第27話 いざ、空の旅路へ Ⅸ


 私は改めて目の前の空間を調べてみる。

 遺跡の入り口から中に入り、階段を降りた先にこの空間が存在していた。まず間違いなく聖獣の心臓部。

 空間、とは言っても一つの間取りが取られており、形状は丸に近い。歪な丸だ。形式上は遺跡の様だが、脈打つ血管が植物の蔦のように遺跡のあちこちから飛び出ており、まるで生物の体内にいる様な錯覚を起こす。

 鯨の中なのだから間違いではないのだけど、さっき生物兵器って聞いたからね。もっと内部は機械的なものだと思っていたのだけど、違う様だ。


 スクリーンショットで覗き込めば、案の定古代文字が浮かび上がる。私の目がそれを翻訳し、パシャリとシャッターを切れば翻訳した文字列が画像に残った。

 それらをパーティメンバーであるバン・ゴハン氏とムッコロ氏にメール送信すると、肩の上から飛び上がってピーチクパーチク驚きの鳴き声を上げている。



『アキカゼさんが言ってたのってこれかぁ……しかしこの文、中途半端じゃないか?』



 バン・ゴハン氏の呟きはご最も。

 どうもこれらに続く文章を探す必要がありそうだ。

[我は鍵にして門。天空のーー]で文章は途切れていた。



『これらが何を示すのか非常に気になるところですが、でもこの暗号って彼女が求めてる奴じゃないと思うんですよね』

 


 ムッコロ氏が毛繕いをするポーズで悩み始める。

 問題はそこなんだ。彼女の欲する答えはあくまでも自分たちの立ち位置であって……いや、そうか。

 彼女達に敢えて知らせない事で古代人はこの情報を守っていた? と、考えればいくつか辻褄は合う。


 鍵であり門。つまり、赤の聖獣単独では開くことができないのだろう。

 鍵とはつまり古代にまつわる文脈、フレーバーテキストだ。

 それらを集めてもう一度ここの空間に来る必要がある。

 その過程は真・シークレットクエストに酷似していた。

 つまり私の発動させたクエストの一部にこれが組み込まれていると言う事だね。一応オクト君と金狼氏に関連データを送っておこう。

 

そしてもう一つ。



「おババ様、答えを出す前にいくつか質問をしても宜しいですか?」


「答えられる範囲でならば良いだろう」



 了承は得られた。とは言え一応礼儀は通しておこう。

 どうも彼女とはこれっきりの縁とは思えない。

 赤の聖獣の特殊性と、他の空域へと移動する手段として今後世話になることだろう。

 だから質問の内容をいくつか絞り、その上でドストレートに聞いてみた。



「ありがとうございます。では一つめ。それを得て天空人は何をするおつもりですか?」


「まるで既に読み解いた様にも聞こえるが……そうじゃなぁ、ただ知って置きたいだけではダメか?」


「ダメではありませんよ、存在意義は重要です。ただですね、知ったあとどんな行動を取られるのか非常に興味を引いたもので」


「ふむ、まぁ知れたところでお前さん達地上人をどうこうしたりはせんわい。そこは安心せい」


「ありがとうございます。もしも自分のおかげで後続が蔑ろにされる様であればおちおち眠れませんから」



 あくまでもプレイヤーの保護を優先しておく。

 流石に目につく行動を取るプレイヤーがいないとは言い切れないが、天空ルートを探索する上でそれなりのプレイヤーが動くからね。そこら辺の安全性は確保して置きたい。



「他にもあるか?」


「はい。それは妖精の加護を持たぬもの達の赤の聖獣様への出入りは可能か、と言うところです」


「ふぅむ」



 おババ様は見るからに表情を顰め、顎に指を添えて考え込む。

 今回私はパーティを組む際輸送を使って木登りさせた後、運良く妖精の加護を得られれば良いが、得られなかった場合を想定して質問している。

 以前赤の禁忌入りを果たした飛行部のメンバーさんが居るが、そのプレイヤーがどんな手段を用いて入ったのか私は知り得ないからね。



「難しいの。我ら天空人がこの空域に存在してられるのは妖精様の加護あってのものじゃ。じゃが、滞在を限定するならば可能じゃろうな。聖獣様が動き出されれば難しいと言ったところか」



 ほう、それは初耳だ。

 確かに滞空しているのと飛空してるのとでは肉体にかかる負荷が違う。しかし妖精の加護を経て、○○の呼吸まで発展させれば可能であると。

 ここに居るのは偶然にも妖精加護者のみ。一体どれ程の過負荷が掛かるのか味わっておくのも良いだろう。

 


「まるで過去に経験があった様な口ぶりですね?」


「御主以外にも地上人は来るのでな。その時に知ったのよ。確かあれは……なんじゃったかのう、忘れてしもうた。御主ら地上人の名前は統一性がなく、覚えきれん」



 それはゲームあるあるですね。全く同じネーム制限はあるにも関わらず、同じ名前にこだわる層は居ますし。

 私と永井君なんてカタカナか漢字の違いで一緒ですからね。



「成る程。しかし移動時にその方達はどうなってしまったのでしょうか?」


「消えてしまったよ。少しずつ体が透明になっての。天に帰る様にして消えて行きおった。せっかく次のエリアに着くと言うところでの」



 あ、それLPロストしてますね。

 それか時間制限でしょうか?

 詳しくは分かりませんが、可能性は高いです。

 まさか移動でLPにダメージが入るとは思いもよりません。



「詳しいお話ありがとうございました」


「うむ。まだ他に何かあるか?」


「大丈夫です」


「ならば答え合わせと行こうかの」



 おや、この方。どうも自分の存在意義を把握してる様です。

 なんて意地悪な人なんでしょうか。

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