

 しかもハーフビーストで空から自在に召喚すると言うんだから私の上位互換かもしれない。

 性能云々では私に分があるだろうが、それでも上手い事考えたなと思う。飛行中、スタミナ温存が課題中の課題。

 攻撃系スキルに振り込むプレイヤーも多い中、彼は飛行に全特化した野生種で攻撃手段を得たのだから。

 テイマーは単体では大して強くないからね。

 頼りになる仲間が居て、そして打倒したモンスターを従える術を持つ。そのテイムモンスターをどう活かすかはテイマー次第なのだ。私も内心で負けてられないなと思った。



「それでは適度に援護しつつ君たちの戦い方を見せて貰おうか」


「討伐できてないからそんな大したもんじゃ無いけどな」



 モロゾフ氏は苦笑する。

 元々効率的な戦闘を得意としていたらしく、今回のような勝つまでやるのなんて赤字もいいところだと嘆いている。

 その一方で、もしこれで勝てたら周囲に自慢してやるんだとも吹聴しているらしく、彼なりに考え有ってのことだと伺わせた。



「リーダーは考えすぎなんすよ」


「お前にだけは言われたく無いぞチキン」


「プークスクス」


「あとそこの助っ人アイドルも」



 今のスズキさんはアイドルモード。

 なのに普段と変わらぬ奇行に走るので体面を考えるように促すが、今更ですしと開き直っている。



「まぁ、邪魔にならない程度にヘイト取りとダメージを与えていくのでそのように」


「結構無茶な注文してる自覚あるか?」


「まぁ謎が解けない限り倒しきれない証明はそちらが持ってるのでしょうし、こちらはやれる事をやるだけですよ。ね、スズキさん?」


「え?」



 スズキさんボディに足を突っ込んでいる最中のリリーは、こっちの話を聞いていなかったように聞き返してくる。

 そのままボディに神経を通わせるかのようにビチビチして見せると、先ほどまで見えていたジッパーが背鰭と一体化して目立たなくなった。

 一体全体どんな仕掛けか分からないが、そこにはさっきまでのアイドルは居らず、見慣れたスズキさんがおちゃらけた様子でこちらを見返している。



「お待たせしました。で、なんの御用ですか?」


「なんでもないよ。ね、モロゾフ氏?」


「ああ、なんでもない。戦闘の主体はこちらで、そっちは助っ人の分を弁えておけよとかそんなのだ」


「なるほどー、僕の槍捌きのお披露目はまたの機会としますか」


「そうして貰えると助かるな。じゃあ俺たちはいつも通りに攻めていくから、せいぜい巻き込まれないように」



 そう言いながらモロゾフ氏はテュポーンに向かって駆け出した。その大きな体躯は、雑木林から巨大な蛇をいくつも生やし、足元にも同系統の蛇がわんさか生えている。


 上の方が攻撃主体で、下の方は移動が主体だそうだが、『食らいつき』と『丸呑み』はしてくるので十分に警戒していてくれとのことだった。

 私は忠告通りに注意を払い、スズキさんが出したソファの上で緑茶を楽しむ。



【くっそwww】

【ゲストが真面目に戦ってるのになんでこの人達寛いでんの?】

【そのソファどっから出した!】

【魚の人ー、自由すぎるだろ】

【それ以前にサハギンてソファに座れるのな】


「何言ってるんですか。座れますよ」


【尻尾どうしてるんだよ】


「そこはプライベートな質問なのでNGです。ね、ハヤテさん」


「え? 何聞いてなかった」


「だ、そうです」



 聞いていたけど、こちらを巻き込む気満々な彼女のニヤついた視線にシラを切る。気になるのは確かだが、そこはあえて突っ込まない方向で頼むよ。ゲームだからなんでもありでいいじゃない。その着ぐるみは超高性能で、ソファに座るときは勝手に折り畳まれるとかそう思ってくれたらいいと思うよ。



 コメント欄を賑やかしてやると、早速戦局が動き出す。

 テュポーンの耐久が大きく減少したのだ。

 どうやら上空を旋回している小型円盤はクリエイターのれーめん氏のマシンらしい。

 ウチの探偵さんと同じタイプの乗り物勢……いや、合体タイプか?

 モロゾフ氏どころかチキンタルタル氏や塩だいふく氏やブリ照り氏、◇鴨南蛮◇氏が上空を取って交互にレーザーを照射していた。

 ムーにはレーザー兵装が使用できないと聞いたので、あれは備え付けのものなのかもしれないね。

 なるほど、よく考えられてる。

 でもクリエイターって、そう言うジョブだっけ?

 探偵さん曰く、転送に長けたジョブだと聞くけど。



【こいつらの戦い方、独創的すぎない?】

【大体クリエイターのせい】

【センスはクリエイターのせいだけどさ】

【なんでUFOなのさ】

【宇宙人はビーム持ってそうなイメージ】

【そもそも古代人がビーム持ってるんだよなー】

【つまり古代人は宇宙人だった!?】

【どうしてそうなる!?】



 ビーム照射で減らせる耐久はどうも80%までらしい。

 そこでようやくテュポーンの方も敵と認識したのか戦闘形態へと移行し始めたようだ。

 コアが迫り上がり、上空に向けて音波を発する。


 ミョワワ〜ンと気が抜けるような音の波がUFOに触れると、コントロールが効かなくなって衝突し始める。

 まるでメカに対してメタを張っているかのような兵器を有しているらしい。

 対アトランティスのものなのだろうか?

 だとしてもレムリアやムーが協力して削りきれないというのもおかしなものだが。



 しかし全てのUFOが撃墜された頃、明後日の方向から極大のレーザーがコアを撃ち抜いた。

 確かこれは師父氏の使っていたブラスターだったか?

 

 つまり、さっきまでのUFOは囮で乗組員は全部偽物だということになる。わざわざコクピットが剥き出しだったのはそうやって騙す意図があったのかと納得したところで、コアに向けて第二射が発射される。

 このパーティにブラスターは二名。

 ベルト持ちエルフのブリ照り氏にヒューマンの◇鴨南蛮◇氏だ。

 先程までの人形から、やけにメタリックなボディに姿を変えていた。それでも当時であったレムリアの民ほど奇抜ではない。

 どちらかと言えば正義のヒーローにも見てとれた。

 某マスクドライダーと同じ時間帯に放映している戦隊ヒーローものと似たような姿だ。レムリアでは今このようなファッションが流行っているらしい。


 連射が利かない、エネルギー効率が非常に悪いと言われたブラスターであるが、人数が増えた分だけ維持が随分と楽になるのかコアに直接ダメージを与えて耐久を70%まで削っていた。

 

 それ以上はコアが引っ込んでしまったので無駄なのだろう、彼らからの攻撃も同時に止む。無駄打ちは彼ら的にも痛手だろうからね。色々と考察が捗る。

 スズキさんからよこされたお茶請けの濡れせんべいを一枚取り、咀嚼した。それを緑茶で流し込み、ホッと一息。



【この人達、すっかり観戦モードだ】

【こんな戦地で茶をしばける神経もどうかと思うが】

【邪魔するなって言われてたししゃーない】

【そうか? スッゲー邪魔じゃね?】

【一緒にパーティ組みたくないのは確かだしな】



 70%からテュポーンは出産モードになる。

 コアのあった上部が花の花弁のように膨れ上がる。

 肉で出来たその花弁はやがて開き、出てきたのは大蛇。

 いや、上半身は女性体をしており両目は黄金色に光っていた。

 あれは確か、メデューサ。

 

 テュポーンに比べて幾分か小さな個体を生み出して、テュポーンは沈黙する。じわじわと耐久が回復しているのを見るあたり、放置するのは得策じゃないのが見てとれた。



「そろそろ私たちも行こうか」


「変身しないんですか?」


「しておこうか。向こうは状態異常を行なってきそうな見た目をしているからね。こちらも相応な対応をしないといけないよね」


【お?】

【邪神インストール来る?】

【普通のライダー姿でも強いんだけどな】

【変身しなくても強いのは黙っておこう】

【そこはポリシーの問題なので】

【よくわかんないけど、お爺ちゃんの好きなようにやらせてあげて】

【コメントにマリンちゃんが居ますね】



 孫に応援されながらの変身は少し恥ずかしいけど、でも。

 守るための戦いに身体を張るのは気分がいい。

 いつものポージングから、変身の掛け声。

 膨張する光に飲まれ、私の肉体は純銀のボディに包まれた。

 両手を広げ、神格を迎え入れる。



「いあ、いあ! くとぅるー!」



 前方と背後から魔法陣が競り上がり、そして私のボディは飲み込まれる。肉体が邪なる意識に飲み込まれそうになるのをなんとか抑え切り、強制的に人型に押し留める。

 おどろおどろしい腐臭を周囲に放ち、強烈なヘイトを回収する。

 どうもこの変身、周囲を嫌でも巻き込むものらしい。

 新しい敵性存在の出現に最初に気がついたのはメデューサだった。



「さぁ、力比べと行こうか」



 見上げるほどの巨体を見据え、私は駆け出した。

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