第26話 いざ、空の旅路へ Ⅷ


 私の質問を受けた天空人の案内人は、なんて答えたものかと答えあぐねていた。そこでムッコロ氏が何か思い当たる節があるようなそぶりでピィーッと答える。



『もしかして、地上においての船を知らないから此処との違いを説明しようがないんじゃないですか?』



 その可能性もあるのか。私はてっきり秘匿事項だから語れないのだとばかり思っていたが……



「そう難しくとらえる必要はないよ。ええとね、地上で船は水の上を渡る物で、普通は空を登ったり降りたりできない物なんだよ」


「はぁ……」


『この戸惑いぶりは間違い無いですね。まず水がどんな物であるかと言うところから順序立てて説明する必要がありそうです。僕の部下がこんな感じですし』



 ええ、そういうことなの?

 俗に言うジェネレーションギャップという事なのか。

 まさかゲーム内でそれを体験するだなんて想像すらしなかった。


 取り敢えず水の説明から始めようか。

 私はギャラリーの幾つかから水に関わりのある画像を引っ張り出す。

 それらを案内人に見せながら説明すると『空と似てる場所が地上にもあるんですね』と返された。

 どうも彼女達天空人にとって、空は勝手に体が一定の位置まで浮かび上がってしまうらしい。

 それを繋ぎ止める楔がこの赤の聖獣様の体内にあるとかで、私はそこに食いついた。

 つまりは重力を制御するシステムがそこにあると言うことだ。

 船にもそれが設置されていて、天空人はそれを操っているだけだと脳内で結論づける。


 船の説明は後回しにして、話の重点をそこに置き換える。

 しかし返答は『私の権限だけでは行けません』とのこと。


 私たち一行は彼女の案内で現在天空人を取り纏める人物のもとへと案内してもらった。




「オババ様、巫女様から案内する様に頼まれた地上人をお連れしました」


「少し待て。今聖獣様とお話ししておる」


「わかりました。と、言うことで少しお待ちいただけますか?」



 案内されたのは何の変哲もない広場。

 案内人の少女はその空間に向けて声を張り上げ、振り向いてこちらに話しかけてきた。

 此処に重要人物がいる?


 初見では見抜けるわけもない草原の広がる空間。

 強いて言えば、足元がどこか魔法陣を思わせるブロックが散りばめられているくらい。しかしそれらも模様と言われて仕舞えばそれまで。


 なるほど、この謎解きは『案内人』無くしては辿り着けない類か。運営も意地が悪い。

 道理で飛行部のメンバーが情報を出さないわけだよ。

 だってここ、ぱっと見何も無いもの。

 ぱっと見怪しい場所も門前払いじゃ伝えようも無いものね。


 少しすると広場の真上に足下と同じ図の魔法陣が現れて、そこから天使さんと似た容姿の天空人が現れた。



「客人というのは御主か」


「アキカゼ・ハヤテと申します。突然の来訪、申し訳ありません。それと本日は私の友もご一緒させていただいてます。その点も含めてよろしくお願いします」


「ふむ? 失礼じゃがその姿が見えぬのじゃが?」


『アキカゼさん、どうも僕達は客のカウントから外されるらしい』



 ムッコロ氏がやや諦めた口調でピィーピィー鳴いた。

 バン・ゴハン氏は慣れたもので、気にしている様子はない。

 野生種を選んだ時点で他種族とコミュニケーションを取るのは諦めてる様だ。

 それはいただけないね。



「今私の肩に乗っている二羽がその友達です」


「ほう、御主。神鳥様と心が通わせると申すか。これは面白い。あの子もとんでもない御仁を連れてくるものだ」


「あの子、と言うと?」


「御主を此処へ連れてきた巫女様はの、ワシの双子の妹なのじゃよ」


「そうでしたか。道理で何処か面影があるわけだ」


「ふふ、一目で我らの顔を判別できるか。御主、観察眼も優れていると見える。面白い。一つテストをしてみようかの。ついて参れ」



 言われるがままについていくと、そこは怪しいあの遺跡に続く道で。



「客人に見せる故、門を開けよ」


「ハッ!」



 オババ様の呼びかけに門番達は統率の取れた声で脇に退いた。

 どうやらこのオババ様を率いてくるのが正解だった様だね。

 そしてオババ様に会うには案内人が必須で、案内人を付けてもらうには天使さんと仲良くなる必要がある訳だ。

 うまくできてると言うか、もしかして一本通行?

 そう思える程に厳重な警備だ。


 遺跡の中は脈動していて、まるで生き物の中を思わせる。

 つまりは赤の聖獣の体内?

 その場所に眠っている物を見せてくれると言う。



「此処じゃ」


「此処は……」



 巨大な空間。

 そこには、浮き上がった玉状に圧縮された力場が渦巻いていた。

 その場を中心として肉が盛り上がり、脈打つことからこれ自体が心臓部分として機能していると言ったところか。



『見るからにやばいな』


『ブラックホールか何かでしょうか? 見ているだけで吸い込まれそうになります』



 ブラックホールか、言い得て妙だね。

 私としてはこの場所から強力な磁場を感じるよ。



「さて御主達のテストと言うものはの、この場で古代ムー人のメッセージを読み解いて欲しいのじゃ」


「ほう? 此処にそのメッセージがあると?」


「左様。赤と青の聖獣様は古代ムー人が作った人造兵器じゃからの」


「!!」



 私達が驚いているのを見て、オババ様は愉快そうに笑う。

 しかしすぐにその顔を憂いで染めると、苦渋の表情で告げる。



「だが生憎と我らはそれを扱えど、古代ムー人からの想いまでは受け継いでおらなんだ」


「そのメッセージ、私と友人達で見事紐解いて見せましょう!」


「期待しておるぞ?」


『ちょっとアキカゼさん!?』



 安請け合いする私に困惑の声を上げるムッコロ氏。

 私は挑戦されたら断れない性分なんだ。

 こればかりは諦めてくれ。

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