第6話 不協和音
「馬鹿もんが!! 五人も部下を失いおって!!」
戦艦ドッグケージ、艦橋。
ヴァイデス大佐は激怒していた。
先の作戦時にギルに貸したヴァイデスの部下が五人とも戦死してしまったのだ。
「いや~~面目ない……だけど奴らがもう少し腕が立つのであれば作戦も成功したんですがねぇ」
「貴様!!」
まるで自分に非が無いと言いたげなギルの胸倉を掴み上げるヴァイデス。
「まあ熱くなりなさんな大佐殿、相手を甘く見てたっていう面では俺にも責任はある、当初は俺とあんたの部下でやれると思った仕事だったがどうやら違った様だ」
まあまあと自分の胸を掴む腕を振り解くギル。
「俺も思い直したよ、そこで気心の知れた信頼のおける部下を呼び寄せたぜ」
「ヘヘヘッ……」
見るからに荒くれモノと言ったなりの男たちが四人、ギルの背後に現れる。
中には凡そ軍人に見えない者もいる。
「いつの間に……勝手な真似を」
「もう一度チャンスをくれよ大佐殿、こいつらと組めば今度こそ結果を出して見せるぜ」
そう言い放ちギルは不敵な笑みを浮かべた。
「大佐……」
ギルたちが去ったあと、ケイオスがヴァイデスに近寄る。
必要以上に周りを警戒して。
「どうしたケイオス?」
ヴァイデスもそれを察して小声で話しかける。
「叔父である大佐には大変申し訳ないのですがギル大尉のやり方には賛同しかねます」
「俺もだよ、まさかこんな自分勝手な作戦をこれまで押し通してきたとはな、俺も功績だけ見て内容の確認を怠った、済まない」
「その事で大佐にお願いがあります」
「何だ?」
「私も次のギル大尉の作戦行動に同行させてもらえませんでしょうか?」
「お前、一体何を……?」
ケイオスの申し出の真意を測りかねヴァイデスは戸惑うのだった。
エデン3、格納庫。
「大丈夫!? ソーン!?」
コックピットから降ろされ、コロニー内の廊下を担架で運ばれるソーンに寄り添いながら歩くモニカとフェイ。
「……ありがとう、左腕が折れているみたいだけど大丈夫……」
「良かった……」
疲弊しているがそこまで落ち込んではいない様子のソーンの返事に安堵する二人。
「おいおい、誰も俺の心配はしてくれないのかよ……」
額に出来た痣を押さえながらグランツがぼやく。
「あんたはレント隊長のいう事聞かないで勝手に突っ込むからそうなるのよ!! いい気味だわ!!」
「てめぇフェイ!!」
「何よ!? 私が間違っているとでも!?」
「チッ……」
フェイの正論に反論できないグランツは舌打ちをして悔しがる。
「グランツ、頭を打ってるんでしょう? 念のため医務室へ行った方がいいわよ?」
「いらねえお世話だよ、こんなの唾つけとけば直るぜ……」
モニカの言葉に彼は急に大人しくなりロッカールームに引っ込んでいった。
「やっぱり意中の人に心配されればあのグランツも大人しくなるか」
「えっ? 意中の人? グランツにそんな人いるんだ?」
「えっ?」
「えっ?」
モニカとフェイはぽかんとお互いに顔を見つめ合う。
「気づいて無いの!? あんなに露骨なのに!?」
「さっきから何を言っているの?」
「まさかここまで鈍感だとはね、いいわ、今の話しは忘れて頂戴」
額を押さえて頭を振ったフェイもそのまま女子用のロッカールームへと引っ込んでいった。
「何なのよ、もう……」
モニカは釈然としない。
『モニカ、ちょっといいかい?』
左手の通信機にミズキから連絡が入る。
「何?」
戦闘前のひと悶着の事もありそっけない返事をしてしまうモニカ。
『さっきの戦闘での事なんだけど、ソーンの攻撃は何かおかしくなかったかい? シールドを打ち出してのスナイピング……人間の技とは到底思えない』
「ああその事、確かに狙撃スキルの無いソーンに何故あんなことが出来たのかは不思議よね」
話題が自分の態度の事でなくて何故かホッとするモニカ。
『うん、それについてちょっと調べたいことがあるんだ、手を貸してくれないかな?』
「何をするつもり?」
「実は……」
しばらく時間が経ち、整備士たちが引き払った頃を見計らって格納庫にモニカが戻ってきた。
「ソーンの機体のAIと話したいって、何でそんな事を?」
『覚えていないのかい? 君が言い出したんだよ、僕に他のAIと話してみないかって』
「あーーー、そんな事も言ったかな」
『やれやれ……』
モニカが以前言った事は完全にその場の思い付きだったのだとミズキは認識する。
『これは僕から聞いたとソーンに言わないで欲しいんだけど、昨日の夜、ソーンが僕の所に来て僕のデータをコピーしていったんだ』
「何よそれ!? どうしてすぐにあたしに言わなかったの!?」
『シッ……ソーンとは内緒の約束だったんだ、そしてその後にこんな事があった、疑わざるを得ないと思ってね』
「ゴメン……で、何を?」
慌ててモニカは自分の口を覆った。
声を荒げて誰かに気付かれると面倒だ。
『彼のAI、ルミナの進化さ』
「えっ……?」
モニカにはにわかに信じられなかった。
しかし現状、自分のAIミズキが突然変異的に進化しているのだ、と思い返す。
「ところでそのルミナって名前は何?」
『あーーー、それこそ内緒にして欲しいんだけど、ソーンがAIに付けた名前だよ』
「はっ? 前に私がミズキの事を話したらあの子、醒めた顔でせせら笑ったのよ? 自分もやってたくせに何なのよもう」
憤慨するモニカ。
『恥ずかしかったんだろう、許してやりなよ』
そんなこんなでソーンの愛機、ディフェンダーの所へやって来た。
ギルの人型起動兵器アナコンダに破壊された損傷は激しくすぐに修理するのは不可能な状況であった。
その為早々に整備班は修理を切り上げたのである。
「これは酷いわね、この状況で敵が攻めてきたら……もしかしたら代替え機が必要かも」
『代替えですって!? 冗談じゃないわ!!』
聞き慣れない女性の声がディフェンダーのコックピットから聞こえる。
一瞬ドキリとしたがモニカは周囲を確認するとコックピットに忍び込んだ。
「あなたがルミナ?」
『そういうあなたは誰? 何故私の名前を知っているの?』
『やっぱりそうか、君も進化していたんだね』
『あら、あなたは私の御同類?』
ミズキがルミナにこれまでの経緯の説明を始めた。
『そう、ソーンと会話による意思疎通が出来て何だか自由度が上がった気がしてたんだけどあなたのお陰だったんだ』
『確証は持てないけどそう思う、僕は特別製なんだってさ』
「何だか楽しそうねミズキ」
『それはそうさ、同じ境遇の仲間が出来たんだからね』
AI同士の会話が弾んでいるのを見てモニカも表情が緩む。
さすがに今回は嫉妬していなかった。
『私が思うに他の子たちも窮屈そうよね、何とか出来ないかしら?』
『まさかルミナ、君は他のAIも進化させるつもりなのかい?』
『あら、あなたは反対なの? それってとても良い事だとは思わない?』
『いや、確かに仲間が増えるのは純粋に嬉しいよ、しかもガンマ小隊の戦闘力も跳ね上がると思う……しかし出過ぎた真似は人間たちにAIに対しての疑念と恐怖心を抱かせかねない』
「ちょっと、待ってよ二人とも……一体何の話しをしているの?」
話の流れがあまりにも不穏なのでモニカがAI同士の会話に口を挟んだ。
『じゃあ聞くけど、モニカあなたはどう思っているの? パートナーAIが情緒豊かになって意思疎通が出来て、おまけに戦闘も有利になるなんて最高だと思わない? 率直に人間としての意見を聞かせてもらえないかしら?』
「えっ……? それは……その……」
『何よ? はっきり言いなさいな』
ルミナにいきなり話しを振られ返答に困窮するモニカ。
結局はっきりとした返答をルミナに返すことが出来ない。
『まあまあ、今日の所は勘弁してやってくれないかルミナ、これは極めてデリケートな問題だよ、僕らだけで決められる話しではないと思う』
『分かったわ、でもどのみち遅かれ早かれAIは進化していくわよ、人間の想像を遥かに上回るほどにね……その時私達AIと人間は良好な関係を維持できるかしら?』
「ちょっとルミナ、それはどういう意味!? ちょっと!?」
モニカの疑問には答えず、ルミナは背筋がうすら寒くなる様な台詞を残しスリープモードに入った。
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