五章:お爺ちゃんと生配信

第01話 ゲーム内配信/陣営散歩 Ⅰ

「ええと、聞こえてるかな? こんにちは、アキカゼです。今日は大した配信じゃないですけど、まだこちらにこれない人の為に陣営に行く為の手段を手っ取り早く紹介していこうと思います」


【助かる】

【助かる】

【助かる】

【今北産業。今度はなんの配信?】

【陣営への行き方チャート配信】

【待ってた】



 コメントのノリはそれなりにいいみたいだ。

 試聴はするけどコメントを打たないロム勢の方が多いときく。

 マリンは今の時間学校だからアーカイブに書き込むとか言ってたっけ。



「そういうわけで私は今賑わってるマナの大木の麓に来ています。何やら色んなプレイヤーがいる様です。突撃してみましょう。失礼、少しいいですか?」


「なんだあんた……ってアキカゼさん?」


「はいアキカゼです。今日は何をしにこちらへ?」


「それをあんたが聞くのか?」



 プレイヤーは苦渋の表情で聞いてくる。

 まぁ言いたいことはわからないでもないけど。

 この木に登りに来た人は目的もバラバラだからね。

 飛空挺のお金が払えないから地力到達したいって人もいるにはいるし。



「一応お聞きしてるだけですよ。その装備の整い具合から見て陣営目的ですよね?」


「そうだ」


「でしたら道中お付き合いしますよ。あ、あと4人呼んできてパーティー組みましょう」


「いいのか? おーいみんなー」


「通りがかったついでと言うやつです」


【ガタッ】

【ガタッ】

【ガタッ】

【ガタッ ズルッ ドンガラガッシャーーン】

【おい1人転んだぞ】

【↑ここまでテンプレ】

【その場に居合わせただけのプレイヤーの役得感が凄まじいな】

【クソ、平日のこの時間にログインできるプレイヤーが羨ましいぜ】



 何やらコメント欄が荒ぶってるけど大丈夫かな?

 最後はジャンケン合戦にまで持ち込んで4人を選抜してました。

 


「取り敢えず自己紹介からしましょう。私は知ってると思いますがアキカゼ・ハヤテです」


「俺は時短。クラン『ジャスティスナイツ』のクランマスターもしてる」



 時短君はいかにも騎士風の装備を身にまとったエルフの男性だ。弓よりも細剣を扱い、重い盾も平気で持ち上げる重騎士スタイルの様だ。そんな形で木登りするのは過酷だろうに。

 ちなみに彼が呼びかけた1人目である。



「私はハーノス。クラン『精巧超人』の一軍よ。以後お見知り置きを」



 そしてハーノス君はパリッとした漆黒のスーツに身を包んでいた。一軍という言葉に聞き覚えがあったので、質問してみたらやっぱりシェリルのとこのクランメンバーだったそうだ。

 彼女曰く、シェリルは女性としても母親としても尊敬できる先輩だという話だ。慕われている様でなによりだ。



「私はキウイ。アキカゼさんには『鳥類旅行記』の一員だと言えばわかりやすいかな?」


「ええ、キウイさんですね。こちらこそよろしくお願いします。マスターのアララギさんはお元気で?」


「元気すぎるくらいですよ。いつもアキカゼさんに感謝してました」



 それは良かった。

 彼女は手と足が鳥で、上半身は女性型の俗に言うハルピュイア風のハーフビーストである。キウイという名前の通り、全面的に蛍光色のライトグリーンの毛色な彼女は果物のキウイに非常によく似ていた。



「僕はランディス。クランは無所属のソロプレイヤーです。今日はスキルを増やしに参ったのですが、僕が入ってお邪魔にならないでしょうか?」


「大丈夫。私は一緒についていくだけだからね」


「あ、別に助けてくれたりそういうのとかはないんですね」


「ハッハッハ。そんなに上手い話はないさ。ただ先駆者としてちょっとしたコツを教えてやれるだけだよ。ちなみにこれらは配信されてるので君にだけ教えてるという事ではないよ。あ、配信大丈夫だった?」


「大丈夫です。どうせ僕が目立つことはないでしょうし」



 ランディス君は如何にも最近始めましたと言わんばかりの素人っぽさを醸し出していた。スタート地点がセカンドルナだものね。彼の様な人物が1人くらいいた方がわかりやすくていいだろう。



「最後に俺だな。紹介いるか?」


「ギン君、私が知っててもみんなが知らなきゃ意味がないでしょ。なんのための自己紹介だと思ってるの?」


「まぁそうか。俺の名はギン。クラン『漆黒の帝』のサブマスターだ。よろしく頼む」



 最後に再開したのは久しぶりの顔合わせ。

 ジキンさんとこの次男坊であるギン君だ。

 初顔合わせはパープルを誘ってこのゲームに入った時以来か。

 金狼氏とはしょっちゅう顔を合わせるけど、彼も元気そうで良かったよ。

 しかし集まったうちの三人が身内の知り合いとか世の中狭いね。



「はい、じゃあそんなわけでパーティーリーダーを決めたいと思いま……ええと、私でいいんですか?」


「言い出しっぺの法則って知ってるか? アキカゼさん」



 全員が私に指をさし、ギン君が被せる様にして口を挟んだ。

 パーティー名は『陣営ツアーご案内』にした。



「これまた独特なネーミングセンスだな」


「いいんだよ、こういうので。わかりやすさ重視で行くよ。さて私からみんなにプレゼントするスキルがある」


「なんですか、スキル?」


「輸送……というスキルはご存知かな?」


「聞いたことがありませんね。それがアキカゼさん特有のスキル群の一つというのはわかります」



 ランディス君が疑問を口にし、ハーノス君が顎に手を当てながらそう推察する。

 流石はシェリルのところの一軍さんだ。

 でも残念、こんなのは別に特別でもなんでもないんだ。



「体験してみればわかるさ『輸送』……これは常にスタミナを消費し続ける代わりにパーティーメンバーに私の持つ『重力無視』を付け加えるスキルだ。範囲は決まっているので離れすぎない様にしてね」


「重力無視? つまり自分の体重は加味されないのか?」


「しかしアキカゼさん1人に負担をかけてしまうのは気が引けます」


「大丈夫だよ。そんな時にこそ調理アイテムがあるんだから」


「なるほど食事バフか」


「中でもうちの娘の料理は絶品でね、私は行きがけにこれを食べるだけでいいから君たちは気にしないで先に進むといい」


「でも離れすぎると効果が切れるんじゃないんですか?」


「大丈夫だよ。私は空が飛べるからね。離れすぎない様に飛べば問題ない」


「余裕の正体はそれかよ。ちなみにそれは称号スキルだよな?」


「その通り。君達がこれから獲得するであろうAPを消費する。そっちの回復手段もあるから気にせずに登ってくれたまえ」



 私は登り始めたパーティーメンバーを見上げつつ、ホットサンドを食べ終えると足元を蹴り上げて空を飛ぶ。

 一蹴りでギン君達のところまでひとっ飛びだ。



「やぁ、さっきぶり」


「げ、もう追いつきやがった」


【エグいジャンプ力してんな】

【さすアキ】

【戦闘では当たり前の様に見てたけど、実際に目の当たりにするとエグくて草も生えない】

【空ルート開拓者は化け物か】

【他人と比べてわかるエグさ】



 コメントからは心ない言葉が多く散見した。

 まぁ当たらずも遠からず。

 実際戦闘中と違って木登りするのは散歩してるのと違わない。



「みんな、スタミナの消費を自己申告でお願い」


「まだ90%だ」


「85%です、すいません」


「60%でーす」


「30%切りました」


「70%ってところだな」



 上から私、時短君、ハーノス君、キウイさん、ランディス君、ギン君の順番で口を開く。



「キウイさんは鳥類なのに減りが早いね」


「体がこんなに軽いのなんて初めてで、つい張り切りすぎちゃったみたいです! テンション爆上がりです!」


【わかる】

【鳥類あるあるだな】

【バード系は羽ばたくだけでスタミナめっちゃ消費するんだよ】

【へー】

【なので滑空がデフォ】

【新知識だわ】



 なるほどね。だから体が軽いほどいいんだ。

 バン・ゴハン君もムッコロ君との違いはそこか。

 彼らは単独で空の上に達せたが、あのクランメンバー全員がそこにいられたわけではないものね。

 そのうち孫のマリンも連れて行きたいよ。



「よし、じゃあ三合目で休憩だ。店を出すから適当に寛いでくれ」


「金取るの?」


「もちろん。作り手にこの日のために頑張って貰ったんだから」


「作り手にもよるが……」



 ギン君がチロリと商品棚に目を向ける。



「うちのクラメンで料理を作れる人員は限られてるからね。あとは外部発注もあるよ。私としてはどれも美味しいけど、料理バフが5個以上ついてるのはやめておいた方がいい。舌が迷子になるからね」


「舌が迷子ってなんだよ」


「それはギン君が一番よく分かってる人のさ」


「おふくろのか。確かにホットドッグ食ってたはずなのに食後にうどん食い終わった気分になるのは舌が迷子状態だな」


【意味不】

【でた、ランダさんのうどんドッグだ】

【確かサブマスがうどん好きで作ったんだっけ?】

【神のサンドイッチもういっぺん食いてーなー】

【アキエさんの鴨南蛮蕎麦も普通にうまかったけどなー】

【アキカゼさん、もう一回出展希望】



 コメント欄にはあの時のプレイヤーも多く見受けられた。

 妻の料理を好きだと言ってくれる人とは友達になりたいものだ。



「悪いけどあの営業は赤字だからもうやらないよ。それにこんなに人通りが多くなると忙しくなってしまうだろう?」


「忙しくなるからやらないとか商売舐めてるんですか?」



 ここでハーノス君が食ってかかる。

 もしかして彼女のリアルのお仕事って経営者だったのかな?



「そうだね。商売する気はなかったんだよ。今じゃ離れ離れに暮らしてる妻とのんびりした時間を作りたくて誘い出したんだ。彼女も最初こそ不承不承だったけど、翌日から乗り気だったよ」


「あら、そういう……ごめんなさい早とちりしてしまいました」


「きゃー、素敵!」



 ハーノス君が頭を下げ、キウイさんがはしゃいだところで商売を開始する。一通り選んでそれぞれ食事していたところで、後発組が申し訳なさそうに声をかけてくる。



「すいません、それって部外者の俺らも買っていいですか?」


「構わないよ。在庫限りだけどね。休憩が終われば先に進んでしまうから自由に選びなさい」


「やったぜ、じゃあ俺は話題のうどんドッグで」


「好きだねぇ。お値段はバカみたいに高いけど、味は保証するよ」


「うげ、一個アベレージ10万もすんのかよ、コレ」


【バフが5個乗る時点で高くて当たり前なんだよなぁ】

【見た目ジャンクフードで味は高級料理店という謎仕様】

【三食おにぎりも好きだったぜ】

【クラメンも尖ってるんだよなー、アキカゼさんとこのクラン】

【銀姫ちゃんが居て目立ってない時点でお察しだろ】

【全員のキャラが濃すぎる問題】

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