第88話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 Ⅲ

 アンコールの声は虚しく周囲に響き、我に帰ったコメント欄でもって現実に引き返された。



【ソロ討伐余裕でしたやん】

【コンサートの背景にされたレヴィアタン君可哀想】

【おっそろしいバックダンサーだな】

【神風の能力高すぎるだろ】

【むしろ分身しながら神風するだけで勝てるのでは?】


「だよ⭐︎」


【草】

【かわいい】

【かわいさで誤魔化すな】

【タダで歌が聞けたと思えばラッキー?】

【タダでSAN値チェックさせられたの間違い】

【当たり前のように行われる狂信者獲得ムーブ】


「ひどーい」


【だからファンを狂信者言うなし】

【本人が認めてるんだよなぁ】



 未だ理解が追いつかずにポカンとしたゲストメンバー達に声をかけ、取り敢えず前者か後者のどっちのスズキさんと一緒にやりたいかリクエストを聞いてみたところ、圧倒的前者だった為、リリーは仕方なく爆散した筈のスズキさん人形を足元から召喚して着込んだ。

 これには視聴者達も容赦なく突っ込まざるを得ない。



【何事もなく振る舞うな】

【自由すぎるだろこの人】

【アキカゼさんが手綱を手放さざるを得ない理由が分かる】

【着ぐるみとは思えないクオリティ】

【どうやって尾鰭動かしてるんですか?】


「気合⭐︎」


【可愛く言っても誤魔化されないんだよなぁ】

【その姿で可愛く振る舞っても煽りにしかならないぞ】

【魚の人可哀想】

【自業自得だけどな】



「と、言うわけで。スズキさんを囮にして君達は自分たちのペースでやる周回を希望ということだけど」


「言い方に語弊があります」


【事実なんだよなぁ】

【実際に出番奪われっぱなしの後者より、誰でも自分の見せ場を取るだろ】


「ごめんごめん。別に悪気はなかったよ。でもね、自分達に相手が合わせてくれるのを高望みしているだけでは成長はない。そこでどうだろう? 偶には相手の行動に自分達が合わせてみては」


「アレに、ですか?」



 サクラ君の目が正気か? と訴えている。

 アレ、と指さした方向ではスズキさんが視聴者に向けて宴会芸を披露していた。


 そんな彼女に苦笑しながら、そうだと頷く。

 顔を見合わせる獣耳三人組。

 色々と問題しかないスズキさんを良いように解釈し始めたのか、何度か頷きあって噛み砕いていた。



「分かりました。すぐにどうこうはできませんが」


「努力はしてみようと思います」



 サクラ君の言葉をエリーシア君が続けた。

 ラングスタ君がその言葉に頷き、戦闘が再開される。


 アイドルコンサートが行われる以前の戦闘では、スズキさんは完全に囮で声掛けすら無かったのが非常に可哀想だった。

 せっかくパーティーを組んだのに、助っ人として送り込まれたのに彼らは実力を確かめようと上から目線で推測っていた。

 そして合格点を得たのか各々で動き出す。


 スズキさんの動きはとても自由だ。

 誰と組んでも全体が効率よく回る一方で、周囲のメンバーの動きを一切邪魔しない。

 探偵さんが居たとこは率先して彼女に集まりつつあるヘイトを散らしてくれてたけど、若い子達のパーティーではそれが無い。

 少ない人数の弊害というべきか、出来るんならずっとやっててと言わんばかりに声もなく任せられていた。


 私はそれを見ながら、随分と歪な人間関係の構築だなと懸念するけど、それが彼女達の世代の抱える問題なのかと思えば不思議と何かしてやりたくなっていた。



「よし、じゃあ3周したら私も参加しよう」


「良いんですか?」


「良いも何も、視聴者さんからお叱りのコメントをそろそろ頂きそうだからね。今回主催者何もしてないじゃないかって」


【草】

【手がけたアイドルの撮影に夢中でしたもんね】


「それがアキカゼさんクオリティ」


【撮影特化ビルドがブレてないんだよなこの人】

【なのに謎の強さ】


「私が強いというよりは、強い人に助けてもらって今があるんだよ。フレンドさんやクラメンあっての私だからね。だから今後とも彼らには迷惑をかけると思うし、だからその分の補填を労いという形で提供してあげてるんだ」


「お陰でアイドルデビューさせて貰えました⭐︎」


【アイドルデビューさせて貰える為にかけられた苦労は?】


「天空攻略のメンバーですね」


【割りに合わないだろ、それ】

【どう思うかは人それぞれだから】

【逆にどのレベルの労いなら納得するかだよな】

【普通は陣営開放一番乗りで全て労われてるんやで】

【それがあった】

【その上でアイドルデビューは破格】

【普通に考えて頭おかしいけどな】


「それが彼女の望みだったからね。自分にコンプレックを持つ彼女の背中をどうにかおしてあげたいと思ってね。結果がアイドルデビューだっただけだよ。この企画に現役アイドルが参加してくれたのもあり、偶然の産物だったけど」


「僕もまさかデビューさせられるとは思いもしてませんでした」


【あれ、意外と本人乗り気じゃなかった説?】

【今更素人ぶるな】

【この人はずっとノリノリだと思ってた】

【意外とキャラ作ってるのか?】

【アイドルの方のノリもあっちだぞ? 騙されるな】

【疑心暗鬼ニキ、強く生きて】


「でもしてよかったでしょ?」


「はい!」


【絵面が魚じゃなかったら完璧だった】

【むしろ中身美少女だったからデビュー出来たんやで】

【美少女の定義とは?】

【いくらでもキャラクリできるゲーム内で美少女は草】

【感動的だな】

【ゲスト置いてけぼりやん】

【いつもの事だろ】



 どうやら私の伝えたい事は少しくらいは汲み取って貰えたようだ。別に私の人間関係を真似しろとは言わないし押し付けるつもりもない。


 けどせっかくパーティーを組んだのに各々が個人技に頼っているばかりでは何の為のパーティーなのかわからなくなる。

 スズキさんは私の言いつけを忠実に守ってくれた。

 今度は彼らが寄り添う番だ。

 多少不恰好でも笑ったりしないよ。


 戦闘領域に一緒に入り、いろんなアングルから彼らの戦闘シーンをスクリーンショットに収めていく。

 そこに映り込むスズキさんの写真に悪意しかないのは偶然だ。

 

 だって彼女、カメラを向けた私にまで煽って来るんだもん。

 むしろその場面を撮影しろとばかりに言われてる気がしたからね。



【こうやってみてる限りではアキカゼさんカメラマンだよな】

【難なく回避してる時点で実力差が浮き彫りになりますね】

【ショートワープは実際にカメラワークに必須だし】

【空飛べるだけで十分利点だよな】

【カメラマンに求められる技量多すぎない?】

【絶対条件ではないけど、有無でやれることが変わるのは確か】



 そして夢中になって撮影をしてる内に戦闘は終了し、4人はすっかり仲良くなってハイタッチをしていた。

 いいねいいね。こういうのが撮りたかったんだよ。

 パシャパシャと瞬きをしながらおもう。

 これは側だけでもいいからカメラ欲しいなと。

 システム的には便利なんだけどね、こう撮影してるところを真正面から見られるのはとても恥ずかしいことに気がつく。



「質問なんですけど、撮影中の私の状態って視聴者さんからみてどう思われます?」


【不審者】

【不審者】

【不審者】

【戦闘中に戦闘そっちのけで撮影してる寄生】

【不審者】

【不審者】



 圧倒的なまでの無慈悲に打ちのめされ、やがて決意する。



「と、言うわけで私の行動が一眼でわかるように一眼レフのカメラを作ってくれる錬金術師さんを募集します」


【オクトに頼めばいいじゃん】

【これって俺らでもいいの?】

【戦闘中の見栄えを気にするな】

【実際邪魔だし?】

【でも戦場のカメラマンていないから斬新だよな】

【一緒には戦いたくないけど】


「一応は側だけでいいので誰でも参加自由ですよ。オクト君からは最近軽蔑され始めてるので個人的に募集します」


【丸投げしすぎだもんなぁ】

【しかも一個や二個では効かない量が送られてくる】

【嬉しい悲鳴を通り越して絶叫】

【眠れぬ日々】

【くれくれの末路】

【それの情報版がカネミツか】

【くれくれキラーかな?】

【圧倒的情報量で忙殺させる事が出来るのはアキカゼさんぐらいだろ】

【くれくれキラーwww】

【それでもくれくれは減らないからな】

【他力本願マン多すぎ問題】

【ユニーク自発できないマンは戦闘特化だし】

【探索特化じゃないと見つけられないから仕方ない】

【探索特化でもアキカゼさん程見つけられないワイ】


「がんばれ⭐︎」


【スズちゃん、どうすればアキカゼさんみたくなれる?】


「まずはこの青いドリンクを口に含みます」


【そのあと?】


「口の中で香りを楽しみながら飲み込みます」


【拷問かな?】

【香りを楽しめるようになるのは<深きもの>の特権】

【つまり?】

【狂信者になれ、なればわかるさ】

【聞く相手間違えてるだろそれwww】



 最終的に私が悪い、で纏められるのはなんなの?

 でもそう言う時に限ってスズキさんが割って入ってくれるので私の心の平穏が保たれている。

 この持ちつ持たれつの関係が心地いい。


 アンブロシウス氏も言っていたが、どうも魔術師と魔導書の関係は親密になればなるほど強い絆を生むとかなんとか。

 今の私と彼女はどうなんだろうね?


 どこか腐れ縁を感じつつも、そこまで近くない距離でお付き合いできてるのはありがたい限りだけれど。


 カメラの募集をしてる内にあっという間の戦闘が3周目の終盤に入っていた。

 美味しいシャッターチャンスを逃す事なく収め、私の撮影活動は終わりを迎える。



「みんな、恰好良かったよ」


「ほとんどスズキさんに助けられてましたけど」


「こういうのは素直に受け取っておくと良いよ。アキカゼさんが素直に褒めてくれることって稀だし」


「失礼だね。普段から褒めてるじゃない」



 スズキさんの揚げ足取りに、苦笑しながら言葉を続ける。



「じゃあ次からは私も参加するよ。大体の動きは把握した。邪魔にならない程度の活躍をさせて貰おうか」



 私はサクラ君にハッキリと宣言し、兼ねてから決めていた変身ポーズを持って戦闘形態へと移行した。

 邪神インストール無しでも戦えるだろう事は把握済み。

 元々この格好で得られるのは攻撃した際の倍率と防御した際の耐久値に倍率がかかる程度のものである。

 攻撃スキルや防御スキルを持たぬ私には宝の持ち腐れ。

 しかし、それを差し置いても有り余る。


 この姿は戦闘する時の私として見てくれていたらいい。

 なんと言っても、目立つしね。

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