第42話 真シークレットクエスト- Ⅱ

 スズキさんの銀の矛が舞うようにして迫りくる強化型を打ち払う。

 勝負は完全に決したようだ。

 泥水の幕にスクリーンショットを巡らせて確認するも、追撃はないようだった。


「お見事です」


「お粗末様です」


 彼女は銀の矛を器用に手元でくるくると回すと、アイテムバッグへと収納した。泳ぐ時に邪魔ですもんね、それ。


「では探索の続きをしましょうか」


「はい。スズキさんがここまで戦えるとは知りませんでしたので、今後も安心ですね」


「あまり頼りにされすぎても困るんですけどね」


 苦笑しながら次のエリアへストーリーのかけらを探しにいく。


「む、ここら辺にもありそうですね。ですがその前に」


 スズキさんの手を引き、近場の岩陰へと連れ込んだ。

 その直後、大型の泥人形が移動を始めた。

 さっき視界の端に捉えたデータでは???しか出ていなかった。

 まだ発見されていないらしく、こちらに気づかずそれはある場所に向かって真っ直ぐに流れていく。


「アレとはやりあいたくないですね」


「ですよね。あんな巨大なの。地上でも御免です」


 岩陰からこっそりと覗きながら二人で観察する。

 時間にして十数分。その間に食事をしながらENを回復し、スタミナが回復しきってから奥の方へと移動した。


「ここのストーリーも虫食いですね」


「はい。ですがこことここは合わせられそうです」


 スズキさんが私の撮った画像を見合わせ、順番を並べていく。

 確かにストーリーらしきものが見えてきた。

 始まりのストーリーは鍵を持つ人間と魚人が扉に向かい、開くと言うもの。

その次と思われるストーリーは大型のモンスターを封じ込めるもの。

 もしかしなくてもさっきのやつがそうか?

 あの辺りには古代遺跡しかなかったと思うが?

 情報を整理し、画像を順番に並べて娘にコールを繋ぐ。


[アキカゼ・ハヤテ:少しいいかな?]


[パープル:あ、お父さん。こっちは大変なの!]


[アキカゼ・ハヤテ:どうした?]


[パープル:ボール型の他にも街に侵入した個体がいてね、それの対処にてんてこ舞いなのよ! ギンさんにも応援寄越してもらってるからなんとかなってるけど、手数が足りてないの!]


 娘は相当パニくっているようだ。これは話をしたらそれこそパンクしてしまうだろう。


[アキカゼ・ハヤテ:そうか、分かった。忙しい時にすまないね。こちらでもこのイベントに関連してると思われるイベントが発生した。それについての話をしたかったんだが……]


[パープル:ほんと? ナイスタイミングよ。それで、どういう感じの?]


 私はその情報を娘に聞かせてやる。

 まずはメールに画像を添付して送り、絵本のようなストーリーを追っていくイベントを遂行中であると知らせた。

 一つ目と二つ目らしきストーリーを順を追って説明する。その他は目下捜索中であることを口頭した。


[パープル:なるほど。確かにこの画像の通りになってきているわ。つまりこの画像は過去に同じような災害を得て、乗り越えた後に私達の時代に向けて贈られた可能性が高いというわけね?]


[アキカゼ・ハヤテ:そうだと私は思っている。その中で二番目の大きな魔物をある装置を使って封じ込めるストーリーが見えるかな?]


[パープル:あるわね。もしかして?]


 娘は何かを悟ったようだ。相変わらず勘が鋭い。


[アキカゼ・ハヤテ:うん、先程それらしき大型の個体が古代遺跡方面に向かって行った。もしこのストーリーの通りなら、そこで封印できるかもしれない。頼めるか?]


[パープル:クエスト派生の攻略は9割型成功してるわ。こっちは任せて。その代わりそっちの捜索はお願い。今は水中呼吸を持つお父さんが頼りなの。それにこのイベント、まだ大きく動く気がするの]


[アキカゼ・ハヤテ:そうだろうね。私もそう思うよ。自分で起こしてしまったイベントだ。最後まで協力させてもらうよ]


[パープル:いつもありがとうお父さん。お父さんが居なかったら今頃きっとお通夜ムードよ。いただいた情報はこっちでも新たに解析してみる。また何かわかったら連絡頂戴ね。道中気をつけて]


[アキカゼ・ハヤテ:ああ、互いに大変だろうが上手く乗り越えよう]


 娘とのコールを切り、スズキさんに向き直る。

 彼女は少し心配そうに私の口が開かれるのを待っていた。


「どうでしたか?」


「そうだね。やっぱり大事になってたみたいだ。私がスズキさんと出会う前にやっていたクエストがあってね、そこでは何かを捕らえる施設があったんだ。それを作動させる装置もね」


「ああ、それがこのストーリーに関係してると思ったんですね?」


 さっきの今で話していたストーリーをつなぎ合わせ、スズキさんはなるほどと納得していた。


「うん。ちょうど娘とも同じ話をしていてね、ただこの画像からではそれだけじゃ何もわからないでしょう? だから娘の方でも色々調査してくれることになったんだ」


 私の話を聞いてスズキさんはうなずいた。


「いい家族ですね。父親の頼みを聞いてくれる娘さんなんて珍しいですよ? 僕もちょっと、父とは疎遠でして」


「はい、自慢の娘です。いろんな家族のあり方がありますからね。とはいえうちも似た様なものです。上二人は私の話に耳も傾けてくれません。あの子だけなんですよ、私と親しいのは」


「ははあ、それだけ慕われてるってことですね。羨ましいです」


 スズキさんに茶化されて、苦笑する。

 実際にあの子は私に無茶振りばかりしてくるんだけどね。それを話したら、それだけ頼られてるってことですよと返された。

 そういうものなのかね?


 気を取り直して散策を続ける。

 道中戦闘をいくつかして、かけらを回収していくも、ストーリーが完成する様子は見せなかった。

 これ以上探索する場所はないなぁと今まで探索して来た場所を思い返してみる。


 いや待てよ?


「そう言えばスズキさん」


「はい?」


「確かこの用水路の清掃のゴールも一応遺跡の一部ですよね?」


「そのハズですが……あ!」


 多分彼女が今思いついたのは私と全く同じことだろう。

 あの時はまだ情報が足りなかったから見つけられなかった。

 しかし今なら?


「行ってみる価値はありそうですね」


 私達は引き返す様にして黄金宮殿の書物庫へと進路を変更した。

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