第65話 ゲーム内配信/釣り人の集い Ⅲ
ルアーさんが釣り上げた亀がイベントトリガーだった。
私達はそのイベントにお邪魔して一時的にパーティを組むことになる。友情出演のスズキさんがウキウキとしながら私の手を引く。
水中活動がお手の物の彼女にとってはようやく見せ場が来たのかもしれない。
普段から見せ場を探してるとは言ってはいけない。
アレは彼女なりのユーモアである。
◇
「果たして何が待ち受けているんですかね」
「む、ここから少し水圧がきついな。アキカゼさんは平気か?」
「水圧耐性あります」
「アキカゼさんは人の身で一度深海に行ってますからね」
「そいつは凄い。俺らはダイバースーツ込みでもこの体たらくだってぇのに」
「少し真上からの圧を消しておきましょうかね。水操作!」
水操作は手元から出す際にAPを消費し、操るのにSTを消費する特殊な称号スキルだ。
水がある場所ならゲージの消えたスタミナを使い続けることのできる実に私好みのスキルになってくれた。
「助かった、ずいぶん楽になったよ。なぁサブ?」
「本当に。こう言う局面ではアキカゼさんの壇上ですね」
「それを言ったら彼女の方が先輩だよ」
「僕ですか?」
「スズキさんの方がこの海域に詳しいでしょ?」
「そりゃ生まれた場所ですからね。庭みたいなものですよ」
【そりゃ魚人にとっちゃこっちが専用フィールドだろ】
【そう言えばプレイヤーで魚人を見ないけどどうして?】
【陸に上がる魚人が珍しいだけで普通は海の中にいるんだぞ? 出会うわけがない】
【それもそうか】
「ここら辺はスズキさん詳しかったり?」
「初めて来ましたね。生まれはセカンドルナ辺りなので。ちょっと遠出した気分です」
【庭は庭でも他人の庭じゃねーか!】
【それ言ったら俺らも他人の庭ズカズカ上がり込んでるんやで?】
【開拓者は一転侵略者になるのであった】
【正直すまんかった】
【などと申しており……】
【被害者一同からバッシングを受けている】
【↑×3 コメントで遊ぶな】
コメント欄もいくつか疑問が出されていた。
魚人との接点のなさがその一つ。
そもそも活躍できる場所に差がある時点で接点がないはずなのだ。
彼女の場合は私を信じてくれて、ついてきてくれたからこうして一緒にいる。それだけなのだ。
深海をぐんぐん進む。
水操作で後方から押し出す様な感じに力場を動かしてやれば、私たちの身体は前へ前へと進んでいった。
しかしある一定の場所で足止めを喰らうことになった。
≪そこなもの達よ、止まれ! ここから先は我らが聖域となる。許可のないものは通すことが出来ない!!≫
海の中でもよく通る声が私たちに突きつけられた。
現れたのはマーマン。サハギンをより人に寄せた魚人だ。
三又のスピアを持ち、この辺りを守護しているらしい。
人間に寄せたからか恥じらいがあるのか全裸のスズキさんとは違い服の様なものを纏っている。
袖を通すと言うよりは巻きつけた感じである。
素材は珊瑚の化石や真珠などの海にまつわる鉱物を含んでおり、パーツパーツにこだわりを見せていた。
「許可ってどんな許可です?」
スズキさんが先陣切って言葉を掛けた。
同じ魚人ならば受け入れやすいと考えてのことだろう。
≪む、そこに居るのは我らが同胞か。君は入っても良いぞ≫
「あざーす」
スズキさんは私達を置いてさっさと聖域内に入っていった。
【こいつwww堂々と先に行きやがった】
【普通は仲間の証明を買って出るものだろう】
【所詮は魚人か】
コメント欄ではスズキさんの裏切り行為を詰っていたが、その実あの行動には全く別の意図があった。
それは直後の個人コールで判明する。
『ハヤテさん、今なら僕に対して警戒心を解いてます。ここで僕が門番さんを羽交い締めにしたら皆さん無事に通れますかね?』
背後ににじり寄って両手をわきわきさせるスズキさん。
何やってるんだろうね。
流石にここで信用を失う様な真似はしたくない。
やめなさいと言ったら渋々従ってくれた。
「証明と言うのはこれではダメか?」
ここでイベント発掘者のルアーさんが動き出す。
懐からフレーバーデータと化した釣った亀を見せると門番のマーマンは瞠目して驚きを隠せないようだった。
≪やや、これは! 乙姫様のペットの亀吉じゃないか! そうか、これを送り届けてくれたのだな? 特別に許可しよう≫
【亀吉www】
【ネーミングセンスにアキカゼさん味を感じる】
【その乙姫絶対プレイヤーだろwww】
【魚の人さっき絶対悪いこと考えてたろ!】
【意味深な動きでしたね】
【仮にも上司のペットをこれ扱いとかこいつ門番失格じゃね?】
【言ってやるな。アイテム渡されてペット扱いしろは無理ある】
【そこはゲームだしどうとでもなる】
【ホントでござるかぁ?】
「では通らせてもらうよ。他にも疑われたらこれを提示すれば良いだろうか?」
ルアーさんが再度確認すると門番さんは大きく頷いてくれた。
≪それで構わない。 我ら海神族にとって乙姫様とそのペットを知らぬものは存在せぬからな≫
「だって?」
私はスズキさんに尋ねてみる。
しかし彼女は顔の前で手を横に払った。
つまりは存じ上げてないと言うことになる。
【こいつwww】
【この人陸上生活長くて海の拠点まで辿り着いてないタイプの人だろwww】
「むしろ街があったことに驚きです」
【そこから?】
【水棲系プレイヤーが話題提供しないのってもしかして?】
【多分魚の人と同じで生まれた場所を拠点にしてるパターン】
【つまりずっとぼっちで生存競争をしてると?】
【何それ孤独】
【可哀想】
【陸に上がってきたのは英断だった?】
【鰓呼吸が無理すんな】
「何はともあれ先に進もう。海中都市がどんなものか気になるね。空気が持てば良いけど」
「多分だけどそれは希望的観測では? なんせ僕達に共通するのは鰓呼吸です。その上で拠点が海の底。陸の人のことなんて考えてないですよ、きっと」
「そう言う夢を壊す発言やめてくださいよ」
「ふひひ、サーモン」
軽く雑談を交わして私達は街と思しき場所へと入り込んだ。
そこは二足歩行で歩くウナギや。タコがそこかしこに居る海底都市。
陸との違いを挙げれば水棲系の生物しかいないのが特徴だろうか。
周囲からは他所者が入り込んできたと言う奇異の視線。
そんな視線の中、スズキさんは前を歩いてくれた。
道も知らないのに我が物顔で。
≪ようこそ竜宮の都へ。本日は観光ですか? それともクエストですか?≫
そんな奇異の視線で見つめられる私達に営業スマイルで話しかけてくる人が居た。NPCにしては対応が自然だ。
もしかしてと尋ねてみたらプレイヤーの方だった。
彼女はミレディ。
マーメイドのハーフビーストでプレイヤーの中で三番目にこの街に到着したプレイヤーだとかで、この街に滞在してアクセサリーを作って生計を立てているらしい。
「へぇ、ミレディさんは服飾デザイナーさんだったんですね。でもどうしてこんな辺境へ? 言っては悪いですが人通りはあまりよろしくない」
≪それを分かった上で選択しました。きっと私は人付き合いに疲れていたのでしょうね。海は厳しい環境だけど、心の暖かいNPCが多いんです。プレイヤーだからと贔屓したりはしてくれませんが、ここでなら私も頑張れるかなと≫
ミレディさんは過去を吹っ切るように笑ってみせた。
≪じゃあ僕とおんなじですね≫
いつのまにかスズキさんが鰓呼吸に戻ってミレディさんに話しかけている。
≪同じ、ですか? 失礼ですがあなたは≫
≪僕はスズキと申します。こう見えてごにょごにょをしてまして≫
【おい、肝心の場所が聞こえねーぞ】
【流石にプライベート開示はあかん】
【それを聞き出そうとするのもマナー違反だよ】
≪どうも熱くなりすぎる性格上、リアルで抱え込んでしまいがちで。そこで人の目を避けるようにこんな姿で始めてます≫
≪そうだったんですね。ですがその姿で人前に出たのはどうしてですか?≫
私達を連れてきたと言う時点で一人でいる殻を破ったのだろうとミレディさんは羨ましそうにスズキさんに尋ねた。
≪理解者が現れてくれたんです。それがこの人、アキカゼさんだったんです≫
「ご紹介いただきましたアキカゼです。以後お見知り置きを」
≪えっと、はい。こちらこそよろしくお願いします≫
同じ水棲系に対してはぐいぐいいく彼女だが、陸の上から来た人間種族に対しては、少しだけ壁を感じてしまう。
「それではミレディさん。私達はシークレットクエスト中でして。先を急ぎますのでこの辺で。積もる話はその内しましょう。スズキさん、行きますよ」
「はーい」
ミレディさんは別れ際、寂しい顔をしていた。
ようやく気のあいそうな水棲系プレイヤーとの遭遇に心躍ったのかもしれないね。
「スズキさん、あの人はどうも当時のあなたと似た感じです」
≪ええ、放っておけませんね≫
「何かお手伝いできれば良いんですけど……」
≪ああいうのは時間だけじゃ解決できませんからね≫
【経験者は語る】
【意外と重い過去持ってるんだな魚の人】
【で、どこまでが本当なの?】
≪むしろどれか一つでも本当だと思わせてしまいましたかね?≫
【知ってたwww】
【同情を返して!】
【魚の人サイテー】
≪はーっはっはっは。見事騙される君たちが悪いのだよ≫
てへぺろとしてやれば一瞬にしてコメント欄は流された。
彼女はどうも今のキャラクターで押し通したいようだ。
竜宮の都を越えた先に竜宮城がある。
しかし微妙に空に浮かんでいる。
いや、街より上に浮かんでいるだけか。
ここは水中だから泳いでいけば良い。
それだけだった。
さて、竜宮城に乙姫。
亀を届けた見返りに何をいただけるのでしょう。
まさか玉手箱だったり?
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