第49話 ゲーム内配信/vs古代獣ヤマタノオロチ ⅩⅢ
天羽々斬を用いることで耐久を大きく減らしたヤマタノオロチは再びカラフルな首を入れ替える暴走モードになった。
ここから先は一瞬も目が離せない。
「ワシも加勢する」
「助かります、師父氏」
ブラスターを使い切り、レムリアの器をビームソードモードにして前線に参加してくれた。
「大車輪くまー!」
「いいぞーくま助! 骨は拾ってやる!」
「骨になる前に拾って欲しいクマー」
ムササビ君は腕を生やしてくま君の簡易ブースター役を務めている。やっている事はただの移動のようだが、一応ビームコーティングされたボディイを使って盾になったりと回避特化を生かした大立ち回りを見せている。
「ムササビさん! ドッキングお願いします」
「おっしゃ! ヘッドモードに移行する。あとは任せた」
「お任せを……天空剣!」
簡易電池パックのムササビ君とドッキングしてENをチャージしたアウル君が必殺技を生え変わる首に向けて斬り払った。
前みたいに変に凝った切り方ではなく、スライスするシンプルなものに変えたらしい。
「真空斬り!」
ヤマタノオロチに向かって剣を構えたままメタルトライダーが突進する。
衝突する刹那の隙を突いて剣閃がひらめいた。
全ての首が切断されるもそこに本命はいなかった。
このモードのヤマタノオロチは虹首以外の首を切っても耐久が減らない仕様になっている。
だから耐久ゲージを減らせば減らすほど、私は慎重になっていく。
「回復はさせん!」
師父氏のビームガンが白首を貫通する。
レムリアのセンサーはこういう時に頼りになる。
見てから判断する我々と違い、彼らは設置しておけば勝手に反応して攻撃できるのが魅力だ。
「ハヤテさん! 虹首です。くまが抑えてますので早く!」
「助かった! ありがとう!」
ジキンさんとくま君の機転で虹首は引っ込む事なくその場に留まり、私はその首を落とす事で耐久を大きく減らした。
耐久10%。
ここからが本当の意味での勝負だった。
天羽々斬の困ったところはその攻撃力の高さだろう。
調整という意味では十束剣で十分出来ていたが、いかんせん。これでは多めに削り過ぎてしまうのだ。
虹首を落とした時のダメージは十束剣なら5%。
しかし天羽々斬は7.5%と高めである。
今まで白首は邪魔者でしかなかったが、怯み狙いの場合白は重要なゲージ調整役になってくれるのだ。
「ごめんなさい! 白見逃しました!」
「大丈夫だよアウル君! 天羽々斬は十束剣よりもダメージ効率が高い。怯みを狙うと普段より削り過ぎてしまう。むしろ一回見逃してくれた方がありがたいよ。でもそんなに大きく見逃さないでね?」
「はい!」
耐久2.5%<テイムに失敗しました>
白首の回復は一匹あたり5%だ。
二匹見逃し、虹首を斬って5%に持っていく。
耐久5%<テイムに失敗しました>
またダメだった。
「白五匹!」
「だめだ、間に合わない!」
「でも虹首が二つ!」
25%回復されて15%減らした。
耐久10%は論外なのでもう一回虹首が来るのを待って再び切断! 2.5%になってテイムしてもやっぱり弾かれてしまった。
私が攻撃するとどうしても端数が残る。
ならば!
「ヘビー、食らいつけ!」
[キシャァアアアアアアア!!]
耐久ゲージが10%の時、ヘビーに食いつかせて2%削り、ライドしながら切断と同時に送還。
「こ こ だ ぁ あ あ あ あ!!」
耐久0.5%<テイムに失敗しました>
どうしてだ!?
何故失敗する。私は何を見落とした!?
ああ、違う。
最初から私は見当違いをしていたんだ。
耐久を削る。5%以下ならテイム率が上がる。
ヘビーとピョン吉がそうだったからヤマタノオロチにもそれが通じると思い込んでいた。
初めから答えは示されていた。
なのに私はまた同じ過ちを繰り返した。
「次虹首が出たらそれ以外を攻撃して!」
「何故です?」
「良いから、私の勘がそう訴えてきているんだ」
「分かりました」
「この人がこういう時は何か考えがある時だ」
「とーちゃんを信じるくま」
「けどアキカゼさん! 怯みは虹クビにしか効かねーんだろ? 入れ替わるそれ以外をどうやって押さえつける?」
「大丈夫だ! 私を信じて!」
「アキカゼさん、虹首だ!」
「ピョン吉、虹首に舌を巻きつけたあと、他の首を吸い込み攻撃に巻き込むんだ!!」
[ゲェエエエエエエコォオオオオオオオ!!]
あの時見せた猛攻。
舌の巻きつき攻撃を仕掛けながらの吸い込み攻撃はメカでも油断すると吸い込まれた。
しかし味方側にはいればその有効射程はヤマタノオロチにのみ反応する。
再び戻ろうとする首がピョン吉の吸い込み攻撃に首を持っていかれ、疑似的な怯みになっている。
「時間が持たない! 今のうちに首を! 虹色以外を全部切って!」
合計10本の首を、真ん中の虹首を残して残り9本を切断仕切るのはピョン吉が消えるのと同時だった。
[キュォオオオオオオオン!!]
<ヤマタノオロチの暴走が停止しました>
「ここだ!」
耐久は6%……でも正気の状態なら?
<テイムに成功しました>
やはり!
<テイムモンスターにネームをつけてあげてください>
1.タワー:シャドウ強化型/タワー
2.ヘビー:EBヤマタノオロチ
3.ピョン吉:EBヒュプノ
4.ボール:ボール強化型/マジック
5.???:EBヤマタノオロチ
「アキカゼさん!」
耐久が残っているのにヤマタノオロチが消えた事により、当初の目的がようやく達成したのだと勘づいたもの達が私の元へと駆けてきた。
「うん、ありがとうみんな。無事ゲットできたよ。みんなのおかげだ。本当に感謝している。ありがとう」
「正直あと二、三回は覚悟してましたよ。無事捕獲できてよかったです」
ジキンさんは相変わらず私を扱き下ろすことしか言わないんだから。でも変に褒められても気持ち悪いのでこれぐらいで良いですね。私も皮肉を言いやすいのでこんな感じに続けていければ良いなぁ。
「とーちゃんは素直じゃないくまー。家ではずっと心配してたくまよ?」
「こ、こらくま。余計なことを言うんじゃない」
【|◉〻◉)デレですか?】
【爺デレとか需要どこ?】
「気持ち悪いのでいらないです」
【草】
【アキカゼさん、あなたのところのサブマスでしょ? 責任とって受け取ってくださいよ】
「はいはい。この人はこう言う人なので言うだけ無駄なんです。わかったか、くま?」
「どっちも素直じゃないくま」
「まぁこの世代独特の空気ということにしてやってくれ。きっとこの二人にとっては毒付いてる関係の方が良好なのじゃろう」
【嫌な関係性だな】
【それ。側から見たら険悪な雰囲気だぞ?】
【第一世代あるあるなら仕方ない】
ジキンさんとのやりとりが終われば、隙を見てアウル君が頭を下げてきた。
「お疲れ様でした。アキカゼさん、父に言われての参加でしたけど、自分に足りないものを色々痛感しました。これからもっと精進していきたいと思います」
「うん。私はメカに詳しくないけど、メカ狂いの人にならツテがあるよ? その人は私と同姓同名なんだけどね、君さえ良ければ私から紹介してやっても良い。私といるより得難いものが得られるだろう」
「流石にそれは遠慮しておきます。まだ自信を失いたくないので」
「じゃあ俺っちが紹介してもらっても良いっすか?」
「うん? ムササビ君がかい?」
「同じスピードに命をかけるものとして共感できるところもあると思って」
【やめろぉおおおお!】
【お前、そこから先は地獄だぞ?】
【ムササビ、考え直せ。今ならまだ引き返せるぞ?】
【貴様、音速を超える気か?】
なんだかコメント欄は慌ただしい様子だね。
しかしスピード狂にスピード狂を掛け合わせるのか。
それはそれで面白いかもしれないね。
「良いよ。とりあえずフレンド良いかな?」
「ひゃっほー。連絡はいつでも良いっす。大体こっちいるんで」
「君、仕事は?」
「長期休暇中っす。だから今のうちに繋いでもらえると助かるっす」
「了解した。探偵さんも配信見ててくれるから誰が誰かって把握してると思うよ」
【それで、耐久どれくらいまで削ったんですか?】
「ああ、それね。一応6%だけどギミック解かない限り0.5%でもミスするから気をつけてね」
【は?】
【あ、やっぱりオロチ君からテイム条件変わるんだ】
【ヒント! ヒントだけでもください!】
「そうだねぇ、このビームソードとお酒の置いてあった祠あるじゃない?」
【あるね】
【十束剣の解放条件がわかった隠し通路?】
「それそれ。それはヤマタノオロチに負けた回数で新たな隠し通路が開くよ。あとは自分の目で確認して、今回の配信とすり合わせて検証して欲しい。流石にこれ以上詰め込むと君たちもキャパオーバーになってしまうだろうからね」
【気遣いありがたや】
【今の今まで気遣い0だったのにな】
【急にどうしたんだ?】
【熱い手のひら返し】
【|◉〻◉)きっとそれだけ嬉しかったんですよ。それで、新しい子のお名前は?】
【おいwww】
【ここでぶっこむな】
【またとんでもなネームが飛んでくるぞ?】
【まーた情報掲示板に新たな被害者が出るのか】
【草】
「君たちも失礼だねぇ、私だってきちんと考えているんだよ? それを揚げ足取りとは感心しないなぁ」
【|◉〻◉)、との事です。現場からは以上です。そのままスタジオにお返しします】
「え、発表させてくれないの!?」
【草】
【この人何がしたいんだwww】
【|-〻-)それは僕にもわからない。でもハヤテさんならきっと許してくれるから】
【おい、こいつノリと勢いで生きてるだけだぞ?】
【情緒不安定かな?】
「一応山田家にしてみたんだけど」
【ん?】
【あれ、普通】
【普通ってなんだっけ?】
【全国の山田さんの土下座しなさい】
【山www田www家www】
「カラフルなたくさんな首を持ってるからね。きっと仲良し家族なんだろうね。私も見習いたいものだよ」
【でもその首、同じ胴体から生えてるから全部同一人物なんですよ】
「えっ! あぁ、うん……知ってるよ? 当たり前じゃない」
【これは知りませんでしたね】
【掲示板でこの名前見た人の全員が全員同じ質問しそう】
【その度に俺たちがアキカゼさんの名付けだって誘導するんやで】
【知ってた】
こうして私の飽くなき挑戦は無事に終わりを告げた。
討伐イベントそのものはまだ全然だけど、私はやり切った気持ちでいっぱいになっていた。
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