第44話 解明? 古代獣の謎 Ⅱ

「確か、B3で妖精誘引だったよね」


「はい。場所は私が伝えますから探偵さんは誘引お願いしますね」


「任された」



 海底ダンジョンに入って、エンカウントするモンスターを薙ぎ払いながら進む。戦闘にも慣れたもので、会話しながらでも討伐は可能になった。

 ここ数戦、過酷な戦いをし過ぎていたからね。

 エネミーの攻撃が手ぬるく感じてしまったほどだ。



「って、B2の時点で水場になってるな。これ、このまま精霊を降ろしても良いんだろうか?」



 海底ダンジョンB2。そこは既にB3へ至る道は水場の奥側へと移され、B1に上がる階段とその足場以外は水に覆われていた。



「取り敢えず水の中に入って、B3にきちんと妖精が集まってるか確認してから進みましょう」


「それもそうか。ここで先に進んでやっぱり妖精を誘引する必要があると戻る方が二度手間だしな」


「確認は大事だよね」



 それぞれが言葉を浮かべて入水する。

 ただしどざえもんさんは体重の制限を制御してないから、ドプン、と大きな飛沫を上げながら沈んでいった。

 それを見ながら私と探偵さんは重力操作で自分のウェイトを上げていく。


 B3の階段までの道のりは探偵さんのメモに記されている。

 それを見ればすぐに辿り着いた。

 辿り着いたけど、どざえもんさんが重すぎて浮かばないので足元に氷作成で足場を生やし、それを登ってもらう事でなんとか階段まで辿り着く。


 そしてB3の暗闇の支配する場所までたどり着いて一言。



「杞憂だったね」



 そう、あの暗闇はかつて探偵さんが導いた妖精誘引でこれでもかと妖精がぎゅうぎゅう詰めにされていた。

 しかしここでもう一つのことが気になった。



「ここがこの通りとなると、逆に変化させたB6がどうなってるか非常に気になるよね」



 当時頭痛に苛まれてナビゲートフェアリーを満足にONにできなかった場所だ。



「寄り道ついでに寄ってく?」


「良いの?」


「どうせここにテイムの秘密があるかどうかも賭けなんでしょ? だったら謎は徹底的に解明しなきゃ。この三人が集まれる日は次はいつになるかわからないしね」



 それもそうだ。

 私は毎日のようにログイン出来ているが、どざえもんさんは社会人。ログインはまばらで今日はたまたまログインしていたのを声をかけただけなのだ。



「それじゃあお手数ですがよろしくお願いします」


「おう」


「少年はナビゲートフェアリーをONにしておいてね?」


「……それとこれとは話が」


「言い出しっぺでしょ? 僕たちはそれに付き合ってあげるんだから。感謝してよね」



 全く。感謝していればすぐこれだ。

 揚げ足取りが上手なんだから。


 B4は特に変化なし。元々一本道というのもあって、それほど入り組んでいる様子も見せない。


 B5も同じく。


 そしてB6で、私は階下に降りた瞬間足元に蹲った。



「ぐっ」


「反応は?」


「あの時よりはマシだけど、キツいのはキツいね」


「ふむ、まだ発動していないギミックがある?」


「逆に向こうを発動させることによって、こっちの扉も見えてくるとかなら良いが」


「ナビゲートフェアリー一旦切って良い?」


「そうだね。スクリーンショットに悪影響が出そうならカットして良いよ」



 なにそれ。影響出なかったらそのままやれってこと?

 酷いんだ。



「なんというか、探偵さんとアキカゼさんは本当に仲が良いんだな」


「「どこが?」」



 二人して同じタイミングで振り向いて、苦笑いした。

 私は探偵さんほど変人じゃないと自負しているけど、もしかしたらあの人も私を変な人だと思っていたのだろうか?

 だとしたら心外だ。

 まぁ仲が良いと呼ばれる分には良い。

 昔から気が合うし、話していて楽しいのは本当だ。



「そう言うところとかそっくりだよ。なんていうか友達というより兄弟みたいな距離感を感じるんだよな」


「そこまで仲良かったっけ?」


「僕が君に振り回された回数なら残念ながら両手で数えてそれからは覚えてないね」


「なに言ってるんですかね。私だって同じくらい振り回された覚えがありますよ?」



 そう言うと探偵さんは無言でペロッと舌を出した。

 それじゃあ誤魔化されてあげませんからね。



「それで馴れ合える関係は築けてるだろ? 俺の世代じゃそうもいかん。特に幼少期からVR漬けだとリアルでの距離感の取り方がどうも下手くそでな」


「なるほど。どざえもんさんはVRに入り込んだのはいくつの時ですか?」


「生まれた時には身の回りにVRはあった。だからそこでの生活が当たり前だったな」


「そうですか。私は25の時ですね。リアルでどれくらい育ったかでそんな弊害が出るなんて思いもしなかったな。ね、探偵さん?」


「そうだねぇ、そう思えばうちの息子も距離の取り方が下手くそだ」


「親譲りじゃないんですか?」


「また君はそうやって揚げ足を取る」



 探偵さんにやられた様にペロッと舌を出して誤魔化した。

 彼は苦虫を噛みつぶすように表情を顰め、これ以上争っても平行線だと理解してどざえもんさんとの会話に戻った。



「まぁたしかに距離の取り方は僕たち世代に比べたら下手くそかもしれないね。でもそれってそんなに大事?」


「…………今の勤務先の上司を見てると俺もあんな風に上手くなりたいとは思ってる。だが、生まれた世代では俺のような奴が多く、上の代の真似をすると返って笑われたりするんだ。その板挟みでさ」


「でもどざえもん君はどざえもん君でしょ? 無理して他人のようになる必要はあるの? 別に距離感の取り方が上手くなくたって良いじゃないの。それも含めてどざえもん君だよ。うちの息子も下手くそなりに自分という個性を大事にしてるからね。僕はそんな彼を立派だと思うよ?」


「そうか。なんかすまん、急に変なこと言って。俺、このままでいいのかって悩んでたんだ」


「生きてる限り壁にぶつかるよね。分かるよ」


「特に少年は育児放棄で昭恵さんから干されてたからね。うちの妻にも愚痴が来てたよ」


「ワーーーッ」



 いきなりなにを言い出すんですかこの人は!

 プライバシーの侵害ですよ!?

 まったくもう。

 

 私もカネミツ君のことを出しましたけど、彼は人の家庭の事情を持ち上げてくるんですから。

 ブレーキ壊れてるんじゃないんですか!?

 本当に油断できない。

 これだから同級生の友達は厄介だ。

 妻とも面識があるからこそ、ぽろっと爆弾発言をしてくるんだもの。



「ははは、流石のアキカゼさんもこの人には負けるって感じか?」


「この人は昔から言っていいことと悪いことのブレーキが壊れてるんですよ。そうやって無駄な事言ってクラスメイトから空気が読めないと言われてました」


「君には言われたくないな」


「ふふふ、なんかこんな風に気を許せる友達が居ないからよくわからないけど、俺にもこんな友達がいたらこんなに悩まなくてもいいのかなって思えてきたよ」


「なに言ってるんですか。私は前からどざえもんさんの友達のつもりですよ?」


「それってゲーム内フレンドって意味じゃ?」


「すっかりリアルよりこっちがメインの活動場になってますから。こっちでフレンドってことはそう言うことです。それは足りませんかね?」


「どざえもん君も覚悟を決めたほうがいい。これからどんどん巻き込んでじゃんじゃん振り回してくるからね」


「負けじと振り回し返す人が何か言ってますが無視していいですよ?」


「ははは、用心はしておくよ」



 軽く雑談でお茶を濁したが、緊張がほぐれたようにどざえもんさんは笑みをこぼした。

 そして今の環境なら音の精霊を呼び出せそうだと呟く。



「音?」


「裏ルートでは火だったよね?」


「なんて言ったらいいか、上手い言葉が出てこないんだが、ここのエリアは向こう側に比べて小さいだろう?」


「ええ」


「ああ、反響か。密室の中で声が響くと言うやつかな? それで条件が揃ったわけだ。面白いね。そんな些細な環境一つで呼び出せる精霊が変わってくるとは」


「多分そうだと思う。俺の言いたいことをピタリと言ってくれた。すごい助かるな、ありがとう」


「昔から人の言いたいことをピタリと言い当てるのを得意技としてるからね」


「それで目立ちたがり屋だと思われてしまった節がある」


「え、わざとじゃなかったんだ?」



 君、目立ちたがり屋でしょ?



「わざとなものか。ただ想像力は誰よりも豊かだと自負している。だからニュアンスを伝えてくれるだけで勝手にそれを補って形にしてるだけだよ」


「もういっそその特技を仕事に生かせばいいのに」


「だから今ライトノベルを書いてるんだろう? それにヒーローショーの売り上げも上々だ。君はもう少し僕の才能を認めてくれ給えよ」


「中学の頃の印象が強くて無理です」


「お陰で俺はすっかりムーリアン帝国の怪人で顔を覚えられてしまいましたよ」



 意外にもどざえもんさんは表の顔よりヒーローショーの顔の方で知られてしまったらしい。町を歩くたびに指をさされるようだ。



「いやいや、意外にもハマり役だったよね。友情出演どころか正規で役者にならない? と言ってもアキカゼランドが開演中に限りだけど」


「普通にクランからの申請を普段から世話になってるお礼に参加させてもらってるだけだよ。別に報酬目当てじゃない」


「そっかー。くま君とかも一度敵役に当てたんだけど子供が泣いちゃってさ。それじゃあダメだって事で降りてもらったんだ。他にいい人がいないか今も探してるんだよね」


「暇な時なら手伝うのでコールください。毎日は無理ですけど」


「オッケー。そう言うことならバンバンスケジュール組むから」


「今から怖いな」


 

 恐々としながらも仕事をこなし、音で作られた方向に私達は導かれていく。

 そこは行き止まりの場所だったが、なんと隠し通路が存在しており、壁を通り抜けることができた。

 以前では発掘できない類だったのだが、これも向こう側を変化させた影響かもしれないね。

 そこの奥には下り階段があり、私達は降りて行くことにした。


 その先で私たちを待つのは、一枚の壁画だった。



「ここに居たか、ヤマタノオロチ」



 10本の首をはやし、それと対峙するレムリア人の姿が描かれた壁画である。

 まさかのレムリア関連に驚きを隠しきれない。

 アトランティスの穏健派が関わっていると強く期待していた。しかしかのGMが暗躍していた通り、表立って行動はしなかったのだろう。



「少年」



 探偵さんの呼びかけ。そして突き出していたレムリアの器。

 きっとその壁画をレムリアの器で読み取ってみろと言うのだろう。

 私は倣って壁画をレムリアの器で読み取った途端、流れてくる情報の渦に飲み込まれるのだった。

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