第57話 ゲーム内配信/寄せ集め連合 Ⅰ

 前回の配信後、やけにダグラスさんや探偵さんから揶揄われるようになった。本人達はなにも言わないけど、その表情が必要以上に物語っている。


 余計なことをしてくれたな。でも一歩踏み出す勇気が得られた。ダグラスさんはそう言いながら自分の持ち場へ戻っていった。



「それで、君は次はどんな人達のお節介を焼きに行くの?」



 探偵さんは前回の件で今回企てた私の計画を殆ど把握したようなそぶりで質問してくる。



「そうですねー。私は頑張ってる人が好きです。目標に向かって失敗を恐れず邁進する人が好きだ。そんな人と友達になりたいし、支えてあげたいと思ってるよ」


「やっぱり君は奇特だなぁ。まぁだからこそ僕は出会った時から君に惹かれている訳だけど。何か手伝えることがあったら呼んでくれ。マシンは都合できないけど、それ以外で役に立つさ」


「うん、そう言ってくれて助かるよ。今回のお節介は君たちの奥さん側からのアプローチがあったからこそ成り立ったわけだし。それもなしに巻き込みはしないよ。君やダグラスさんは没入すると周り見ないからさ、ずっと心配してたんだよ。でも向こうから特に音沙汰なしだと取り越し苦労でしょ? だから今まではなにも言わなかった。でもさ、私とジキンさんはそのお節介のお陰で今老後を楽しめている。たとえゲームの中だとしても、青春していられる。身近な君たちにもそれを是非味わってほしい。クランマスターからのちょっとした気遣いさ」


「それ、半分くらいクランマスター押し付けた仕返しでしょ?」



 探偵さんの目は呆れたようにジト目だ。

 素直に受け取れないのは昔から。だから私もその通りだよと話を濁して飲み込みやすくさせた。



「探偵さんには要らぬ気遣いだったかな?」


「そうだね。でもこっちでも出会うきっかけが生まれて連絡を取り合う機会を設けてくれたことには感謝するよ。彼女を見てると昔の僕を思い出して頭が痛い」


「ロールプレイの粗が目立って居たからね、彼女」


「まぁ僕みたいになりたい目標が定まってないから仕方ないとはいえ……いや、なんでもない。このあと配信でしょ? 頑張って」


「ええ、私の持ち味を生かしてやりますよ。では!」



 探偵さんと別れて私はオクト君経由で連絡先を取り合った代表にコンタクトを取る。

 帰ってきた返事はまさか自分が当たるとは、と言う驚きと衝撃だった。


 今回選んだ基準はこのゲームを楽しんでると言うこと。

 完全に私の活動に影響されて掲示板で融資を募り、そして陣営に与せずに第四の町の古代獣を引き当てた寄せ集め連合というパーティだ。

 出自から世代、得意分野が全く違う編成での快挙に私が胸を打たれたと伝えると、代表のジャスミン氏は照れ臭そうにこう答えてくれた。「俺たちだってやればできるんだ、それを世間に見せつけることができて感無量だ。でもまさかネタで送った応募に当選するとは思わなかった」そう言って笑う。

 

 軽く談笑してから打ち合わせに入り、そのままフレンドコードを交換。個人コール越しにでもIDを口頭で打ち込めばフレンドになれると言うのだから技術の進歩は凄まじいね。


 そんなわけで私はジャスミン氏との待ち合わせ場所に足を向け、合流して自己紹介を終えた後に配信の諸注意を語る。


 今回のパーティの目的は四の街の古代獣、リンドブルムの特効武器発掘だそうだ。

 現状では六の街に行けるほどパーティのメンツの実力が不足しているらしく、イベントトリガーの発掘まで至れたここで引き続き頑張ってるらしい。


 今回私は彼らのアドバイザー兼翻訳家として赴いている。

 完全に戦闘に偏った四人+素人二人の編成の為、部外者が活躍してしまうのは憚られる、というか前回はリズベッドさんを置き去りにし過ぎて人でなし扱いされたので猛省しているのだ。

 と、言うわけで配信スタート。



 ◇



「こんにちは、アキカゼです。本日は掲示板で有志を募って見事第四の街の古代獣発掘を成し遂げたパーティ『寄せ集め連合』の同行にご一緒することになりました。では自己紹介をお願いします」


【きちゃー】

【待ってました】

【激しく見覚えのあるメンツwww】

【むしろ燻ってる俺らの代表】


「私はジャスミン。ジャッカルのハーフビーストだ。普段は九の街を活動拠点にしてる。上から数えた方が早い中堅プレイヤーだな。そんな私は掲示板を見ながらアキカゼさんの話題に触れて居た時、自分達も頑張ればアキカゼさんみたいに発掘できるのでは? と言う募集を受けて参加した次第だ。現状はスキルの派生数がトップということで代表を任されている。あと一応男だ」


「はい、代表者のジャスミンさんでした。ところで派生数お幾つほどあるんです?」


「別に多くはないが100個だな」


「十分多いですよ。私未だに48個から増えませんから」


「それだとうちのパーティでは一番下になってしまうが?」


「つまり上級者ばかりのパーティと言うわけですね!」


【草】

【称号の数でならトップに輝きそうな人がなんか言ってるで】

【派生数の少なさは持ちネタの一つだから】

【芸人かな?】

【新人に負けるってどうなのよ……】

【逆に新人の方が情報出揃ってるから行動を絞りやすいぞ?】

【良くも悪くもモブから抜け出せないプレイヤーの集まりだよ】

【可哀想】


「次は俺だな。モブオブモブのエルフ、モーバだ、よろしくな」


【モブって自称するもんだっけ】

【言ってやるな】

【自称しておけばダメージが少なくて済むだろ?】

【うっ……わかりみが深すぎる】

【言うてこいつ、クラン『森林協同組合』の幹部だぞ。弱いわけがない】

【エルフしか入れないクランだっけ?】


「その中に入るとみんな俺よりかっこよくてイケメンなんだ。強さ以外に取り柄のない俺はスキルを開拓していくうちに幹部になってた。それでもモブっぽさが抜けないってみんなから言われ……ぐぁああああああ!!」


【自虐ネタやめろ】

【あれ、俺こいつの気持ち痛いほどよくわかる、もしかして生き別れの弟だったりする?】


「兄さん!」


【ノリが完全に掲示板で草】

【掲示板の有志の時点でお察しだったろ】



 モーバ君はエルフ特有の甘いマスクに弓矢を用いた絡め手のスペシャリストと聞く。しかし語り出すと自虐とノリツッコミを巧みに操る面白キャラと掴みどころがない。

 もしかしてスズキさんの生き別れのお兄さんだったりする?

 なんてね、掲示板のノリに乗っかりつつ次のプレイヤーへと話を振った。



「モーバ殿のおかげで話が大きく脱線したが、某は村正。一応はラビットのハーフビーストであるがそれは世を偲ぶ仮の姿! 実は前世侍だった記憶を思い出し、最強の二つ名を手に入れる為修行に励んでいるのだ!!!!」


【まーた香ばしいのが出てきたぞ】

【おい、こいつ確かリーガルんとこの特攻隊長だぞ】


「あ、父がお世話になってます」


【急に素に戻るな】

【情緒不安定かな?】

【己の肉体が武器のハーフビーストで刀とか地雷にも程がある】


「刀とは概念じゃよ」


【語尾統一しろ】

【ウチのバカ娘がすまん】

【性別が判明した途端に急に微笑ましくなるマジック】

【お父さん謝りに来てて草】

【村正ちゃんは可愛いなぁ】



 濃いなぁ、キャラが濃い。

 リーガルさんの娘さんだと言うのが嘘みたいにキャラが行方不明になっている。



「えーはい、では質問です。村正さんは侍のどこに惚れたんですか?」


「魂!!!!」


「以上、村正さんからの熱いメッセージでした」


【草】

【アキカゼさんも対応に慣れてきたぞ】

【クラメンに似たようなのがいるからな】

【|◉〻◉)誰のことだろう? 僕の知り合いかな?】

【オメーだよ!】

【絶対この人分かってて出てきたぞ】



 噂をすればなんとやら。

 我らがマスコットの参戦だ。

 早速おかしくなった流れを整え、いやより加速させて脱線させているのが憎いね。


 その後は至って普通の自己紹介が続いた。

 人間で魔法特化の陸ルート氏。

 自称新人生産者のオメガキャノン氏。

 これまた自称新人探索者のパスカル氏だ。


 最後の一人については新人の意味を履き違えていると激しく口論したいところだけど、なんか相手にするのも疲れたので話を進めることにした。


 なにしてるの、ロウガ君。似合わないメガネなんて掛けちゃってさ。

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