第55話 ゲーム内配信/秘境探検隊 Ⅵ

 さて、例のレシピから出来上がったブツがこれだ。

 作ってくれた職人さんと、あとはもう一人サプライズで助っ人を呼んで今回は配信を始めた。



「ねぇ、なんで今回僕を呼んだの? ダグラスさんはともかくとしてさ」


「そうですね、サプライズゲストです」


「君はすっかり配信者になってしまったなぁ。まぁ僕は別に構わないけど」



 上手いこと勘違いしてくれたので探偵さんを放っておく。

 前回は彼女達にサプライズをされたのでこちらもサプライズをぶつける事にしたのだ。



「アキカゼさん、オレは何も聞いてないんだが?」



 そこへ集まってくれたリズベッド氏が困惑しながら探偵さんをチラリと見た。



「今日はサプライズゲストを用意したよ!」


「あ、この人今言ったよって言い切るつもりっす!」



 紘子ちゃんが我が意を得たりと揚げ足を取る。



【視聴者じゃなくてプレイヤーにもサプライズって】

【普通に放送事故じゃない?】


「まぁ良いではないか隊長。アキカゼさんの事じゃ、悪い様にはせんじゃろうて」


「むぅ。まぁ良い。来たからにはアテにさせて貰って良いのかな?」



 リズベッドさんが探偵さんに向けて握手を差し出す。

 それを受け取り、探偵さんは任せてくれた前と笑顔を返した。



「で、ワシはブツを持って来たわけじゃが、このまま合流しても良いのかの?」


「ダグラスさんも一緒にお願いします。偶には運動しましょうよ」


「それじゃとワシが籠りっきりみたいじゃないか」


「違うんですか?」


「いや、合っとるわい。まぁ役には立たんがアキカゼ君の働きぶりを見させて貰うとするかの」


「任せてください。とは言え、主役は彼らですけど」


「そうじゃったな。ワシはダグラスと言う。しがない鍛冶屋の爺だ。よろしく頼む」


「噂はかねがね。その知恵のいくつかをお貸しいただければありがたい」


「それくらいは造作もない」



 ダグラスさんに対応したのはホークアイ氏。

 お互いに老獪なイメージがあるけどこの二人、夫婦である。

 そしてもう一人は娘と来ている。



 この組み合わせ自体が一種の起爆剤。

 私はやっぱり家族は仲良くしてもらいたいんだよね。


 そりゃもちろん家庭毎にやり方があるのはわかってる。

 それでもね、私やジキンさんの様になって欲しいと思ってる。



「さてリズベッド氏。ブツは手に入った。前回の続きを始めようか?」


「ああ、こちらだ。案内する」



 内心ドギマギとしていながらもロールプレイはブレず、リズベッド氏はキビキビ歩き出した。

 それに続く探偵さんは私の方に近づいて耳打ちをしてくる。



「彼、気難しそうだね?」


「そうでもないですよ。リーダーとしての威厳を大切にしてるんですよ」


「なるほど、君も見習うところがあるかもね?」



 ポンと肩を一つ叩かれた。

 ちょっとそれどう言う意味?

 けれどそこまで悪い感情は持ってなくてよかったよ。



「ここだ。ここでレシピが開示された。例のアイテムをお借りしたいが宜しいか?」


「そのために作ったんじゃから構わぬよ」



 ダグラスさんから手渡されたのはオルゴールだった。

 ゼンマイ式で音楽を奏でるそれであるが、生憎とゼンマイそのものが内蔵されていない。



「これ、巻き手がないね。不良品かな?」


「レシピ通りに作ったらこうなったぞ?」


「むぅ、ではこれをどうするか考えましょう」


「あ、この形、見覚えあるっす」



 オルゴールを前に討論する私たちのすぐ横で、手を挙げるカレイド氏こと紘子ちゃん。

 そんな彼女はオルゴールを持ちととと、と走り出した。

 壁画のある部屋を抜けて黄金の棒を捧げた池のほとりまでやってくると、大いなる目が鎮座していた場所へと嵌めた。



「やっぱり! ピッタリっす」



 今では盛り上がって地下への階段をつくったその中心地。

 そこに合った窪みにオルゴールのそこがピタリと嵌る。

 けど特に何も起きない。



「アキカゼさん」



 リズベッド氏は黄金の棒を私の前に差し出した。

 それを見て、ああと思い出す。

 私は懐からレムリアの器を取り出して共鳴させた。


 打ち付ければ変な音を鳴らすが、実は近づけるだけでも甲高い音が鳴るみたいだ。



「少年、これって?」


「まず間違いなく地下ルートの試練関連です」


「やはりそうか。僕の妖精誘引が反応した。レムリアの器と共鳴するあたり、その棒、龍人の巫女の持つ石と関係ありそうだ」



 実に考察し甲斐があるとワクワクしながらメモを書き進める探偵さん。この人の凄いところは考察の鋭さだけでなく、私以上に未知に貪欲なところだ。



「何か判明したのか?」


「いや、この人妄想大好き人間だから。あれこれ結びつけて一人妄想して楽しんでいるのさ」


「そうか。しかし変化は無いな。このオルゴールを鳴らすためのトリックがわかれば……」



 今までの流れではこの黄金の棒にレムリアの器を近づけるか鳴らすだけでよかった。しかしそれでもオルゴールは鳴り響かない。まだ他にギミックがあるのか?



「少年、奥の壁画はチェックした?」


「レシピが出て来ましたよ?」


「そうじゃなくて、何か絵が書いてあったでしょ? その解読」


「それはまだです。だってヒュプノは関係なさそうだったし、災厄の種を無力化する方法しか書かれてないですよ?」


「絵は?」


「ないですね。文字だけです。それも徹底してムーの古代言語ときている」


「ふむ。ここの遺跡は音が関連ある.それは確かだね?」



 探偵さんは考察モードに入った。その姿たるや堂に入っている。



「はい。ギミック的には」


「ならば答えは単純だ。僕がそのオルゴールに妖精を送りつける」


「妖精の反応もないのにですか?」


「君はそこに可能性があればやる人間だろう?」


「それはそうですが」


「奇遇だね、僕もその手の人間だ。皆、離れていなさい。一応用心はしておいて〝妖精誘引〟」



 キィイイ───────ン…………


 それは耳鳴りに似た音だった。

 しかしそれは直ぐに止み、続けて音色が響いてくる。

 回っている、オルゴールは確かに回っていた。

 そして聞こえて来た音楽は、カエルの唄だった。

 小学生の時、音楽の授業で習うアレが、オルゴールとして耳に届く。


 すると、厄災の種として祀られていた遺物が砕け散り、内側から真っ白なオーブが出て来た。



「どうやら成功の様だね。しかしこれはどこに使うんだろう?」


「そこは足を使って調べれば良い」


「そうでした」


「探偵さん、良い仕事でした」


「所見の人にその呼ばれ方は照れくさいね。でも少年と同姓同名だから仕方ないか。こちらこそ、僕の咄嗟の思いつきに協力してくれて感謝するよ」



 夫婦でガシリと固い握手を結ぶ。

 こんなふうに手を結んだのなんていつぶりだろうね?

 まさかさっきした時が最初だなんて言わないよね、ね?



【やっぱり機関車の人も普通に有能なんだよな】

【探偵の格好してるだけはある】


「少年探偵アキカゼ、全36巻もよろしく!」



 探偵さんが決めポーズでコミックの宣伝をするが、コメント欄の書き込みは辛辣だ。



【そのコミック、売ってないんですよね】

【売ってないコミック宣伝すんな】


「そりゃそうだよ。40年前に打ち切りになってるし、掲載誌は絶版してるもの」


【いつの時代のコミックですかwww】

【第一世代が少年時代の時点でお察し】

【オレ生まれてねぇ!】


「今ならVR井戸端会議で桜町町内会のコミュニティセンターで読めるよ。ちなみに私の寄贈品だ」


【そのソフト名聞いた事ないんですけど】


「安全にリアルを歩ける第二世代の為のソフトだよ。リアルで過ごした私が見ても遜色ない出来だ。四季も実装してるし今なら雪景色も見られるかもね。リアルの街並みもそう悪くないので興味を惹いたら来てみてね。承認制だから私かオクト君に連絡をとってくれれば招待しよう」


【またオクトwww】

【良い様に使われすぎだろ】

【お義父さん!!】

【お宅の義息さん、ブチギレですやん】


「冗談だよ。でもあの作品は是非観てもらいたいねぇ。思わず生き様に影響を与えるぐらいには感化されたし」


【逆に見てみたくなるんだよな】

【再掲載希望】


「残念ながら望み薄だよ。私はリアルをVRに持ち込む手段を持ち得ないし」


「ならワシが仕入れてやろうか?」



 ダグラスさんが話に途中から入ってくる。



「それは有難いですが、そもそもできるのですか?」


「簡単じゃよ。画像に収めてアップするだけで良い。ワシもそうやって刀剣をVRに持ち込んでよく製造しとるからな。アトランティスの15メートルクラスの日本刀も完成したし、そのノウハウを活かすのはなんら問題はない」


【今サラッとやばい内容聞こえたんだけど】

【それ】

【コミックをVRに持ってくるって話なのに、なんでロボ用の日本刀の話出て来た?】


「浪漫じゃよ。巨大ロボに近接武器。それも刀。デザイン自由なアトランティスならではの発想じゃろう?」


【納得】

【本当に第一世代はぶっ飛んだロマン求めるな】

【今更だろ】


「じゃがワシは製造専門じゃ。欲しいと言われたら作るから、他にもアイディアがあったら持ってくると良い。普段は0321格納庫におるからの」


【是非に】

【後で伺わせていただきます】

【しれっと宣伝すんな】


「別に良いんじゃない? ただこの人集中しだすと周りに雑音シャットダウンするから連絡取るなら今のうちだよ」


【いい加減探索進めよ?】

【そうだぞー、そのオーブの使い所さんが気になってる】



 そうは言ってもね。

 ただ歩いてるだけの風景を延々と見せられてるのも苦痛だろうと思って会話挟んでるんだけど、どうも脱線しすぎは良くない様だ。



「さて、ここが最後だな」



 私達は歩き続けた。

 頭、右手、左手。その全てで音を鳴らしたり、妖精を集めたり、オーブを置いてみた。

 しかしこれと言ってなんの反応もなく、レイドボス発生のトリガーキーのある心臓部分へと戻って来た。


 また何か変化があるかもしれないと遺物は全て回収済みだ。

 手元には二つの遺物に災厄の種から変化した白く輝くオーブがある。

 それを全て祭壇に捧げたところ、オーブにピシリと亀裂が走った。

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