第50話 ゲーム内配信/秘境探検隊 Ⅰ

「はいこんにちわ、アキカゼハヤテです」


【きちゃー】

【待ってた】

【さて、白羽の矢が立ったのはどこのプレイヤーだ?】


「今回はですね見てください、この大自然を。ここがどこにあるか分かりますか?」


【なんか後ろの方でギャアギャア鳥が鳴いてる】

【どこ、ここ?】

【俺エイトパスに居るけどこんなところ見たことないぞ?】

【どこか見逃した場所だったり?】

【8つ目以内にそんなところあったっけ?】


「近からず遠からずといったところですね。実はここ、サードウィルを囲う山間の反対側にあるジャングルなんですよ」


【えっ】

【こんなところあったっけ?】

【サードウィルって崖下の道をまっすぐいくだけでフォークロアに行けるだろ? 森、しかもジャングルなんて知らねーぞ!】


「ヒントはその山ですね。そんな感じで今回ご紹介するクラブメンバーをご紹介いたしましょう。AWO秘境探検隊の皆さんです。お一人づつどうぞ」


「お初にお目にかかる。オレはリズベッド。トカゲのハーフビーストで、当AWO秘境探検隊の隊長をしている。以後お見知り置きを」


「続いてワシはホークアイ。梟のハーフビーストでAWO秘境探検隊の索敵を担当しておる。よろしく頼むぞ」


「最後にあたしっすか? あたしはカレイド。ネズミのハーフビーストで小さな体格を生かした抜け道の発見をしてるっす」


「はい、ご紹介いただきありがとうございます。最初にこの人たちに私がビビッと来たのはですね、未だにナビゲートフェアリーに頼らず、陣営に参加せず、己の種族特性と派生スキルのみで特化してる事なんですね。それ以上にそのテーマに非常に心惹かれました。私が求めていたのはこう言うのです。まだ見ぬ場所に踏み入り、解明する。まさに秘境に赴いて探検しては切り開く浪漫と言えましょう!」


【アキカゼさんめっちゃ嬉しそう】

【本当に変わったこと好きだよな】

【でもちょっとだけわかる気がするんだよな】

【このゲームは自由度の高さが売りだから、未踏破エリアはまだ存在するのを知れると思えばお得】

【そうだよな、別にバトルだけがゲームじゃねーし】

【何を求めてるかで変わってくるよ】

【アキカゼさんの発見で俺たちも大いに変えられたし】


「はい、ではお話を聞きながら探索しましょう。リズベッドさん、よろしくお願いします」


「うむ、任された。まずはこのエリアを発掘して経緯から紐解こうか。と、その前に」



 リズベッドさんは生産系スキルの彫刻を使って、岩を数分足らずでそれは立派なテーブルに変えてしまった。

 そこら辺に落ちてる岩で簡易の椅子を作り出してしまうのなんて朝飯前であるかのようだ。


 そのテーブルの上に背負い鞄から取り出されたのは丸められた周辺マップだった。それを広げて経緯説明をしてくれるらしい。


 このマップは鳥類旅行記のお手製のものらしく、その拘り方まで実に好感が持てる。


 そこで見つけた謎の空白。そこにペンで丸を描き込んだ。

 上空から見ればこの秘境は濃い霧に包まれてるそうで、見下ろしてもその景色を正確に描写するのは難しいらしい。

 霧の隙間から木々が見え隠れしている事から森、または常に霧が発生する場所だろうと特定した。


 後は侵入経路について。



「オレ達は特に登山ができるわけでもないので乗り越えるのに苦労した。だが周囲の山を調べている内に謎の古代文字に行き着いた」


「それがアトランティス言語だったと言うわけですね?」


「うむ。活動資金を出し合って、例の翻訳機を購入して解読した。そのヒントを解明してたどり着いたのがここである」


「ああ、リーガル氏の発明品だね。そういえばそんなものもあったね」


【技術提供者がうろ覚えなのか】

【むしろ片手間でやってそう】


「みんな誤解してるよ。私は網膜内に翻訳される文字を映し出してるだけで、それを解読に使って良いか相談を受けて了承したに過ぎない。だから手伝ったと言う感覚はないんだ」


【それは確かにそうなるな】

【ついでに商売につなげたリーガルが上手いのか】

【いや、文字起こすのも解読するのも大変だろうに、よくやるわ】


「本当にね。あ、リーガル氏は私の義理の息子の親戚筋に当たるから遠縁だよ」


【謎の血筋】

【義理の息子ってどっちだ?】

【オクトだろ】


「オクト君であってるよ。いやぁ、世間は狭いね」



 脱線した話を戻し、リズベッド氏の本筋へと戻る。



「さて、今回アキカゼ氏をお呼びしたのは」


「翻訳の為ですね?」


「はい。陣営の第一人者であり、古代言語に詳しい貴方になら相応しいとこの密林で発見したこれらの品を見聞していただきたいのです」


【鑑定士扱いwww】

【アキカゼさん=翻訳機はいつの時代の話だ?】

【今じゃ古代獣の飼い主の代名詞が強すぎて】

【それとか天空ルート開拓者が目立つだろう】


「と、周りは言いますけど。私自身は何も変わってないのでご安心ください。むしろ今回私に話を持ってきてくれてありがとうございます。ちょうど良いことに私の翻訳機能はアトランティスの他にレムリアとムーも対応してます。古代言語分野であるならばお任せ下さい」


【え?】

【なにそれ初耳】


「言ってませんからね。今言いました。覚えて帰ってくださいね」


【草】

【唐突に暴露するな】

【また自分の株を無意識で上げてる】

【多分本人にその自覚ねーぞ】



 加速するコメント欄を無視し、私は一つ目の翻訳に取り組んだ。そこで浮かんできた文字に対して質問する。



「リズベッド氏、これらのアイテムを出土したのはどこら辺ですか?」


「うむ、それも合わせて話すべきだろう。ホークアイ、上空から撮影した画像を送ってやってくれ」


「心得た」



 送られてきた録画記録を視聴する。

 やけに砂嵐が多く、画像が途切れ途切れになっているのが気になった。もしかしなくてもこれ、ヤバいやつなのでは?



「して、鑑定結果をお聞かせ願おう」


「そうですね。では一つづつ。〈すべての部位を集めて献上せよ〉〈破壊の神はそれらを喰らい受肉する〉〈神の降臨は我らの悲願である〉です」


「それはまた……カルトなものが出てきましたね」


「隊長、これはもしかして良からぬものであったか?」


「まだそうであると決まっていない。けれど大きな一歩だ。たとえその先に厄災が待ち受けていようと対策が取れるからな」


【待ってない定期】

【待って、その神ってもしかして……古代獣?】

【ああ、ありうる】

【あれは確かに破壊の権化ですわ】

【サードウィルの古代獣って確か……】


「ピョン吉のことかな?」


【その名前を出すな】

【ヒュプノ君泣いてるよ?】


「ふむ、つまりは既に発見されてた情報であるのですね」



 リズベッド氏は過去に起こったサードウィルの悲劇を調べていたのだろう。誰かによってそのトリガーが引かれていることにすぐに思い至っていた。



「でしょうね。こんな怪しい場所が未発見のままなんてあり得ないですから。それと一人だけこの場所を見つけうるだろう相手に心当たりがあります」


「そうですか。その人のお名前は?」


「流石にプライバシーに関わるのでお話できません。彼も好き好んでトリガーを引いたわけではないですから」


「ふむ、それは納得です。下手をすればオレ達が引いていた可能性もあるのだものな。懸命なご判断に感謝する」


【彼とか言っちゃってる時点でプレイヤー名隠す気ないだろ】


「詮索は良くないですね。過去の過ちなんて誰だってあるでしょうに。その全てを白日の元に晒したところで古傷を抉るだけだと思いませんか? それに彼はずっと苦しんできました。自分の手で発見し、第三者の手で引き起こされた災厄に、自分を責め続けてきたんです。引き金を引いたものが悪いのであって、引き金を発見した彼は果たして責められるべきであるのか? そのことを今一度考えてから発言してくださいね」


【うっす、すいません】

【悪ノリしてました】

【しっかしその人も災難だったよな】

【第三者の手で引かれたトリガーの責任を負ってたのか】

【気にしすぎじゃね?】

【いや、気持ちもわかるよ。オレだって自分で発見したのを我が物顔で他の人が発見したなんて吹聴されたらキレる自信ある】

【あー、それはあるあるだ】

【その上で被害出したら、悪いのはそいつらでしょ? その人が責任負うことないじゃん】


「今でこそ陣営の力で討伐可能とはいえ、当時のプレイヤーには地獄だったでしょうね」


【物理無効、魔法反射は控えめに言ってもクソ】

【ビーム兵器あっても泥試合になるからな】

【スキル派生と種族のみで頑張ってた時代にそんなのと出くわしたら確かにトリガー引いたやつも、発見したやつも恨むわな】

【悲しい事件だったね】


「問題は今もなおその影響下にあると言うところなんですけどね」


【ん?】

【ん?】

【what's】


「どういう事ですか、アキカゼさん?」


「あの砂嵐を見るに、強力なジャマーが発生している。つまりは封印そのものは生きているってことだ。だが、一体なにが封印されてるかまではわからない。希望か? はたまた絶望か? ワクワクしてこない?」


【まーたとんでもないこと言い出したぞ、この人】

【陣営解放されたからって楽観しすぎ】

【間違いなく戦犯の思考してますよ、この人】


「取り敢えずトリガー以外の何か、未発見のものがあるかもしれない。そこを調査する必要がありそうだ」

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