第87話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 Ⅲ
「はーい、助っ人に来たよ~」
「助っ人と言われてもビルド説明もなしにどのような助力をいただけるのでしょう?」
普段通りのスズキさんにエリーシア君は胡乱気な瞳を向ける。
しかし彼女は挫けない。へこたれない。
何でそんなにどうでもいいことに前向きなのか理解ができない。でもそれがスズキというキャラなのだから仕方がない。
「それは~、一通り見せるので、合間に攻撃してもらう感じで」
「それは守りというのでは?」
「どう受け取ってもらっても大丈夫だよ。僕は出来ることしかしないし」
サクラ君の懸念をスルーするスズキさん。
むしろどこか楽しげに相手をしている。
「サクラ、あまり他人のプレイスタイルを責めるのは良くないぞ」
「解ってる。解ってるけど、こんなよくわかんない人に言われっぱなしなのは悔しいじゃないか!」
【魚の人、信用なくて草】
【よく分かんない人扱いやん】
【さっきのスキル派生数も口から出まかせの可能性もあるし】
【見た目から強そうなオーラ出てないからな】
【アイドルオーラだって皆無だろ?】
【草】
「さぁさぁみなさんお立ち会い。今から僕のステージが始まりますからね~」
そんな罵倒も何もかも聞こえなかったフリして注目を集める。
「では、始めるよー。みんな着いてこーい」
ゲストの三人を置いてけぼりにスズキさんはレヴィアタンに向けてダッと駆け出した。
その動きたるやおちょくり全開で、見たものを笑いに誘う。
ただ走ってるだけなのに、笑えるのはずるいと思うんだ。
多分変顔しながら走ってるのがいけないんだろうね。
コメントからも早速突っ込まれていた。
「ほいさー!」
無造作に繰り出した槍はレヴィアタンを捕らえ、そのまま粘液を貫通してダメージを与える。
レヴィアタンの皮膚の周りには物理無効と魔法無効の効果がある。その上プレイヤーが触れたら麻痺と衰弱の状態異常にかかって大変な目に遭う。
けれどそれをものともせず貫通したということは?
「あ、特効武器持ってきてます」
だろうね。ゲストたちが取り捨て選択で捨てた武器を持ってきたことに対して特にコメントは得られなかった。
だから何? くらいのものである。
「どんどん行くよー」
レヴィアタンの攻撃は首を持ち上げてから変化する。
逆に言えば首を持ち上げたら何かをしますよとの合図なのだ。
一つ目は食いつき。これは確定キルの判定を受ける。
次に暴れ回る。これは周囲に粘膜を擦り付けて領域を広げる為のものだ。
この粘膜はレヴィアタンの耐久を回復させる効果を持つ。
擦り付けたあとは若干ダメージが通りやすくなるが、すぐに再生するので後手後手に回れば先程の三人のように攻撃するチャンスを失いどんどん回復されてしまう。
一番ダメなパターンである。
そして最終パターンは擦り付けた粘膜を意のままに操り、攻撃手段に転じてくる。これは攻略する上で絶対に取らせてはいけない行動であるとされた。
ヘビーと違ってレーザーこそ放ってこないが物理と魔法が効かないのは、通常プレイヤーにとっては一番相手にしたくない手合いである。
ではどうすればいいのか?
それは行動させなければいいのだ。
ゲスト三人組の戦略が間違えてるとは言わない。
けれど大砲での仰け反りはタイミングがシビア過ぎて特効武器持ちのスズキさん程頻繁に使える訳ではない。
ただでさえ領域を拡張してくる相手に、地に足をしっかりつけて狙いを定める必要がある。
その間は隙を晒すし、そして発射直後も硬直状態になるので例え数秒怯み時間が長くとも、下手をすればまるで怯ませられずに攻撃されっぱなしになることの方が多かった。
一方でスズキさんはどんな状態からでも一撃を入れられる。
これが特攻武器の強みである。
たった3秒でも狙ったタイミング次第では長時間拘束出来たりもする。
更に自分の体に水を纏って泳げば、状態異常を付与してくる粘液の中でも関係なく泳ぎ切る。
その上で攻撃タイミングもあえて首を持ち上げたタイミングで仕掛ける。
これは次に行動を起こそうとするのを事前に潰すことによって一方的にヘイトを受け取る戦法だ。
誰だって狙っていた行動を邪魔されたらイライラも募る。
それを狙ってやることによって、スズキさんはゲストに一切ヘイトを漏らさないのだ。
彼女は優秀なタンクである。
その上でアタッカーの動きもできる回避盾。
ふざけた行動も何もかも彼女が狙ってやっている。
そう思った途端、彼女の見方が変わる筈だ。
ゲストの三人はスズキさんが参加しただけで、先程はまでは良いようにやられていたレヴィアタンに対し、こんなに弱かったっけ? と意見を変えることになる。
実際にヘイトがスズキさんに向いてるので隙だらけだった。
サクラ君がデバフを撒かなくても、ラングスタ君の迫撃砲は面白いように当たった。
追撃するエリーシアさん。
それをサポートで支えるサクラ君。
迫撃砲を当てたのにまるでヘイトが自分に向かないことに苦笑いする。
もはや彼らの中でスズキさんはポッと出のよくわからない人では無くなっていた。
彼女を加えただけで自分たちの思い通りの戦況が動き始めたのだ。
だからコメント欄でも戸惑いの声が上がり続ける。
【あれ、魚の人って普通に強い?】
「仮にもアトランティス人の戦士と対等に渡り合ってるメンツの一人だよ? 弱いだなんて言えないよ」
【あー、よく考えなくてもそうだよな】
【地上戦でムー人すら撃破してるんだよな、そのパーティー】
【水中は得意中の得意とは聞いてたけど、こうも変わるんだ】
「ちなみにあれはまだ本気出してないと思うよ」
【あれでまだ上限があるの?】
「だってふざけてないもの」
【草】
【別にいいじゃんか、ふざけてなくても】
「ちなみにふざけてる時の彼女はキレッキレの動きをするレムリア人のレーザー(跳弾)を躱すからね?」
【は?】
【水中でってこと?】
「地上でも、だよ。あの人背中に目でも付いてるんじゃないかってほど反応いいんだ」
【魚なのにか?】
【前しか向けないんだよなぁ】
【でも正座はできる】
「体育座りもできるよ?」
【アレ?】
【サハギンの謎は深まるばかりだ】
コメント欄の相手をしてるうちに戦闘は終了していたようだ。
殆ど見ていなかったけど、何事もなく拍手をして出迎えた。
「いやー、様子見してたら終わっちゃいました。全力を出すまでもなかったですね」
「だろうね。スズキさんが普通に戦ってるところを見てもつまらないとコメントで取り上げられててね。次は本気でふざけて戦ってもらおうかな?」
「本気で、ですね。良いですよ!」
スズキさんはノリノリで答える。
しかしゲストはどうしてそんなに無茶振りするんですかと講義の声をかけてきた。
どうやら彼らは安定周回を望んでいるらしい。
「ちなみに彼女は通常攻撃に宴会芸を交えた方が強いんだ」
「「「はい?」」」
子供たちの声が困惑したままハモる。
「あ、信じてませんね。スズキさん、お手本を見せてあげてください。この子達はさっきのアレがスズキさんの本気だと信じてしまっているようだ」
「しょうがないですねぇ。ちょっとまっててくださいよ、しょっと」
そう言いながら先程まで生き生きしていた鯛の目が死に、内側でゴソゴソし始める。
チャックが降りて、中からリリーが出てきた。
「こんにちは、狂信者のみんな、辰星アイドルのスズキだよ⭐︎」
【スズちゃーん】
【急に出てくるな】
【心臓に悪い】
【これが着ぐるみだって事を今のいままで忘れてたわ】
【俺も】
【今更アイドルのフリしたってさっきまでの痴態はアーカイブ化されるんだよなぁ】
「と、いう事でこれから僕が歌って踊ってレヴィアタンをメロメロにしちゃいます⭐︎」
【ソロで?】
【ソロは無理やろ】
【ダメージソースは?】
「こちらに」
リリーがパチンと指を弾くと、足元の影からスズキさんボディが浮き出てきた。
どう見ても生きてるそれを着ぐるみと言い張るのは無理があった。
ゲッ、ゲッと鳴くその個体はスズキのスキルを模倣しているらしく。突撃すれば爆発四散して耐久分のダメージを与えるらしい。
しかもその個体はあくまでもバックダンサーという事だった。
意味がわからない。
多分理解できてる人は間違いなく狂信者なのだと思う。
少しすれば古代獣がリポップする。
イベント中は何度でも倒せるだけあり、着慣れたドレスで振り付けをする彼女はノリノリだ。
まるでアイドルのソロコンサート。
たった一人の観客(レヴィアタン)の為に開かれたそのコンサートは、一番前の客席と、舞台の後ろでそれぞれ違う振り付けで踊るスズキさん人形が5体づつ居た。
「それでは僕たちのデビュー曲を聴いてください⭐︎ 恋のバミューダ・トライアングル!!」
隙だらけで呑気に歌うリリーに対し、迫るレヴィアタン。
一瞬で食いつかれたと思ったら、口の中が大爆発を起こす。
いつの間にかリリーは舞台袖に降りてきていて、激しく踊っていたバックダンサーの一匹がひっそりといなくなっていた。
リリーは全く動じず、歌は続く。
【今何が起きたんだ?】
【スズちゃんが食われたと思った瞬間爆発。そしてバックダンサーが一匹減って舞台袖で歌ってる】
【つまり?】
【バックダンサーとファンが残機】
【把握】
【しかし一撃で耐久80%まで減ったんだけど?】
【自爆する着ぐるみ怖っ】
【いや、どうやって動かしてるかの方が謎でしょ】
【そこは宴会芸じゃないのか?】
【腹話術か、人形劇か】
【ありそう】
【本人歌に夢中でレヴィアタン君無視されて可哀想】
そして歌が終わったと同時に、耐久を削りきれずにしぶとく生き残ってるレヴィアタンに、スズキさん人形が雑に特攻して無理やり倒していた。
それをバックに舞台の中央ではファンサービスをしながら健気に狂信者を増やすべく青いドリンクを売りつけるリリーの姿があった。
ゲストの三人はポカンと口を開けている。
私は一人だけ拍手して、アンコールと叫んだ。
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